ピンポン♪と軽やかな音がして、その後すぐに鍵を開けてドアが開く音がした。
もちろんだ。だって家主だし。

「おっかえり〜っ!」

菊丸は作りかけの食事を放っぽって玄関に走る。(幸い火を使ってなかったところだったので)
とは言うものの、しょせん台所は玄関に続くところにあるので、ほんの数歩だ。

「おっじゃま……って、おいちょっと待てよ! 忍足!」
「え?! うわ! ちょ、ちょっと忍足!」

菊丸とほぼ同時に大声を上げたのは、髪を切って漢前度が上がったと噂の宍戸だった。

「あ〜、エイジだ〜♪」
「あ、久しぶり」
「お久しぶりです」

芥川、滝、そして宍戸とくれば、の鳳も次々に入ってきて思いがけない再開を果たす。

菊丸は慌てていた。
なぜ慌てているかといえば、二人の付き合いは内緒だからだ。
付き合いと言っても友達付き合いだったら慌てるわけもなく、もちろん二人は恋人として付き合っているわけだ。
そりゃ言えるわけはない。

本当は忍足は隠したくないと言ったのだが、菊丸が嫌だと言い張った。
別に男と付き合うことが恥ずかしいとか、増してや忍足と付き合っていることを知られたくないわけじゃない。
ただなんとなく……。

しかし菊丸は思い直した。
友達だって誕生日は祝う!

そう今日は忍足の誕生日なのだ。
ちょうど金曜日で次の日が休みだし、試合が目前でもなくて明日の土曜は練習がない。
だから泊りがけで遊びにきたのだ。

それを友達がやって悪いことはない!
と思うことにした。

しかし……。

「にしてもよー、お前がこんなのと付き合うとは思わなかったぜ」

あっさり宍戸の台詞でバレバレなことがわかって、菊丸はもう一回打ちひしがれた。

「チームメイト捕まえて『こんなの』言うなや」
「いや、『こんなの』じゃない? だって忍足だしさ」
「そーそー。忍足にエイジはもったいないって! な、俺にしよ?」

つられて何か言おうとする鳳は、宍戸の『待て』でかろうじて口を閉ざした。
うっかりしたことを言おうものなら、明日からの学校生活が危ないところだった。

「…………ご飯」
「うん? なん?」
「ご飯どーすんの? みんな食べてきたとか言わないよな?」

「食ってるわけねーだろ」
「練習終わってすぐ来たもんね」
「あ、俺俺エイジの作ったご飯食べたい!」
「す、すみません……」

とてもよくわかった。

「忍足、買い物行ってきて」

文句を言おうとした忍足は、菊丸の目力のみで黙らざるを得なかった。

勝手知ったる他人のリビングに向かう面子は放っといて、菊丸は料理の続きをはじめる。

「それで何買うてきたらええのん?」

忍足はそう言って、ぷうっと膨れた菊丸の頬を突付いた。

「……忍足のバカ」
「俺が悪かったて。な? なんや誕生日がどうこう言うて、どっか寄ってかんか言われたんやけど……」
「……人気者じゃん」
「阿呆、あいつらはなんかにかこつけて騒ぎたいだけや」
「どーだか」
「本当やって。俺は自分待っとるし、『待っとんのがおるから嫌や』て言うたら、恋人やろ言うし、そうやから邪魔すんなて言うたんやけどな」

今度は忍足の恋人を見に行こうツアーになったらしい。

経緯はわかったし、忍足が悪いわけじゃないのもわかった。
元よりそんなに怒っているわけではないのだ。
二人の関係だって、どうしても、なにがなんでも隠し通したかったわけでもないし。
ただちょっと二人きりを期待していただけ……と考えかけて、菊丸はなんだか乙女臭い自分の考えにブルブルと頭を振った。

「ちゅうわけで、バラしとおてバラしたわけちゃうし、堪忍したってな」

実を言うと忍足には忍足で、目論見がなかったわけではない。
菊丸を狙う輩は多く、それは青学のみならず、忍足自身が通う氷帝にさえ多い。
隠したがっていた菊丸とは裏腹に、忍足はさっさと自分のものだからちょっかい出すなの表明がしたかったのだ。
今日のこれはちょうどよかったと言えなくもない。
菊丸の手作りの食事を食べるのが自分だけ、という特権と、二人きりという甘い時間を考慮して、できれば別の時に回したかったのは事実だが。

「もういいよ」

しょうがなさそうに菊丸は笑った。

「そんかし、プレゼントはこれでなしだぞ?」
「う……」

プレゼントにかこつけたあれやこれやを目論んでいた不埒男は言葉に詰まった。

「冗談だよん♪ 後で渡すって」
「いけずやんなぁ、自分」

小さく笑い合って、菊丸は今度こそメモを書き始めた。



「なあ、あれどーよ」
「なんていうか……新婚夫婦の家に遊びにきた同僚の気分って感じかな」
「……ものすごくわかりますけど、例えが渋いっすね」
「にしても、菊丸がなぁ……」

三人は顔を見合わせてため息をついた。
(芥川は菊丸がそばにいないので、当然寝ている)

ここまできたら、菊丸の手料理を食わずして帰れるか! だ。
ついでに、来週学校に行ったら、『なんでこの俺が忍足の誕生日なんざ祝わなきゃいけないんだ。あーん?』と言い切った跡部に、菊丸の手料理を食べたことを言って羨ましがらせてやろうと一同は思った。
それはもちろん、菊丸と忍足の関係をバラす、ということだ。

少々の嫌がらせや八つ当たりなんて、菊丸を射止めた見返りとしては安いくらいだ。

四人は(芥川は寝ているけれど、絶対同意するだろう)これを忍足へのプレゼントにすることにした。


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