| 雷が遠くに聞こえた。 「あ……」 慌てて窓に近寄っても、どんよりとした雲が広がっているだけで、稲光はまだ見えない。 「どうしたの、英二?」 「んー、なんでもなーい。まだ光んないなーって」 「英二って雷好きだよね」 クスクスと不二が笑う。 確かに前からそうだったけど。 今はちょっとだけ他の意味もあったりなんかして。 俺たちが親しくなるきっかけも雷だったから。 へへ、と笑い返して空をじっと見てたらポケットの携帯が震えた。 メール着信。 「あ、ちょっとゴメン」 不二に断って携帯を開く。 『雷、今すごい。そっちはどう?』 簡潔なメール。 わかってるんだけど、ちょっとだけ、離れてるんだなって実感してブルーなような、それでも同じこと考えてるんだなーってほんわりするような。 なんか複雑。 俺も速攻でメールを打って返信した。 「英二」 パタンと携帯を閉じると不二が頬杖をつきながら俺を見ていた。 「顔、笑ってるよ」 「え!?」 慌てて顔をパタパタ触ってみるけど……笑ってる、かなぁ? 不二は俺のそんな動きに小さく笑った。 「うー……笑うなよー」 なんだか妙に恥ずかしい感じ。 ブブブブブ……。 救いの神みたいに、携帯が震えた。 「メールっ」 ちょっとつっけんどんに言うと、不二は「はいはい」ってまた笑った。 『俺も。前はどうでもよかったけど、今は雷好きになった』 あ、またなんか胸んとこがほんわりした。 こうやってお互いに好きなものが増えてくのって、すごくいいなって思う。 嬉しくて、この気持ちをすぐに伝えたくて、ボタンを押すのももどかしくなるくらい急いで返信を返す。 一言だけ。 たぶん、それだけでわかると思うから。 打ち終わっても、なんだかさっき来たメールを閉じる気になれなくてじっと画面をみつめる。 あーあ、会いたいなー。 「……笑ってるっていうよりは、どっちかって言うと幸せそうって感じかな」 いきなり声をかけられて、俺は今どこにいるのか思い出した。 ぎゃー、恥ずかしー! 「もー、言うなってば! 不二めー」 ふざけて後から座ってる不二にヘッドロック。 アンドうりうり。 「痛いよ、英二」 あんまり痛くなさそうに笑う不二。 そりゃそうだよね。俺だって力なんて全然入れてないし。 「不二が悪いの!」 照れ隠しってわかってるけど。 「はいはい。僕が悪かったよ」 きっと不二もわかってる。 それから後、メールは来なかったのは気になったけど、でも俺の中にはなんかほんわりしたのがずっと残ってた。 雨が降ってきたのは練習の途中だった。 基礎練が終わって、ストロークやって、やっと好きなミニゲーム形式の練習が始まるとこだったのに。 ムッとして空を見上げたら、なんか余計にひどい降りになった気がした。 当然練習は中止で、全員で後片付けした後にはもうびっしょり濡れちゃってた。 あ、でも、もしかしたらチャンスかも。 時計を見たらまだ4時過ぎで、これからだったら向こうの練習が終わる前につけるから、ちょっとだけでも会えるかもしんない。 俺は思い立ったが吉時(吉日より早いのだ)で、慌てて着替えた。 濡れて脱ぎにくくなっちゃってたから、なんだかいつもより全然遅かったけど、俺の中では最高スピード。 「あー、もう!」 って濡れたユニフォームとかジャージとかを丸めて袋に突っ込んで、でもラケットだけは丁寧に拭いて。 「じゃあ、おっさき!」 他のみんながまだ着替えてるのを横目に部室を出た。 昇降口に傘を取りに走って、傘をつかんでまた走る。 ホントはそんなに走らなくてもって思う自分もいたけど、でも早く会いたいし、なんか気が急いちゃって歩いてなんかいられない。 裾なんか思いっきり泥跳ねちゃって、絶対帰ったら怒られること請け合いだけど。 いきなり行ったらビックリするかな、とか、うまく会えますように、とか考えながら正門を抜けたところで、いきなり後から声をかけられた。 「そこの兄ちゃん、そんな急いでどこ行くん? それより俺と茶ぁしばかへん?」 なんか思いっきり軽い口調。声笑ってるし。 「忍足!?」 振り返るとやっぱり忍足で、俺は呆然と見上げた。 「なんで?」 出てきたのはこんな言葉だけで。 忍足はゆったりした足取りで側に来て、肩並べて「行こうや」と俺の背中を軽く叩いて促した。 「雨で練習つぶれてん。中で基礎トレだけやったから、なんとか速攻終わらせて」 そうしたら練習終わるの待って少しくらい会えるかと思ってという忍足に、俺はなんだかドキドキが止まらなかった。 チラッと忍足のズボン見たら、普段の忍足らしくもなく、やっぱり泥跳ねいっぱいあって。 「あのさ……あのね……えと、俺も会いに行こうと思ってた」 「ん」 コンビニでジュースとお菓子買って近くの公園に行った。 ちっちゃいアズマヤ(だっけ?)なんかちょっと屋根があってベンチがあるとこあったから。 ホントはマックでもファミレスでもいいんだけど、そこだと二人じゃないし。 