ベッドの隣に敷いた布団に寝転がって菊丸はゴロゴロ落ち着かなく寝返りをうっている。
嬉し恥ずかしの初お泊り。
「電気消すよ」
「あ、うん」
乾がドアの側のスイッチを消して、部屋は真っ暗になる。
すぐに外の僅かな明かりでぼんやりと部屋が浮き上がった。
「踏むなよ〜?」
乾が移動する気配がして笑いながら言った。
「大丈夫だって。……おっと」
わざとらしい声で乾が菊丸の足を踏む。
「こら〜」
足にしがみつくと、乾はバランスを崩しかけた。
もう一歩、菊丸の体がないところに足を踏み出して体勢を整える。
「危ないじゃないか」
「乾がわざと踏むからっしょ」
「ほら、寝るんだろう。手を離せ」
「や〜だよ〜ん」
しがみついた左足に頬までつけてみたりして。
「今すぐ離さないと、俺が暴走する確率98%なんだが?」
「すいません。ごめんなさい」
パッと手を離した菊丸に苦笑しながら乾は自分のベッドに入る。
本当は嫌なわけじゃないけど、でもやっぱりまだちょっと……。
明日は休日だけど午後から練習あるし。
いくら、いつもの朝練よりゆっくりとはいえ、初めての後に練習っていうのはやっぱり難しいと思うし。
……やっぱり痛いんだよなぁ。
菊丸は布団の上に座ってベッドに頭をつけた。
「英二? 寝ないのか?」
「ん〜……」
肯定でも否定でもない返事を返す菊丸に、乾は菊丸の方に体を向ける。
「どうした」
「ん〜……ん〜……なんか話して」
したいわけじゃないけど、したくないわけでもなくて。
痛いのは嫌なんだけど、でも乾に触れたり触れられたりするのは好きで。
菊丸の頭の中でグルグルと回る思考は、乾の声が聞こえると、なんだか落ち着いて全部どうでもいい気持ちになった。
なるようになる。
そんな気にさせてくれる。
「話…………乾汁のレシピでも言うか?」
「……やだ。悪夢見そう」
「う〜ん……」
乾が考え込む。
文句を言うでもなく、真面目に考えてくれる乾に、菊丸は無意識に微笑んだ。
甘やかされてるなと思う。
「昔昔、あるところに男が一人住んでいました」
そして何の脈絡もなく昔話を始めた乾に、今度は思いっきり噴出した。
「……嫌ならやめるけど」
「ううん。いい。もっと話して」
菊丸はまだ笑いの残る声で続きをせがんだ。
「……ある日、男は仕事の帰りに、罠にかかっている白い鳥を助けました。そしてその夜遅く、一人の女が男を尋ねてきました」
淡々と話す乾の声は気持ちいい。
段々と緩やかな眠気が菊丸を覆っていく。
しかし……何かが引っかかった。
「そして、嫁にしてくれと言い、はたを織るから道具を一式揃えてくれと言いました。そして奥の、普段は物置にしている部屋に道具をしつらえると、自分がはたを織っている間は決して覗かないようにと言いました」
「………………」
「そしてその夜、女が一人で部屋に篭ると、部屋からはドンガラバッタン、ガラガラ……と物音が」
……やっぱり何かが引っかかる。
「翌朝になり、男は嫁が出てくるのを待っていたが、いくら待っても出てこない。とうとう昼過ぎになって、我慢できずに男が部屋をこっそりと覗くと、そこには……」
そこには?
「買ったばかりのはた織り機も、それまで物置に入れてあった家財道具も一式すべてなくなっていた」
……さすがの菊丸も落ちが読めた。
「乾……」
菊丸は目を閉じたまま、半分眠りかけた声で乾の話ををさえぎる。
「ん?」
菊丸はズルズルと布団に崩れ落ち、もそもそと掛け布団をかぶりながら言った。
「ダジャレ落ち禁止」
男が助けた白い鳥は鷺(サギ)だったと。
なんと言うかもう、いい意味でも、悪い意味でも体の力が抜けた。
そして緊張して一気に弛緩した菊丸は即座に眠りに落ちた。
一人取り残された乾は、憮然とした表情で
「バレていたか」
と呟いた。
乾としては、妙に緊張している菊丸を笑わせようと思っていたわけなのだが。
ここでそういう話を持ってくる辺り、微妙に甲斐性があるのかないのかわからない乾だった。


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お題が苦しいんです……くだらないのはそのせいなんです〜(涙)
い、一応、アニメのホラー(ほら)ダジャレ落ち禁止にもかけてみたり……?