駅前のコンビニ前のガードレールに寄りかかっていた向日はいきなり声をかけられた。
「あ、ミソくんじゃん」
顔を覗き込むようにして言われたので、他の誰かにかけられた言葉と間違えることもなく。
「誰がミソだっ!」
「えー、だって『みそ』って言ってたじゃん」
にゃはは、と笑うのは、以前対戦した青学のアクロバティックプレーヤー。
本来のゴールデンペアでもないのに、油断してたとはいえ、まさかの敗北。
「俺は向日だっ!」
ぐっと拳を握って見上げるが、この『見上げる』というのもまたムカつく。
「えー、だって向日って言いにくいじゃん。……じゃあ、がっくん?」
「俺は芸能人じゃないっ!」
「えー、ガクトなんだからいいじゃん。嫌い? Gackt。ほら、『俺のビッグマグナム』って言ってみそ?」
「……もうなんなんだよ、お前! 用がないならあっち行けよ!」
「ざーんねんでーしたー、俺も用事あるんだもんね」
待ち合わせなんだと隣に並んでガードレールに軽く腰掛けて。
「俺さ、前から向日と話してみたかったんだよね」
やっぱり言いにくそうに「むかひ」と言った。
「なんだよ、それ」
「んー、やっぱほら、アクロバティックプレイするしさー、ダブルスじゃん? 話してて共通することいっぱいあるなーって思ったし」
「……そんなん、別に他にいっぱいいんだろ」
むすっとしたまま答える向日に菊丸は少し寂しそうに笑う。
「ん、まあ、向日には嫌われてるみたいだからしょーがないにゃー」
「べっ、別に嫌ってなんか!」
思わず本音が出た。
本当はずっと気になってた。
同じアクロバティックプレイをするヤツがいると聞いて、生意気だと思った。
それが会って、対戦して。
同じはずなのに全然違うプレイや、挑んでくる目、笑顔、そういうものに目が離せなくなった。
話してみたい、笑って欲しいと思いながらも、負けた悔しさに素直にもなれず。
ついでに言えば身長も全然菊丸の方が高くて。
そりゃ男は身長じゃない! とは思ってるけど。
「ホント?」
菊丸がじ〜っとかがみこんで顔を覗き込んできて、赤くなってしまいそうで慌てて逸らす。
「……まあ、な」
「そんじゃ、トモダチ! ……へへっ」
嬉しそうに手を差し出してくるから、いつもなら叩き落してしまってまた後悔するとこなのに、素直に手を握り返せた。

それからけっこうたくさん話をしたと思う。
一度素直に話し出せた口は、それからは無駄に挑発的なことを言うこともなくて、今までの苦悩が嘘みたいに思える。
待ち合わせをした相手は一向に現れず、できればこのまま来なければいいのに、なんてことまで考えた。
もちろんそんな都合のいいことがあるわけもなくて。
「遅うなった。かんにん」
足早にこちらに向かって来たのを見て、向日はガードレールから立ち上がった。
「侑士、遅ぇぞ!」
「岳人は自業自得やろ」
ほい、とノートを頭の上に乗せられる。
だが、ということはさっきの謝罪は……。
「俺はへーき。いっぱい向日と話せたもんね〜」
にこーっと笑いかけてくる菊丸に、妙に嬉しくなる気持ちを押し殺した。
「侑士……なんで、てめえが青学の菊丸英二と待ち合わせなんかしてんだよ」
この男には最近一つの噂が流れていた。
曰く、とうとう忍足に本命ができた。
「忍足とは、こないだ偶然会って、そんで仲良くなったんだよーん」
女なんか来るもの拒まず去るもの追わず、手間かけるなんてとんでもないなんて顔をしてた忍足が、最近は休み時間になればメールを送り、練習後もそそくさと帰っていくのだ。
「ふ〜ん、偶然……なぁ」
「……なんや」
「べぇっつにー」
忍足の態度、菊丸の態度、口調、その他を考慮してみると、まだ忍足は必死にアタック中、と。
まあ、どちらかといえば、まずは親しくなるところからって感じらしい。
それならばまだ勝機はある!
「あ、菊丸、俺のことは岳人でいいぜ」
これは宣戦布告。
たぶん忍足には通じたはず。
「え、ホント? ……じゃあさー、もう一声! がっくん。ダメ?」
「……しょーがねぇなあ。お前だけだからな」
「やったあ! がっくん、サンキュ!」
「じぶん……」
案の定、忍足が睨んでくる。
「あ、そだ。なあなあ、がっくん、これから用ある? 俺たち遊びに行くんだけどさ、一緒行かない?」
忍足の下心にはまったく気付いてない菊丸が更に駄目押し。
「き、菊丸!?」
「忍足もいいっしょ? 遊ぶなら人数多い方が楽しいじゃん」
こう言われて、まだ下心を表に出すわけにいかない忍足が断れるわけはない。
「……ああ、ええんやない」
「じゃ、行こっか」
ポンと軽快にガードレールから降りて、菊丸が歩き出す。
「……まさかじぶんもやったとはな」
「ふん、先に目ぇつけたのは俺の方だっての」
「チッ……読みが甘かったわ」
バチバチと火花が飛ぶ。
「ほらー、なーにやってんだよー。早くぅー」
向こうで菊丸が手を振る。
忍足と向日は同時に菊丸に向かって走り出した。

勝負はまだ始まったばかり。


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岳人けっこう好きなんですが。
なんだかあんまり可愛くなんなかったなー。残念。