平成10年(行ウ)第15号建築確認処分取消等請求事件

原告   松  本     茂   外六名

被告   横浜市建築主事   外一名

平成10年10月21日

右原告ら訴訟代理人

弁護士 井上幸夫

同   穂積 剛

横浜地方裁判所

第一民事部合議係 御中

準備書面(二)

(本準備書面の趣旨)

本件建築物に対する建築確認処分が違法であることは訴状において述べたとおりであるが、本準備書面においては、国会付帯決議、建設省の通達、各地方自治体建築主事執筆の解説記事、「横浜市建築基準法取扱基準集」、「日本建築主事会議基準総則研究会」による「高さ・階数の算定方法・同解説」等々の書証に基づいて、本件建築確認処分の違法性をさらに明らかにする。

 

一 建築基準法五二条二項(住宅地下室の容積率不算入措置)の解釈適用の誤り

l.平成六年に改正された建築基準法五二条二項の条文は、「建築物の延べ面積には、  建築物の地階でその天井が地盤面からの高さ1メートル以下にあるものの住宅の用途  に供する部分の床面積(当該床面積が当該建築物の住宅の用途に供する部分の床面積  の合計の三分の一を超える場合においては、当該建築物の住宅の用途に供する部分の  床面積の合計の三分のー)は、算入しないものとする。」という内容である。

2.この蛙築基準法五二条二項(住宅地下室の容積率不算入措置)の目的については、建築基準法改正法案に関する衆参両院建設委員会の附帯決議(甲第二号証の一及び二)や平成六年六月二九日建設省住街発七三号通達(甲第三号証のー)が「良好な市街地環境を確保しつつ、ゆとりのある住宅の供給を図るための措置」である旨を明記している。

また、「建築基準法の一部を改正する法律」と題する建設省文書(甲第一五号証)(「法律の必要性」について)や建築審議会中間報告(甲第一四号証二六頁)でも、「住宅の地下室については、近年、良好な室内環境を確保する上で必要な除湿、換気等に関する技術が進歩し、従来にも増して快適な空間として利用することが可能となってきており、地下室が本来有する優れた防音性、断熱性などの特徴に着目してより積極的に活用する傾向が見受けられる。また、既成市街地を中心として限られた土地を有効に活用することにより、ゆとりある都市住宅を供給し、もつて居住水準の向上を図ることが求められているところである。」旨述べている。

このように、建築基準法五二条二項(住宅地下室の容積率不算入措置)は、住宅の地下室の活用によってゆとりのある住宅を供給しようとすること、すなわち、一定地域範囲の世帯数・人口数の増加による住環境の悪化がないよう良好な住宅環境を確保しつつ、住宅の地下室利用により一戸の住宅の面積をより広くゆとりのあるものにすることが、その立法目的である。

3.しかし、本件建築物は、共同住宅の地上一階から三階までの各住宅に加えて、「地下一階」にも五戸の住宅を建築し分譲するものであり、容積率制限によつて一定地城範囲の戸数・世帯数・人口数が制限されるはずのところ、本来ありえない戸数・世帯数・人口数を出現させるものである。

このような建築物は、地下室の活用によるゆとりある住宅の供給に資するどころか、良好な住宅環境を悪化させ、建築基準法の容積率制限の目的(「建築物の床面積の上限を規制することにより、建築物と道路、下水道等の公共施設との均衡を保ち、また、建築物の周辺の環境を保つこと」=甲第一三号証二六頁)をないがしろにするものである。

すなわち、本件建築物は建築基準法五二条二項が全く予定しないものであり、本件建築物に建築基準法五二条二項を適用することは同項の目的に真っ向から反し、建築基準法の容積率制限規定を無意味にするから、建築基準法五二条二項の合理的解釈として本件建築物に同項を適用することはできない。

4.なお、共同住宅における建築基準法五二条二項の解釈適用に関しては、次のような 解説や国会答弁がある。

(1)平成六年六月二九日建設省住街発第七四号(建設省住宅局長の各都道府県知事宛 文書=甲第三号証の二)では、住宅地下室の容積率不算入措置の対象となる住宅とは一戸建ての住宅のほか長屋及び共同住宅を含むとしているが、建築基準法五二条二項の「住宅の用途に供する部分」の解釈について、「特に、共同住宅の場合には以下の考え方を参考にされたい。」として、次の内容を記載している。

