Sync #10


 どこか懐かしい気がした。
私と全く同じ種類の力を宿していた。
その手にある金と銀の螺旋も、持ち主も。
そして何よりも、厳しく現実を見据えるまなざしが。
依が不意に輝きを増した。
おまえは・・・誰だ・・・??

 目標はただひとつ『ルディ』だけ。
実際戦ってみたが、確かに優秀だろう。
速い。
力もある。
攻撃の組立も上手い。
 しかし優秀ではあるが、ずば抜けたものはない。
何故にそこまで固執するのかは理解できないが、とにかくそれを殺すのが至上命令だ。
『ルディ』さえ殺せればそれで構わないと。
 心臓を一撃で貫いてやろうと思ったが、天性の防御の勘なのか、かろうじて心臓だけは避けていた。
しかし交わしきってはいない。
左の肩口が血を吹いた。
・・・これで左腕は使い物になるまい。
利き腕を使えない剣士など恐るるに足らず。
勝敗は決したかに見えた。
傷を押さえ苦痛に呻いていた『ルディ』が、ふっと顔をあげた。
虚ろな緑色の視線がそこにはあった。
・・・こんな・・・まなざしに・・・。
どこかで・・・・??
「・・・不甲斐ない」
 威圧的ですらあるその存在。
うっとうしげに左腕を濡らす血を振り払った。
「・・・役に立たぬ依・・・」
 依・・・そうか、成る程・・・。
『光』の一部を成す依ということか・・・。
『闇』がダークファルスを持つのと同じように、『光』も持つのだ。
両者に共通して存在する、他者を排除せんとする強い意識。
しかし・・・その根底に流れるものが違うように思える。
ダークファルスは怒りと憎しみと悲しみ。
『光』に裏切られた『闇』のそれが、分離して生まれた・・・。
他方、今目の前にいるルディ・・・。
何も感じとれない。
感情というものがまるで感じられないのだ。
たったひとつ、他者を排除するというそのことだけ。
その他には何一つ残っていない・・・。
 これが・・・『光』の依??
「・・・俺を殺すのではないのか?」
 訥々とルディが言葉を発する。
・・・不気味なほど抑揚がなかった。
虚。
そんな言葉が似つかわしかった。
「そうだ・・・虚無は何よりも忌むべき状態」
「『闇』の好きそうな言葉だな・・・。初めから何も持たずにいれば何も失わずに済むものを・・・」
「失い傷つくことを恐れ、目を閉じ耳を塞ぐか、『光』よ・・・」
「誰も何も持たなければいい。人は一人でも生きてゆける。親も兄弟も友も恋人も何も必要ない・・・一人で心穏やかに生き、そして静かに一人、死んでゆく。本来、人はそうして生きるべき存在だ」
「確かに他者との絆が人にネガティブな感情をもたらした。しかし、それとて生物が生きている証。怒りも悲しみも憎しみも知らぬ生物など、最早生物と呼べるものではない」
「よけいな感情は捨て去るべきだ。それが世界の本来あるべき姿」
「ちがう。感情あってこそ生きている意味もある」
「成る程、そこまで感情を崇拝するならば、その力以て、俺を阻むがいい。我が司る孤独から生まれる平静の持つ力を凌駕したならば、その時はおまえの言うことも認めよう」
「・・・面白い」
 『光』はいずれ、全ての人からあらゆる感情を奪うつもりだ。
誰とも関わらず、全て己の力だけで生きること。
それが世界のあるべき姿??
・・・認められない。
消し去ってくれよう、跡形も残さずに。
一人で生きてきたおまえ、死んでも悲しむ人はいないのだろう。
誰にも構われず、誰にも相手にされず、そんな貴様に・・・。
「貴様ごときに・・・生きる意味などない・・・!!」
「そんなものは必要ない。必要なのは死ぬ答えだけ。今のおまえに見えてはいまいな、死ぬ答えは・・・」
「ほざくな!!」
 渾身の一撃をルディめがけて放った。
今まで巧みに交わし避けていたルディだが、今度は真正面からそれを受けた。
強力無比な防衛陣を敷いて。
突き破ることは適わず、こちらの攻撃は四散した。
・・・・強い。
「多少はやるな。だがこの程度では俺は死なない」
「まだだ!」
 負けるものか・・・!!
絶対に殺す・・・こいつさえ殺せば全ては問題ないのだからな!!
降り注ぐ炎の雨。
ルディがその間隙を縫って走りこんでくる。
さっきまでとは見違えるスピード。
そして力。
豪速で降り抜かれるレーザーソード。
咄嗟の判断でヒューンを浴びせる。
風圧に圧されて若干振り抜きが遅くなった隙に、防衛陣を張る。
直後結界に接触したレーザーの刀身が、魔導の干渉を受けて途中で曲がった。
ルディが一旦剣を引き、後退する。
すかさず追撃。
赤黒い光の筋が幾本もルディを追走するが、ルディは走り、跳躍し、回転し、宙を舞って交わしてゆく。
魔導の特徴として、高い追尾性が挙げられるが、ルディの運動性能はそれを上回っていた。
追撃のつもりで放った矢は、全く関係のない床やら壁やら柱やら天井やらに激突して四散していく。
最後の一発を空中で半身を反らせて交わし、外れた攻撃が天井を撃ち抜いたと同時に、ルディもリズミカルなバク転で勢いを殺してから着地した。
「間の抜けたことをほざくのはおまえだ」
 威嚇するように、血まみれの左手に握ったレーザーソードを振った。
未だ止まらない血が、肩口から散った。
それを横目に眺めながら、ルディは続ける。
・・・こいつには、痛覚すらもないらしいな・・・。
「虚無を嫌いながら、おまえも感情を失った者。かつておまえが持っていた、深い悲しみはどこへ置いてきた?」
 どこかしら、咎めるような口調が滲んでいた。
しかし、悲しむ・・・私が・・・??
「一体何を・・・悲しむ必要がある・・・」
「・・・だからおまえは俺に勝てない。『闇』の者でありながら、『闇』の力の源たる感情を忘れてきてしまったから」
「は!ならば答えろ、私はそれをいつ忘れた!?」
「10年前」
「どこで!」
「デゾリス」
「なぜ!」
「忘却のため」
「誰のために!」
「我が片割れのため」
 言うと同時に、すっとルディが指を指す。
その指先は意外な方向を向いていた。
銀の髪と瞳を持った、恐らくは同じく魔導の才を有する者。
こちらをじっと見据える厳しく真っ直ぐなまなざし。
・・・なぜか懐かしかった。
・・・名すら知らぬ敵だというのに。
「おまえたちが互いを知らぬことこそが何よりの証拠。所詮、その時如何に強く願おうとも、時の流れの前に全ては消えるということ。そして、そんな儚いものを拠り所とする『闇』は決して勝てぬ。あまりにもおろかで哀れだ・・・俺はおまえにチャンスをやろう。おまえが失った深い悲しみを、取り戻すチャンスをな。それに成功すれば、『光』に勝利することも可能になるだろう」
 敵に塩を送るか・・・。
ふん・・・随分となめられたものだ。
何をする気かと思ってルディを見ていたが、ルディは意外なことを言った。
いや、ヤツにしてみれば、計算し尽くした上での結論なのだろうが。
頭だけを後方へ巡らし、ヤツは言った。
「そこな魔導士!」
 ルディの視線は、銀髪の魔導士へと向いていた。
そして一言だけ言い放つ。
「おまえたち、殺し合え」
 必要以上に、冷たく私の鼓膜を振るわせたように思えたのは、気のせいだっただろうか・・・。

