いきなり後から抱きつかれた。
いきなり抱きつくのは菊丸の専売特許のようなもので、逆にされるとこれ以上ないくらいビックリした。
「キクマルエイジー!」
聞き覚えのない声に菊丸は一生懸命抱きついてくる手を振り解いて相手を見る。
「…………へ?」
ものすごく意外な顔。
全然想像もしてなかった。
「あー……アクタガワ……だっけ?」
「ジロー」
ニコニコと氷帝3年レギュラーの一人である芥川は自分を指差す。
「えっと……久しぶりー……だよにゃ?」
「うん! ジロー」
ニコニコニコ。
「あう……で、ジ、ジロー? はなにやってんの、ここで」
ここは青学から菊丸の家に向かう途中にある公園。大きくはないものの、児童公園ほど狭くもないし遊具もない。
なんだか調子が狂う。
普段は自分からやってることをされたせいなのか、ノリを持ってかれてるからなのか、なんだか腰が引けてしまうのだ。
「俺ねー、エージに会いにきた」
嬉しそうに。
「さっきまでそこで寝てたんだけど、エージの気配したから起きたんだぜ!」
嬉しそう……というよりは、なんだか褒めて欲しくて尻尾を振ってるみたいな感じ。
「えーと……」
よくわからなくて、とりあえず褒めなきゃいけないような気がして頭を撫でてみた。
「へへ」
嬉しそうだ。
……わからない。
「あの……なんか俺に用事?」
「うん! 天気よかったから!」
「……へ?」
会話が……会話が繋がらない。
菊丸は途方に暮れて辺りを見回したが、救いの手はどこにもなかった。
「だからデートしよう!」
すかさず手をとられて。
「ちょ、ちょっと待てって! もー、ワケわかんない!」
ぶんぶんと手を振っても握られた手は離れない。
「なんで俺が芥川とデートすんだよ! デートっていうのは恋人同士がするもんじゃん!」
「ジロー。そんで、コイビトになって」
速攻だった。
「俺、すっげーエージ好き! だからコイビト! なっ?」
なっ? じゃなくて……。
「……なんで俺なんだよー。俺全然芥川のこと知んないっての」
「ジロー」
案外しつこい。
「俺、エージのこと考えると眠くないんだよ! これってすっげーんだぜ?」
確かにそれは氷帝内ではものすごいことなのかもしれないが、あいにく菊丸は青学で、ついでにいえばあまり他校の内情にまで興味はない。
したがって、どこがどうすごいのかよくわからなかった。
「……でも不二との試合の時も、そんなこと言ってたようにゃ……」
「えっ!?」
芥川は喜色満面感激感動な顔で菊丸を見た。
「それって焼きもち!? くーっ、エージに焼きもち妬かれちゃったよ! 超ーうれCーっ!」
「……や、それ違うし」
事実を言っただけで、なんでこんなにメーター振り切られなきゃいけないんだろう……。
菊丸はもう何をどう言っていいのやら
ピ・ピピ……。
「あ、不二? 俺、ジロー。イエ〜イ! 聞いて聞いて! あのさ、俺、エージに焼きもち妬かれちゃったよー!」
いきなり電話してるし。
「あ、そんじゃこれからエージとデートだか……あれ? 切れちった。……まいっかー」
入れ違いに菊丸の携帯が鳴った。
まさに救いの神!
『もしもし、英二? どういうことさ。大体なんで氷帝の芥川が僕の携帯番号知ってるの?』
「不ー二ぃー、たすけてー」
『え、英二? ちょっとしっかりして。ね? 』
半泣きの菊丸に、怒ってたはずの不二までオロオロし始める。
「もうワケわかんないー」
涙でウルウルの菊丸の頬に暖かい手が触れた。
驚いて顔を上げると、そっと芥川が菊丸の涙を唇で吸い取る。
思いがけない優しいしぐさ……というか『普通いきなりするか、そんなこと』と驚きで菊丸の涙も止まり。
しかし優しい触れ方に相反して芥川からでた言葉は……。
「泣いてるエージ、超かわEー! 俺、もームラムラしてきたーっ!」
せんでいいっ!
『もしもし? 英二? もしもしっ!?』
携帯からは必死な不二の声が聞こえていたが、すでにもう菊丸は携帯のことなんか思い出すこともできなかった。
「よぉーっし、ヤるぞー!」
やんなくていいからっ!
っていうか、なにを!?
『もしもし! もしもし!』
思いっきりつかまれた腕を引っ張られて歩き出す。
超ご機嫌の芥川と。
超混乱中の菊丸と。
わめいてる携帯と。
行く先はまだ全然見えなかった。


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