いつもの学校の帰り道。
でも今日はいつもとは違う。
いつもよりもゆっくり歩いて帰る道。
「て〜づかっ」
「ん?」
すぐ隣を歩く手塚が菊丸の方を向いた。
「……なんでもな〜い♪」
「そうか……」
菊丸はへへっと笑った。
とても嬉しそうに笑った。
呼べばすぐに聞こえる場所にいること。
呼べばすぐに返事が返ってくること。
とても他愛のないことが、こんなに嬉しいなんて。
隣を歩く手塚の顔も、今はいつもよりも穏やかだ。
道がわかれるところに来て、手塚が菊丸を止めた。
「おい。そっちは違う。お前の家はこっちだ」
菊丸は少し跳ねるように手塚の家の方へ向かう道に歩いて振り返った。
「いいんだよ〜ん。今日は俺が手塚を送ってくんだからさ」
「……お前の家に帰るには遠回りになるだろう」
菊丸はまた前を向いて歩き出しながら小さくつぶやいた。
「……だからじゃん」
手塚は一瞬虚をつかれ、それから足早に菊丸に向かう。
先ほどまでと同じようにゆっくり歩く菊丸に追いつくのはすぐだった。
再び並んで、手塚は前を向いたままで、いつもより若干早口で言った。
「だったら、あまり先に行くな」
声が照れてる。
それがわかる。
前だったら気付かなかった些細なことに気付くようになった。
それも二人の距離が近くなっているように感じて、また菊丸は笑う。
それきり黙ったまま二人は歩いた。
突然。
菊丸が手を叩いた。
パチ、パチと。軽く。
手塚が怪訝そうな顔を向ける。
「どうした?」
菊丸は笑いながら手塚を見上げた。
手を叩いた手はそのまま前に出したまま。
「歌を思い出したんだよ」
手塚は更に怪訝そうな顔をする。
菊丸は小声で歌いだした。
その歌は手塚も幼稚園で歌った覚えがあった。
一番を一通り歌って、菊丸は歌に合わせて手を叩いた後、
「というワケで態度で示してみました」
とおどけるように笑った。
「な、手塚も叩きたくなんない?」
首を傾げて顔を覗き込む菊丸に、手塚は視線をそらす。
「いや……」
「だったらさ」
と菊丸が言いかけた時、ふいに菊丸の手が暖かく包まれた。
菊丸は慌てて暖かい手を見下ろし、次に手塚を見上げる。
手塚は頑なに前を向いたまま、菊丸と視線を合わせることはない。
「俺は……叩くより、こっちの方がいい」
ジワジワと菊丸の頬も赤くなる。
そして菊丸も前を向いて、二人は黙ったまま歩いた。
手塚の家に着き、今度は手塚が菊丸を送ると言って譲らずに、片手で自転車を曳きながら菊丸の家にたどり着くまで、ずっとその手は離れなかった。


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わかりやすい(子供っぽい)誘いをする菊丸と、決して理解して誘いにのるわけではなく、天然で菊丸の望みをかなえてしまう手塚……。