「(1)共同住宅の住戸の用に供されている専用部分は、住宅として取り扱うこと。しだかつて、各戸専用の物置はこれに該当するものとして取り扱うこと。

(2)共用部分のうち、住戸の利用のために専ら供されている部分は、住宅部分と   して取り扱うこと。したがって、一定の階の専用部分の全てが住宅の用途に供されている場合の当該階の廊下や階段等の部分、冷暖房設備や給排水設備で同一建築物内の住宅のように供するために設けられるものや管理人室など通常共同住宅の一部を楷成する施設部分もこれに該当するものとして取り扱うこと。」この文書によれば、建築基準法五二条二項の「住宅の用途に供する部分」としては、共同住宅の場合は、物置、冷暖房設備や給排水設備、管理人室などが想定されている。すなわち、共同住宅の場合は、地階に各戸専用の物置や建築設備などを設置することによって地上階の各戸がゆとりのある住宅になるようにすることが考えられているのである。

このことは、東京都新宿区建築部建築課指導第二係長内藤勉執筆の「住宅の地下室部分の延べ面積不算入」(甲第一号証のー=「建築知識」1995年10月号80頁)においても、「共同住宅の地階部分で緩和の対象とみなされるのは、同一建築物の住戸の居住の用に専ら供されている部分である(たとえば、トランクルーム、建築設備室、管理人室、廊下、階段など)」と記述されているところである。

(2)建築基準法改正法案の国会審議においても、政府委員(三井康壽建設省住宅局長) は次のように答弁している。

〔衆議院建設委員会審議〕

「今回、容積の三分の一を不算入にさせていただきましたのは、今先生が冒頭御質問でおっしやりましたように、やはり広い住宅を求める国民のニーズというのは非常に    強い。したがって、できる限りこのご要望にこたえるようにいしなければいかぬというのが一番の基本にあるわけでございます。」、「(マンションなんかの場合ですけれども、今度の改正で地下に二階とか三階とか、敷地で広大な地下面積をつくる、こういうことになるんじやないかということを恐れるのですけれども、これはどうなのか…)一般的に、日本人の行動様式としまして、完全に地下の中で世帯がお住みになるというのは考えにくいというふうに考えているわけでございます。現実に地下でお住みになっている方がおいでになるわけでもございませんし、マンションの上で普通の居住生活をされまして、物置ですとか物入れですとか、そういった収納スペースあるいは車庫、そういったことでお使いになるのが一般的でありまして、現在でもそういうのが大勢で、大勢というか、ほとんどそれでございます。したがいまして、仮に今御心配のようなことかあり得るとすればどういうことかということでありますけれども、すべて地下で家族でお住みになるというような場合には空掘をつくっていただくとか、そういった、居室を地下に作っていけないという規定がございますので、それで実際上はそういうものは建つてこないだろう、利用されないだろうと思っているわけでございます。」 (平成六年六月二〇日衆議院建設委員会会議録=甲第八号証)

〔参議院建設委員会審議〕

「いわゆる居室につきましては全くの地下は禁止と、基準法の三十条の規定そのままでございます。しかし、からぼりを設けまして十分な採光がとれれば居室にしてもいいとする取り扱いは今回の改正によっても変わりません。(就寝室じやなくて、基準法上の居室としてはいいんじやないですか。)通常、日常生活にお使いたなるところは居室という概念でございますのでやや不分明なところもございますけれども、寝るところはいずれにしてもだめでございますし、日常使われる書斎とかそういうものを居室というふうに考えておるわけでございます。」、「(今回の容積率の緩和というのは二つの原則があるんじやないかと思うんです。一つは、公共施設、道路だとかそれから下水道だとかそういうものに対する負荷がない。今言われたように、下に寝るわけじやないんですから人数はふえないから下水道の容量にも関係がないし、自動車の台数が増えるわけじゃないから公共施設の容量は変わらないということと、地下だけですから表へ出ていないですから、隣の家に迷惑をかけるとか、見た形は町として同じだから環境に影響かない。この二点でこういうことをクリアされたんじやないかと思うんですけれども、それでよろしいですか。)基本的にそのとおりでございます。」(平成六年六月三日参議院建設委員会会議録=甲第九号証)

