ゲームを始めようとしていた不二が振り返った。
「英二、これセーブしていい?」
「いいよー」
さっさと簡単に終わらせてしまった不二と違い、菊丸はぐったりと宿題を書き込んだノートに突っ伏していた。
「あれ? 容量足りないみたいだ。ちょっとセーブデータ整理してもいいかな?」
「んー」
ぐったり。
ただでさえ苦手な数学を終わらせた菊丸は、まだ頭の中に数字が回っているようである。
わからないところは不二が教えてくれるとはいえ、不二の先生は実はかなりスパルタさんなのだ。
カチャカチャとボタンを押していた不二だったが。
「英二、このデータ消していい?」
菊丸は机に伏せたまま、顔だけをテレビに向ける。
「あ、それはー……前、みんなでやった時、タカさんが『またみんなで続きやりたいね』って言ってたからおいといてー」
「そう。じゃあ、これは?」
「それはこないだタカさんがやったヤツで、たぶん続きすると思うから……」
「じゃあ、これ」
「それはタカさんがやりたいって言ってたゲームのクリアデータで、それあると楽になるからコピーしたげようと思ってるんだ」
「じゃあ……」
「タカさんの」
「じゃあ」
「タカさんが」





「……………………セーブしなくていいや」
「いいの?」
「うん。いいんだ」
「そっか。いいんならいいや」
えへ。
笑う菊丸はいつも以上に可愛くて、それが不二はますます気に入らなかった。
「今度、新しいメモカ買っとくね」
「英二ってさ、タカさん好きだよね」
半ば呆れたように呟く不二に、菊丸は嬉しそうにまた笑う。
「うん! タカさんって普段は優しいし、バーニングしてる時はカッコいいもんねー。アナゴも食わせてくれるし、なんか理想の兄ちゃんって感じ」
……しかも自覚なしときた。
不二は知っていた。
ブラコンとも言えるほどの(同時にシスコンでもある。もちろん、どちらも自分のことは棚に上げるのは忘れていない)菊丸だが、ゲームやマンガやおやつにご飯、そういう日常的なことでは、いつも兄弟でケンカに近いほどの取り合いをしているのだ。
(もちろん、弟可愛さに譲ってしまう兄たち(及び姉たち)の方がブラコン度数が高いのは言うまでもない)
それが河村のために貴重なデータ容量を死守しているなんて、なにが『理想の兄』なんだか。
兄が聞いたら怒るぞ。
けっ。
そんな心境だった。
だが、もちろん、その兄二人(実在)に勝るとも劣らない英二コンの不二が、それを表に出すこともない。
というか、そういう自分にまで鈍い菊丸が、なおさら可愛いと思う時点で、不二もかなり終わっていた。

しかし菊丸がトイレに立った隙を見て、メモリーカードを抜いて、差していなければ見えない位置に油性マジックで『タカさん専用』と書いておく。
それが不二にできるささやかな(ささやか過ぎる)報復だった。


SStop 100Top Top nfTop



書きたかったタカ菊が書けて満足。
……これがタカ菊か? というツッコミはなしの方向でお願いします。