「英二ってさ」
不二が机に頬杖をつきながら菊丸を見る。
「クレヨン……って感じだよね」
昼休みの教室。
外は爽やかな青空が広がっている。
ギラギラと目に痛いほどの強い日差しではなく、なんとなくいつもより遠くまで見えそうな、柔らかいのにすっきりとした、そんな気持ちのいい午後。
「へ? どったの不二、突然なに?」
菊丸は最後にとっておいた大好きなエビフライを食べようと口を開けたところで、箸でつまんだままきょとんと不二を見た。
不二はクスッと笑って、しかし菊丸を眺めたまま
「なんとなく、だよ。……鮮やかで元気があって、少しくらいはみ出したって、かえってそれが味になる、みたいなさ」
「不二ぃ……それ褒めてる? それともバカにしてるー?」
不二がよくわからないことを言い出すのはいつものことだったが、菊丸はそのたびに理解しようとしては玉砕していた。
「まさか。もちろん褒めてるんだよ」
難しい顔をして考え込む菊丸に、クスクスと楽しくて仕方がないように笑う不二。
「だって僕はクレヨンが大好きだからね」
菊丸はパッと顔を輝かせた。
「あ、俺も俺も! 48色とかいっぱい色のあるやつ、あれちっさいころすっごい欲しくてさー」
嬉々として幼い頃の思い出話を始める菊丸に、不二は気付かれないようにそっとため息をついた。
鈍すぎる。
だがその鈍いところも菊丸らしくて怒る気にもなれない。
いや、怒るのは筋違いだということもわかっているのだが。
「……あ、でもさ」
思い出すままに話していた菊丸が、ふと言葉を切った。
「だったら不二は水彩絵の具だよなー」
今度は不二がきょとんとする番だった。
「キレイで、ちゃんと色あるのに透明っぽくて。俺、自分で書くのは上手くないけど見んのはすっごい好き」
嬉しげに、自分と違って何の他意もない言葉。
欲しい言葉ではないけれど、それでもとんでもなく不二を嬉しくさせる言葉。
「まいったな……」
本当にかなわない、と不二は菊丸と出会って以来、何度となく浮かんだ言葉を繰り返した。
「にゃににゃに? どしたのさ、不二」
訝しげに覗きこんでくる菊丸に、なんでもないよと告げ、不二はせめてもの意趣返しと、ずっと菊丸が箸で持ったままのエビフライをパクッと奪った。
「あーっっっ!!!」
教室中に菊丸の悲鳴が響き渡る。
「最後の最後にとっておいた、俺のエビフライーっ!」


その日、不二は放課後まで菊丸に口をきいてもらえず、ひたすら低姿勢に謝って、次の日のお弁当のおかずで懐柔する不二は、確実に菊丸に敵っていなかった。


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報われない不二サマ第一弾。
でも黒くないです。白不二です。今回は。