このように、共同住宅の場合については、地下は物置など収納スペース等に利用されることを前提としているのであり、地下を一戸の住宅として分譲しそこで人が寝泊まりすることによって人数や自動車台数が増え公共施設に対する負荷が増えたり、周囲の環境に彫響がでることはないということが建築基準法五二条二項の前提になつているのである。したがって、共同住宅の地下を五戸の住宅として分譲する本件建築物に建築基準法五二条二項の容積率不算入措置を適用することは許されない。

6.本件建築確認処分は、「地階」と称する五戸の住宅を容積率に算入しないことによって四層計18戸もの共同住宅を1396.70平方メートルの敷地面積に建築する ことを許容するものである(一戸当たり敷地面積はわずか77.59平方メートル)。

これによって、第一種低層住居専用地域(「低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域」=都市計画法九条一項)である本件土地周辺の住宅地としての環境は確実に悪化する。

建設事務次官の知事宛平成6年6月29日建設省住街発第七三号通達(甲第三号証のー)は、住宅地下室の容禎率不算入措置に関し、「市街地において、敷地の分割が行われる等により敷地の狭小化が進行して市街地環境が悪化することのないよう、既成市街地における狭小な宅地の共同化を推進するための施策の充実に努めるとともに、必要に応じ、都市計画の決定権者が、建築物の敷地面積の最低限度等に関する措置を講ずることができるよう、都市計画担当部局と十分な連絡調整をはかること。」と述べており、現に、平成八年には横浜市でも最低限敷地規模が導入され、容積率80パーセントである本件土地の敷地面積の最低限度は125平方メートルと定められている(本件建築物の一戸当たり敷地面積は前述したようにわずか77.59平方メートル)。

このような点からも、本件建築物に建築基準法五二条二項を適用して本来ありえない戸数の共同住宅の建築を許容する本件建築確認処分は許されるものではない。

7.以上のとおり、本件建築確認処分が建築基準法五二条二項の解釈適用を誤つている ことは明らかであり、本件建築物には建築基準法五二条二項の規定は適用されず、本件建築物は容積率80パーセントを超えるから建築基準法五二条一項に適合しない。

 

二「建築物の高さ」に関する「地盤而」の解釈適用の誤り

l.建築基準法五五条一項は、「第一種低層住居専用地域又は第二種低層住居専用地域  内においては、建築物の高さは、十メートル又は十二メートルのうち当該地域に関す  る都市計画において定められた建築物の高さの限度を超えてはならない。」と定めて  いる。本件建築物所在地における高さの限度は10メートルである。この「建築物の  高さ」の算定方法は、建築基準法施行令二条一項六号が「地盤面からの高さによる」と規定しており、この「地盤面」については同施行令二条二項が定義している。

2.建築基準法施行令二条二項の「地盤面」とは、「建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面をいい、その接する位置の高低差が三メートルをこえる場  合においては、その高低差三メートル以内ごとの平均の高さにおける水平面」をいう。

ここにいう「地盤面」は、同施行令二条二項の規定上、@建築面積(建築基準法施行令二条一項二号)、A建築物の高さ(同施行令二条一項六号)、B軒の高さ(同施行令二条一項七号)に関してのみ適用される。

「周囲の地面と接する位置」とは、原則として当該建築物が実際に周囲の地面と接する位置とすることは当然であり、当該建築物が実際に周囲の地面と接しない位置を「周囲の地面と接する位置」とするのは、特別に合理的な理由がある例外的な場合に限られるべきであることは言うまでもない。

