| 柔軟。体力トレ。素振り。ストローク練習。 規定の揃っての練習が終わって、これからは各自別の練習になる。 菊丸はネット練習をしようと、いつものゴールデンなパートナーを探した。 「あ、いたいた。おーい……し?」 いつもなら向こうから練習に誘ってくる大石は、コートの外で越前と話し込んでいる。 「おーいし、練習は?」 二人に近寄っていくと、なにやらフォームだのなんだのと話していた。 「ああ、英二。すまない。今日は越前とロブの練習に付き合うことになったんだ。悪いけど他のやつと練習してくれないか」 「んー、別にいいけど。めっずらしーね」 菊丸が二人を交互に見ると、越前がいつもの不敵な(ふてぶてしいとも言う)笑いを見せた。 「悪いっスね。大石先輩のロブは、やっぱ的確なんで」 「ふーん……。おチビも少しは先輩に教わるってケンキョな姿勢になったのかな〜?」 「ま、そういうことっス。大石先輩、やっぱ実践でいっスか」 菊丸のからかい口調にもそっけないほどの態度で軽くかわして大石をコートに誘う。 あまりにあっさりしすぎて拍子抜けする反面、なんとなく越前の態度に納得がいかない。 怪訝な顔で二人を見送る菊丸に不二が声をかけた。 「英二。空いてるんなら僕と練習しない?」 「あ、不二。いいの? 俺、ネット練習したいんだけど」 「いいよ。僕はネット際をチョロチョロする相手を蹴散らす練習をするから」 不二はあくまでも朗らかな笑顔である。 「……にゃ〜んか引っかかるけど、まいっか」 実際、その後の練習は、お互いに本気で相手を抜いてやる! と燃えた面白い練習になった。 だから、むしろたまにはいいなと思ったのだが。 「おーいし」 「あ、ごめん。今日も越前と……」 菊丸は我慢した。 大石の性格を考えれば、後輩に頼られて嬉しくないはずはないし。 なんたって越前は目つき悪くて態度も悪くて生意気だけど一年だし、自分は三年で先輩だし。 それに帰りは大石と帰ろうと思えば帰れたし(大体は大石が鍵当番のこともあって菊丸が先に帰ってしまうのだが)。 「もしかして、越前って大石に気があるんじゃない?」 昼休みに不二が言った。 菊丸は口に入れようとしていた玉子焼きを弁当箱に落として、さらにそのまま目を丸くして固まった。 「な、なに言ってんの、不二。おチビも大石も男じゃん」 「んー、別にいいんじゃないの? 恋愛は個人の自由でしょ」 「や……でも……だって……」 「それに越前って帰国子女なんだろう? それじゃもっとそういうのは気にしないかもね」 不二の顔は完全に笑っていて、どう考えても菊丸をからかっているのは明白だったが、ショックを受けている菊丸は全然まったくまるっきりわかっていなかった。 菊丸はしばらくの間、弁当箱に落ちた玉子焼きを敵のように睨んでいたが、突如顔を上げて言った。 「ダメ! 絶対ダメ! 大石には可愛くて、ちょっと控えめで、練習とかもフェンスの側とかまで来れないくらいちょっと内気な子が似合うの!」 「……英二ってさ、二人のお姉さんいるわりに、まだ女の子に夢持ってるよね」 「なんだよー、悪い?」 「いや、別にいいけど」 まんま大好きなお兄ちゃんへの態度と変わらない菊丸に、不二は内心安堵していたが、そこはもちろん顔に出すようなことはしなかった。 そして不二はそういう風に菊丸を突っついた事を後々まで後悔することになるのだが、今はまだ知る由もないのだった。 そして。 別にいつもいつも大石といるわけではないが、逆にいつも大石と越前が一緒にいて、自分が入る隙がないような態度をとる越前に菊丸のイライラは溜まる一方だった。 そして、一週間ほどして、大石と帰ろうとする菊丸に越前が平然と 「あ、菊丸先輩、今日は大石先輩借りるんで」 と言うに及んで我慢の限界が爆発した。 「もー! なんだよ、おチビ! ここんとこずーっとじゃん!」 「そっスか?」 「そうだよっ!」 