菊丸はいきなり拉致られた。
練習に行こうとしているところを、後からいきなり抱え上げられ、気付いたら車の中。
「……なに考えてんの?」
「うるさい」
「これって誘拐じゃん。犯罪だよ〜?」
「いいんだ」
この年でお抱え運転手付きのマイカーというのもすごいが、それを納得させられてしまう人柄というのもまたすごいと思う。
前もって指示してあったのだろう。車は乗り込んだ次の瞬間から走り出している。
「っと、ワガママだよなー。跡べーは」
「…………」
最早無言である。
「まったくもー」
それでも本気で嫌がってるようには見えないのが若干の救いで。今は車内を物珍しそうにキョロキョロしている。
「いっくら誕生日だからって、好き勝手すんなよなー」
「……知ってたのか」
「なんだよ〜。俺が知ってたら悪いっての?」
「いや……」
悪くない。
それどころか……。
「おい。お前の家はどこだ」
「……はぁ?」
「お前の家を教えろ。送ってやる」
これだけで満足してしまう自分に苦笑するしかないが、他校で、しかもほとんど話もしたことがない菊丸が自分の誕生日を知っていただけで、もういいと思った。
「なにそれー」
「うるさい。気がすんだ」
「……跡べー、超ワガママ。ワッケわかんない」
菊丸の家の前に車を止めると、跡部はわざわざ降りて菊丸を降ろした。
なんだかんだ言っても、紳士としての教育はされてる男なのだ。
「……なあ、跡べー」
「ん? なんだ?」
「あのさ、この後ヒマ?」
「……別に予定はねぇぜ」



誕生日プレゼントなんて用意してないから、代わりに食事を食べていって欲しいと言われ、内心の動揺と喜びをひた隠して「美味けりゃな」と言った。
菊丸はしばらく考えこんだ後、味は悪くないはずと言った。
菊丸の料理の腕がそこそこなことは知っていたから、はなっから心配はしていなかったものの……。
「な、美味い?」
まさかこんな食事が待っているとは思わなかった。
「味は……な」
跡部は眉間に皺を寄せながらフォークで肉を突付いている。
視線が痛い。
「俺んちは誕生日にはいっつも一番好きなもん作ってもらえんだよん」
「……そうかよ」
重ねて言うが、真実味は悪くないのである。
ただ、跡部を見つめてくる視線……正確に言うと、跡部の『肉』を凝視する視線と、多量のヨダレが気になりすぎるだけなのだ。
「でもさー、跡部の一番好きってヤツ、俺作ったことないし、そんなんの作り方載ってる本なんて家にあるわけないじゃん?」
「…………」
警戒しつつ無言で食事を続ける跡部。
「したら、中途半端なもん作るくらいだったらネタに走るしかないじゃん!」
走らなくていい。
跡部は強く思った。
誓ってもいい。これが菊丸以外だったら、跡部は即座に侮蔑の視線を投げることもなく席を立っただろう。
跡部は思ってもみないところで、菊丸への思いの深さを自覚することになっていた。
よもやこんな方法で自覚するとも、したいとも思わなかったが。
デザートまで、全部残さず食べた。
「……ご馳走さん」
「……へへ、お粗末さまでした」
ホント言うとね、と菊丸が笑った。
「跡部、絶対怒って帰っちゃうと思ったから、食べてくれると思わなかったんだよね」
「お前……」
「だから食べてくれて嬉しかったよん♪ あんがとね」
反則だ。
こんなことを言われたら、何があろうと怒ることなんてできない。
「来年までには練習しとくからカンベン。な?」
「……来年は余計なネタに走んじゃねぇぞ」
「にゃはは、わかってるって」
思いがけない誕生日。
思いがけないプレゼント。
そして思いがけない菊丸の言葉。
金輪際食べることなどないだろうローストビーフ・ヨークシャープディング添えはともかくとして、菊丸の『来年』の言葉が一番のプレゼントだと思った。
それだけで、諸々の全てをひっくるめても、今日は最良の日だと思った。
いや、そう思わせてくれと願った。


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ぎゃー! 跡部ごめん!
私、跡菊はギャグしか書けない体質なのかもしれない!
ちなみに菊丸が作ったメニューは……
「ロースト
(焼いた)ビーフ(牛肉のサラダ仕立)・ヨークシャー(テリアとカスタード)プディング添え」でした。
……くだらねぇ!