そう言ったら忍足も笑って、そっちの方がいいって言った。 ベンチに座って、買ってきたもの開けるのも放っといて忍足を見る。 「どしたん?」 「や……忍足だなぁって」 忍足が笑う。 メールや電話は毎日してるけど、こうやって会えることなんてあんまりなくて。 「あんな」 忍足もやっぱり俺を見てる。普段は想像もつかないような優しい目して俺を見てる。 「じぶんからメールもろて、俺もって返そうかと思たんやけど、なんや……会って直接言いたなってん」 メールもらった時、もう向こうでは雨が降り出してたらしい。 考えてみればその通りなんだけど、それが考えに入ってなかったから走り回っちゃったよ。 そう言ったら忍足は嬉しいって言って笑ってくれた。 会いたいって、あんまり言えないから。 言ってもお互いにどうしようもないのはわかってて、言われても困るし、言ったら余計寂しくなっちゃうし。 だから二人とも言わないようにしてるから。 でも今日は……。 「会いたかった」 「俺もや」 忍足が俺の頬を指の背で軽く撫でる。 気持ちいい。 会ってるのが、そんで触れてるのがすっごく気持ちいい。 「メールの返信な」 気持ちよくて目をつぶってうっとりしてたら、なんだか妙に近いところで忍足の声がした。 目を開けようとしたけど、目元を撫でられて開けるに開けられない。 「俺も……めっちゃ好きや」 さっきより近くで囁くみたいな声がして、そのすぐ後に唇に柔らかいものが触れた。 パって目を開いたら、目しか見えないくらい近くに忍足の顔があって、慌ててまた目を閉じた。 顔がすっごい熱くなって、心臓も全力疾走してる。 触ったときみたいに、そっと離れても、俺は目をつぶったまま硬直してた。 「……菊丸」 忍足が俺を呼ぶけど、赤くなってんのバレバレなんだろうなとか、忍足は慣れてるっぽいとか考えてたら開けられなかった。 「目ぇ開けんと……」 笑ってる忍足の声が近くなって。 「もっかいすんで?」 思わず目を思いっきり開けて、体を引いた。 一回でもこんなのに、もっとされたら絶対俺ダメ! 「……ややった?」 そーっと忍足をうかがうと、忍足も体を戻してまだ笑ってるけど、苦笑っていうか、なんか寂しいとか悲しいみたいのも入ってるような笑ってる、だった。 「やなわけないっ!」 って勢いよく言ったのはいいけど。 「なんか……こークラクラするし、わけわかんないくらいドキドキすんのに、忍足は慣れてるっぽくてムカつくっていうか……」 続いたのは、なんかごにょごにょって感じになっちゃった。 だって俺だって男だし、やっぱカッコ悪いじゃん。 でも忍足のさっきみたいな顔してんのはやだったから一生懸命言った。 「ん……まあ、慣れとらんとは言えへんけど」 無駄に正直な忍足は俺の手を取って忍足の胸の真ん中に当てさせる。 「あ……」 「わかったやろ?」 照れくさそうな忍足。 触ったとこから俺と同じくらいドキドキしてるのが手から伝わってきた。 なんかもう、うひゃあって感じ。 伝わってくるドキドキと、俺ん中のドキドキが二人三脚してるみたい。 「……あは」 なんだか色んなものがこみ上げてきて、小さく笑った。 それにつられるみたいにして忍足も笑った。 笑いは段々大きくなって、二人して大笑いした。 「あのさ」 やっと笑いがおさまって。笑った勢いでどっか行っちゃったのか、やっとドキドキもおさまって。 雨はとっくに上がってて、辺りも暗くなっちゃってるから、たぶん忍足もそろそろ帰らなきゃいけないんだろうなって思った。 「俺、雷って好きだったけど、雷のおかげで忍足と仲良くなれてもっと好きになったけど」 うん、って忍足が頷いた。 「今日、忍足が来てくれて、会えて、そんでもって……えーと、その……まあ、そゆことしちゃったじゃん? それでもっともっと好きになったかも」 忍足は「俺も」と頷いたけど、その後で何かを考えるように黙った。 「まさか……」 ものすごく真剣な顔。 「次のキスも雷鳴っとらんとダメとか言わんやろな?」 ……忍足はたまにすごくバカで可愛いと思う。 俺は笑って 「ナイショ」 とだけ言った。 やっぱり忍足だけ慣れてんのも、ちょこっとだけ気に入らないしな。 忍足には内緒でいっぱい練習して、次の時は、すっごい晴れた日に俺から忍足にキスしようと心に誓った。 大五郎、がんばろうな! 買ったものを山分けして、駅まで一緒に帰る。 まだ微妙に情けない顔してこっちをうかがってる忍足があんまり可愛かったから、駅前で人のいない路地に引っ張り込んで、耳にそっと囁いた。 「これから、雷以外の日も、好きにならせてくれるんだろ?」 |
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| だだ甘ですね。すみません。 忍足さんヘタレ疑惑浮上中です。 相手が好きなあまりに情けなくなってしまう攻めが好きなんです……。 |