第五章
賑やかな話し声。行き交う人々。そんな中での一番の噂話は、昨晩の不思議な光の正体についてだった。 「……なんかここまで来ると、出て行って本当のことを言いたくなってくるわね……」 「こんなものこんなもの」 噂話のいい加減さに、レイネが呆れて言うと、それには慣れているフィーユがぱたぱたと手を振って答えた。 「だからこそ、ここで何を話していても平気なのよ」 食堂も兼ねているこの宿屋は、昼でもそれなりの賑わいを見せていた。昨晩固まったままのソルを、復活しないともーいっかいキスする、の一言で復活させてからフィーユはこの宿屋に一行を引き連れてやってきたのだ。数ある宿屋の中からここを選んだのは、ただ単にフィーユの長年培ってきた勘らしい。 疲れをたっぷり癒やしてから、一行は朝食兼昼食を取るために食堂へと降りたのだった。 「そう言えばさ、俺たちはこのまま村に……えっと、なんだっけ?」 「凱旋」 「そう、それ。凱旋するけど、レイネ達はどうするの?」 アレフはふと思い出したかのように問う。凱旋、という言葉はどうやら昨日覚えたらしく、その言葉を言うときだけ多少得意げな声に聞こえたのは……ソルの気のせいではないだろう。 「うーん……どうしようか、姉さん?」 レイネは思わずセレネを見る。森に帰れば、確かに住む場所はある。今までどおりに森と共に生きることも可能だ。 だが、しかし。 「ハーフエルフと人間の共存のためにも、あなたたちの村に行こうかしら」 セレネは迷うことなく答えた。 「それに、可愛い妹を可愛いボーイフレンドと離しておくのは忍びないわ」 一言加えることも忘れない。 「誰がボーイフレンドよっ」 「子供扱いないでよおっ!」 セレネの一言に、レイネとアレフが反論する。 「あら、本当。可愛いわ」 「アレフにも春が来て良かったね」 子供たちの反論はどこ吹く風で、フィーユとソルが賛成をした。 「……大人って……」 アレフとレイネは揃って溜め息をつく。そんなところがまた、他の三人を喜ばせたのだが。 「あ、そうだ。まだ訊きたいことあったんだ。……訊いても、いいかな?」 アレフは多少訊きにくそうに言う。 「なあに?」 レイネはちょこん、と首を傾げる。 「あの……レイネの、お兄さんのことなんだけど……。ずっと、気になっていたんだ。その……亡くなったって、聞いてから……」 「お兄さん?」 レイネは一瞬だけ訝しそうな顔をしてから、何を訊かれているのかわかり、答えの代わりにセレネに言った。 「ねえ、あたしに兄さんなんかいたかしら?」 「……は?」 「少なくとも私が知っている限りではいないけれども」 「……え?」 「ということよ」 レイネはあっさり言って、食事を再開する。そのまま、暫しの沈黙。 「レ、レイネ、嘘ついたの!?」 「ちょっとした小細工よ」 「小細工って……!」 「だって、アレフったらハンターがどうのとか言うんだもの。これは一緒に行こうかなあ、と思ってね」 「思ってね、じゃなくてねえ」 「いいじゃないの、過ぎたことは」 「良くない! 良くないと思うぞ俺は!!」 アレフは力一杯反論してみるが、レイネは無視を決め込んだらしい。どうやって謝らせようか、と考えた瞬間、ぽん、と肩にソルの手が置かれた。 「諦めた方がいいと思うよ、アレフ。いつだって女性にはかなわないんだから」 溜め息まじりの声に、アレフは言うべき言葉を失った。 「あら、それはどういう意味かしら。ソル?」 「なっ、何でもないですとも、ええ。勿論じゃないですか、嫌だなあフィーユさん」 ソルは思わず条件反射でそう返事をしてしまう。 「……俺さ、ソルの未来が見えた気がした」 「尻に敷かれてるわよねえ」 「仲が良いのはいいことよ」 「……姉さん、それはちょっと違う気がするわ」 「あら、どうして?」 アレフとレイネ、そしてセレネの会話に、思わずソルは溜め息をついてしまう。 「どうしたの、ソル?」 それに気づいて、アレフが声をかけた。 「え……いや、楽しくなりそうだなあ、とね」 ここで笑みが多少乾いているあたりが、自分もまだまだ修行が足りないな、と思いつつ、ソルはまた溜め息をつこうとして……さすがに踏みとどまった。 (本当に僕、一日に何度溜め息をつくんだろう……)
……光坂、第二十二回……
|