 殺し合え。
ルディがおかしなことを言う。
既に殺し合いしてるくせにな。
 何故だか知らねぇが、俺とジオとサシで勝負しろと言い出す。
曰く、10年前の決着がどうこうとか。
これは自分を含めた3人の問題だからとか。
自分と競い合う資格を持つのはおまえたちのどちらか一人だとか。
競争相手は強くなければ困るとか。
その殺し合いの過程で、おまえたちの失った悲しみを取り戻すことができたならば、其は『闇』の者として充分な力を有するから自分に相応しいとか。
・・・俺には何が何だか理解できねぇ。
それに大体、ルディがおかしい。
・・・これほど強かったか、あいつ・・・?
・・・これほど冷静だったか、あいつ・・・?
「ルディ・・・おまえが何言ってんのか、俺には理解できねぇ」
「理解しろとは言わない。強くなれと言っているだけだ」
「・・・今のままじゃ不服だって言うのかよ・・・」
 少なくとも、てめぇよりは役に立ってるって自負はあったぜ。
今までは、な・・・。
「大いに不服だ」
「言ってくれるぜ」
 ここまでバカにされては引き下がれない。
何が原因で何が結果なのか理解できぬまま、俺は戦う。
ジオと。
再た右手の傷が痛んだ。
何かを訴えかけるかのように、俺を引き止めようとするかのように。
・・・そして俺も、心のどこかにブレーキを感じて。
 ダメだ、こんなことじゃ勝てない。
しっかりしろ、スレイ=ウォルシュ!
おまえの役目は戦うことだろう!?
俺の生きる意味は正にそれだろう!?
「・・・殺す・・・!!」
痛む右手を押さえたまま、俺はジオへと向き直る。
敵の依が輝きを増す。
赤い・・・水晶球・・・か・・・。

