「不〜二、絵の具貸して」
美術の時間、菊丸が不二のところにきた。
今日の課題は自由課題で、校内なら何を描いてもいいのだ。
各自てんでバラバラに校内に散ったのに、菊丸はわざわざ不二を探したらしい。
「いいけど、何色?」
「んー、青。校内で見えるもんならなんでもいいんなら、空を描いてもいいワケじゃん?」
悪戯を思いついた子供のような顔で菊丸が笑った。
「……なるほど」
菊丸は美術があまり得意ではない。
器用ではあるのだが、なんというか、たいへん独創的で理解されやすい作風ではないと言うか。
「いいよ。持ってって」
不二が傍らに置いてあった絵の具箱を示すと、菊丸は「サンキュ〜」と言って蓋を開ける。
そのまま不二は自分の絵を描く事を続けていたが、いつまで経っても菊丸が立ち去る気配がない。
「なあ、不二ぃ」
「どうしたの?」
「これ、なに? 変わった色だよにゃ〜」
見ればそれは画材屋に言った折に不二が気に入って買った絵の具で。
「綺麗だろう? 使う予定はなかったんだけど、つい買っちゃったんだ」
「んー……パステル…エナメル?」
「そう。日本だと象牙色って言うかな」
「ふ〜ん。……な、これも借りていい?」
「いいけど……」
空に象牙色はいらないのではなかったかと思ったが、菊丸はすっかりその色が気に入ったらしい。
不二は笑った。
空にどうやってその色を使うのか、興味をそそられもしたし。
そのまま、どこで描いても空だからと言って菊丸も近くに腰を下ろして描き始め、二人は時間内に課題を終わらせるために没頭した。

「で〜きたっ!」
時間ギリギリに菊丸の声がした。
だが不二が見せてと言っても、菊丸にしては珍しく絵を見せてくれなかった。
わざわざ提出の時も不二の後に出すという周到さだ。
そして数週間後、不二は返ってきた絵と、小さな文具屋の袋を渡された。
「こないだはサンキュ。いっぱい使っちゃったから新しいの買ってきた。んでもって、こっちは珍しく評価よかったお礼」
「よかったのに、気を使わなくて」
袋は間違いなくあれと同じ色の絵の具で、絵の方は……。
「英二、これ……」
「へへ〜、けっこう似てるっしょ?」
嬉しげに言う菊丸が描いていたのは不二の顔だった。
「あの色見た時にさ、不二の肌の色ってこんな感じ〜って思ったんだ。だから予定変更して描いちった」
絵はいつものように拙いものだったが、それでも絵の中の不二は柔らかく笑っている。
これが菊丸から見た自分なのかと不二は思った。
「……ありがとう、英二」
嬉しさを押さえきれず、それが逆に言葉にならなくて、不二は思いのすべてを込めて微笑んだ。


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母の日、息子が私を描いた絵をくれました。
……って感じ?(遠い目)