| バレンタインデー。 男子も女子もなんだかそわそわして、浮き足立ってしまう日。 好きな人がいればなおさら。 そんな楽しげな日に、菊丸は部室に呼び出された。 呼び出した相手は不明。 ただ机の上に『放課後 部室』と書かれた手紙があったのだ。 女の子からじゃないと思う。 なんとなくだけど、雰囲気で。 そして道中も色々女の子から声をかけられつつたどり着いた部室では……。 「遅かったじゃない、英二」 不二がにこやかに待っていた。 いや、不二だけじゃなかった。 青学レギュラーを筆頭に、氷帝・山吹・不動峰・聖ルドルフ、それだけならまだしも、遠くからわざわざ立海に六角まで。 見覚えのある面子が片っ端から揃っていた。 はっきり言って部室に入りきってない。 「……な……ど、どしたの? すっごい全員集合」 「まあ、それは置いといて」 目を丸くした菊丸の質問をさくっと流して不二が部室の中に誘導する。 「あっれー? これ、どしたの?」 部室のテーブルの上には、可愛らしくラッピングされた箱が置かれていた。 「これはね、英二のだよ」 不二がにこにこと説明する。 「俺の?」 「そう。それでね……」 シュルリ。 「それが英二ので」 カサカサ。 「英二がそれを渡すとしたら」 ゴソゴソ。 「誰にあげたいか……って、英二!?」 パクっ。 「んぐ……んっまーい」 速攻で包みを開けてチョコを口に放り込んだ菊丸に、さすがの不二も開眼した。 実を言えばこのチョコレート。ここにいる全員で金を出し合って買ったもの。 いい加減菊丸の気持ちを知りたい面々に、バレンタインデーというのはいいチャンスだったのだ。 わざわざ菊丸がチョコを用意してプレゼントするなんてことをするとは思えず、仮にしたとしても誰にも言うこともないだろうということで用意したのだ。 たとえ誰が渡されても恨みっ子なしという条件で。 ちなみに買いに行かされたのは青学の2年と1年。ぶっちゃけて言うと桃城・海堂・越前の三人だった。 (海堂は、それはそれは嫌がったのだが、桃城の『なら、お前はもらう権利なしな』という言葉に、そりゃもう沈鬱な顔で買いに行ったらしい) そこまでして用意されたチョコレート。 「え、英二……」 「ん? これすっげ美味いね」 ニコニコとチョコを食べる菊丸に、誰も何も言えなかった。 「……もしかして食べたらダメだった?」 しーん……とした部室に、菊丸が慌てて手に持っていたチョコを箱に戻す。 しゅんとした菊丸に、その場全員の心はひとつになった。 「いや、かまわないよ」 だって美味しそうに食べる菊丸が、とんでもなく可愛かったから。 これはもう全員から菊丸へのプレゼント。 それでいいや、と思ったのだ。 ……いや、そう思うしかなかったのかもしれないが。 「ホント?」 うんうん、と全員が頷いた。 「ところで、これ誰からのプレゼント?」 「僕からだよ」 「ちょっと待て、俺からのでもある」 「ふざけんな。俺からだ」 「俺からもっスよ!」 「俺もだ」 「俺もや」 「俺も忘れないでね」 口々に主張を始める各人を見、菊丸はにっこりと極上の笑顔を見せた。 「……みんなからってことだね。みんな、あんがと。すっごい嬉しかったよ」 それだけで全員がいっせいに口を閉じた。 恐るべき笑顔だった。 本当は、菊丸はこのチョコレートのちゃんとした意図に気付いていた。 だから不二の言葉を待たずに食べてしまったのはわざとだ。 こんな状況になって、誰かにあげる、なんてできるわけない。 口ではなんて言ってても、絶対に何か被害はでるだろうし。 それに、こういうことは当人同士が知ってればいい話で、わざわざ皆いるところで、なんてヤダもんね。 いつか本当にチョコをあげたいと思う人ができるまでに、この騒ぎがなくなってるといいな、と菊丸は小さくため息をついた。 |
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| まだ菊丸には好きな人がいない(or自覚してない)状況です。 ちょっと子悪魔風味? どっちかというと、恋愛云々よりみんなでいる方が楽しいお子様って感じかな。 |