Sync #11


激突する二つの力。
依を有するものは、己のキャパシティを越える力を依に託すことができる。
ジオは持っているが、俺は持ってない。
つまり、そのぶん、俺の方が劣る。
・・・魔力で真っ向から勝負するのは無謀だ。
好きじゃねぇが、ここはこのサイドアームで殴るか刺すか・・・。
棒術もかじり程度ならやった。
つまりは、それをウォンドに応用してやればいいわけだ。
左の掌を突き出し、俺のサイドアーム・・・サイコウォンドを呼ぶ。
少し離れた場所に突き立てていたサイコウォンドが、それに応えて頭をもたげる。
ヒュンと風を切る音を立ててそれは宙を飛び、そして俺の掌に自ずと収まった。
「・・・いくぜ!」
掌の上で、出来うる限り高速にウォンドを回転させながら、ジオの目の前まで走り込む。
遠心力に任せて、大上段から縦に振り下ろす。
 このサイコウォンド。
不可解なことに、ジオの魔導のそれと、全く同じ種類の力を有していた。
同種の力は防げない。
ジオの鉄壁の防衛陣といえど、例外ではない。
何が不可解かって、このウォンドが何故ジオの力と同じものを持つのか。
俺以上に近いものをジオは持っている。
考えられる可能性はひとつだけ・・・。
本来このウォンドは、この男のためのものであったのではないか・・・?
俺も似ていたから今使えるようになってるけど・・・これはあくまで偶然で。
必然は俺じゃなくて、この男にこそあったのではないか・・・??
 イメージの断片が脳裏をよぎる。
誰かと・・・何かを・・・交換・・・??
ずっと昔・・・??
 サイコウォンドが、振り下ろした軌跡の通りに、防衛陣をすっぱりと切断する。
脳天を砕かんと打ち降ろされるウォンドを、必要最低限の動作で躱し、素早く反撃の体勢へと移る。
ウォンドという武器の長さから、どうしても俺の動作は大振りになりがちだ。
空振った時の動作も当然大きく、よって戻しも遅い。
目ざといジオがその瞬間を見逃すはずはなかった。
ヒューンを浴びせられ、俺は風圧に押され間合いを広げられる。
再び間合いを詰めようと俺は走り込むが、ジオはそうさせまいと俺の行く手に炎の雨を降らせる。
雨というより、槍だね。
その鋭さ、そして殺傷力。
「おまえ、どうして!!」
 かろうじてその鋭い攻撃を避け、払いのけ、俺は再度ジオに詰め寄る。
俺は理由すら知らない。
こいつが戦う理由を。
戦い・・・じゃねぇな。
極めて一方的な破壊行動と言えた。
やっぱり、せめて理由なりとも聞きたいじゃねぇか??
しかし返答は味気ないものだった。
「人が戦う理由はただひとつ!己の持つ憤りのため!」
 今度は俺の攻撃を避けない。
避けずに右腕のプロテクタで受け止め、同時に左の手でウォンドの先端をつかんだ。
俺もジオもそのままの姿勢で膠着する。
 憤り・・・?
俺は別に・・・。
「俺はおまえが憎くて戦うんじゃない!」
「所詮『光』の手先の言うことよ。初めて会った相手であろうとも、『使命』の前には容易く傷つけ、そしてたとえ懇意にしていた相手であっても、『使命』の前には容易く切り捨てる・・・」
「偉そうに!!その言葉、そっくりそのままおまえに返してやるよ!!」
「・・・俺は憎らしい・・・『光』に目をくらまされ、『闇』の中で流される血に、涙に、気づかぬおまえたちが!!」
 激しく責めるような口調だった。
どこか悲痛なものを感じてしまうのは何故だろう・・・。
「・・・だから殺す!!失われていく人の感情を今一度強く蘇らせるため!!」
 失われる・・・感情・・・か・・・。
確かに・・・昔に比べて、笑わなくなったし・・・泣かなくなった・・・。
ちょっと前、女に死なれた。
でも俺は泣かなかった。
涙も出なかった。
むやみに人を扇動する原因となる感情を、全て否定する『光』。
時折恐ろしく無感動な素振りを見せる、ルディ。
そして今、笑わない、泣かない、俺。
・・・偶然とは思えない。
「感情を持たぬ生物に、生きる意味はない!私が殺す、全て!!いくらでも私を憎むがいい、恨むがいい。それが世界を動かす新たな力!!」
 ベキッ、と鈍い音がした。
ジオが左手でつかんでいたサイコウォンドの先端を、もののみごとにへし折っている。
なんて腕力だよ・・・人間離れしてるぜ・・・。
いや、感心してる場合じゃない。
サイドアームは破壊された。
魔導の勝負は勝ち目がない。
俺は攻撃手段を失い、立ち尽くすしかできなかった。
「あえて憎まれ役を引き受けようっていうのかよ・・・」
「貴様にはできまいな、だがそれもよかろう!貴様らは貴様らで綺麗事をぬかすがいい、それが『光』ののさばる原因となろうとも、感情を失い、絆を失い、生物としての尊厳をも失う原因となろうとも、貴様らは気づきもせずに醜く生き永らえるのだろうからな!!」
 ジオの腕が伸び、立ち尽くす俺の首筋を捕らえる。
いとも簡単に首筋をつかまれたまま床へと組み伏せられた。
締めつける指先に力がこもる。
気管が圧迫されて息が通らない。
骨が軋む。
くそっ・・・このままじゃ・・・。
窒息死するのが先か、首の骨をへし折られるのが先か・・・!!
なんとか・・・なんとかならねぇのか・・・!?
 酸欠でちらつく視界の中、それでも鮮やかに映える赤い水晶玉。
ジオの依。
何も考える余地はなかった。
ほとんど反射的に手を伸ばした。
これさえ壊せば・・・!!
「触れるなっ!!」
 逆上するジオ。
伸ばした左の手に鋭い痛みが走り、鮮血が宙を鮮やかに舞う。
しかし引き下がらない。
俺の左手に穴が開くスキに、もう片方・・・不可解な古傷を持つ右の手に全ての力を手繰り寄せる。
・・・今こそ、降れ、破壊の光・・・!!
古傷がまた疼くが、構わずにその必死の一撃を放った。
激しい反動に耐えきれず、すでに負傷が著しかった右の掌にも穴が開いた。
いったんは血を吹くが、それと同時に血すらも蒸発させる破壊の光が発せられた。
至近距離からの一撃。
それでも依は頑丈だった。
接触した面が激しい火花を散らす。
しかし、それでも、じりじりと俺のレジェオンが依をえぐっていく。
そして最後にはやけに澄んだ音を立てて、水晶は砕けた。
その一瞬、ジオが躊躇を見せる。
俺はすかさず足でその腹を蹴りあげた。
首にまとわりつく指が離れ、小さく呻いてジオが床へ倒れる。
突然大量の空気を吸い込んで俺はしばらくむせこんだが、数分の後ようやく立てる状態になった。
同じく立ち上がろうとするジオを見据えた。
依さえ壊せば、俺が有利な筈。
「死ねぇっ!!」
 俺の操る破壊の光。
いつにも増して、その輝きは激しく。
・・・そして、やけに美しかった。

