中学生の主な移動手段と言えば自転車である。(一部例外を除く)
それは菊丸も例外ではなかった。
しかも今は誕生日にMB(マウンテンバイク)を買ってもらったせいもあって、用事があろうがなかろうが乗りたくて仕方がない時期なのだ。
もちろんオフロードを走ることなどないから(わざわざ山まで乗っていく気も、持って行く気もない)オンロード用のタイヤをはかせたものだが、今までの兄のお下がりではなく自分専用のMB!

その日も姉の『英二、お塩買ってきて』の言葉に、待ってましたとばかりにMBを走らせる菊丸だった。
特に指定されてもないのに、わざわざ遠くのスーパーを目指す菊丸は、走らせて眺めのいい川べりを走らせていた。
前から来る風も、幾分冷たいけど気持ちがいい。やっぱりMBは違うのだ。
と、隣にすいと自転車が並び、そして追い抜いていく。
同じ年頃の男の子が乗った普通の自転車だった。
なんとなく菊丸は速度を上げた。
すぐに追い抜く。
が、また追い抜かれる。
むっ。
追い抜く。
追い抜かれる。
追い抜く。
追い抜かれる。
すでに菊丸の頭の中に買ってくるべき塩はなかった。
今はこの敵に勝つことだけがすべてなのだ。
ここで『いつから敵になったんだよ』とか『どこがゴールでいつ勝つんだよ』とかいう疑問は差し挟んではいけないのである。
それは野暮と言うものなのだ。
勝負の前では。
すでに曲がるべき角すら越えていた。
しかし勝負はつかない。
ムキになってペダルをこぐ菊丸は、兄から教わった技を試す時だと思った。
脅かすのにいいと言われていたのだ(ろくなことを教えない兄である)。
もっとも兄だって、まさかやるとは思わなかっただろう。
一気に抜き去り相手のまん前に出る。
多少の距離をもっていきなり前輪のブレーキをかけた。
シュッと地面を擦る音と共に後輪が大きく持ち上がる。
いわゆるジャックナイフといわれるテクニックである。
後でビックリしたような声が聞こえた。
狙い通り!
しかし菊丸は思いっきり初心者だった。
やり方も兄から聞いただけである。
前輪のブレーキはロックしてはいけない。あくまでロック寸前でなければならないのだ。
ついでに言えば、全力疾走してやるものではない。
勢いあまった自転車は前転しそうになり、慌てた菊丸がそれを止めようとバランスを崩し、一気に横に倒れこんだ。
すぐに、すぐ側で自転車が止まる気配がした。
「だ、大丈夫かい?」
息が詰まる衝撃に耐え、痛むあちこちを無視して菊丸は声の主をキッと睨み上げた。
敵に情けは受けない!
たとえ衝撃と痛みに涙目であっても。
菊丸は全力で立ち上がり、MBに跨って走り出した。
幸いMBはどこも損傷がないようだった。
さすがMB。
全速力で走り去るMBを見送りながら、この勝負のライバルが
「……か、かっわい〜。今日は超ラッキーだったかも」
と呟いていたことも、もちろん菊丸の耳には入っていたなかった。

そして、その勝負のずっとずっと後に、菊丸の後輩がかたきを討ってくれることも、それが奇しくもジャックナイフというテニスのテクニックであることも、すでに塩すら忘れ去っている菊丸が知るわけはなかった。



危険なので、他の人の側でジャックナイフはやめましょう。


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Q:なんで素直に桃城君関連のネタを使わないのですか? A:捻らないと負けた気がするからです。
Q:なんで一々捻るんですか? A:習性だからです。
ちなみにジャックナイフというプロレス技もあるようです(調べるなよ)。