カタンカタン……。
夕暮れの町を電車が走る。
窓にうつるのは、くたびれた顔をしたサラリーマンの自分。
しかし夕暮れにぽつりぽつりと灯る明かりを見ていると、これから帰る家で待っている笑顔を思い出した。
思い出したら気持ちが明るくなった。
あの笑顔のためなら明日も頑張れる。
つまらない仕事だろうと、きつい仕事だろうと、あの笑顔を思い出せば乗り切れる。
体も頭の中も一週間の疲れでくたびれていたが、不思議と気分だけは軽かった。


「っちゅー夢見てん」
「へえ……なんだか感慨深い夢ですね」
感心した顔で頷いてくれたのは、名実共に人の良いと言われる鳳だけだった。
ここは氷帝学園テニス部部室。
「そうや。やっぱり愛は偉大っちゅうことや」
「てめぇの親父ドリームはどうでもいい。何が言いたい」
唸るように跡部が言った。
親父が見る夢。すなわち親父ドリーム。
「ああ。ちゅうわけで、ちょお青学行ってくるわ。監督には適当に言うといて」
「なんでですか?」
鳳が首をかしげた。
他の面子は余計なことを、と眉をしかめたが、肝心の鳳には全然通じていなかった。
「決まっとるやん。愛と笑顔を手に入れに行くんやて」
氷帝の面子は、入学して知り合ってから初めて見る忍足の爽やかな笑顔を見た。
心底震撼した。
「ほな、そういうことで」
足取りも軽く部室を出ていく忍足を止められる者は誰もいなかった。
その代わりに跡部は携帯を出して短いメールを打った。



その後、青学についた忍足は無人のテニスコートを見て、自分の運のなさを嘆いたらしい。
しかしその裏では第二次忍足警戒警報が発令されていたことは、当人(忍足と菊丸)だけは知る由もなかった。


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せ、せめて通学電車なら……っ(涙)