『じゃあ・・・そうだ、その水晶玉、銘をつけたんだ。その銘で呼ぶよ』
『銘?』
『それには大地の力が込められてる。大地の力が届く限り、おまえをきっと守ってくれるよ、ジオ』
『・・・ありがとう』
 幼い二人の子供。
笑いあう子供たち。
あれは・・・私と・・・スレイ??
・・・そうだ、交換した。
そしてデゾリスで、私は『闇』に出会い、スレイは『光』に出会い、私たちは『ルディ』に出会った。
友を救おうとして『異端』と見なされ、薄暗い地下で一人死んでいった・・・。
そう、先程のルディの言葉の通りに、死ぬ答えが見えないままに。
どこからか香るラベンダーの芳香と、自分の頬を一筋伝う涙の熱さが、最後に残る記憶だった。
しかし死ななかった。
目標を果たすまで、そして感情を失わぬ限り、『闇』の力は何度でも蘇る。
目標・・・そう・・・ルディを殺しスレイを救おうと・・・。
否、もう一度、友の無事な姿に会えるだけでいいと・・・。
なのに。
私の成したことは何だろう。
ルディに2度目の完敗を喫し、スレイに会えば殺し合い。
『・・・生きる意味など必要ない・・・必要なのは死ぬ答えだけ・・・』
ルディの言葉が思い起こされる。
死ぬ答え・・・か・・・。
今も昔も・・・私には見えないまま・・・。

 パリンと儚い音を立てて、水晶玉は割れた。
一瞬気が緩んだ隙をつき、首筋を押さえつけられ苦痛に床をかきむしっていたスレイが、長い足を素早く器用に折り曲げて私の腹を蹴りあげる。
完全に不意をつかれ、私は床へ転倒し、他方スレイも体を起こそうとしつつも、激しくむせていた。
立ち上がろうとして視界の端にきらめいたものがあった。
割れた水晶玉の破片。
これも・・・大切にしていたな・・・。
 歩み寄り、その破片を一つ一つ手に取り、集めてみる。
美しい赤い輝きは失われ、それは最早何の力も価値もない無造作に砕かれた水晶のかけらだ。
ああ、どうして。
どうして忘れていたんだろう・・・。
掌の上に拾い集めたかけらを持ち、ゆっくりと立ち、スレイを見た。
激しく闘志を燃やすスレイの瞳。
いったん敵と見なした者には容赦ない攻撃を加える。
戦いという行為にたいして、いつも厳しい姿勢を貫いていた。
私に対しても同じ。
ただ思い出を忘れてしまったというそのことだけで、かくも容易く殺し合うことになるのか。
「死ねっ!!」
 スレイが得意の破壊魔導を私に向け放つ。
・・・もう終わりにしよう・・・?
私が闇の中から蘇ったのが全ての誤りの始まり・・・。
私を殺さない限りスレイはいかに傷つこうとも戦いをやめないのだろう・・・。
なら殺せばいい。
それで少しでもスレイが背負わされた重すぎる使命を軽くできるのなら。
そして私は二度とこの世には降り立つまい。
たとえ蘇ることができたとしても、こうしてまた意味なく殺し合いをすることになるくらいなら。
・・・もう二度と会わない。
今度こそ、本当の別れ。
はるか遠い場所から、ずっと見守っていよう・・・。
できれば、ほんの少しで構わない。
記憶の片隅に、スレイのくれた名と共に、私を留めておいてくれるなら。
私の死ぬ答えも、そこに見えるから。
『思い出』という名前の、答えが・・・。
 膝を折り、拾い集めた水晶のかけらを胸に、天を仰いだ。
裁きを受ける罪人のように。
天から降り注ぐ一筋の輝き。
不意に視界が霞む。
・・・泣いてる・・・。
熱い涙が頬を一筋、目の端から伝わって落ちた。
霞む視界の中、破壊の光はいつにも増して、やけに美しく私の瞳に映えていた。