しかし、本件建築確認処分は、本件建築物が実際に接する地表面の位置を「周囲の地面と接する位置」とするのではなく、からぼりの周壁の外側の部分を「周囲の地面と接する位置」とみなして算定した地盤面に基づき、建築物の高さは10メートル以下で建築基準法に適合するとしたものである。このような解釈は、以下に述べるように到底許されるものではない。

3.日本建築主事会議基準総則研究会「高さ・階数の算定方法・同解説」(甲第一号証

の五)では、建築基準法施行令二条二項の「地盤面」における「周囲の地面と接する位置」の設定方法について、「からぼり等がある場合」を次のように定めている。

『建築物本体と一体的な周壁を有するからぼり等がある場合には、当該建築物及び  周壁の外側の部分を「周囲の地面と接する位置」とする。ただし、斜面地等において大規模な擁壁と共に設けられるからぼり等の場合には、建築物が実際に接する地表面の位置を周囲の地面と接する位置」とする

 

解説

ア 確認申請時の現況地盤面よりも掘り込んだからぼりを建築物とー         体的に設けた場合には、建築物及びからぼりの周壁の外側の地面と接する位置を「周囲の地面と接する位置」とする。

イ 斜面地や高低差がある敷地に大規模な擁壁を設けて土地を造成し、からぽりを設けた場合、建築物が実際に接する地表面の位置を周囲の地面と接する位置」とする。』

 

4.本件述築物は、斜面地である敷地を南側公道の低い地盤の水平面まで掘削して東側、 北側、西側に大規模な擁壁を設けたうえ、掘削した地盤面の上に四層の建築物を建築するものである(甲第六号証、乙第二、三号証の図面等)。すなわち本件建築物は、その東西南北の四面全てが最下層階の床面の高さで地面に接するものであり、東側、北側、西側に設けた大規模な擁壁と建築物との間に最下層階の床面までの深さのからぼりを設け、南側は公道に接するのである。

したがって、前記の日本建築主事会議基準総則研究会「高さ・階数の算定方法・同解説」によれば、本件は「斜面地等において大規模な擁壁と共に設けられるからぼり等の場合」に明らかに該当する。本件建築物のように、東側、北側、西側の地盤を全て掘削して南側公道の低い地盤の水平面まで掘り下げてしまうからぼりを、「大規模な擁壁と共に設けられるからぼり」でないとすることは、社会通念に明らかに反する許されない解釈である。上記「解説」が、特に「斜面地や高低差がある敷地」を明示して「大規模な擁壁と共に設けられるからぼり」について規定したのは、まさに本件建築物のようなケースを想定している。

このように、本件は、「斜面地等において大規模な擁壁と共に設けられるからぼり等の場合」に明らかに該当するから、「周囲の地面と接する位置』は、からぼりの周壁の外側の地面と接する位置ではなく、建築物が実際に接する地表面の位置となる。

すなわち、本件建築物の最下層階の床面の高さが、建築基準法施行令二条二項の規定する「地盤面」となる。                        ゛

5.また、平成八年版横浜市建築基準法取扱基準集(甲第四号証)は、「高さ・階数の算定方法の基準」の「からぼり等がある場合について」(甲第四号証105頁)で、前記の日本建築主事会議基準総則研究会「高さ・階数の算定方法・同解説」と同趣旨の基準を次のように記載している。

『建築物本体と一体的な周壁を有するからぼり等がある場合には、建築物本体及び  周壁の外側の部分を「周囲の地面と接する位置」とします。ただし、傾斜地等において建築物本体と一体的で大規模な周壁を有するからぼり等の場合には、建築物本体が実際に接する地表面の位置を周囲の地面と接する位置」とします。』

なお、上記記述に関するへ解説)には次のような記載がある。『傾斜地等(高低のある敷地で、建築物が接する位置の高低の差が三メートルを超える建築物の敷地)において、建築物本体と構造上連続する周壁を有するからぼりを設ける場合は、次によるものとします。

奥行き(内々の有効幅)が二メートルを超える部分を有するからぼりは、からぼりの高さにかかわらず、「大規模な周壁を有するからぼり等」とします。この場合、建築物本体が接する外側の地面(からぼりの部分にあってはからぼりの底盤の上端)において周囲の地面と接するものとします。

