第四章


「……理解し難いですね」

 ソルとアレフの視線を受けるともなく受け、青年は呟いた。

「なぜそこまで、この人間を想うのです」

「大切な人が屈辱を受けているというのに、ただ傍観しているというわけにもいかないでしょう」

 ソルはアレフの肩をそっと抑えながら、きっぱりと言い放った。今はまだ、すぐに行動に移すべきではない。この青年に何らかの隙が見えるまで、待たなければならない。

「どうやら、あなたも私と同じ考えのようですね。そう、私もそのためにこんなことをしているのですよ」

「どういうことだ!?」

 静かに続ける青年に、アレフが大声で問い返す。

「……殺されたのですよ、人間たちに。私のたった一人の肉親である妹を」

 瞬間、その場に居合わせる者すべてに戦慄が走った。

「しかも、今のようなハーフエルフ狩りなど無かった時代に、ね」

 彼は何事も無かったように淡々と続ける。が、ソルは感じていた。この青年の心の底にある憎悪は、とてつもなく激しい。

「そこで私は、人間どもに復讐をするために、ハーフエルフの秘術を身につけようとした。その節は、君のお父さんにもお世話になりましたよ」

 微かな笑みを向けられ、アレフは歯軋りした。父があの計画に加担していたことは知っていたが、それがまさか、このような事態を引き起こすとは思っても見なかった。アレフは父が好きだった。馬鹿な企てに加わる前の、あの優しかった父。

「そして、永遠の命を手に入れた後、次に必要なものは、虫けらどもを一掃できるほどの巨大な力。そこで、あなたに白羽の矢を立てたというわけです」

「……妹さんが殺されたのは気の毒です」

 ソルは、青年の暗い心に圧倒されながらも、何とか反論を開始した。

「でも、だからといって、人間全てに罪があるというわけではないでしょう」

「いいえ、人間など、この世から全て消え失せるべき存在なのです」

 青年は、聞き分けのない子どもを諭すように、穏やかに言葉を続けた。

「ハーフエルフ狩りと称して、我々種族を片っ端から皆殺しにしている今の人間達を、あなた方はどう思いますか」

「そうでない人もいる。例えば、今あなたが屈辱を与えているその人は、僕達がハーフエルフであることを承知の上で、他の人間と同じように接してくれた。人間もハーフエルフも様々な考えの人がいる。人間だからといって、すべて殺そうというのは間違っている!!」

「そう思えるのは、あなた方が運良くそういう状況にいたからです」

 青年は、静かだが、確信に満ちた口調で答える。僅かな動揺も、まったく感じられない。

 積年の怨みが、彼をここまでにしてしまったのか。ソルは恐怖を覚えた。

「今まで長い間、人間に対する憎しみを増加させながら、こうして復讐の機を待っていたのです。そう、憎き人間の体を使ってまで」

 彼は、その時ばかりは気持ちが抑え切れなかったのか、苦々し気に吐き捨てた。

「私は決心しました。たとえどんな代償を払っても、私は人間どもを根絶やしにする」

 不意に、青年の周りに風が沸き起こった。その風は、フィーユの服を煽り、ソルたちに激しく吹き付けてきた。

「それが、同族を犠牲にするようなことになろうとも!!」

 彼は叫びを上げた。

 風はさらに激しさを増し、竜巻きのように周りの瓦礫を巻き上げた。

 一瞬の間。

「そろそろ、お喋りの時間は終わりだ」

 青年は厳かに告げた。

 

……亮、第十九回……

 


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