| 「うりゃーっ!」 こっそりと近づいて、絶妙なタイミングで飛びつく。 次の瞬間、宍戸の帽子は菊丸の手にあった。 「へっへ〜、宍戸の帽子ゲーット!」 「てっめぇ、菊丸っ!」 「あったり〜」 取り上げた帽子をくるくる回しながら菊丸は笑う。 「うっわー、宍戸、ホントに髪短いよー」 宍戸の周りをぐるっと一周。 「バカ言ってんじゃねぇ。試合見てたろうが。おら、キャップ返しやがれ」 「や〜だよ〜ん。あん時はうちの応援してたし、鳳のなんとかサーブすごかったんだもん」 本当はちょっとだけウソ。 宍戸の磨き上げられた反射能力にも目を見張ったのは言わない。 もちろん短い髪の宍戸がカッコいいなーと思ったのもナイショ。 悔しいから。 「お久しぶりです、菊丸さん」 今まで口を挟めなかった鳳がやっと挨拶をする。 菊丸は鳳を見上げてにこっと笑った。 「ひっさしぶり〜」 菊丸は回していた帽子を、宍戸と同じように被った。 「似合う?」 「はい」 鳳もにこにこと相好を崩している。 「あ〜あ、やっぱ鳳可愛いにゃ〜」 すかさず帽子を後から取り返した宍戸にかまわず 「なーなー、うちの子になんない?」 「え!?」 「うちの後輩、生意気なのばっかでさー。いっつも俺、おごらされるんだぜー?」 「あ……えと……なにかおごりましょうか?」 菊丸は一瞬目を丸くして、それから大きく噴出した。 「鳳、やっぱいいー!うちにもこんな可愛い後輩欲しい〜」 「バーカ」 後から宍戸が小突く。 「誰かとトレードってんなら考えてやってもいいぜ?」 「宍戸さん!?」 「誰とトレードするってんだ? 桃城か? 海堂か? それともあの越前ってやつか?」 「う……そ、それは……」 菊丸は何をどう言っていたとしても後輩を可愛がっているのは明白で。 「くだらねぇことばっか言ってんじゃねーぞ」 「うう……」 菊丸の負け。 「宍戸の意地悪めー」 「うるせぇ」 「監督に髪切って見せる時に、わざわざ散髪用のハサミ持参したくせにー」 「関係ねーだろ! っつーか、誰に聞いた!」 「かなーり激ダサのくせにー」 「うるせぇ! 普通のハサミじゃ髪が滑って切りにくいんだからしょうがねーだろーが!」 「まあまあ」 二人をなだめつつも、宍戸と目を合わせられない鳳に、宍戸の目が向かった。 「長太郎……てめぇか」 「え?! えと……いや、でも最初に言ったのは俺じゃありませんよ!」 「最初だぁ?」 「こーらー、鳳イジメんなー!」 今度は菊丸が止めに入るが、もちろんそんなことで止まるわけもない。 「まーた跡部か忍足の野郎か」 「ははは……」 実はその二人ともであった。 「人がいないからって、恥ずかしいことベラベラしゃべってんじゃねーよ」 「しょうがないじゃないですか。菊丸さんが一番嬉しそうな顔するのは、宍戸さんのこと話してるときなんですから」 「ぎゃー! 鳳ストップストップ!」 爽やかに笑った鳳の口を、菊丸が慌ててふさぐ。 シーン……。 「き、聞こえなかったよな?」 「……バーカ」 心持ち顔を赤くした宍戸が菊丸の頭を小突いた。 「人から俺の話聞くくらいなら俺と話せばいいだろーが」 むっ。 やはり赤くなっていた菊丸だったが、その言葉に眉を寄せる。 「秘密の特訓特訓で電話も出なかったヤツがよく言うー」 「……るせーな。あん時は必死だったんだよ!」 「だから俺だって無理に連絡とったりしなかったんじゃん! だから別に鳳や跡部や忍足と会ったからって文句言う筋合いないんですー」 「何度も言ってんだろーが! エサくれるからって尻尾振ってついてくんじゃねぇよ」 「誰が尻尾振ってんだよ! 俺は人間なの、ニンゲン! 尻尾なんてついてないもんねーだ!」 「比喩ってやつだろうが! そんくらいわかれ、バーカ!」 「なんだとー! バカって言うやつの方がバカなんだよ!」 小学生ですか、あんたら。 鳳はそう言いたかったが、あいにく菊丸に口を押さえられっぱなしで言えなかった。 「大体、いつまで長太郎にひっついてやがんだ!」 宍戸はぐいっと菊丸の首根っこを掴んで鳳から離す。 ぷはっと息をつく鳳。 実は菊丸の手が唇に触れていたのを堪能していたとは口が裂けても言えないが。 「長太郎が変なこと言うからじゃん!」 「なにぃ? 『長太郎』だぁ?」 「あ、うつった」 「てめぇ、俺のこともまだ『宍戸』とか呼んでるくせに、長太郎を名前で呼ぶなんざ十年早ぇんだよ!」 「宍戸だって俺のこと『菊丸』って呼んでんじゃん!」 「英二って呼んだら嫌がったのはお前だろうが!」 「だってタラシくさかったんだから、しょうがないだろっ!」 「誰がタラシだ、誰が!」 「宍戸っ!」 すでに口を押さえられていないにも関わらず、鳳はもう口を挟む隙がみつからず、途方に暮れた顔で立っているだけだった。 何が不思議と言って、この二人がこれでいて付き合ってもう1年以上も経つということだろう。 これほどまでに色気のないカップルというのもそう見ない気がする。 こんなだから菊丸を狙う人間は後を絶たないわけなのだが、だからと言って二人が不仲になることもなくて。 「いいよ、だったらこれからは宍戸のこと『散髪用ハサミ携帯』って呼んでやるっ!」 「呼ぶんじゃねぇっ!」 なんだかんだ言ってラブラブなんだよなぁ。 鳳は敬愛する先輩と、あわよくばお近づきになりたいと思っている先輩の恋人を眺めて、何度目かのため息をついた。 ここは自分が気をきかせるべきなのだろう。 「えーと、俺はそろそろ失礼しますね」 すっかり存在を忘れ去っていたらしく、二人はいっせいに鳳を見た。 「帰っちゃうの?」 「長太郎、帰んのかよ」 「はい。後はお若い人同士ごゆっくりどうぞ」 「てめぇは見合いババアかっ!」 散々ぼやきつつも、ノリについていっている鳳だった。 まだ、ぎゃあぎゃあと言い合っている二人を背にしながら、鳳は少しだけ、あの二人が二人っきりになったところを見てみたいという誘惑にかられたが、それはそれで虚しいことになりそうだと大人しく帰路についた。 |
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| 世間様に逆らって、あくまで菊受け道を突っ走ってみる。 二人きりになったら思いっきりベタ甘になったら面白いなあ。 というわけで考えてみました。ちょっとだけ→■ |