高さが五メートルを超える部分を有するからぼりにあっては、からぽりの奥行き(内々の有効幅)にかかわらず「大規模な周壁を有するからぼり等」とします。この場合、建築物本体が接する外側の地面(からぼりの部分にあってはからぽりの底盤の上端)において周囲の地面と接するものとします。

なお、高さが五メートル以下で、かつ、奥行き(内々の有効幅)が二メートル以下の場合にあつては「大規模な周壁を有するからぼり等」に該当しないものとします。この場合は、からぼりの周壁が接する外側の地面が建築物本体の外側にあるものとみなし、みなした地面において周囲の地面と接するものとします。』

右の解説部分の記載は、からぼりの奥行きの数値や高さの数値のみで「大規模な周壁を有するからぼり等」か否かを決める旨を述べているが、からぼりがある場合の「周囲の地面に接する位置」の決定は、建築物の大きさやからぼり全体の構造や形状を考慮して判断すべき事柄であり、単に数値のみで形式的に判断すべきではない。

6.前述のように、本件建築物は、斜面地である敷地を南側公道の低い地盤の水平面ま で掘削して東側、北側、西側に大規模な擁壁を設けたうえ、掘削した地盤面の上に四層の大規模共同住宅を建築するものである。

斜面地にこのような大規模共同住宅を建築するために、低い南側の公道に地盤面を合わせるまで大規模に土地掘削工事を行ってその周囲三方向に大規模な周壁を設けるからぼりが、「大規模な周壁を有するからぼり」に該当することは明らかである。

乙第四号証の図面には「ドライエリアはいずれも奥行き二メートル以下、高さ五メートル以下の為、ドライエリアの周壁が接する外側の地面が建築物本体の外側にあるものとみなし、みなした地面において周囲の地面と接するものとする。」との記載があるが、このような形式上の数値のみで「大規模な周壁を有するからほう」に該当しないから「周壁が接する外側の地面が建築物本体の外側にあるものとみなし、みなした地面において周囲の地面と接するものとする」と解釈するのは明白な誤りであり、「大規模な周壁を有するからぼり」の解釈として社会常識に反する。

本件については、平成8年版横浜市建築基準法取扱基準集の「傾斜地等において建築物本体と一体的で大規模な周壁を有するからぼり等の場合には、建築物本体が実際に接する地表面の位置を 周囲の地面と接する位置』とします。」がまさに適用される事案なのである。

7.なお、本件建築確認処分は、次に述べるように極めて異常な経緯で出されている。  すなわち、被告横浜市建築主事は、当初、本件建築物について平成9年5月21日第HO九認建浜青○○○二七九号で建築確認処分を行つた。これに対し、原告らは横浜市建築審査会に審査請求を行い、審査の中で、本件建築物には奥行きが二メートルを超えるからぼりがあることを指摘した(甲第七号証の二〔当初の建築確認申請のB1階平面図〕の北側のドライエリア部分及び甲第七号証の四〔当初の建築確認申請の断面図〕の「横断面図」のドライエリア部分を見れば、奥行きが3メートル20センチメートルとなっている)。すると、被告横浜市建築主事は、本件建築主に対し建築確認申請をやり直すように指導し、平成9年8月8日、本件建築主は本件工事の全部を取り止める届を提出するとともに新たな建築確認申請を行った。そして、被告横浜市建築主事は同日付で当初の建築確認処分(平成9年5月21日第HO九認建浜青○○○二七九号)を取り消したうえ、そのわずか一週間後の8月15日に新たな建築確認申請に対する本件建築確認処分(平成9年8月15日第HO九認建浜青OOO七〇八号)を行ったのである。(以上、甲第】七号証参照)

