たったったったった……。
「しっしどーっ!」
ドン!
「……きーくーまーるー、てめぇは」
「なーなー、宍戸何個だった?」
ゆっさゆっさ。
宍戸の文句も聞いちゃいねぇ。
この分では返答するまで他の話は絶対にできない。
宍戸は諦めのため息をついた。
「……一桁前半」
ぼそりと呟いた声に、菊丸は万歳をして宍戸の体を離した。
「やっり〜、勝った!」
そりゃそうだろう。
青学でもトップクラスだろう菊丸なら、一桁前半なんてお話にもならないだろう。
「こんにちは、菊丸さん」
「あ、おーとり、こんちは」
ちゃんと菊丸が返事をする時を見極めて挨拶をする鳳は、よく見ていると言うべきか、ちゃっかりしていると言うべきか。
聞きたいことも聞けて満足した菊丸は先頭をきって歩きだした。
鼻歌なんか歌って、そりゃあもう機嫌のよさ全開である。
「宍戸さん、言わなくていいんですか?」(←小声色)
「ぁあ?」
少し離れて後ろを歩きながら鳳が小声で話しかける。
つられて宍戸も小声で返事をした。
「今年は本命がいるからって、直接言ってきたの全部断ったじゃないですか」
「なっ!?」
宍戸は大声を出しかけて慌てて声を潜めた。
「なんでお前がそれ知ってんだよ!」
「……その話を聞いた人の半分は俺のところに相手を聞きにくるんですよ」
遠い目。
ちなみに、残り半分が跡部を除く3年に分配されたらしい。
「あ、誰かは言ってませんよ。代わりに『とっっっっっっても可愛い人だ』って言っておきましたから」
これなら嘘をついたことにもなりませんよね、と嬉しそうに話す鳳に、宍戸はこっそりとため息をついた。
「どーでもいいが、あいつには絶対言うんじゃねーぞ」
クソ恥ずかしいことこの上なしだ。
「なんでですか? 菊丸さん、すごく喜んでくれると思いますけど」
だから嫌なんだって!
宍戸は心の中で絶叫した。
そんなところを想像しただけで、こっ恥ずかしくて憤死できそうだ。
「いいから黙っとけ」
菊丸さんの喜ぶ顔がみたいのに、とかなんとか呟いている鳳を横目に、宍戸は再びため息をつく。
まったくどいつもこいつも菊丸を甘やかせやがる。
それは尽きる事のない宍戸の悩みだ。
青学は言うに及ばず、この氷帝でさえ、隙あらば菊丸を甘やかす輩が後を絶たない。
自分もまた例外ではないのが更に救いようがないというか……。
「おっそいぞー」
遅れた二人を振り返って菊丸が立ち止まって振り返る。
確かに甘やかしたいタイプなのは否定しないが。
「なに二人でこそこそ話してんだよー」
さっきまでのご機嫌はどこに消えうせたのか、ふくれっ面で睨んでいる。
「あ、あの、すみません」
鳳が声をかける。
「えーと、その、俺が用事を思い出しちゃって、それであの……」
フォローのつもりらしい。
「長太郎はこっから道別れんだと」
「宍戸さん!?」
だが鳳には悪いが宍戸にはちょうどいい。
鳳がいると、いつ何を言われるかわかったものじゃないからだ。
今日は特に。
「えー、残念。今度は絶対一緒に遊ぼうな」
菊丸にそう言われて、鳳も今更違うとも言えず。
「はい。次は絶対に!」
妙に力が入っていたのが気になるが、今は突っ込むべきじゃないだろう。
「それじゃ、また」
「おう」
「ん、まったにゃ〜」
鳳は名残惜しげに道を曲がっていった。

二人になると急に静かになった。
しばらく歩いていると、菊丸がきゅっと宍戸の手を握った。
「あんがと」
小さな呟きは、あえて聞こえなかったことにした。
なにが『ありがとう』なのかわかってしまったからだ。
そして菊丸はすぐに手を離すと、伸びをするように両腕を頭の後に組み
「よお〜っし、今日はチョコがもらえなかった可哀相な宍戸のために、俺が美味っし〜いチョコレートケーキをご馳走してあげよー」
乾にお勧めの店を聞いたんだよん、と笑う菊丸に、宍戸もわざとふて腐れたふりをする。
「もらってないわけじゃねえ!」
「まあまあ、そんなに落ち込むなって」
「だから落ち込んでねーっての」
軽い言い合いをしながらも、宍戸はやっぱり他の人間からもらうチョコレートなんか不要だと思った。
こいつがいれば、いつでも甘ぇや。
そう思ってしまったことは、たとえ鳳にだって秘密だけど。


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