第四章
| トントン、とドアが軽くノックされた。そしてソルとアレフが身構えるより早く、鍵の開く音に続いてドアが開かれた。
「な……!」 声もなく入ってきた二人の姿に、アレフは思わず絶句してしまう。 来て欲しくなかったのに。出来れば逃げて欲しかったのに。 「何で来たの!?」その思いは、厳しい問いとなって二人に――あえて正確に言うならば、レイネに――注がれた。 「今はバラバラでいるよりも、一緒にいた方がいいわ。点在していては、全てを守るのは難しいから」 いきなりの厳しい声に身をすくませたレイネの代わりに、セレネが答える。 「でも! 危険だってわかってるなら、逃げてくれた方がよっぽど……!」 「私にもソルにも逃げられなかったのに?」 「――っ」 アレフは今度こそ本当に何も言えなくなってしまう。セレネがあまりにも静かに正当なことをはっきりと言ったので。 「もう一度感動の再会が出来ると、彼は言っていた。どういうことだと思う?」 何も言えなくなったアレフの代わりにか、ソルがセレネに問うた。 「ハーフエルフではないわ、きっと」 その問いに、セレネは変わらず静かに答える。 「私たちは必然的にここに集められたわ。偶然を装って。この先ハーフエルフがもう一人増えるとは考えにくいし、私たちが知っている同族は私たちだけだわ。だから『再会』にはなり得ない。彼はあなたたちに再会できると言ったのでしょう? ということはあなたたちによほど近しい人としか考えられないわ」 「やっぱり……」 ソルは溜め息混じりにそう呟く。それは一番欲しくなかった答えでもあり、また自分でも考えたことでもあった。そしてこの場合、思いつく人間はただ一人である。 「ねえソル、それって……それってもしかして……」 アレフも同じ結論に至ったのか、心配そうな目をしてソルを見る。 「嘘だよね? 違うよね? ここまで来るはずないよね!?」それでは全く彼等の――ハンターの意図がわからなくなる。ハーフエルフ狩りが目的ではないのか。もっと別の所に目的があるのか。 自分たちをどうする気なのか。 ソルはアレフの問いにどう答えるか悩む。アレフの望む答えを出してやりたいが、実際にはアレフの危惧する通りなのだ。 そんな二人をただ静かに見つめていたセレネが、ふとドアの方を見やった、そのときだった。 鍵の音もノックの音すらもせずに、ドアが静かに開かれた。 「フィーユさん……」 「姉ちゃん!?」 「アレフ! ソルも! 二人とも逢えたのね!?」それは、文字通り『感動の再会』であった……時と場所を考えなければ。 「なんで来たの!?」「あなたたちは……?」 そのアレフとフィーユの二つの問いは、ほぼ同時に放たれた。しかしその言葉に含まれた激しさのため、フィーユは見知らぬ二人の姿に対する問いよりも、アレフが放った問いに答える方を選んだ。 「なんで……って」 答える、とは言え、フィーユに言える言葉はこの程度である。 もともとアレフに呼ばれていると聞いて来たのだが、そのアレフから言われた言葉がこれである。困惑するのも無理はないだろう。 「私がお呼びしたんですよ」 言葉と同時に姿を現した彼に、とっさにソルはフィーユの手を引いて自分の方へよこそうとする。が、それよりも早く彼がフィーユの肩を押さえていた。 「感動の再会が出来たでしょう? あまり時間がなくてすみませんが……」 「……どういうことなんです?」 ソルが静かに問う。しかしその目は、彼の一挙手一動足さえ見逃さないようにと光らせてはいるが。 「勿論、あなたのためですよ」 彼は不敵な笑みを浮かべて、そう答える。 「彼女をどうしようと?」 「やれやれ、せっかちな方ですね、あなたも意外と」 言葉ではそう言いつつも、彼はどことなく嬉しそうである。……まるで、そう聞かれるのを待っていたかのように。 「つまりね……こうするんですよ」 彼の静かな物言いに、誰も動くことができなかった。その場にいた誰一人。 「え……?」 小さな呟きを残して、床に崩れ落ちるフィーユ。その背中には、深々と突き刺さった……短剣。 「な……!」 「姉ちゃん!!」ソルとアレフの叫び声が、部屋の中に響いた。
……光坂、第十七回……
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