この、新たな建築確認申請は、当初の建築確認申請と内容は同じであり、変更は些末なものにすぎない。すなわち、新たな建築確認申請では「地下一階」のドライエリアに「バルコニー」を設置することにしただけである。これは、乙第二号証(新たな建築確認申請の断面図)の「横断面図」のドライエリア部分を、甲第七号証の四(当初の建築確認申請の断面図)の「横断面図」のドライエリア部分と対比でて見ればわかる。そして、被告横浜市建築主事は、ドライエリアはいずれも奥行き二メートル以下であるから「大規模な周壁を有するからぼり」に該当せず「周壁が接する外側の地面が建築物本体の外側にあるものとみなし、みなした地面において周囲の地面と接するものとする」として地盤面を算定する扱いを正当化したのである。

しかし、新たな建築確認申請の建築物は当初の建築確認申請の建築物と全く同一性を有し、「設計変更」の内実は、何もなかったからぼりの空間にバルコニーの手摺り一つを取り付けただけのものにすぎない。このように、建築物本体やからぽりの形状が変わらないのにバルコニーの手摺りを付けただけで、からぼりが「大規模な周壁を有するからぼり」に該当せず地盤面も異なると強弁することは社会常識に反し、法令の合理的解釈としてとうてい認められるものではない。

前述したように、本件においては、建築物本体が接する地表面の位置が「周囲の地

面と接する位置」となるである。

8.以上の通り、本件建築物の高さに関する建築基準法施行令二条二項の地盤面は「建築物本体が実際に接する地表面の位置」によって算定され、地盤面はほば本件建築物  の最下層の床面の高さとなる(甲第11号証の算定図参照)。本件建築確認処分は、建築基準法施行令二条二項の「地盤面」に関する解釈適用を誤つているから、必然的に建築基準法施行令二条『項六号の「建築物の高さ」の解釈適用も誤っている。

本件建築物の「高さ」は「地階」と称する階の床面付近の地盤面(甲第11号証の算定図=FH10.495)から算定することになるから、建築基準法上本件建築物の高さが10メートルを超えることは明らかであり、したがって本件建築物は建築基準法五五条に適合しない。

 

三、建築基準法五二条二項の「地階」の判定における「床が地盤面下にある階」の解釈適用の誤り

1.建築基準法五二条二項(住宅地下室の容積率不算入措置)は、「建築物の延べ面積  には、建築物の地階でその天井が地盤面からの高さ1メートル以下にあるものの住宅の用途に供する部分の床面積(当該床面積が当該建築物の住宅の用途に誤する部分の床面積の合計の三分の一を超える場合においては、当該建築物の住宅の用途に供する部分の床面積の合計の三分のー)は、算入しないものとする。」と規定しているが、そこでいう「地階」は、建築基準法施行令1条2号が定義している。

2.「地階」とは、「床が地盤面下にある階で、床面から地盤面までの高さがその階の天井の高さの三分の一以上のものをいう」(建築基準法施行令一条二号)。

そして、この規定のいう「床が地盤面下にある階」とは、当該階の床面の周長のうち地中にある部分がその二分の一を超える場合が該当するという解釈が、神奈川県下の行政庁ではとられている(甲第一号証の四参照)。

たとえば、甲第四号証「平成8年版横浜市建築基準法取扱基準集」(四七頁)では、「床が地盤面下にある階」について「建築物の当該階の部分における床が地盤面下にある階とします。ただし、建築物が周囲の地面と接する位置に高低差がある階にあっては、建築物の当該階の部分が周囲の地面と接する位置における周長の過半が床より高い位置に地面がある階とします。」と記載している。

3.しかし、本件建築物の「地下一階」と称する階は「床が地盤面下にある階」に該当せず、「地階」ではないから、建築基準法五二条二項(住宅地下室の容積率不算入措置)はそもそも適用できない。

すなわち、本件建築物は、現況では北から南へ低く傾斜している敷地のうち建築部分とその周辺部分の現況地盤を南側公道の地盤の水平面まで掘削したうえ、その地盤面の上に四層の建築物を建築するものである。「地下一階」と称する階の周囲は全て掘削するから、「地下一階」の床面より上の部分は掘削した後の周囲の地面には接することはなく、「地下一階」と称する階が周囲の地面と接する位置は当該階の床面の高さである(甲第六号証)。したがって、「地下一階」と称する階の周長のうち地中にある部分がそもそも存在しないのであるから、「地下一階」と称する階は「地階」たりえない。