Sync #12


 まさかあんな行動に出るとはね・・・。
きっと過去を取り戻したおまえは、俺にその憤りをぶつけてくると思ったのに。
依に封ぜられた過去の悲しい残照を思い出したおまえは、とても強い相手になると思ったのに。
つくづく『闇』の者の考えることはわからない。
せっかく取り戻した記憶を、力を、自ら捨てるような真似をして。
・・・愚かなことだ。
意表を突かれたのは俺だけではない。
まさに攻撃を加えようとするスレイも驚いたみたいな顔をして、ジオを見た。
勘の鋭いスレイはその行動に何か感ずるものがあったらしく、今さらながら強引にキャンセルをかけようとしている。
しかし・・・もう遅いのではないか?
止められはできまい・・・。
「止まれぇえ!!」
 スレイが吼えた。
へぇ・・・やるな・・・。
あの段階からキャンセルをかけて軌道を曲げたか・・・。
でも完全に外れた訳じゃないな・・・。
直撃こそ免れたものの、レジェオンが床を撃ち抜いて、その時飛散した破片で負傷したか。
脇腹に深々と・・・20センチ程か・・・突き刺さったセラミック片。
重傷だ。
死んではいないが、勝敗は決したな。
いや、勝敗というよりも、ジオが自ら戦いを放棄したんだ。
戦士としてあるまじき行為であり、敵に敗北する以上に、許されざること。
 さっさとトドメをさしてやればよさそうなものを、スレイはファルと傷を治せだの治さないだので言い争っている。
さらにはジオと思い出しただの思い出せないだのでこれまた言い合いになっている。
・・・付き合っていられないな。
腰の後ろに差したレーザーソードを手に取った。
まぁ、次の機会に期待しようか・・・。
何度でも蘇るがいい、俺を殺すために。
そして俺も生きるんだろう、死ぬ答えを見つけるために。
 手に取ったソードを抜き放ちながら、床に血を流して伏せるジオへと全速で駆け寄る。
「わかんねぇよ!!おまえ一体誰だよ!!俺の何なんだよ!!」
 目を閉じ、耳を塞ぎ、激しく頭を振りながら、ヒステリックにスレイが叫ぶ。
過去を失った者の焦りと苛立ちが滲んでいた。
それを小耳に挟みながら、目標の直前で一旦身を翻し、ソードを引いた。
・・・ばいばい・・・。
次はもう少し、強くなってもらいたいな・・・。
「教えてくれよ!!」
 スレイの絶叫と同時に、俺は大きく一歩踏み込み、引き込んだソードを狙った場所へ突き出す。

 躊躇も何もない。
容易くジオを串刺しにして引導を渡した。
冷酷にすら感じる程、戦いという行為に対して厳格であった。
今までは話にならない程の甘ったれだったのに、今回ばかりは俺の方が甘く思えた。
その後も時に、その厳格な側面を見せた。
決まって『闇』の者に対して俺達が手こずった時に。
圧倒的な剣技をもって、いかな強敵をも一刀の下に切り捨てた。
『闇』そのものに対峙した時もそうだ。
流石に多少は手こずっていたものの、そのスタンスは変わらない。
何が起ころうとも動じない。
自分が傷つこうと仲間が傷つこうと敵が傷つこうと。
誰が涙し、誰が流血し、誰が何を訴えようと。
何にも動揺することのない、空恐ろしいまでの平静な心。
・・・もっと早くにそれに気付いていれば。
・・・今こんなことにはならなかったかもしれないのに・・・。

 胸に深々と刺さった『エルシディオン』の剣先。
ルディが信じられないという顔をして、自分の胸にあるそれを見、そして強引に剣を引き抜く。
傷口が大量の血を吹いた。
「ルディ・・・!」
 ルディがゆっくり顔をあげる。
相当の苦痛を伴うはずなのに、相変わらずの無表情。
眉ねひとつ動かしてはいない。
まるで時間が止まったかのように、そのまま暫くルディは俺を見据えていた。
流れる血にも構わず。
そして何かを訴えようとするかのように、ルディが唇を動かした。
声にならない、声。
消されてしまった『心』からの声。
・・・必死に紡ぎ出そうとしていた・・・。

