ぶらぶらと当てのない散歩も悪くない。
好きな人と二人なら。

普段通らない道を通って、見慣れない景色。
「あ、忍足、猫ー」
路地で居眠りをしている猫を見つけて菊丸がちょんちょんと腕をつつく。
「気持ちよく寝てるんやから起こしなや」
「わかってるってー。もー」
止めなかったら走り出してたくせに。
名残惜しげにバイバイと、寝てる猫に向かって手を振る菊丸を横目で見て、忍足は小さく笑った。
「あれ、なんの花かなぁ」
「ミズキやん」
「へー、忍足よく知ってんね」
感心した目を向けられるのはくすぐったいのと同時に嬉しい。
些細なことの繰り返しで、でも些細なことが積み重なって、ますます二人の間が近くなる。
「あ、タバコ」
3台ならんだタバコの自販機の前で菊丸が足を止めた。
「どしたん? 吸いたいん?」
「や、なんかたくさんあるなーって」
確かに見かけないタバコが並んでいる。1台と半分くらいは名前も知らないようなものばかりだ。
「うわ、バニラの香りだってー。味も甘いのかな?」
「どうやろ。買ってみるか?」
「やだよ。俺吸わないかんね」
などと言いつつも、そこを離れようとはしない。
「ほら忍足、これなんかドクロついてるよ。タバコにドクロっていかにも体に悪いですーって感じだよな」
「売れるんやろか、これ」
「だよにゃー。……って、やっぱほらこれ! 健康タバコだって健康タバコ! やっぱタバコ吸う人も健康気にしてるってことなんだよ」
「ちゅーか、気にするんやったら吸わなきゃええんちゃうの」
「や、それでも吸いたいっていうのが人のサガってもんなんだよ」
うむうむと訳知り顔で頷いて、忍足の呆れたような視線に気付いたのか、へへ、と笑って見せた。
菊丸とだとくだらないおしゃべりが、なぜかひどく心地いい。
端から順に見て回ってやっと気がすんだのか、やっと菊丸が歩き出した。
「もうええのん?」
「うん。……なー、忍足」
「ん?」
「忍足はタバコ吸いたいって思ったことある?」
「……まったく興味がないとは言わんけど、今んとこは特に思わんなぁ」
「俺もー。……あ、でもタバコ吸ってる人はカッコいいなーと思わないでもないかな……にゃんて」
また軽く照れ笑い。
「忍足だったらマルボロとか似合いそうかも。赤いやつ」
「そおか?」
「うん。カッコいいだろーなー」
……ほんの少しだけ、吸ってみようかと思った。
「あ、でもでも、やっぱ絶対吸っちゃダメだかんな?」
「なんで? カッコいい俺、見たないん?」
「健康にもテニスにも悪いっしょ! それに忍足はタバコなんか吸わなくても全然カッコいいじゃん」
手先をポケットに引っ掛けたままの腕で菊丸の腕を軽く小突く。
『なに恥ずかしいこと言うてんの。照れるやろ。けど嬉しいわ』
のトン。
『どういたしまして』
と菊丸からもトン。
「それにさ」
チラッと顔を見上げて、イタズラを思いついたときの顔で笑う。
「タバコ吸うとキスが不味いって言うっしょ? だからダメ〜」
「かなわんな。したら俺、一生タバコ吸われへんやん」
ふっと面白げだった表情が消えた。
そのまま俯いて何も言わずに歩き続ける。
「……どしたん?」
菊丸は乱雑に目元を腕で擦って顔を上げた。
赤くなった目元でかすかに笑った。
「ちょっと……なんかキた。あーもう俺カッコ悪ぃ」
チラッと横目で見て
『アホ。ずっと一緒におるて言ったやろ。信じろや』
トン。
『信じてるけど、実感しちゃうのは別なの!』
トン。
「……別に俺よりタバコがよくなったらいつでも言ってくれていいけど」
ふて腐れたような声。
でも照れが80%なことはわかってる。
『そんなんないてわかってんのやろ?』
トン。
『わかってるけど! なんか悔しいんだよ!』
のトンは、ちょっと力が入りすぎて限りなく体当たりのドンに近かった。



当てもなくぶらぶらと些細なことを積み重ねていく二人の散歩は、なぜだかいつも、段々口数が減っていく。


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甘いんだか、まったりなんだかよくわかんない。
日常っぽいのが書きやすいです。