鳳長太郎は急いでいた。
初めての待ち合わせ。
なのに初っ端から遅刻なんて!
緊張でなかなか寝付けなかったからなんて理由にもならない。
もう待ち合わせの時間から1分27秒……29、30、31……ああああ!
休日の人ごみを掻き分けながら、鳳が待ち合わせ場所についたのは、結局待ち合わせの時間から3分14秒過ぎた時だった。
声をかけようとして、菊丸が一心に何かを見つめている横顔に戸惑った。
視線を目で追いかけると、そこにはCDショップの建物につけられた電光掲示板。
淡々と新譜情報を流している。
何がそんなに彼の目を引き付けるのだろうと、自分も凝視してみたがさっぱりわからなかった。
と同時に、一心に見つめられる電光掲示板につまらない嫉妬を感じてみたりして。
ここに自分がいるのに……。なぜあんなものを、あんなに熱心に見るのだろう。
なんて。
菊丸が電光掲示板を見つめるように鳳は菊丸の横顔を見つめる。
その時、隣に立つ気配を感じたのか、菊丸がこちらに気付いた。
「おーとり」
見上げてニコリと微笑む。
その笑顔にか、黙って見ていたことへの後ろめたさがあるのか、鳳は少し頬を染めて視線を泳がせた。
「どうも。……遅れてすみません」
菊丸は駅舎についている時計を見た。
「もうそんな時間かー。はっやいなー」
「あの……何をそんなに熱心に見てたんですか?」
「え? ……もしかして長い間見てた?」
少しばつが悪そうに菊丸が鼻をかいた。
「いえ、そんなことは。……少しだけです」
「そっか」
「それで、あの……」
「んー、あれ。あの電光掲示板見てた」
指で示すそれは、やっぱり鳳が思っていたものと同じ。
「……そんなに面白いですか? あれ」
「や、面白いって言うかさ、たいしたことじゃないんだよ。えーと……あれって電球じゃん?」
「え? はあ……まあ、そうですね」
「うー。なんて言うかさ、あれって文字が動いてるみたいだけど、実際は動いてないわけで、電球がついたり消えたりすんので動いてるように見えてる……んだよにゃ?」
いや、確認しなくてもその通りです。
鳳は頷くことで肯定した。
「そう思って見るとさ、なんかこう……見ちゃうんだよな。電球1個に集中して『あ、今ついた! 今消えた!』とか。当たり前なんだけど、ホント電球がついたり消えたりしてるだけで動いて見えるなーって」
「……なるほど」
鳳はそれは動体視力がいい菊丸だからそう思うのか、それとも動くものを見ると目が追ってしまう習性があるのかと本気で考えつつ、電光掲示板に目を向けて、試しに電球であることを意識してみた。
確かにそう考えながら見れば、ただの電光掲示板と言っても目が離せなくなる。
特に中に切れた電球などがあると妙に気になってしかたなくなったりもする。
先ほど菊丸が見ていたように棒立ちで電光掲示板を見つめる鳳の目の前を、いきなり何かがよぎった。
「おーとり!」
菊丸の腕だった。
菊丸は目の前に立っていたが、ただでさえ身長の大きな鳳が、さらに高いところのものを見上げていたので全然視界に入っていなかったらしい。
「まさか今日は一日ここであれ見てるってワケじゃないよな?」
気のせいか機嫌の悪そうな菊丸が腰に手を当てて言った。
「あ、はい。そうですね。そろそろ行きましょう」
「……おーとりは遅刻してきたんだから、今日は全部おーとりのおごり。決定!」
気のせいではなかったようだ。
もっとも今日は最初からそのつもりでいたのだから鳳に異存はない。
「はい」
「……えー? 年下のクセになんか生意気ー」
どっちなんだ?
鳳は頭を抱えた。
鳳は気付いていなかった。
さっき自分が、電光掲示板を見つめる菊丸に対して思ったことを、菊丸もまたそう思ったことを。


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鳳って、お坊ちゃんぽくないですか。
躾よさそうだし、スマートにエスコートしそう(妄想妄想)