「よう。そーいやお前、誕生日いつだっけ?」
宍戸が何気なく聞いた。
「11月だよ〜ん。なになに? なんかくれんの?」
「バーカ。まだ全然先じゃねえか」
菊丸はふくれっ面で自分の傘を軽く回転させる。
「冷てっ」
「じゃあ、なんなんだよ〜」
「いや……やっぱ俺の方が年上だって思っただけ」
「……やっぱってなんだよ。年上とか言ったって、どーせちょっとの差だろ。宍戸はいつなんだよ」
「今日」
「……へ?」
「だから今日だって」
宍戸は軽く傘を傾けて空を見上げる。
雨はまだやむ気配を見せなかった。
「そんなの俺、聞いてない!」
ますますふくれっ面になった菊丸だったが、宍戸はふふんと小さく笑うだけ。
「そりゃ初めて言ったからな」
「う〜〜〜〜〜!」
「そんなに膨れんな」
宍戸が菊丸の頬を指で突付く。
「丸い顔が余計丸くなんぞ」
「丸くない〜っ!」
ぶんぶんと頭を振って菊丸が跳ね除ける。
「そんなコト言ってっと、プレゼントあげないかんな」
「お、なんだ。なんかくれんのかよ?」
「安いモンならにゃ♪」
宍戸はニヤリと笑った。
「お前からたっかいモンもらおうたぁ思わねーよ」
「どーいう意味だよ、それ……」
ぶつぶつ小声で文句は言ってみるものの、実際資金が潤沢かと言われればそれまでで。
「そんで、なにがいい?」
「あー……そうだなー……」
宍戸はまだ降り続く雨を見上げて考え込んだ。
しばらくの沈黙の後、ぽつりとつぶやく。
「……お前」
「……え!?」
口を『え』の形に開けたまま固まる菊丸。
「………………」
「………………」
沈黙が重かった。
「……っバ、バーカ! 冗談に決まってんだろ! なにマヌケな顔で固まってんだよ!」
「な、なんだよ! ビックリさせんなよ! 俺はてっきり……」
「……てっきりなんだよ」
「し、宍戸があ〜んまり女の子にモテなくて、男までターゲットにしだしたのかと思ったじゃん」
「んだとー! 俺はモテるっての。お前が知らないだけだろ」
「ふふ〜んだ、宍戸だって俺がモテモテなの知んないだろ〜」
いつものくだらない競い合い。

……ちぇ。

駅で会って、ぐるっとその辺を一周して駅で別れる。
雨の平日、しかも部活後にわざわざ待ち合わせて会う意味。
二人ともその意味が知りたかった。

「あ、マック寄ってこ。腹減っちった」
微妙にぎこちない空気を振り切るように菊丸は宍戸の返事も待たずに方向を変えて歩き出す。
「混んでんじゃねえか。席開くの待つのもかったりぃな」
「んじゃポテトだけ。俺買ってくる」
すぐだからと開いたままの傘を持たされ、宍戸はしょうがなく店の脇に除けて待つ。
おそらくは学校帰りの学生ばかりで、食べるよりもしゃべる方に時間をついやしていたのだろう、菊丸は思ったよりも早く買い物をすませて出てきた。
「じゃ〜ん! Lポテで〜っす」
短く折って取りやすくした紙袋を片手に、宍戸から傘を受け取る。
「んじゃこれプレゼントな♪」
「安すぎだろ、それ」
本気だか冗談だかわからないことを言い合いながらポテトを摘む。
菊丸は片手に傘、片手にポテトでかなり食べにくそうだ。
一気に何本か咥えては、行儀悪く手だけでもぐもぐ食べていた。
「ちょうど揚げたてだったんだよん。なんかラッキー♪」
合間合間にしゃべりながら、それでも部活帰りの男子中学生、ポテトは見る見るなくなっていく。
ふと宍戸が足を止めた。
「ん?」
菊丸もつられて立ち止まる。
「よお」
「んん?」
もぐもぐ。
菊丸はイントネーションだけで『なに?』と答える。
「やっぱこれプレゼントでいいや」
「んー?」
もぐもぐ。
「だからもらうぜ?」
菊丸の傘に合わせて自分の傘も傾けて周囲からの影をつくり。
宍戸はもう短くなっていた菊丸のポテトを齧り取った。
揚げたてのポテトはカリカリで、絶対にポテトじゃない柔らかい感触が一瞬だけ。
「ごっそさん」
すぐに離れた宍戸は、傘をさしなおした。
「んじゃ、またな」
そう言って、足早に駅に向かっていった宍戸の耳は、後ろから見てもわかるほど赤い。
でも、たぶん。
……もぐもぐごっくん。
やっと思い出したように口の中のポテトを飲み下した菊丸は、宍戸に負けずとも劣らないほど赤くなっているはずだった。
「………………っ」
はっと我に返った菊丸は、慌てて辺りを見回す。

……人多いよ。
当たり前。だってここ駅前だもん。

しかし宍戸のカバーはばっちりだったらしく、誰も菊丸に注目している様子はない。
それに安堵した菊丸だったが、次の瞬間
そーいう問題じゃないから!
と、激しい自分ツッコミを入れていた。
けれども、じんわりと笑みの形に歪む口元に気づいては顔を赤らめることは止めることができず。
菊丸は家に帰りつくまでも、何度もその百面相をしてしまうのだった。

そしておそらく。
氷帝方面へ向かった電車の中でも、同じような光景が見られたことは間違いがないのであった。


SStop Top nfTop