訴     状

神奈川県横浜市青葉区美しが丘5丁目****

    原   告    ********

計7名

東京都新宿区四谷1丁目2番地 伊藤ビル

      東京法律事務所

原告代理人

弁護士井上幸夫

同  穂積 剛

神奈川県横浜市青葉区市ヶ尾町31番地4

    被   告   横浜市建築主事 梅本龍一

神奈川県横浜市中区港町1丁目1番地

    被   告   横浜市

右代表者市長  高 秀 秀 信

建築確認処分取消等請求事件

訴訟物の価額 金165万円

貼用印紙額  金1万3500円

 

 請 求 の 趣 旨

一 被告横浜市建築主事梅本龍一が平成九年八月一五日付第HO九認建浜青○○○七〇八号をもつて藤和不動産株式会社及びエフ・ティー都市開発株式会社に対してなした建築確認処分を取り消す。

二 被告横浜市は、原告らに対し、各金10万円を支払え。

三 訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び第二項につき仮執行宣言を求める。

 請 求 の 原 因

一 本件珪築確認処分

1 藤和不動産株式会社及びエフ・ティー都市開発株式会社は、平成九年八月八日、被告横浜市建築主事梅本龍一に建築確認申請書を提出した。

  右建築確認申請書の概要は次のとおりである。

「@敷地地名地番 横浜市青葉区美しが丘五丁目二二番地九、A用途地域 第一種低層住居専用地城、B建ぺい率・容禎率 50%・80%、C用途 共同住宅(18戸)、D規摸 敷地面積 1396.70、建築面積 537.16、延べ一面積 1608.65u、*容積率対象面積 1094.64(除外部分面積 514.01、地階404.07 共用廊下等 88.34 車庫等 21.60)、E申請建築物建ぺい率・容積率 建ぺい率38.45% 容積率78.37%、F構造 鉄筋コンクリート造、G階数 地上3階地下1階、H建築物の高さ 9.49m」(以下、この建築物を「本件建築物」という)

2 被告横浜市建築主事梅本龍一は、右建築確認申請について、平成九年八月一五日付第HO九認建浜青○○○七〇八号をもって建築確認処分(以下「本件建築確認処分」という)を行った。

二 本件土地及び周辺の状況

l 本件建築確認処分の対象建築物の敷地(以下「本件土地」という)周辺は、東急田園都市線たまプラーザ駅とあざみの駅間の西側に位置する住宅街であり、用途地域は第一種低層住居専用地域、容積率80パーセント、建ぺい率50パーセント、高さ制限は10メートルとされている。

2 本件土地は、幅員6.5メートルの北側公道と幅員4.5メートルの南側公道に面し、北側から南側に向けて地盤が下がる傾斜地である。北側公道の向かいの建物はすべて一戸建て住宅であり、南側公道の向かいの建物もアパートー棟を除き一戸建て住宅である。本件土地か含まれる一区画(美しが丘五丁目二二番地)内に建築されている建物も、アパートを除き一戸建て住宅である。

3 本件土地周辺は、アパートを除きほとんどが一戸建て住宅の低層住宅地であり、良好な往居環境が維持されている。近隣に対して圧迫感を与える建物やプライバシー侵害を心配しなければならないような建物は存在していない。なお、本件土地の北側公道から南側方向に向かっての眺望は非常によい。

三 本件建築確認処分の違法(そのー)

1 本件建築確認処分は建築基準法五二条二項(往宅の地階に係る容積率制限の不算入措置)の解釈適用を誤つた違法がある。後記のように本件建築物には建築基準法五二条二項(住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置)は適用されず、本件建築物は建築基準法五二条一項(容積率制限)に違反している。

2 建築基準法五二条二項(住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置)は、「良好な市街地環境を確保しつつ、ゆとりのある住宅の供給を図るための措置」(衆参両院建設委員会の附帯決議、平成六年六月二九日建設省住街発七三号等)であり、住宅の地下室の活用によりゆとりのある住宅の供給の要請に応えようとするものである。すなわち、戸建住宅にせよ共同住宅にせよ、一戸の住宅の一部の居室等を地下室として活用することにより、良好な市街地環境を確保しつつゆとりのある住宅の供給を図るというのが、建築基準法五二条二項の目的である。

3 しかし、本件建築物は、共同住宅の一戸の住宅全部を「地階」として分譲するものであり、このような建築物は、地下室の活用によるゆとりのある往宅の供給に資するどころか、逆に、良好な市街地環境を害するものである。すなわち、本件建築物は、建築基準法五二条二項が予定しないものであるどころか、その目的に反するものである。

