第二節 サムディ出陣す

重々しい音を立てて、格納庫の扉が開かれてゆく。
6体のドレイクが、出撃の時を待っていた。
それぞれ二重構造になったケージの中、最新兵器はじっと瞳をこらして騎手の様子をうかがっている。
「出番だ、ヴァンドルディ」
 6体には名前があった。
ディマンシュ、ランディ、マルディ、メルクリディ、ジュディ、ヴァンドルディ。
それぞれ日曜日から金曜日という意味の一地方の古語である。
 『土曜日』サムディだけは現在行方が知れなくなっていた。
最後に生み出されたドレイク・・・というよりは、何故かこれの完成と共にドレイクの生産がストップされたと表現した方が正しかった。
野生種のドラゴンからは遠くかけはなれた、ある種異様な姿をしていた。
太く長い一本足に短い身体、2対の主翼の他、1対の尾翼と補助翼を有する。
そして最大の特徴であり、同時に最強と呼ばれる由縁は、強力な破壊魔導を駆使するという点にある。
肉体的な強靭さを求めて開発されたディマンシュ以下6体とは明らかに異なり、その強靭な肉体を生かしつつ、さらに魔導すら駆使するという。
雷雲を呼び、群嵐を巻き起こし、業火を煽る、暗紫の翼。
それが『土曜日』サムディの姿だった。
 しかし14年前、ちょうど先王アウレス=ランディールの崩御と同じ年に、その騎手もろともに姿を消したのだ。
開発資料から何から、一切合切が消去されていた。
サムディとその騎手の生死は未だ謎に包まれたまま。
エリアス達も当然手を尽くしてその行方を追いかけているが、とにかく現状は6騎で乗り切らねばならない。
 エリアスの駆るドレイクは、『金曜日』ヴァンドルディという名だった。
その名の通り、金色の身体を持つ美しく強いドレイクだ。
サムディのいない今、事実上の最強がヴァンドルディとなっていた。
ヴァンドルディも、自己回復魔導だけは有している。
持久戦に有利なタイプだった。
そして拠点防衛を行う現在の戦況は、ヴァンドルディにはうってつけと言えた。
 所定の手続きを経てケージのロックをオフにすると、プシッと空気の抜ける音を立ててケージがまず外側、次に内側と開く。
仄明るいケージの中、ヴァンドルディがふきぃ、と小さく鳴いた。
昇降用の鉄梯子を昇り、ヴァンドルディの首の付け根に据えた鞍に飛び移る。
鞍に浮き彫りにされている剣と盾を携える翼竜の模様。
近衛師団のユニットシンボルであり、パルマ陸軍といえばこの翼竜を連想する者も多い。
 ケージの天井が開かれる。
白みはじめた朝の空がその隙間から覗く。
「首都守備隊特殊翼竜騎士班、総員出撃せよ」
通信機にエリアスがそう宣言すると、先陣・ディマンシュがその翼を広げ羽ばたく。
一陣の風と共にディマンシュ以下5頭が続き、最後にヴァンドルディが翼を広げた。
「ゆけ!!」
 エリアスの号令一下、黄金色のドレイクは戦場の空へと舞い上がった。

