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連載[1313] 宵の君へ

青野瑠璃奈 ☆2016.10/02(日)14:31
『今日からお前は僕の仲間だからね』

___何年たったのだろう。
俺を仲間にしてくれたアイツは、帰って来なくなってしまった。

『ここで待ってて。大丈夫、戻って来るから』

そう言うアイツの顔色は悪くて、今にも倒れてしまいそうだと思ったのを俺は覚えている。病弱で小柄で泣き虫だったアイツを、俺は何年も支えていた。





「ミント…、帰って来いよ」

俺は呟いた。もちろん、人間にはただの鳴き声にしか聞こえないのだろうが。でもアイツなら、俺の言葉をわかってくれた。ミントは、俺に≪ヴェスプ≫という名をくれた。

『ヴェスプはね、遠い国の言葉で宵って意味なんだよ』

ミントは読書が好きだった。俺は文字なんて読めなかったけれど、読み聞かせて貰うのは好きだった。
朝食を食べようと、今いる洞窟を出る。朝日が眩しくて、目が痛かった。ミントがいるはずの病院には、もう近づいていない。アブソル、とりわけ俺のような色違いは特に、不吉だからと追い払われてしまうのだ。





ミントはどうしているだろう。まさか俺を捨てた訳ではないだろうし、病院から出たことすら確認できていないのだ。アイツは、どこへ消えたのだろう。
…本当は分かっている。それでも、考えるなんて辛すぎて、できなかった。必ず戻ると、約束したのだから。
主人を疑うなんて、人間とともに生きるポケモンとしてあるまじき行為だと、山で出会ったリングマが言っていた。彼はトレーナーを事故で失っていた。

「それでも俺は、信じてるからな」

アイツは必ず帰ってくる。俺が待ち続けたら、絶対絶対戻ってきてくれる。
俺は強くなるために旅に出ようと決めた。
ここまでが、2か月前までの話。
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