  建築基準法五二条二項は、共同住宅の一戸の住宅全部を「地階」とすることによって良好な市街地環境を害することを許すものではないから、本件建築物について建築基準法五二条二項は適用されない。とくに、本件建築物は、「低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域」(都市計画法九条一項)である第一種低層住居専用地域に建築されるものであるのに、地下室の活用によるゆとりのある低層住宅を建築するどころか、共同住宅の二戸の住宅全部を「地階」とすることによって1396.70uの敷地面積に四層計一八戸もの共同住宅を建築しようとするものである。これによって、「低層住宅に係る良好な住居の環境」は害される。建築基準法五二条二項は、共同住宅の一戸の住宅全部を「地階」とすることによって「低層住宅に係る良好な住居の環境」を害することを許すものではないから、本件建築物について建築基準法五二条二項は適用されない。

4 以上のとおり、本件建築物については建築基準法五二条二項(住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置)は適用されないから、本件建築物は、容積率80%を超え、建築基準法五二条一項(容積率制限)に違反する。

  したがって、本件建築確認処分は取消を免れない。

四 本件建築確認処分の違法(その二)

1 本件建築確認処分には、建物の高さの判定に関する「地盤面」の解釈適用を誤った違法がある。本件建築物は、建築基準法五五条一項(高さ制限)に違反する。

2 建築物の高さに関する「地盤面」とは「建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面をいい、その接する位置の高低差が三メートルをこえる場合においては、その高低差三メートル以内ごとの平均の高さにおける水平面をいう」(建築基準法施行令二条二項)

3 本件建築物は、現況では北から南へ低く傾斜している敷地のうち建築部分とその周辺部分の現況地盤を南側公道の地盤の水平面まで掘削したうえ、その地盤面の上に「地下一階」と称する階を含む四層の建築物を建築するものである。「地下一階」と称する階の周囲はすべて掘削するから、「地下一階」の床面より上の部分は掘削した後の周囲の地面には接しない。本件建築物が周囲の地面と接する位置は「地下一階」と称する階の床面の高さである。

4 しかるに、本件建築確認処分は、本件建築物の「地下一階」と称する階の床面から上の部分は実際には「周囲の地面」に接していないにもかかわらず、これを「周囲の地面」に接するとみなして本件建築物の「地盤面」を設定し、本件建築物の高さを算定した。

5 これは、建築物の高さに関する「地盤面」の解釈適用を誤るものであり、本件建築物の高さに関する「地盤面」は「地下一階」と称する階の床面の高さの水平面であるから、本件建築物は高さが10メートルを超え、建築基準法五五条一項(高さ制限)に違反する。

  したがって、本件建築確認処分は取消を免れない。

五 本件建築確認処分の違法(その三)

1 本件建築確認処分は、地階の判定に関する「地盤面」の解釈適用、したがって「地階」の解釈適用を誤った違法がある。本件建築物の「地下一階」と称する階は「地階」には該当しないから本件建築物には建築基準法五二条二項(住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置)は適用されず、本件建築物は、建築基準法五二条一項(容積率制限)に違反する。

2 「地階」とは「床が地盤面下にある階で、床面から地盤面までの高さがその階の天井の高さの三分の一以上のものをいう」(建築基準法施行令一条二号)

3 右の「地階」の判定における「地盤面」については、前記の建築物の高さに関する建築基準法施行令二条二項の「地盤面」の定義(「建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面をいい、その接する位置の高低差が三メートルをこえる場合においては、その高低差三メートル以内ごとの平均の高さにおける水平面をいう」)は適用されない。しかし、「建築物が周囲の地面と接する位置」に基づいて「地階」の判定における「地盤面」を設定すべきことは明らかである。

4 本件建築物は、現況では北から南へ低く傾斜している敷地のうち建築部分とその周辺部分の現況地盤を南側公道の地盤の水平面まで掘削したうえ、その地盤面の上に「地下一階」と称する階を含む四層の建築物を建築するものである。「地下一階」と称する階の周囲はすべて掘削するから、「地下一階」の床面より上の部分は掘削した後の周囲の地面には接しない。本件建築物が周囲の地面と接する位置は「地下一階」と称する階の床面の高さである。

5 しかるに、本件建築確認処分は、本件建築物の「地下一階」と称する階の床面から上の部分は実際には「周囲の地面」に接していないにもかかわらず、これを「周囲の地面」に接するとみなして「地階」の判定に関する「地盤面」を設定し、本件建築物の「地下一階」と称する階を「地階」と判定した。