 『闇』が倒れて3年が経とうとしている。
俺は今も変わらずに仕事をこなしている。
一時ほどの多忙さはなくなったけど、食うに困る程じゃない。
それなりに儲かってる。
それにあと半年もすればファルが俺の子供を産んでくれる。
未来はまさしく順風満帆に見えた。
そう・・・。
『あれ』に出会うまでは・・・。

 『あれ』に会ったのは、20歳になった日のこと。
俺の知ってるもうひとつの俺。
ずっと昔から俺の中に住みついてたもうひとつの俺。
そいつに言わせれば、俺の方が後から勝手に住みついたらしいけど。
名前ももたない。
ただ、自分は光が築いた砦だと言った。
 でも俺は『光』も『闇』も大嫌い。
本質的にはどっちも変わらないように思えた。
自分が創ったからってわがままばかりを言う光。
自分の邪魔になるからってわがままばかりを言う闇。
・・・どれも同じ、俺達の言うことなんか聞いちゃいない。
俺達がどれだけのものを心に抱えて、憎み殺し合い、生きて死んだか。
どんなに叫んでも、そいつらに届きはしないんだ。
『・・・だからそんなものは最初から必要ない・・・人にとって必要なのはただ一つ、死ぬ答えだけだ・・・』
 もうひとつの俺はそう言い張る。
死ぬ答え・・・か・・・。
『そろそろこの依も使いものになってきたことだ、片割れを取り込んで俺はより高次の生命になる』
・・・か・・・片割れ??
『そう。スレイなんて名前がついているようだが、俺には関係ない。関係あるのはただ一つ、あれに持って行かれた俺の魔の力を取り戻すこと。あれを取り込んで初めて俺は完成する』
 スレイはどうなるんだよ・・・??
俺は完成しても、スレイは・・・??
『消えるだけだ』
 し・・・死んじまうってことかよ・・・。
俺の友達なんだぞ・・・。
それを殺せって言うのかよ・・・。
『友達ではない。存在して良いのは一つだけ。それを競い合う敵だ』
 そんな、今生きてるじゃねぇか・・・。
俺も生きてるし、あいつも、多分どこかで元気にやってるはず・・・。
『生きているという表現は正しくないな。あれは元々なかった生命。単なる魔導体に過ぎぬ。魔の力に支えられる張りぼて。生きているのではない。ただ人に似た形をして存在しているだけだ』
 だから消していいって言うのかよ!
自分が強くなりたいばっかりに、友達を踏み台にするのか!?
『・・・最後に残るのは自分一人だ。友達なんていつかは忘れ、忘れられる。そんな儚いものを大切にし、己を捨てるか?』
 儚いものだから大切にするんだろう!
なんでわかんないんだよ!!
『おまえは闇に似ているな・・・闇の末路をおまえも見たろう・・・闇に与した者の末路もな・・・』
・・・憶えてるよ。
みんなおまえが殺したな・・・。
俺がやめろって言ったのに、聞きやしない。
 同じだよ、おまえ。
光も闇もおまえも。
みんな同じだ・・・。
俺達の叫びは決して届かない・・・。
ああ、俺が殺した者は皆、こんな思いを抱えて死んで行ったんだろうか・・・。
・・・ごめん。
・・・コロして・・・ごめん・・・ね。

 再会は唐突だった。
髪が伸び、顔立ちもずいぶん大人びていたが、ルディだとわかった。
最初は懐かしさがあったが、それはすぐに他のものに変わった。
手に『エルシディオン』を握っていた。
その刀身は失われたはずだが、俺の目の前でゆっくりと横一文字を描いて鞘から抜き放たれるその剣は変わらぬ不可思議な輝きを有する刀身を見せつける。
「・・・何の・・・つもりだ・・・」
「おまえの力、返してもらいたい」
「か・・・返す??どういうことだよ・・・」
「おまえが消えるということだ」
 抑揚の無い声で、ルディが言う。
非常にゆっくりとエルシディオンが鞘から抜かれてゆく。
「ルディ??どうしたんだよ、・・・らしくないぜ・・・??」
 様子が変だった。
本当に・・・らしくなかった。
しかしルディは否定した。
「おまえの言う『らしさ』は失われた。本来あるべき状態に戻っただけ・・・」
 剣の先端が鞘から抜け、エルシディオンは完全に俺の目の前にその刀身をさらした。
ギラリと光るその切っ先を俺の鼻先に突きつけ、ルディは言う。
・・・宣戦布告としかとれなかった。
「その力、返してもらうぞ」

