| 駅前のファッションビル。 ビルというには、ちょっと無理があるような気もするけど、まあ色んな小さい店が入ってるんだからファッションビルってことにする。 その一階のファーストフードで待ち合わせ。 絶対絶対絶〜っ対、この日だけは一緒にすごしたくて、一ヶ月も前から約束を取り付けたんだ。 菊丸君は知らないだろうな〜。 今日は俺の誕生日。 やっぱ好きな人とすごしたいでしょ。 なんだか妙に気になってしょうがなくて、ちょこちょこ接触してるうちに、気がついたら頭から足の先までまでしっかりハマっちゃって。 どこもかしこもペッタンコなのに、抱きしめたくて触りたくて……独り占めしたくなって気がついた。 楽しく気楽にがモットーの俺が、毎日毎日メールに電話、時間を作っては会いに行ってるなんて、俺を知ってる奴らなら信じられないって言うだろうなってくらいマメにモーションかけてる。 あ、言っておくけど、好きだって気付いた時に呼び出して告ったんだよ。 結果は惨敗。 っていうか、熱測られちゃった……どういう意味だろうね。 もちろんそんなことで諦めないけど。 俺だって知らなかった俺の本気はそうそう簡単には諦めてくれないみたいだからね。 そんなわけで俺はファーストフードで一人ポテトをつまんでる。 雨で練習つぶれたからかな〜り早く着いちゃったんだよね。 あ〜あ、青学はこんな日でも練習してんのかなぁ。 「あ〜、キヨ君、こんなとこにいた〜」 ハイトーンの声が聞こえた。 いくら菊丸君がハイトーンとは言え、これはちょっと高すぎるよね、あ、でもキヨ君ていいな〜。呼んでくれないかな〜、なんて考えてたら目の前にスカートがひらり。 「キヨ君、学校終わったらす〜ぐ帰っちゃったでしょ〜。ミキずっと探してたんだよ」 同じ学校の子だ。 何度か一緒に遊んだことがあったかな。 言っとくけど、カラオケとかゲーセンレベルの遊びだからね? 「ごめんごめん。トモダチとちょっと約束しててさ」 俺が悪いわけじゃないけど、両手を合わせて謝っておく。 「とか言って彼女? やっぱ誕生日だもんね〜」 「残念ながらマジオトモダチだよ」 俺としては早くオトモダチから格上げして欲しいんだけどね。 「ほら、ミキ」 彼女は連れの女の子の腕を引いた。 あー、そうそう。この子がミキちゃん。いっつもちょっと大人しめで目立たないんだよね。 「あ、あのね……その……か、家庭科で課題で作ったから、ちょうどキヨ君誕生日だし、だから……」 真っ赤な顔で取り出した紙袋。 「開けていい?」 って中を見たら手編みのマフラー。 オレンジ系のすごく凝ったやつ。 どう考えても家庭科じゃやんないよねって感じの。 やっぱ女の子って可愛いよなぁ。 「あっりがと〜。編み物上手なんだね」 にっこり笑って、店内は暖かいけど巻いてみる。 「似合う?」 「すっごい似合う。最高!」 すかさずアヤカちゃん(話しかけてきた方ね)が合いの手を入れる。 「あ、じゃあさ、私はなんか奢ってあげるよ。キヨ君なにがいい?」 「あ、でも俺待ち合わせだしなぁ」 「いいじゃん。相手来るまで。彼女じゃないんならヘーキでしょ?」 笑いながらも探るような目をしてる。 あー、疑われてるなぁ。 まいっか。俺も菊丸君来るまでヒマだし。 可愛い女の子が相手してくれるんならラッキーってとこかな。 「んじゃグラコロセット、奢ってもらっちゃおっかな〜」 「うわ、遠慮な〜い! なんてね。じゃ、ちょっと待っててね」 アヤカちゃんとミキちゃんを座らせて、ミキちゃんの分も欲しいもの聞いてカウンターに向かっていった。 あー、これが女の友情ってヤツなわけね。 ミキちゃんは大人しめって印象通りで、なかなか会話が続かない。 はっきり言っちゃうと、俺はアヤカちゃんの方が付き合いやすいかな。 でも俺は頑張っちゃったよ。