6 しかし、建築物に全く接していない地面について建築物と接するとみなしてしまう法令の解釈は例外的にこれを正当化できる事由が存在しない限り許されるものではない。本件では「地下一階」と称する階の周囲はすべて掘削して「地下一階」の床面より上の部分は掘削した後の周囲の地面には全く接しないのであるから、周囲の地面に接すると解釈することはとうてい許されない。とくに、本件における「地盤面」及び「地階」の解釈は、建築基準法五二条二項(住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置)の適用の有無に関係するものであるところ、本件において周囲の地面には全く接しない「地下一階」の床面より上の部分を周囲の地面に接するとみなすことは、前記の住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置の目的に反するから、とうてい許されるものではない。

7 本件建築確認処分は、地階の判定に関する「地盤面」の解釈適用を誤り、したがって「地階」(建築基準法施行令一条二号)の解釈適用を誤ったものである。本件において地階の判定に関する「地盤面」は「地下一階」と称する階の床面の高さの水平面であるから「地下一階」と称する階は「地階」には該当せず、したがって本件建築物には建築基準法五二条二項(住宅の地階に係る容積率制限の不算入措置)は適用されない。このため、本件建築物は、容積率80%を超え、建築基準法五二条一項(容積率制限)に違反する。

  したがって、本件建築確認処分は取消を免れない。

六 本件建築確認処分に対する審査請求

  原告らは、本件建築確認処分によつて法的権利ないし利益が侵害される者として横浜市建築審査会に本件建築確認処分の取消を求める審査請求を行ったが、同審査会は、本件建築物は建築基準法の規定に適合しているので本件審査請求を棄却する旨の平成10年1月21日付裁決を行い、原告らは右裁決を平成10年1月26日に知った。

七 違法な本件建築確認処分と原告の損害

1 原告らは、本件土地周辺に一戸建て住宅を所有、居住する者であり、一戸建て住宅が立ち並ぶ閑静な住宅街の環境を享受してきた。被告横浜市建築主事梅本龍一が違法な本件建築確認処分を行ったことにより、そのような住宅街の一区画の中心部に違法な大規模四階建マンションが建築されることによつて、第一種低層住居専用地域における原告らの良好な住居環境は破壊され、原告らは次のような重大な被害を被る。

@ 違法な本件建築物か建築されると、低層住居か立ち並ぶ中に大規模四階建マンションが出現し、原告らは重大な圧迫感を受ける。中高層の建築物がなく圧迫感のない良好な住居環境は一挙に破壊され、原告らが受ける不利益には甚大なものがある。

A 違法な本件建築物が建築されると、原告らの多くはマンションから見下ろされることになり、原告らのプライバシーが侵害されることになる。低層住宅が立ち並ぶ中で、上から見下ろされてプライバシーが侵害されることがなかった原告らにとって、この不利益も甚大である。

B 本件土地が面する道路は学童の通学路にもなっているが、計十八戸ものマンションが建築されると、車の通行量も格段に増加し、路上駐車も増えるなど、原告ら住民にとって大変危険な状況になる。

C 違法な本件建築物が建築されることによって、原告らが所有する建物の一部は日影被害を受け、その居住に重大な支障を受ける。

D 違法な本件建築物が建築されると、原告らのうち本件土地の北側に居住する者は南側への眺望が著しく害される。本件土地の北側公道の向かいの建物から南側方向に向かっての眺望は非常によい。従来建物が建築されていなかった本件土地に低層住宅か建築されたとしても南側方向の眺望はよいが、本件建築物が建築されることによつて、南側の眺望は失われてしまうという不利益を受ける。

E 原告らが所有する土地建物の資産価値の重要な要素は、第一種低層住居専用地域でほとんど一戸建て住宅が立ち並ぶ閑静な住宅街にその土地建物があることである。しかし、その直近に違法な大規模四階建マンションが建築され、住居環境が害され、右のような不利益も受けることになると、原告らが所有する土地建物の資産価値も低下し、原告らはその点でも多大な損害を被る。

2 原告らは、被告横浜市建築主事梅本龍一が違法な本件建築確認処分を行ったことにより、審査請求及び本訴提起を余儀なくされ、その弁護士費用は原告一人当たり金10万円を下らない。

3 被告横浜市は、国家賠償法一条二項に基づき、原告らの損害を賠償する責任がある。

八 よつて、原告らは、本件建築確認処分の取消及び損害賠償の支払を求めて、本訴請求に及んだ

平成10年4月20日

原告ら訴訟代理人

弁 護 士

井上幸夫

穂積 剛

横浜地方裁判所 御中