待ち合わせ場所で顔を合わせると、忍足はいきなり菊丸に顔を寄せた。
「な、なに!?」
驚いて身を引いた菊丸に、忍足は軽く笑う。
「いや、ええ匂いするなぁて思て」
「あ、やっぱ匂う? 出掛けに姉ちゃんにひっかけられたんだよー」
ひっかけって、と笑う忍足に、菊丸は自分でもくんくんと匂いを探ってみるが、自分についているせいか、鼻が慣れてしまったのか、いまいちよくわからなかった。
「なんか、すっごいめかしこんでるから、デートなんだーって言ったら、プシって」
そういう自分もデートのくせに、菊丸は自分を棚に上げる事は忘れない。
肩を並べて歩きながら、菊丸はしゃべり続ける。
会えなかった間を埋めるように。
もっとも、メールや電話はしていたのだから、しゃべって埋めることは何もないのだが。
「これね、葡萄の葉っぱの匂いなんだってさ」
「葡萄の葉っぱ?」
「うん」
へえ、と呟いて、忍足はまた菊丸の首筋に顔を寄せる。
今度は菊丸も驚いたり慌てたりはしなかった。
「葡萄の葉って、こんなええ匂いするん?」
「そんなにいい匂いしてんの?」
「んー、どうやろ。俺はただ自分の匂いが好きなだけかもしれんなぁ」
後半は小声で囁いて、忍足はさりげなく寄せている菊丸の首筋に軽く唇を触れさせた。
「うひゃあ!」
奇声を発して菊丸が慌てて身を引く。
「なっ、なにすんだよ、こんなトコで! もー!」
「なにて、匂いかいでただけやん」
「うー……」
人の悪い顔でニヤリと笑った忍足に、菊丸は反論の言葉に詰まって悔しそうに唸る。
「……忍足のスケベ」
ぷいっと顔を逸らして歩調を速める菊丸に、忍足はすぐに余裕で追いつく。
「アホやな。惚れとる相手にスケベにならんと、誰にスケベになれっちゅうねん」
「うう……」
まったく悪びれない忍足に、菊丸はまた唸るのみ。
菊丸はさっきチラッとだけ『忍足がそんなに好きなんだったら、これ買ってもいっかにゃー』なんて考えたことを、綺麗さっぱり忘れることにした。

結局、葡萄の葉だろうが紫蘇の葉だろうが、恋人同士にはイチャつく材料にしかならないのだった。


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やっぱり短いですが、久しぶりにゲロ甘ってことで。
ちなみに菊丸がかけられたのはDEMETERのGrape Leafってやつです。