誕生日。
誕生日だからって特別な意味はないと思う。
昨日も今日も俺は俺だし。
でもやっぱりお祝いされると嬉しいんだよね。
プレゼントがついてるともっと嬉しいけど。
でも、それはトモダチとか家族とかなんだよね。
あ、プレゼントの話。
クラスでは昼休みにたくさんもらったんだ。
弁当のおかずとかパンとか。
死ぬほど腹いっぱいになった。
嬉しいんだけどね、ちょっと苦しかった。
まあ、それはいいんだけど。
なんでこんなコトぐちゃぐちゃ言ってるかというと、肝心のいっちばんお祝い言って欲しいヤツがなんにも言ってくんないからで。
俺の誕生日なんて絶対知ってるはずなのにさ。
じゃなかったら、なんのためのデータだっての。
……いや、テニスのためのなんだけど。
でもさー、でもさー…………でもなんだよ。
やっぱコイビトならさー……あ、うん。乾とはコイビトとして付き合ってんの。
……って、ぎゃー、恥ずかしいー!
付き合いはじめて全然まだまだだから、コイビトなんてぴんとこないし、そういうの恥ずかしいんだけどさ。
うーん、やっぱ乾の誕生日にあげたのがシャーペンの芯だったのがいけなかったのかな。
乾がいつもみたいにデータノートつけてて、芯が切れたって言ったから俺のシャーペンから一本。『そういえば今日、乾誕生日だよな。んじゃこれはプレゼントってことで』って。
……やっぱダメか。
だって、あん時はまだコイビトとか、もう全然普通のトモダチだったしさ!
「英二」
うーん……今からでもなんか渡した方がいいのかな?
「英二」
でも乾、なにが欲しいんだろ。俺の小遣いで買えるモンならいいけど、乾だったらなんかパソコンのパーツとかそういうの欲しそうだしなー。
「英二」
「うにょわぁっ!」
いきなり耳元で乾の声がして、俺は飛び上がった。
「耳んトコでしゃべんの禁止だってば!」
耳押さえて振り返ると、乾は笑いを噛み堪えてるみたいな顔して『悪い悪い』と誤った。
「だけど考え事をするのは着替えてからにした方がいいんじゃないか?」
へ?
そういえば練習終わって着替え始めて……あはは、シャツのボタンまだ全開だよ。
「ん、そうするー」
うわ、鳥肌立ってる。
もそもそとボタンをはめる俺に乾は苦笑してた。
「英二、着替え終わったら一緒に帰らないか」
「うん!」
そそくさとボタンをはめて、荷物を纏める。
乾が俺の誕生日覚えてても覚えてなくても、一緒に帰れるのはやっぱ嬉しいもん。
俺ん家、乾ん家とはちょっと方向が違うから、すぐ分かれ道来ちゃうし、普段はあんまり一緒に帰ったりしないんだよね。
俺は不二と帰ることが多いし。
急に乾とばっかり帰るのって、なんか……付き合ってますって感じで恥ずかしいじゃん。
「お待たへ」
ラケットバッグをかつぐと乾は『じゃあ』と言って部室を出ていく。
俺もみんなに挨拶してすぐに追いかけた。

分かれ道に着いたら、乾は『送っていくよ』と言った。
俺は女の子じゃないけど、最初に言われた時にそう言ったら、乾は『そういうつもりじゃないよ。送っていったらそれだけ英二と長くいられるから』って言ったんだ。
だから『送ってく』って言葉は、今日はもう少し一緒にいようってコト。
「ねね、乾はなんか欲しいモンある?」
いつもよりゆっくりのスピードで歩きながら乾に話しかける。
乾は少し首を捻って考えた後に
「物でなくてもいいならあるよ」
って言った。
「なになに?」
「秘密」
「ずっりーの」
「ははは……」
教えてくんないなら調べちゃうもんね。
「英二」
乾がちょいちょいと指で示したのは、俺ん家の近くのちっちゃい公園。
実は乾に好きだって言われた場所。
やっぱ俺の誕生日覚えててくれたのかな。
なんかドキドキする。
プレゼントなんていらないから、覚えてるってコトだけでも言って欲しい。
公園は小さくて、ちゃんとした電灯とかもないから、道からの明かりだけでちょっと薄暗い。
「英二」
乾がなんか真面目な顔をして俺を見た。
「誕生日おめでとう」
「ありがとう!」
やった! やっぱ覚えててくれたんだ。
「覚えててくれたんだ。なんも言ってくんないから覚えてないのかと思った」
「そんなわけはないだろう。……それでプレゼントなんだが」
あ、もしかしてプレゼント用意してなかったってコトなのかな。
そんなん気にしなくていいのに。
「いいって、いいって。覚えててくれて、おめでとうって言ってくれただけですっげー嬉しいし」
「あ、いや……」
なんだか乾は歯切れが悪い。
「乾ー、単刀直入!」
これは俺が乾は回りくどすぎるから単刀直入に言えって言ったから。
乾は降参って笑いながらカバンから何か紙袋を取り出した。
「英二のデータは好きなものや好きな色も調べてあるんだが……」
渡されたのは軽い、柔らかいものが包まれてる紙袋で、ちゃんとリボンがかかってた。
なんだろ?
「開けていい?」
「もちろん。それは英二のだからね」
ウキウキしながらあけると、中にはみかん色のニットの帽子。
「データで英二の好きな色はわかっていたんだけど、それを見た瞬間、英二に似合うなと思って」
頭に手をやって乾は言った。
なんだか謝ってるみたいだった。
「気に入らなかったら使わなくてかまわないから」
なんて言って。
もー! ホント乾ってたまにすごくバカだよね。
もしかして、このコト気にして今日、今までなんも言わなかったワケ?
俺はニット帽を被って乾に見せた。
「似合う?」
「……ああ」
乾は一歩下がって俺の全体を見た後に嬉しそうに言った。
「似合うよ。思った通りだ」
「へへ……」
なんか改めて言われると照れる。
「でもさ、やっぱ乾のデータってすごいよにゃ〜」
「ん?」
「だってさ、今日から俺、この色大好きな色になったもん」
これは本当。
だってさ、データ最優先の乾が、自分のデータ無視してまで俺に似合うって思ってくれた色なんだもん。
そりゃ好きになるでしょ。
「英二……」
「データの先行入力……なんちって」
あはは、と笑った次の瞬間、俺は乾の腕の中にいた。
ビックリ。
乾すっげー早業。
「英二……いいかな?」
「へ? な、なにが?」
「英二があんまり可愛いからキスしたくなったんだけど」
ま、真顔で言うなーっ!
それに男が可愛いなんて言われても嬉しくないね。
……ドキってしたのはキスなんて言われたからだもんね。
俯こうとした顔は、乾の手のひらで片方の頬を押さえられてできなかった。
いいかな、なんて聞くわりに強引だぞ。
でも……
「やっぱ乾、バカ。そんなん聞……」
くなよって続けようとした言葉は、乾にふさがれて言えなかった。
やっぱ強引。
でも嫌じゃない。
男にキスされても、可愛いなんて言われても、イライラするくらいおめでとうを言ってくれなくても。
好きなんだからしょうがないのだ。
「俺は確かに馬鹿かもしれないけど」
俺の唇に触れた乾の唇が動いてる。
「俺が馬鹿になるのは、英二のことだけだと思うよ」
俺は色々と思い当たることを思い出してしまう。
だから一言だけ色んな気持ちを込めて返した。
「……バカ」


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