忍足が台所でコーヒーを入れて戻ってくると、菊丸が不思議なことをしていた。
靴下を脱いでいるのはいつものこととして(鬱陶しいと部屋にくるとすぐに脱ぐから)、自分の足先を撫でている。
「……自分、なにやっとるん?」
菊丸の分のココアをテーブルに置くと、菊丸は真面目な顔で忍足を見上げた。
「あのさ、足の、小指とか小指の爪とかってさ、いっつも忘れてるじゃん。なんかこー…いっつも存在感なくて、そんで何の役にたってるのかもわかんなくてさ」
忍足は隣に座ってコーヒーを飲みながら聞いている。
顔が『それで?』と訊ねる。
「でも足の小指とかってぶつけるとすっっっごい痛いんだよね。あれって、小指が俺のコト忘れんなーって自己主張してんのかなって思ってさ」
「自分……」
忍足はコーヒーを置いた。
「ぶつけたんやな?」
「………………一昨日、ちょっとね」
菊丸は目をそらしつつ、両方の足の小指を撫でながら『忘れてないぞー、覚えてるぞー』と唱えている。
忍足は笑いを堪えながら菊丸の足首を掴んだ。
「え? ……うわっ!」
忍足の顔の高さまで上げると、菊丸はバランスを崩して慌てて両手をついて体を支える。
「英二が忘れとっても俺が覚えてるし。あんまり英二のこといじめんといてな」
そのままチュッと軽く小指にキスをした。
「って、なにーっ!? ちょっ、き、汚いって!」
「なに言うとん。他のヤツならともかく、英二の足やん。汚いなんてことあらへんて」
慌てて足を引こうとする菊丸だったが、忍足はわざと離さない。
ニヤリと笑うと、からかわれてるのがわかったのか菊丸がムキになって足を引く。
そのまま軽いもみ合いみたいになって。
ガツンと忍足の足がテーブルにぶつかった。
「うわ!」
軽くだったので痛みなどもなく、それよりもテーブルの上の飲み物が揺れて忍足は慌てて菊丸を離して、テーブルの上をうかがったが、幸い揺れる程度で零れることはなかった。
「隙ありっ!」
菊丸が忍足の足に飛びついた。
曲げていた足を無理矢理伸ばす。
……まさか。
「忍足が俺の小指のコトばっか気にするから、きっと焼きもち妬いたんだよ」
チュッ。
「その分、お前のコトは俺が覚えてるから、あんまり忍足イジメんなよ」
忍足の足の小指に向かって言い聞かせる菊丸は、反撃できてご機嫌だ。
すぐに忍足の足を解放して、『ココア、ココア〜』とテーブルに向かう。
「自分なぁ……」
なんだか押し殺したような忍足の声に、菊丸は訝しげな顔を向けた。
「我慢できんようになるから誘うような真似するなて言うたやんか」
「ぎゃーっ! 誘ってないっ!」
極至近距離で、逃げる菊丸、追う忍足。
狭い空間で激しい攻防戦が繰り広げられた。



結果、結局コーヒーもココアも思いっきりぶちまけられて、忍足は菊丸に怒られながら掃除に精を出す羽目になったのだった。


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なんていうか……バカップル?