カレンダー。
365枚分、日付とそれぞれの猫がポーズを取ってる猫めくり。
海堂がくれた。
そっけない学食の紙袋に入れて。
あの強面で、しかも結構周りの目を気にする海堂が買ったのかと思うと笑いがこみ上げてくる。
ラッピングしてもらった方が恥ずかしくないと思うのだが。
おそらくラッピングしてもらう間、待つのが耐えられなかったのだろうと菊丸は思った。
パラパラと順にめくる。
海堂はテニス部の中で唯一、普段菊丸が抱きついたりしない相手だ。
もちろん、やってみたことはあるのだけど、困ったように固まる海堂が気の毒になってしまった。
同級生への対応を考えると、上級生ということで遠慮してしまっているのだろうと思う。
ペラリ。
抱きつかなければいいのかと思って、普通に話しかけたこともあったけど、やっぱり海堂はぎこちなくて。
他の三年とはもっと普通に話してるのに。
乾なんてペアまで組んじゃったりしたのに。
別に大石になんの不満もないし、やっぱり自分のパートナーは大石だと思うけど、でもやっぱり海堂とペアを組んだ乾が羨ましかった。
ズルイとさえ思った。
挙句の果てには、威嚇されてケンカする桃城が少し羨ましいとまで思ってしまった。
ペラリ。
本当はもっと話してみたかった。
テニスのことも、考えてることも、色々。
なんにでも真っ直ぐに向き合って、すごく真剣に考えている海堂を見ていると、自分もがんばらなくてはと思う。
だからもっと話したり、色んなことで近づいてみたかった。
……でも、固まるんだもん。
ペラリ。
しかし!
「もらっちゃったんだもんね〜」
正直、今日もらったたくさんのプレゼントの中で一番嬉しかった。
「えへへ……」
思い出すたびに笑みがこぼれる。
ペラリ。
「あ、そうだ」
菊丸はペンを取り出した。
来年の海堂の誕生日にはなにかプレゼントしよう!
苦手だと思われてると思って、今年は言葉しかあげられなかったけど、くれたんだからあげても嫌がらないはず!
菊丸はゆっくりめくっていたカレンダーの5月11日のところをめくった。
『今日くらいは思い出してください』
「……え?」
几帳面に整った字。
「海堂って、字、キレイなんだー……じゃなくてっ!」
まさかメッセージがあるなんて思わなかった。
もしかして、だからラッピングされてなかったのだろうか。
「……あ!」
もしかして、もしかして、来年の菊丸の誕生日にもなにかメッセージがあるのではないか。
来年の分のお祝いの言葉もあるかもしれない。
菊丸は慌てて11月28日をめくる。
わずかに開き癖のついた11月28日のところは、菊丸を待ちかねたかのように自ら開いた。
そこにはお祝いの言葉はなく、でも代わりにもっと思いがけない言葉。
『好きです』
小さく、でもはっきりとど真ん中に。
「………………うそ」
見間違いじゃないかと目を擦るが、何度見直しても文字が変化することはなかった。
「どうしよう……」
なぜか菊丸はカレンダーを閉じ、それからまた開いた。
もちろん11月28日。
「いや、どうしようじゃなくて」
また閉じる。
「………………」
開く。
ハッと気付いて携帯をとり出した。
電話帳を検索する。
レギュラー(元だけど)の携帯番号は全員分入ってる。
海堂の番号はすぐにみつかった。
ふと、菊丸はかけかけた携帯を下ろす。
海堂は菊丸がすぐにカレンダーを見なかったらどうするつもりだったのだろう。
もしかして見ないことを前提に書いてあったとしたら?
「………………」
菊丸は携帯を仕舞った。



週明け、菊丸は海堂にカレンダーを渡した。
菊丸がもらったのと同じ猫めくり。
そのために週末、文房具屋と雑貨屋を回ったのだ。
最初はギクッとした顔をした海堂に、菊丸は『やっぱり』と思った。
「誕生日プレゼントのお礼だよん。海堂もこういうの好きっしょ?」
と言うと、ほっとしたように、でもやはりぎこちないままで『かえって気を使わせたみたいですんません』と言って受け取った。
わざと袋にも入れずむき出しのまま渡した。
そうすれば海堂は絶対にすぐに仕舞いこんで、見るのは家に帰ってからにするはず。
賭けに勝てば、きっと今夜、海堂から電話がくるだろう。
負けたら…………その時のことは考えるのをやめた。
きっと電話はくる。
だから本当は賭けでもなんでもないのだけれど。
でも万一のことを考えたら賭けなのだ。
午後の授業中も、練習中も、家に帰ってからも、ずっと落ち着かなかった。
電話がこなかったらどうしよう。
電話がきたらどうしよう。
どんなに考えても悩んでも時間は止まることもなく。

9時58分、菊丸の携帯が鳴った。
賭けは菊丸の勝ちだった。



5月11日
『忘れられたくなかったら ずっと側にいろ』
11月28日
『俺も』


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