| プリプリのエビフライとフワフワオムレツの乗った特製オムライス。 俺の誕生日には必ず晩御飯はこれ。 しかも俺のだけエビフライは2匹をくっつけて超特大にしたやつ! これ食べると誕生日なんだなーって思う。 単純かにゃ? ま、いいのだ。 そんでみんなからプレゼントもらって。 それが毎年恒例の俺の誕生日。 今日もいつものそんな誕生日をすごして、プレゼント抱えて部屋に戻ったらタイミングよく携帯がなった。 表示を見なくてもわかるけど、やっぱり忍足だった。 でも今日はいつもより早いな〜。 「もしもし」 『俺や』 「うん」 いつもの挨拶。 表示出るのわかってるのに、律儀に俺って言うんだよね。 や、俺も言うんだけど。 『もうパーティ終わったん?』 「うん。今、部屋戻ってきたトコだよ」 『ああ……それは……』 忍足はなんか小声で呟いて、それは俺には聞き取れなかった。 『……自分、今日誕生日やん』 「うん。明日お祝いしてくれんだよね」 明日は半日練習があって、午後は休みなんだ。 そしたら忍足は一日練習が休みで、だから忍足んち行ってお祝いしてもらう約束してる。 『なあ、前、俺の誕生日ん時、自分むっちゃ一生懸命考えてくれたやん』 う……それはあんまり胸を張って言えることじゃないので忘れて欲しいんだけど。 だって結局プレゼント決めらんなくて、後で一緒に買いに行ったんだもん。 『あれ思い出したりとかしとったら……なんや……』 忍足はちょっと言いよどんで、それから小さく笑った。 『なあ、今外見られる? 玄関の方』 「え? うん」 急にどしたんだろ? 俺は携帯を耳にあてたままカーテンを開けて外を見た。 『下。前の道路んとこ』 「って、ええ!?」 そこには忍足がいた。 自転車止めて、壁にもたれるようにして。 『自分のことばっかり考えよったら、どうしても顔見ておめでとう言いたなってん』 忍足は笑いながら手をヒラヒラと振った。 『誕生日おめでとさん』 離れた場所からじっと俺を見つめたままで、忍足は言った。 なぜか忍足の方が嬉しそうだった。 「ちょ、ちょっと待ってて!」 慌てて部屋を出ようとしたら、忍足はあっさりと 『自分は出てこんでええよ』 なんて言った。 「なんでっ」 『寒いやん。言いたいこと言えたよって、俺もすぐ帰るし』 もーっ! 「イジワル言うな、バカっ!」 携帯を切って、フリースのジャケットと、マフラーと、あとひざ掛け代わりのハーフケットを持って階段を駆け下りる。 どこ行くんだってちい兄に、ちょっと出てくるって言って、靴もちゃんと履かないで、とにかく急いで外に出た。 これでもう帰ってたら絶対怒るよ俺。 「忍足っ!」 忍足はやっぱり壁に寄りかかったまま待ってた。 ちょうどポケットに携帯を仕舞ったとこだったみたい。 「自分、なんて格好しとんの」 言われて見下ろせば、部屋着代わりのGパンにトレーナー、足なんか裸足にスニーカーを突っかけただけだ。 でも……すぐ帰るって言う忍足が悪いんだもんね。 むーっとした顔で言いたいことがわかったのか、忍足は勝手に俺が持ってるフリースのジャケットを俺の肩にかける。 「これは忍足が着るんだって」 フリースに手をかけようとしたら、忍足に止められた。 「頼むし着とって。見とる方が寒うなるわ」 その代わり、自分はマフラーを貸してもらうからと言ってさっさとマフラーを首に巻いちゃって。 なんか……なんかズルい。 「ちょお、こっち来」 靴ちゃんと履いてなって言われて、ケンケンしながら家の横の細い路地に入った。 ここ、細いし電灯ないから、普段はあんまり夜は通らないんだよね。 忍足は横に並んでハーフケットを二人の肩にかける。 「これなら二人とも暖かいやろ?」 ……なんかなー。 なんか……なんかなんだよなー。 俺は返事をしないで毛布の端を持ってる忍足の手を持って、体の向き変えて……。 「こっちの方が全然暖かいもんね」 俺の手は忍足の背中に、忍足の手は毛布の端持ったまま俺の背中に。向かい合ってくっついて毛布でくるんでできあがり♪ 「な?」 って見上げたら、忍足は少し困ったように笑ってた。 「やだ?」 「やっちゅか……こんな引っ付いとったら我慢できひんくなって困るやん」 「イジワル言ったお返しだもんねー」 「意地悪って……電話切る時も言うとったけど、俺なんぞ言うたかいな」 「言ったよ! 出てくるなとか言ってさー」 「したって寒いやんか。自分風邪引いたらどうすんの」 顔と顔もすぐ側だから、なんとなく内緒話するみたいに声小さくて。 でも全然それで聞こえる距離が嬉しい……なんてね。 「それがイジワルなんじゃん。