「サムディ??」
 エイブラハムが初めてその名を聞いたのは昨日。
エアキャッスル攻略の軍議の席でのことだった。
作戦実行の主力部隊の長官という訳で参加していたのだが、事実上の主力はそのサムディになると聞かされ、心境は複雑だった。
「7番目の、そして最後のドレイク。それがサムディ。ヴァンドルディを凌ぐ破壊力を有します。詳しい資料出します」
 会議室正面のモニターに『サムディ』の各種データが次々表示され、それに合わせて説明は進んだ。
生物科学の専門的な部分はエイブラハムの理解の範疇を越えていたが、大筋でその特徴は掴めた。
「確かに強力ではありますね」
「騎馬隊が魔封じのシステムを落とし、そしてしかる後、魔導の勝負に持ち込む。さすればサムディの敵はいまい」
 議長、レイバード=ラ・シークが言う。
テロ対策として、魔導封じのシステムがあちこちに敷かれるようになり、おかげで魔導の軍事利用は思うように進んでいなかった。
正式には「非物理的圧力感知装置」という名称だが手っ取り早く「魔封じ」と呼ばれることが多い。
その働きは正式名称の通り。
「魔封じを落とす具体的手段の提示を」
 エイブラハムが先を促す。
簡単にシステムを落とせと言うが、警備システムの中核を成す魔封じ。
そう易々と落とせるものではないだろう。
「具体的も何も、騎馬隊は表から圧力をかけ、城内の注意を外へと向ける。実際の作業は情報部の仕事だ」
「情報部・・・??お言葉ですが情報部は現在中立姿勢を保ったまま、動こうとしていません。確実に我々に手を貸すという算段がない以上、我が隊を囮に出動させるのは納得できません」
 もっともな危惧だ。
近衛師団VS第一師団という図式で陸軍が分裂状態にある現在、情報部だけはいずれの陣営にも属することなく、頑固に中立の立場を守っていた。
いずれの味方をすることもなく、いずれの邪魔をすることもなく。
その真意は知れないが、大方、最終的に勝利した方につけばいいと日和見を決め込んでいるのだろうとエイブラハムは苦々しく感じていた。
そんな彼らが、首都の警備システムダウンに手を貸すとは考えがたかった。
 しかし議長は自信有り気に答える。
「喜んで手を貸すさ・・・『サムディ』の実戦データを得るためにな。魔封じがある限り、『サムディ』は真価を発揮できない」
「なるほど、確かに手は貸してもらえるでしょう、しかし・・・情報部も『サムディ』を狙っているとみた方が良さそうですね」
「まあな・・・情報部の真意は計りかねる所であるから、注意は必要だ」
「その監視役も騎馬隊の任務のうち、ですか?」
「あるいは監視されているとも思っておけ」
「は。肝に命じておきます」
 エイブラハムは恭しく頭を垂れた。

「大佐!!」
副長の声にエイブラハムは現実に立ち戻る。
気が付くと、副長が自分を庇うかのように、敵騎兵との間に馬を割り込ませ、剣を切り結んでいる。
「・・・!」
 慌ててエイブラハムもロッドに手をかけたが、その時には勝負はついた。
副長は容易く敵の剣をからめ取り、弾き飛ばし、胸ぐらを一突きにした。
「すまん、ラスカー」
「らしくないですよ、戦場で考え事など」
 サーベルについた血を振り払って、ラスカーと呼ばれた副長は軽く釘を差す。
 本名はラスカル=デ・ウェリス。
機甲連隊副長を務め、階級は中佐。
モタビアに本家を置くデウェリス伯爵家の次男だ。
祖父の代からラシーク家に仕え、ラシーク派の中でも古参の一族である。
ラスカルの方が5歳年上になるが、エイブラハムの幼少の頃よりラシーク家で共に育ち、今ではエイブラハムの副官兼世話役といったところだ。
「いや・・・魔封じの解除が遅いと思ってな・・・」
「30分で片付けられると言ってましたから・・・そろそろ・・・」
 ラスカルがちらと時計を見る。
「30分も経てば、ドレイクも・・・」
 正にエイブラハムが言いかけた時だった。
王城の城壁に特徴的な両翼が見えた。
朝靄に隠れてよく見えないが、エイブラハムは即断した。
「出たぞ、ドレイクだ・・・6匹いる。ラスカー、あれだ。ヴァンドルディ」
 指を伸ばしてエイブラハムがラスカルに示す。
ひときわ目立つ黄金色の鱗を持つドレイクがいた。
「・・・初めて見ます」
「呑気なことを・・・!情報部は何をしている、ラスカー、行動を急がせろ!」
「必要ないですよ」
「何??」
 す、と自分の持つヘッドセットをエイブラハムに向けて差し出す。
一瞬戸惑うエイブラハムだが、次の瞬間にはひったくるようにしてヘッドセットを受け取り、耳に被せる。
『システムの停止並びに破壊を確認。撤収する』
 極めて機械的にその言葉が耳元のヘッドセットから流れていた。
「やったか、後は・・・」
「『サムディ』の戦いを見せてもらうだけです」
 頭上を大きな黒い影が遮る。
バサッと大きな羽ばたき音が戦場に響く。
先ほどまで影も形もなかったものが、突如としてすぐ上空に出現したのだ。
恐らくはテレジャンプしてきたのであろう。
 エイブラハムもラスカルも、視線を手繰り寄せられるようにその暗紫の翼に目をやった。
そのサムディの背には、ヴァンドルディらと同じく騎手の姿も見える。
(・・・騎手がいるのか・・・?)
 じっと目をこらすエイブラハム。
一瞬その騎手と目があったような気がしたが、サムディが速度を上げ前方へと飛び去った為、もう騎手は肉眼で確認できなくなった。
(これが・・・サムディ・・・)
 エアキャッスルの上空に突如現れた暗紫の翼。
それが戦局の行方を握っていることは、誰の目にも明らかだった。


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