菊丸が家に帰るために校門へ向かうと、なにやら校門辺りで妙に女の子が騒いでいる。
なんだろうと思いながら校門を出ると、すぐにわかった。
なぜなら騒ぎの原因が声をかけてきたからである。
「きっくまっるく〜ん」
後にハートマークでもついているかのような弾んだ声は聞き間違えようがなかったが、菊丸は心の底から聞き間違いであって欲しいと思った。
明るいオレンジの髪に、鮮やかなピンクのリボン。
それもでっかいやつ。
そんなものをつけたのが、自分のコイビトだとは思いたくなかった。
たとえコイビトと呼ばれる関係になって、ほんの3日目であろうと。
とりあえず菊丸は速攻で人目のないところへ千石を引きずっていくことにした。
かなり乱暴だったが、この際自業自得ということで有無を言わせる気はない。

「……で?」
「だからさ、今日は菊丸君の誕生日じゃない。そしたらやっぱ、ラブラブな恋人同士のプレゼントとしては定番でしょ」
ニコニコと千石はついでに最近短くなったと噂の鼻の下まで長くして言った。
「プレゼント……」
俺俺、と嬉しそうに千石は自分を指差す。
菊丸は真顔で『返品は可だろうか』と考えた。
「言っとくけど、俺は来年の千石の誕生日に頭にリボンはつけないかんね」
「あ、大丈夫大丈夫。来年までなんて俺がガマンできるわけないから」
あはははは。
くらりと目眩を覚えつつも、やっぱり赤面してしまうのは、たとえどんなに『バカじゃん、こいつ』と思っても菊丸の根底にはラブがあるから。
「だから、はい」
リボンのついた頭を差し出す。
「これをといたら、俺は菊丸君のモノってことだよ」
ほんの少しだけ本気の顔をして千石が囁いた。
「………………」
菊丸は覚悟を決めた。
ゆっくりと手を伸ばしてリボンの端を引っ張る。
軽く結わえられていたリボンはあっけないくらい簡単にほどけて菊丸の手に納まった。
「菊丸君……好きだよ」
嬉しそうな千石の顔が近づく。
しかし……。
ぐい!
「な、なんで〜?」
あとほんの少しで唇同士が触れるというところで、菊丸の手が千石の顔を押して逸らした。
菊丸はニッコリと笑った。
「俺のモンなんだよな?」
「……そ、そうだよ?」
千石の手を取って、手のひらを上に向けさせ、その上に120円をチャリン。
「俺、喉渇いちゃった。あったかいカフェオレがいいな。あんま甘くないやつ」
「へ?」
「俺のモンなら、俺のお願いきいてくれるよね?」
千石ガビーン。
こんな時の菊丸は卑怯なくらい可愛いくて、千石は自分の掘った墓穴に片足を突っ込んだことを悟った。

千石の『誕生日をきっかけにせめてキスまで行っちゃうぞ』計画はもろくも崩れ、その後菊丸のお許しが出るまで千石のパシリ生活は続いたのだった。


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