しかるに、本件建築確認処分は、本件建築物の「地下一階」と称する階の床面から上の部分が実際には「周囲の地面」に接していないにもかかわらず、これを「周囲の地面」に接するとみなして当該階の周長を計算して「地階」とした建築確認申請(乙第五号証〔地階の算定〕)を誤って許容したものである。

5.建築物に接していない地面について建築物に接するとみなす法令の解釈は、合理的理由があって特別にこれを正当化できる場合以外は許されない。

前述のように、建築基準法施行令二条二項の「地盤面」の解釈につき、日本建築主事会議基準総則研究会「高さ・階数の算定方法・同解説」(甲第一号証の五)及び「横浜市建築基準法取扱基準集」(甲第四号証)は、「からぼり等がある場合」に一定の条件の下に「当該建築物及び周壁の外側の部分を『周囲の地面と接する位置』とする」こともある旨を述べているが、建築基準法施行令二条二項は「前項第二号、第六号又は第七号の『地盤面』とは、建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面をいい、その接する位置の高低差が三メートルをこえる場合においては、その高低差三メートル以内ごとの平均の高さにおける水平面をいう。」と定めており、「地階」の定義を定める建築基準法施行令}条二号における「地盤面」には適用されないことになつている。

したがって、日本建築主事会議基準総則研究会「高さ・階数の算定方法・同解説」(甲第】号証の五)及び「横浜市建築基準法取扱基準集」(甲第四号証)における「からぼり等がある場合」の地盤面算定の取り扱いは、あくまでも建築基準法施行令二条二項の「地盤面」(@建築面積〔施行令二条一項二号〕、A建築物の高さ〔施行令ニ条一項六号〕、B軒の高さ〔施行令二条一項七号〕)に関するものであり、建築基準法施行令一条二号の「地階」の判定における「地盤面」には適用されない。すなわち、からぼり等があることによつて、本件建築物の周壁の外側の部分を「周囲の地面と接する位置」とみなすことは許されない。

6.なお、仮に、日本建築主事会議基準総則研究会「高さ・階数の算定方法・同解説」(甲第一号証の五)及び「横浜市建築基準法取扱基準集」(甲第四号証)における「からぼり等がある場合」の地盤面算定の取り扱いを建築基準法施行令一条二号の「地階」 の判定における「地盤面」に適用したとしても、本件では当該建築物本体が現実に地面と接する位置が「周囲の地面と接する位置」となることは、前記二の3乃至7で詳説したとおりである。

7.当該建築物本体が現実に地面と接する位置を「周囲の地面と接する位置」として、地階判定の地盤面を算定したのが甲第12号証であり、本件建築物の「地下一階」と称する階が「地階」でないことは明らかである。

繰り返し述べるが、本件では「地下一階」と称する階の周囲は全て掘削してしまい、「地下一階」の床而より上の部分は周囲の地面には全く接しないのであるから、これを周囲の地面に接するとみなすことは許されない。特に、本件における「地階」の解釈は住宅地下室の容積率不算入措置(建築基準法五二条二項)の適用に関係するものであるところ、本件において周囲の地面には全く接しない「地下一階」の床面より上の部分を周囲の地面に接するとみなすことは、前記一で述べた住宅地下室の容積率不算入措置の目的にも反するから、とうてい許されるものではない。

本件建築物の「地下一階」と称する階は建築基準法施行令一条二号の「地階」には該当せず建築基準法五二条二項(住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置)は適用されないから、本件建築物は容積率80パーセントを超え、建築基準法五二条一項に適合しない。

 

四、以上のとおり、本件建築確認処分は、建築基準法五二条二項(住宅地下室の容積率不算入措置)の解釈適用を誤り、「建築物の高さ」(建築基準法施行令二条一項六号)に 関する「地盤面」(同施行令二条二項)の解釈適用を誤り、さらに「地階」の判定に関する「床が地盤面下にある階」(建築基準棹施行令一条二号)の解釈適用を誤っており、 違法な建築確認処分であることは明らかである。

以上