なにしろ手編みマフラーなんてもらったしね。 やがてアヤカちゃんも戻ってきて、三人でハンバーガーを食べた。 話の主導権はアヤカちゃん。 これでもかってミキちゃんのいいところを聞かされた気がする。 可愛い女の子とそれなりの会話。 楽しいはずの時間なのに、俺には妙に長く感じられて。俺は菊丸君が早く来ないかなって10分置きくらいに考えてた。 「ちょっとごめんね〜」 いきなりそんな声が振ってきて、それは紛れもなく俺が心待ちにしてた声。 「菊丸君」 うわ、俺、声が弾んじゃってるよ。 でも菊丸君はそんな俺のことなんか全然見ないで女の子ににっこり挨拶なんかしてる。 「あ、菊丸君、ここ座る?」 慌てて荷物と自分移動させて場所作ってみたけど、菊丸君はいいよと笑った。 「これ置きにきただけだから」 移動させた俺の荷物の上にぽんと紙袋を置く。 でもその袋を見て何か考えてるなって思ったら、なんだか変な顔をしてもう一度その袋を手にとった。 「やっぱ大盤振る舞いすぎるから、これなし」 そして代わりにこれ、と置き直されたのは、カバンから取り出した……雑誌の切り抜き? よく見たら、占いのコーナーだけを切り取ったもので、俺の星座が一番ラッキーってやつだった。 ……なんで? 首を傾げる俺だったが、次の瞬間それどころじゃなくなった。 「じゃ、俺帰るから。……がんばって」 パチンと見事なウィンクは女の子に向けて。 「え? なんで……?」 今日は俺と一緒にいるために来たんだよね? いや、菊丸君はそのつもりじゃなくても、俺はそのつもりで呼び出したのに。 菊丸君はきょとんとした顔をして、次に苦笑した。 「バッカだな〜。せっかくの誕生日なんだから女の子が祝ってくれた方がいいっしょ?」 ほんじゃねって菊丸君は店を出て行った。 俺の誕生日……知っててくれたんだ。 じゃあ、前ちょっとだけ『けっこう占いとか気にするんだよね』って話したことあるの覚えてたんだ。 なんてことを考えていたのもつかの間、俺はアヤカちゃんが腕を揺さぶるので我にかえった。 「キヨ君! 今の誰? 友達だよねっ! 超カッコ可愛い!」 アヤカちゃん、目の色変わってるよ……。 どうりで大人しいと思った。 っていうか、それどころじゃないし! 「ごめん、また明日!」 俺は慌てて荷物を掴むと、あっけにとられてる二人を置いて菊丸君の後を追った。 菊丸君の家の方角を考えてダッシュで走る。 幸い雨はどうにか止んで、まだ降ってるのかもしれないけど傘はささなくてもどうにかなりそうなくらい。 人が多くてたいしたスピードは出なかったけど、それでも駅前を外れてすぐに菊丸君をみつけた。 ちょうど角を曲がるところ。 なのに後を追って角を曲がると菊丸君がいない。 ウソ。 確かにいたのに。 キョロキョロと見回すと、少し離れた場所の木がたくさんある……というか、木しか見えないところの奥にちらりと菊丸君の髪が見えた気がした。 今度こそ見失わないように急いで近づくと、そこは公園……なのかな? 木に囲まれた狭い空間に電灯がひとつとゴミ箱がひとつ。よく見たらベンチらしきものもある。 菊丸君は手に持っていた紙袋をじっと見た後、それをゴミ箱に無造作に投げ入れた。 「菊丸君」 声をかけると菊丸君はビクリと肩を揺らして振り返る。 「……なにやってんの、千石」 なにって、それはひどいよ。 俺は足早にゴミ箱に近づいて紙袋を拾い上げた。 「これ、俺のだよね?」 「なっ……違うよ! 返せって!」 慌てて手を伸ばしてくるけど、絶対渡さない。 「じゃあ、俺のじゃなくてもいいや。でも捨ててあるんなら拾うのも自由だもんね」 「ダメだってば! もう! 返せーっ!」 懸命に伸ばしてくる手を背中でガードしながら袋を開ける。 残念だったね。俺、けっこうバスケも得意だったりして。 