| 「菊丸! グラウンド10周だ」 手塚のいつもの声が飛ぶ。 菊丸はえーっと、いつもの文句を言った。 しかし文句を言ったところで、ふざけていたのは自分なのがわかっているので、渋々とジャージの上着を脱いでグラウンドに向かう。 それもまたいつものことだった。 しかし菊丸が走り始めてすぐに後ろから追って走る足音が聞こえてきた。 軽快な足音はすぐに追いついて菊丸と並んだ。 「手塚!?」 「ああ」 二人並んでグラウンドを走る。 「なんで手塚まで走ってんの?」 菊丸は不思議そうに訊ねた。 「……今日、お前の誕生日なのは知っているんだ」 手塚は眉間に皺を寄せたままで答える。 二人とも走るスピードは変わらなかった。 グラウンドの10周ごときで息が上がる二人ではないのだ。 「知ってたんだー」 「当たり前だ。毎年お前の誕生日はすごい賑わいだからな」 嬉しそうに言う菊丸に、手塚は苦虫を噛み潰したような顔で言う。 「そいで、なんで手塚が一緒に走んの?」 当然の疑問である。 「……誕生日だからと言って特別扱いはできない。他の者への示しもつかん。だから……」 「もしかして誕生日のプレゼント? これ」 「………………そうだ」 素っ頓狂な声を上げた菊丸に、手塚の眉間の皺が更に深くなった。 菊丸は盛大に吹き出して笑い、しまいには立ち止まって腹を抱えて笑い出す。 「おい……」 手塚はその場で足踏み。 「……ごっ、ごめ……止まんにゃ、い……あは、あははははははっ」 しばらく笑い転げた菊丸は目じりに溜まった涙を拭いながら体を起こした。 たっぷり五分は笑い続けていたはずだ。 「ごめん、嬉しくて笑っちった」 鮮やかな笑顔を向けられると、手塚は視線を逸らして「早く走れ」と菊丸をせかした。 菊丸は走りながらも、何度も思い出してはクスクス笑っている。 手塚はばつが悪そうに眉間の皺を深くしながら黙々と走った。 「……な、手塚」 菊丸が普段よりも更に軽い足取りで手塚に顔を向ける。 「なんだ」 「あのさ、これが手塚のプレゼントなら、俺あと30周走ってもいいな」 手塚はからかわれているのかと思い、不機嫌そうな顔を菊丸に向けたが、菊丸は心底嬉しそうな顔をしていたので 「そうか」 としか返せなかった。 そのまま二人は黙って走り、最後の1周になった時に菊丸がポツリと呟いた。 「でも……でも足りないんだよにゃ……」 「うん?」 「……なんでもなーい」 菊丸はラスト1周のスパートをかけた。 置いていかれた手塚は自分もペースを上げて菊丸を追いつつ、菊丸の言葉の意味を考える。 懸命に考えた。 必死に考えた。 「よぉ〜っし、10周おっわり〜」 菊丸の方がわずかに先に走り終えた。 手塚もすぐにゴール。 息を整えながらコートに向かう菊丸の方に手塚が手をかけた。 「菊丸……」 手塚はわずかに上がる息を数呼吸で整える。 「誕生日、おめでとう」 振り返った菊丸は満面の笑顔を手塚に見せた。 「ありがと、手塚!」 |
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