第五章
フィーユに先導され、一行は村に入った。そしてそのまま、彼女の両親への挨拶もそこそこに、早速村長の元に赴き、一切の隠し事をせず、すべてを最初から説明した。 ソルとアレフにとっては、今まで黙っていたことを打ち明けるとあって、少々心苦しかったが、これは五人が村に入る前に散々話し合って決めたことだ。悪く言えば、村民達を欺いてきたわけだから、償いの意味でも、正直に話してしまうべきだと、二人は結論に達した。もちろん、みんなならわかってくれるという確信があったからこそだったのだが。 さらに今回は、もう二人別のハーフエルフを連れて来ている。以前のように隠れながら暮らすこともできたであろうが、それでは人間との共存とは言えない。まずこちらが心を開かねば、人間側も打ち解けてはくれないだろう、と、一人反対するレイネに、セレネは諭した。 レイネの心配も、わからないでもなかった。ハーフエルフ狩りが蔓延っている中で、どうやって人間と共に生きていけばいいのか。人間は自分たちを受け入れてくれるのだろうか。そのあたり、彼らに対してなかなか信用を持てないのも、当然と言えば当然だった。 が、何かあった時、もし自分たちが異なる種族であると判明した時、迫害を受けるのは目に見えている。何も知らなかった村民たちにしてみれば、今まで騙されてきたのかと思ってしまうだろう。そうなってしまっては、いくらフィーユが説明したところで、何の効力も持たないだろう。 そういったリスクも含め、熟考した結果、とりあえず村長に打ち明けてみることにしたのである。ソルもアレフも、彼の人柄はよくわかっていたし、誠意を持って接すれば、必ずわかってくれるはずだと思った。 村長は話を聞き、最初はかなり驚き、そして深く考え込んだ。責任ある立場としては当然だろう。新しくやってきた姉妹の顔をまじまじと見つめ、続けてすでに見慣れているソル、アレフ、フィーユの顔を順番に眺めていった。 そして、何故か勿体ぶるように一言呟いた。 「新しい村民のために、宴の準備をせねばのう」 こうして姉妹は、正式に村民として認められ、さらに四人がハーフエルフであることが、村人の前で明かされた。若干のどよめきがあったものの、ほとんどの者が、特に何の不満も示さず、拍手を持って迎えてくれた。 おそらく中には不安を抱く人もいるだろう、ということで、村長は宴の席で、さらにこう表明した。 「わしの責任において、この四人を歓迎し、この村に住む権利を与えることにする。何か異義があれば、遠慮無く言ってもらいたい。そしてできるだけ彼らと接することをお勧めする。そうすれば、必ずやわかり合えるだろう」 村長の言葉だけで納得する人も少ないだろう。最終的には自分たちの行動にかかってる、とソルは思った。今まで勝手な思い込みで、他人から身を隠して生きてきたが、これからはどんどん自主的に人間たちと交流を持ち、ハーフエルフとして、自信を持って生きていこう。 こうしてこの村は、世界で初めて、人間とハーフエルフが共存できる場所となった。現在のところ、街道沿いで訪れる旅人が絶えないという理由で、このことは村人たちの間だけの秘密である。しかし、近い将来、他のハーフエルフたちを受け入れられるような、そんな素敵な場所になってほしいと、ソルは思わずにはいられない。 ハンターの問題や、お互いの文化の違いによる誤解もある。膨大な労力と時間が必要なのは明白だ。だがそれでも、それだけの価値は絶対にある。彼はこの村に戻ってきて、改めてそう実感していた。 「また何か考え込んでるの?」 フィーユに問われ、ソルは我に返った。 「ま、まあいろいろと。昨夜のお酒もまだちょっと残ってるし」 「もっと楽にいきましょうよ。大丈夫。あなたたちならすぐにわかってもらえるわ」 「そう願っていますよ」 下を向いて床掃除をしていたので、ソルはフィーユの顔がすぐ目の前にあるのにまったく気がつかなかった。 「ずっと一緒にいようね」 ささやくと、フィーユは彼の頬に軽く唇を当てた。 「ちょっとどいて、遅れちゃう!」 その横を、だだだっとレイネが駆け抜けていく。 「ま、待ってよレイネ……って、あれ、ソル、また固まってるの?」 「何やってんのよ、アレフっ、遅刻したら、みんなに叱られちゃうじゃない!」 「すぐ行くよっ。姉ちゃん、ちょっと出かけてくるよ」 「はいはい、気をつけて行ってらっしゃい」 「こんにちは、フィーユ」 「あら、こんにちは、セレネ」 「ちょっとお茶でもしない?」 「いいわね、これ片付けちゃうから、ちょっとだけ待ってて」 「どうやら彼、また固まっちゃってるわね」 「ああ、ほっといて。そのうち復活するでしょ」 「とりあえずあなたたちは、もう少し理解し合う必要があるわねぇ。あ、わたしも手伝うわよ」 後には一人、雑巾を手に持って身動きしないソルが残された。
春は、ゆっくりと近付いている。
了
……亮、第二十二回……
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