「もーもっ、なに聞いてんの?」
昼休み、早々に昼飯をすませて、いつもの中庭でMDを聞いている桃城に菊丸が声をかけた。
「あ、エージ先輩。ちっス」
片耳からイヤホン外して。
これが他の先輩達なら両方外すところだけど。
「聞きます?」
ピラピラと外したイヤホンを見せると、菊丸は嬉しそうに桃城の隣に座り込んだ。
「へへっ、サ〜ンキュ」
二人でイヤホン片方ずつはめて。
後輩の中でも特に仲がいいと、たぶん自他共に認めている二人。
「あ、新譜じゃん。桃買ったの?」
「へへ、おかげで今月の小遣いパーっすよ」
「いいよな、これ。……でも、桃、ちょっと音でかい」
「そっスか?」
「そうだよー。耳悪くなるぞー。だから桃声もでかいんだよ」
「……関係ねーと思うんスけど」
「とにかく、もちょっと音落とせって」
「へーい」
適度な音量まで下げると、菊丸は黙って曲を楽しみだした。
お互い会話はなくてもいい空間が心地よい。
しばらく曲を聴いているうちに、肩に僅かな重みがかかった。
イヤホンをしていない方の耳が捉える菊丸の寝息。
あーあ、寝ちゃったよ。
と桃城は声に出さずにつぶやいて、小さく笑った。
起こさないように身動きもしなようにしていると、肩にかかる重みが少し増えた。
菊丸の髪が頬を擽る。
……うっわ、やらけー。
ワックスを使っているというが、それでも柔らかい感触に胸が高鳴った。
普段から触れてみたいとは思うものの、仮にも後輩で、まさか大石や不二や乾や河村や手塚のように頭を撫でるわけにもいかず。
そっと体を動かさないように首だけ少し動かすと、ふわりとシャンプーの匂いがする。
や、やべーかも、俺。
そう思いつつも触れてみたい欲求が抑えきれずに手を伸ばした。
「……ん……」
手が触れる寸前で、菊丸が目を開ける。
お約束。
く〜〜〜っ! あと15cm!
内心の落胆を隠しながら桃城は菊丸に声をかけた。
「起きました? あと5分くらいで予鈴なるっスよ」
「うー……俺寝ちゃってた」
「寝てないんスか?」
「今日提出の課題が終わんなくてさー」
「そんなんで部活大丈夫なんスか?」
「へーきへーき。テニスは別〜」
無造作に目元を擦る仕草も可愛いなどと思いながら、桃城は菊丸らしいと笑った。
「サンキュ、桃。桃の肩枕、寝心地バッチリだったよん」
「肩枕ってなんスか、肩枕って」
「いいじゃん、肩なんだからニュアンスでわかれって」
「へいへい」
「うっわ、桃、かっわいくな〜い」
伸びをしながら菊丸が立ち上がる。
「可愛くない後輩の耳が悪くなんないように、またチェックしてやっかんな」
「また新譜買ったらっスか?」
「あったり〜」
にゃははと笑って菊丸は校舎に向かった。
「また部活でな〜」
後手をヒラヒラと振って。
「ういっス!」
菊丸の姿が校舎に消えて、桃城は自分も教室に帰るべく立ち上がる。
今はまだ先輩後輩以外の何者でもないけど。
いつかは……。
「っし! 気合入れんぞ!」
せめて起きてる菊丸の髪に触れられるくらいに!
志が高いのか低いのかわからない桃城の決意だった。


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微妙〜な桃菊。