「ふ〜ん……」 越前はゆっくりと菊丸を上から下まで見下ろして、また顔まで見上げてみる。 「なんだよ!」 それだけでもう爆発してしまった菊丸はイライライラ。 しかも越前は追い討ちをかけるように、いつもの小馬鹿にした顔でふふんと笑った。 「別に。でも、先輩には関係ないんじゃないんスか」 「関係なくないっ! 大石はみんなのおかーさんなんだかんな! おチビが独り占めしちゃダメなの!」 もう地団駄を踏みかねない勢いだった。 そして焼きもちを妬いてくれたのかと期待した大石のハートは即座にずたぼろだった。 焼きもちは焼きもちでも、コイビトのではなく、お母さんをとられた子供の焼きもちでは……。 「ふ〜ん……別に俺は先輩でもいいけど? 大石先輩の代わりにあんたが付き合ってくれんの?」 「……なんで俺がおチビに付き合わなきゃいけないんだよ」 「怖いの?」 「な、なんで俺がおチビに付き合うの怖がんだよ!」 「へ〜え、菊丸先輩は保護者がいないと後輩と付き合うのも怖いんだ〜」 馬鹿にしまくった口調である。 「さすが越前。やはり人を怒らせて挑発することにかけては天才だな」 いつの間に、どこからともなくわいて出た乾がメモを取りながら呟いた。 さすが青学に『壁に耳あり、障子に目あり、いたるところに乾あり』と言わしめるだけのことはある。 「……嬉しくないっス」 だが脳みそが沸騰してしまっている菊丸は乾の姿も目に入っていなかった。 あんなにでかいのに。 「おー! どこへでも付き合ってやろうじゃないか!」 「お、おい、英二……」 この時の菊丸は言ってしまったので引き下がれない半分、純粋に越前にムカつく半分で、大石(お母さん)をとられた焼きもちも、不二の爆弾発言も、もうとっくにどこかへ行ってしまっていた。 そしてニヤリと笑った越前の『してやったり』といった表情にも全然気付いていなかったのだ。 「……越前」 咎めるような口調で大石が越前に声をかけた。 「なんスか?」 「何か魂胆があるんだろうとは思っていたけど……まさかこういう手段に出てくるとはな」 「将を打たんとすれば、まずは馬からって国語で習ったんで」 本気なんだか冗談なんだか、平然と答える越前。 「……俺が馬かどうかはさて置いて、あまり強引なことはするなよ?」 「嫌っスよ」 「越前!」 「俺は大事にしすぎたあげくに、兄弟や母親みたいに思われるのなんて真っ平なんで」 「くっ……」 思いっきり図星を刺されて大石は言葉に詰まった。 「もう! 二人でなにワケわかんない話してんだよ! 」 そして菊丸が切れた。 二人の会話を聞いてわからない菊丸も菊丸である。 「英二!」 くるっと菊丸の方を向いて大石は菊丸の肩を掴んだ。 「行かなくていい! 英二が行く必要はまったくないんだ!」 「……うるさい」 きっぱりと言った大石に、菊丸は座った目を向けた。 「大石は黙ってて。行くって言ったんだから行くの! 男に二言はなぁ〜い!」 ただでさえ負けず嫌いの菊丸は、制止されて余計に燃え上がった。 「じゃあまずは……うちにでも行こうか。やっぱり親父には紹介しとかないとね」 「おう!」 勝ち誇った顔の越前にも気付かず、桃城から噂で聞いていたコートの練習に付き合わされるのかと菊丸は思った。 まずは親父さんに挨拶ってことは、けっこう礼儀とかちゃんとした家なんだな、と、見当違いも甚だしいことこの上なしである。 越前の言う『後輩 と 付き合う』と、菊丸の言う『おチビ に 付き合う』の差が、菊丸にもはっきりとわかったのは、越前宅で越前が「これ、俺の恋人」と爆弾発言をかました後だった。 |
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| 王子はもっとストレートに勝負に出そうな気もしますが。 デルタということで、素直に(?)三角関係にしてみました。 |