袋の中身は、ちょっと自分の影で解りづらいけど、明るい緑色のフリース? ……あ、マフラーだ。 と思ってハッとした。 首元に手を持っていくとモフモフした柔らかい手触り。 そっか、あのままマフラーしっぱなしだったんだ。 紙袋を確認したら、あのファッションビルの中の店のもので……。 もしかして、もしかしたら……見てた? 俺がミキちゃんにマフラーもらうとこ。 ………………………………。 「もういいだろ! 返せってば!」 俺は黙って首に巻いてあるマフラーを外して菊丸君のマフラーが入ってた紙袋に押し込む。 そして緑のマフラーを首に巻いて、紙袋をゴミ箱に投げた。 「な、なにやってんの……」 呆然としたように菊丸君が俺の首のマフラーとゴミ箱の紙袋を交互に見る。 「あのね、菊丸君」 俺は菊丸君の両手をとった。 ちょっと荷物が邪魔だったけど、肩にかけて小脇に挟んで両手で両手をとった。 「俺は女の子が好きだよ。可愛いし、小さくて優しくしてあげなきゃなーって思う」 「じゃあ、なんであんなコトしてんだよ。あれすっげーひどいよ」 握られた手を引きながら菊丸君がゴミ箱を示す。 「うん。ひどいねぇ」 あはは。自分でもそう思うよ。 「なら……」 「でも」 俺はどんなに手を引かれても離さないで、菊丸君の言葉を遮って続けた。 「俺、菊丸君のためならひどい男になるよ。女の子いっぱい泣かせてもいい」 菊丸君はぽかんと目を口を開いたまま俺を見た。 「……なに言ってんの。千石のクセに」 「千石のクセにって、ひどいなぁ」 うん、まあ、わかるけど。 今までの俺見てたらそう思っちゃうよね。 「だってホントのコトじゃん」 「うん。でも女の子には優しくしたいけど、大事にしたいのは菊丸君だけなんだよねぇ」 「なにそれ……」 菊丸君は俺が絶対手を離さないのがわかったのか、手を引くのは諦めて顔をそらした。 「そんなんで女の子泣かされても……俺、嬉しくない」 うん、そうかもね。 菊丸君も女の子に優しくする人だもんね。 でもこれだけは菊丸君でも譲れないんだ。 「好きだよ、菊丸君。だから俺が女の子泣かさないように菊丸君に見張ってて欲しいな〜」 「…………それ、もっのすごい自分勝手」 「あはは、バレた? でも菊丸君はうんって言うよ」 「なんで!?」 「だって俺は今日最高ラッキーなんだって、それ持ってきてくれたの菊丸君だからね」 「もう! あんなのただの占いじゃん!」 「たかが占い。されど占い。信じる者は救われるってね」 「……あーもう、ワケわかんないけど、俺ばっかムキになってバカみたい」 菊丸君は二人になってやっと、初めて笑った。 その顔があんまり可愛くて、俺は気がついたら顔を寄せて……。 「調子にのんな」 頭突きされた。 「うう……誕生日なのに」 「プレゼントはあげただろ」 つーん、って感じでそっぽ向く菊丸君もそれはそれで可愛いのでよし。 「……千石、手……」 公園を出る時、さすがに両手は無理だから、片手だけでもって握っていた手を引いてくる。 「人がいたら離すよ」 菊丸君はなにやらブツブツ言いながらも、柔らかく握っただけの手を振り払うことはしなかった。 その後、お腹がすいたという菊丸君とファミレスに行ったら、誕生日だからと店員がハッピーバースデーを歌いながらケーキを持ってきてくれて、かなり目立ったけど、そこで初めて菊丸君からも『ハッピーバースデー』を言ってもらった。 |
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| ギリギリにも間に合わなかったけど、寝る前だから当日ってことでカンベン! 千石の「女の子泣かせるひどい男になってもいい」って台詞はオリジナルじゃないです。 うろ覚えだけど、昔読んだ小説で見た台詞で、千石のこと考えてたら思い出したので。 |