Sync #13


 デゾリスには既に冬が訪れようとしていた。
例年以上に早い冬の訪れ。
中でも特に寒さの厳しい、ここアルチプラノは銀世界へと変わっていた。
そんな一面の銀世界に一つ、二つ、赤い血の滴が落ちる。
「・・・・・・」
 頬の皮膚を切り裂いたルディの携える剣。
3年前の聖剣は、今や圧倒的な脅威となって俺の前にあった。
物理的には剣は空ぶったはずだった。
しかし、その軌跡の延長線上を光の刃が一直線に切り裂き、それは俺の頬の皮膚をかすめた。
強すぎる魔の力が俺には風圧のように感じられた。
「何しやがる!!」
 防戦に回っていては不利だ。
不利どころか、冗談抜きに死にかねないぜ、まったく・・・!!
雷光がルディの足止めをせんと俺の周囲を数周巡った後、ルディを追走する。
相変わらず動作が速く、ただの一発も喰らわず全て躱して俺に肉薄する。
振りかざされる剣。
・・・剣士にとって、最大の弱点となる、その一瞬。
「なめるなぁっ!」
 振り下ろされる剣が俺の身体を切り裂くよりも早く、フレエリがルディの顔面を殴った。
もんどりうって後方へ弾かれるルディ。
しかし流石にそのまま倒れるようなヘマはしない。
宙を吹き飛ばされながらも、空いている右の手で雪原を叩きつけ、その反動を利用して側転の要領で体制を建て直し、さらに後転で勢いを殺して再び両の足で立つ。
派手な雪煙をあげながら、まるで体操競技の床運動でも見るかのようだった。
ブルッと一回頭を振って、ルディが言う。
「やるな。だが俺を焼き尽くす程ではない。この程度の炎しかおまえは生み出せないのか?」
「ルディ・・・おまえが何考えてるのか俺にはわからねぇ・・・」
「俺とおまえと、どちらか優れた一方が生き残り、劣る他方はその力を一方へ返す。死にたくないなら、おまえが俺より優れていることを証明してみせろ。主の前で」
 すっと天を指さすルディ。
あ・・・あるじ??
「なんで優越を競う必要があるんだよ」
「俺とおまえと、生きていいのは片方だけだ。俺には何も必要ない。おまえにも何も必要ない。過去の全てを切り捨て、未来を見据えるために」
「友達すらも捨てるってことか?」
「そうだ。何も持たずに己の身一つで生きる。怒りも悲しみも憎しみもない。裏切られることも、失うことも何もない・・・静かで穏やかな人の生・・・」
 それは・・・確かに道理だ。
持つものが何もなければ、失う悲しみも味わうことはない。
信ずるものが何もなければ、裏切られる苦痛も味わうことはない。
しかし。
「それじゃあ、何かを得た喜びもないじゃねぇか・・・」
「失う痛みと得る喜び。二つを比べて今までのおまえの人生、どちらが多かった?二つを天秤に載せたとしたら、どちらに傾く?答えろ」
「・・・それは・・・」
 言葉に詰まった一瞬、ルディの感情のないはずの瞳が、わずかに曇ったように見えた。
そして乾いた声で言った。
「・・・同じだ、俺もおまえも・・・同じ生き物は二つもいらない」
 それだけ言ってルディは剣を構え、振り抜く。
「吹けよ、嵐!!」
 猛烈な風が吹いた。
風に吹き上げられる雪。
辺り一面雪煙に覆われ、視界が効かない。
くそっ・・・考えやがったな・・・!!
どこにいる・・・??
素早いヤツのこと、今はもう近くに・・・いるはず・・・。
上・・・??くそっ、風が邪魔で空気の流れすら掴めない・・・!
「!!」
 背後からの気流が、唐突に絶たれる。
真後ろ!?
振り返りざま、剣を振り上げるルディが視界の端に入った。
考えるより早く、反射的にロッドをかざしていた。
ギャリッと金属の擦れ合う独特の不快音を立てて、エルシディオンがかざしたロッドに当たり、止まった。
一瞬の膠着に陥るが、ルディの再動は早かった。
手首を器用に返し、軽くいなす。
力の均衡が崩れて一歩よろけた隙に、俺の腹に容赦ない膝蹴りが食い込む。
倒れざまに、さらには剣の柄尻で頭を叩きつけられ、2〜3秒間宙を吹き飛んで雪原に倒れ伏した。
 傷ついた額から多量の血が流れ出すのがわかる。
冷たい外気に対して妙に温い液体によって、顔面を覆われるような・・・。
うつ伏せる俺の視界に、ルディの爪先が見えた。
その爪先が俺の肩口を軽く蹴って仰向けにされる。
視界が一回転して、一面の雪が曇天に変わり、そしてその曇天を仰ぎ見るルディがいつになく厳かに立ち尽くす。
 モノトーンの世界に、そこだけ鮮やかな金の髪が舞う。
風に煽られ燃え盛る黄金色の炎のように見えた。
「おまえの負けだ」
 視線は曇天を睨んだまま、静かにそう宣言した。
真っ直ぐ天に向けて掲げられる『エルシディオン』。
振り下ろされる剣。
俺はもう、覚悟を決めて瞼を閉じるだけで・・・。