忍足はこうやって寒い中来てんのにさ」 「それは……俺が顔見て言いたかっただけやん」 「だからぁ、俺も忍足がいたらこやって近くにいたいの!」 そんなに背は変わんないはずなのに、顔上げただけじゃ足りなくて、ちょっとだけ背伸びして忍足にチュってキスした。 実は俺からしたのは初めてだったりして。 一瞬呆気にとられた忍足の顔がふっと緩んだ。 ……うん、柔らか〜く緩んだって感じ。 「なんや、俺の誕生日みたいやな」 こつんって額がくっついた。 「……俺だって自分からしたいんだよ」 「いつもは? してくれたん、これが初めてやん」 「いつもは……俺がしたいなーとか、しようとか思う前に忍足がしちゃうんじゃん」 「……そうやな」 ……なんか深く納得してるよ、この人! 忍足は少し笑った後、そのまま顔を寄せた。 俺は忍足が少しだけ顔を傾けたくらいで目を閉じた。 そっと唇が触れる。 ……冷たい。 どんだけ外にいたんだ、バカ! 何度も唇で俺の唇を噛むみたいにして柔らかく合わされるそれを温めたくて、自分からも唇をすり寄せたら、今度は上と下の唇の間を軽く舐められた。 うわ、今背中がぞくってした! あ、寒いからじゃないから。 って、俺、なに自分突っ込みいれてんだよー。 半分ワケわかんなくなっちゃったけど、俺は意を決して唇を少しだけ開いた。 一瞬だけ動きが止まった後、忍足の舌が入ってくる。 唇は冷たかったのに、舌は温かくて変な感じ。 口の中をあっちこっち舐められて息が苦しくなってくる。 だって……なんか口の中なのに、こう……背筋にくるっていうか、ドキドキするような感じで……。 「……ん…」 って、今の声誰!? うわーん、あんな甘ったれた声なんか俺の声じゃないー。 絶対違うんだかんね! なんて俺の抵抗もむなしく、忍足の唇が離れた時はもう俺はてれてれでぐにゃぐにゃだった。 「はあ……」 なんとなく大きく息をつく。 ……ベロチューしちった。 なんか顔を見るのも見られるのも恥ずかしくて忍足の肩の辺りに頭を預ける。 「今日はダメて言わんやったな」 忍足の笑いを含んだ声が耳元でした。 くすぐったいです。 「………………だから」 ぽそっと呟いた声は忍足には聞こえなかったらしい。 「うん?」 「だから……誕生日だから」 忍足はまたクスクスと人の耳元で笑った。 くすぐったいんだってば! 「ちょっと大人になった、いうわけやんな」 その通りだとも。 ……威張ることじゃないけどさ。 俺が小さく頷くと、忍足は俺の背中をゆっくり撫でながら 「残念やなぁ。ここが俺の部屋やったら、もっとしっかりばっちり大人にしたったのに」 と、忍足が(←ここ重要)ものすごく残念そうに言った。 ……思い出した。 明日は忍足の部屋でお祝いしてもらうんじゃん。 俺は思いっきり甘えてみた。 「忍足ぃ。あのさ、明日だけどさ……」 「ん?」 嬉しそうな忍足の声。 「プレゼントはいらないから、お祝いは外でよろしく」 がっくり。 忍足の肩が下がった。 そっかぁ。肩が下がるって慣用句だと思ってたけど、ホントに下がるんだー。 なんてのん気なこと考えてみたりして。 でもさ、だってさ、ホントはこれだってけっこう勇気いったんだよ。 しかもすっごい恥ずかしいし、照れるし、これ以上なんてとてもじゃないけどムリ。 「これ、忍足が着てって。風邪引いて明日寝込んだら押しかけ看病に行っちゃうぞ」 俺が着て暖まったフリースを押し付ける。 きっと明日はやっぱり忍足の部屋でお祝いしてもらうことになると思う。 や、大人になるお祝いの方じゃなくて! 忍足は俺が本当にイヤだって思ったらガマンしてくれると思うし。 だって、やっぱり俺だって忍足と二人きりで引っ付いてたいもんね。 でも今は言わないけど。 ハーフケットは俺が持って、フリースを着る忍足を見てた。 「ほな借りてくわ。また明日、やな」 「うん。練習終わったら連絡する」 「待っとる」 「あ……」 もう一度だけ、俺から忍足にキスをした。 ちょんって触れるだけのやつ。 忍足の唇はもう冷たくなかった。 「ん、満足。じゃ、また明日な」 忍足はなんだか複雑そうな顔でゆっくり自転車に向かった。 「……ほんま、かなわんわ」 それから、どっちがどっちを見送るかで、もうひともめしてみたり。 妥協案でせーのでお互いに帰ることにした。 誰かが見てたらバカだって思われるかもしんないけど、でも俺達は全然本気だった。 家の中に入った俺は、言われて靴はちゃんと履いてたけど、やっぱり裸足の足はめちゃめちゃ冷たくなってて、でも背中と唇はいつまでも暖かいまんまだった。 |
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