| 「っはよー、宍戸!」 にこにこと待ち合わせの大きな公園の入って少し歩いた休憩所(のような所)で先に来ていた菊丸が手を振った。 「………………」 今日は宍戸と菊丸はデートなのだ。 付き合い始めてからひい、ふう……通算で三度目のデート。 もちろん、付き合う前から一緒に遊んだりはしていたものの、やはりトモダチと遊ぶのと、コイビトと遊ぶのでは若干感じるものが違うのだ。 嬉し恥ずかしのデート! にもかかわらず、対する宍戸はこれ以上ないほどの仏頂面だった。 「今日はどこ行こっか。宍戸どっか行きたいとこある?」 にこにこにこ。 その満面の笑顔がどこか『がんばって笑ってます』に見えるのは、まんざら宍戸の気のせいではないと思う。 「あ、あの……お、はよう…ございます」 ギロリと睨まれて、恐る恐る挨拶をした鳳は首をすくめた。 「長太郎、ちょっと来い」 指一本で呼びつけると、菊丸がブーイングを発したが、宍戸の視線一発で大人しく黙った。 自覚はあるらしい。 少し離れて会話の聞こえなさそうな距離で鳳を睨み上げる。 ここで下から睨み上げなければいけないのは、ちょっと威厳に欠ける気はするのだが、身長の問題は誰に文句を言う筋合いでもないのであきらめるしかなかった。 「長太郎、なんでいるんだ。あ?」 宍戸の目はすっかり据わっていた。 なにしろ、前回のデートの時にも同行していて、その後学校で散々言葉を尽くして『もうついてくんな』と伝えたはずだったのだから。 「いや、その……菊丸さんに『お願い』って言われちゃって……はは」 困ったような、しかしどこか嬉しそうな顔で頭をかく鳳に、宍戸は仏頂面から苦虫を26匹くらい噛み潰したような顔になった。 菊丸の『お願い』は凶悪だ。 甘え上手、おねだり上手の末っ子は、あの手この手でお願いを押し通す。 そしてその『お願い』に逆らえる奴は菊丸の周囲にはいない。 もちろん一方的な我儘ならともかく、菊丸の場合はそれなりに理由があったり(それがまた可愛かったり)、他愛のないことだったりして、きいてしまうのもやぶさかではないと思えてしまう『お願い』なのが一層性質が悪かったりする。 ちなみに、初回のデートでは不二が一緒で、不二の場合は意図的に二人を離そうとするものだから最悪だった。 さすがにそれには罪悪感が働いたのか、次は鳳だったところが宍戸への気配りが見えるというか、そもそも気配らなければいけないことをすんな! というか。 大体なんでわざわざデートに第三者を同行させなければならないというのか。 これは以前の友達付き合いの時にはなかった。 とすれば、コイビトとして二人きりになりたくないという、遠まわしなんだか、わかりやすいんだかわからない意思表示に他ならないわけで。 「………………はぁ」 宍戸は大きなため息をつくと、くるりと踵を返した。 「宍戸さん?」 「帰る」 「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」 「好きにすりゃいいだろ。俺は帰る」 「待ってくださいって! き、菊丸さん、菊丸さーん!」 鳳は本気で来た道を戻ろうとする宍戸を止めようと、思いっきり羽交い絞めにして大声で菊丸を呼んだ。 宍戸は羽交い絞めを振り切れない後輩の馬鹿力に思いっきりムカつきながらも、待ち合わせを駅前とかではなく、それなりに人の少ないところで助かったと思った。 「なになに? どうしたの?」 パタパタと寄って来た菊丸に、鳳がかくかくしかじかと説明をすると菊丸まで一緒になってしがみついてくる。 「来たばっかじゃんか! なんで帰るんだよーっ!」 「っせーな、ホントは帰りてーのはお前だろーが!」 「なんで俺が帰りたいんだよ!」 「俺と二人になんのが、そんなに嫌なんだろーがよ。だったら俺が帰ってやらぁ!」 つくづく人が多いところじゃなくてよかった。 「いつ誰がそんなコト言ったんだよ!」 「言ってなくてもあからさまだろーが!」 「しょーがないじゃん! あれから宍戸といると心臓バクバクいって死にそうになんだから! 俺が死んだらどーすんだよ!」 「そんなんで死ぬかよバカ!」 「わかんないじゃん! バクバクいいすぎて心臓がパーンっていったら俺死んじゃうんだぞ! 宍戸は俺が死んでもいいんだなっ!」 「だから死なねーっつってんだろーがよ! だいたいそんなんで死ぬんだったら、俺なんかとっくに墓ん中だってーの!」 「なんだよ! 俺置いて勝手に死ぬなよ、宍戸のバカーっ!」 「まだ死んでねぇ!」 鳳はそっと宍戸を羽交い絞めてる腕を外した。 それにも気付かず、なおも言い合う二人。 かなり『なんだかな』な気分である。 鳳長太郎十三歳(早生まれなので)。生まれて十三年で初めて『馬に蹴られる』もしくは『犬も食わない喧嘩』という慣用句の、これ以上はないと思われる具体例を目の当たりにした気分だった。 もちろん、鳳はそんなものを見たいと切望していたわけではないことを明記しておく。念のため。 そして、これ以上馬に蹴られるのも、犬も食わないものを食わされるのも遠慮したい鳳はこっそりとその場から立ち去ることにした。 一度はとことん二人で言い合った方がいいのだろう。 ……いつも言い合っているのを見ている気はしたが、それは気のせいだ。たぶん。 離れてからメールでも送ればいい。 でもこれで二人のお供をすることもないのかと思うと、それはそれで少し残念なような気がしないでもない。 それでも、その方が二人にいいんだと自分を納得させた。 その後、鳳の思惑通り、菊丸から鳳に『一緒に遊ぼう? お願い』をされることはなかった。 できたてホヤホヤの恋人同士は、それなりに恋人同士なお付き合いができるようになったらしい。 |
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