『このくそガキ・・・おまえさえいなきゃ・・・!』
『どうして、こんな子が・・・今この時代にいるんだ・・・!!』
『この子さえ・・・生まれてこなければ・・・!』
 俺の記憶の片隅に昔から残るのは呪詛の声。
俺が殺した小さなジオと、その友達だった小さなスレイ。
その二人から俺へと向けられる深い憎悪。
・・・憎まれても仕方ない。
みんなが死ななきゃならない理由なんてなかった。
死ななきゃならなかったのは、たったひとつ、俺だけなのに。
一人、俺だけ生きてゆく。
・・・俺さえ消えてしまえば、みんなは死なずに済んだのに・・・。
ごめん・・・コロして・・・ごめんね・・・。
 正に振り下ろされんとする剣の切っ先を、俺は必死に翻した。
しかし自分の身体なのに言うことを聞かない。
傷つき倒れ、瞳を閉じて死ぬのを待つばかりのスレイへ、容赦なく剣は打ち下ろされんとしている。
やめろ、これ以上誰も殺したくない、誰も傷つけたくないんだ!
 俺は叫ぶけど『あいつ』は聞かない。
「黙れ。友も家族も必要ない」
 必要ない訳ないだろう!!
「一人で生きればいい。一人で好きに生きるのがいい」
 そんな生き方に意味はない!
そんな生き物、この世に要らない!
おまえが死ねばいいんだ・・・殺すっ!
「どうしようもなく愚かだな。それは自殺に等しいことだ」
五月蝿い、自殺行為だろうと何だろうと構うものか。
生き方を歪められてまで生きたくはない、俺はずっと俺らしく生きたい。
俺は俺の『生き方』のために死ぬ!
それが俺の、死ぬ答えだっ・・・!!

 振り下ろされる『エルシディオン』の剣先が俺の前髪を切り裂く。
脳天を砕かれて終わりかと思ったが、ちがっていた。
振られる剣から生まれる風の向きが突然そっぽを向いた。
そのベクトルは真っ直ぐ俺を狙っていたはずなのに。
 疑念にかられて、一度は閉じた瞳を開く。
それとほぼ同時に、肉を刺し骨を砕く音が静かな雪原に響く。
・・・ルディ??
一体・・・どうして・・・自分で自分の胸を突いたりするんだ・・・。
俺を殺すんじゃなかったのか・・・??
胸に深々と刺さった『エルシディオン』の剣先。
ルディが信じられないという顔をして、自分の胸にあるそれを見、そして強引に剣を引き抜く。
傷口が大量の血を吹いた。
「ルディ・・・!」
 ルディがゆっくり顔をあげる。
相当の苦痛を伴うはずなのに、相変わらずの無表情。
眉ねひとつ動かしてはいない。
まるで時間が止まったかのように、そのまま暫くルディは俺を見据えていた。
流れる血にも構わず。
そして何かを訴えようとするかのように、ルディが唇を動かした。
声にならない、声。
消されてしまった『心』からの声。
必死に紡ぎ出そうとしている。
けれども喉の奥の方から、何かが擦れるような音がするだけ。
不意に表情のない瞳が潤んだ。
一粒だけの涙がその頬を転がり落ちる。
 声にはならないが、俺にはその気持ちがわかる。
同じ瞳を俺に向けながら死んでいった者がもう一人いた。
ジオという名前の。
それ以外は何も知らないが、今のルディと同じ眼をしていた。
寂しげで、誇らしげな眼差し。
そしてこんなことを言った。
死ぬ答えを見つけたと。
「おまえも見つけたのか・・・?死ぬ答えを・・・」
 俺の問いかけには答えずに、ルディは何も言わず目を閉じた。
血みどろの『エルシディオン』がその掌から滑り落ち、身体が傾ぐ。
倒れる身体を、積もったばかりの新雪が柔らかく受けとめる。
白い粉雪と赤い血飛沫を散らして、ルディは雪原に伏した。
唐突すぎる死だった。
信じられなかった。
けれどルディは静かに雪原に眠る。
どうしてこんなことに??
・・・わからない・・・。
俺には何も・・・。
どうして俺達は殺し合わなければならなかったんだ。
どうしてルディは自ら死を選ぶんだ。
どうして俺一人が生きているんだ。
俺の周りで失われていく命はあまりにも多すぎて。
そして俺が救うことのできた命は一つとして無く。
・・・お祈りなんて昔から大嫌いだった。
でも今は・・・祈りを捧げる人の気持ちがわかる。
神様・・・誰か・・・誰でもいいよ・・・。
・・・助けてくれよ、たくさんの、大切な命を・・・。
・・・返して・・・くれよ・・・。

 答える者は誰一人としてなく、ひたすらに雪がアルチプラノを覆う。
この日、剣士は己の生命の尊厳をかけて己の生命を捨て、魔導士は失われる生命に本当の意味の絶望を知る。
それでも真実を求める真摯な情熱は、更なる復讐の悲劇を呼ぶことになるけれどもそれはまた別の話。
 未来は未だ曇天の向こう、『光』の掌の上にあった。
黄金色の炎に包まれて・・・。


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