The lights burn blue


さいの主観がすごくまざってます。そういうのダメな人は気をつけてねv
   
瀬戸口隆之。
 ……この人とはじめて会った時は、お調子者のアホーだと思った。
 「俺、美少年!」が第一声なんだもん。
 そうじゃないことは、すぐにわかったけど……。
 今のところ確実な事は――争いを嫌っている、という事。
 他人の死も、自分が殺すことも、あの人はどっちもダメ。
 後方支援のオペレーター職があの人くらい似合う人もいないけど、武器を手に取って戦うとか、そういうのが元々大の苦手なようだ。
 訓練も、いつも魅力をあげる訓練しかしてないみたいだし、まるで、体力や戦力は自分には必要ないと決めつけてるみたいだった。

 †

「おはようっ!」
 朝、教室でぼんやりしてたら、瀬戸口がだーっと後ろから抱きついてきた。
 なんで毎朝、挨拶がわりに抱きつくのかな、この人。本当は、そういうの、アメリカ人みたいで少し厭なんだけど。
「瀬戸口さん、スキンシップが好きなんですね」
 速水は、自分でも気がつかないうちに、自動的に笑っている。本当はいやだって思ってても、それはもう板についた芸当のようなものだった。
 (あ、また笑ってる)
 ……そう思うと、瀬戸口は何故かちょっとせつなくなる。
 速水はよく、笑って何か誤魔化してるな、というのがバレバレな笑い方をするから――。
 まあ、そんなこと本人に言ってもしょうがないけど。
「スキンシップ? 大好きだよ。特に、かわいい子とは毎日やりたいね」
「じゃあ、早く彼女を作ってくださいね。瀬戸口さんが僕に挨拶する度に壬生屋が睨むから、僕、怖いんです」
 現に、壬生屋は、教室の入り口で、おぞましいものを見るような目つきでじーとこちらを見ている。
「朝の挨拶くらい、好きな子とやってもいいだろ? お前は男の中では一番かわいいし、一番からかいがいがあるんだ。うん」
 ――力説。
「は?」
 かわいい、に対する自覚症状が足りない速水にとって、その言葉は寝耳に水だった。
 瀬戸口は、赤くなる速水を見て面白そうに笑う。
「あ、それと、男同志で友情をふりまいてると、女との争いが未然に防げるコトがあるんだ。まあ、そういうわけだから、これからも宜しくな!」
 それだけ言うと、人の答えを聞かずにクラスから出て行こうとする、瀬戸口。
 壬生屋は、瀬戸口を避けるようにして消えた。
「あ」
 瀬戸口は、急に入り口の近くでこっちに振りかえった。
「あとさ、お前、そんなに頑張るなよ、仕事」
 言おうか言うまいか迷ってたんだけど、つい、やっぱり口をついて出てしまう、その言葉。
「は?」
「お前、絢爛舞踏章取りそうな顔してるから……なんとなく、だけど」
「そうかなあ?」
「だって、いつも笑ってるんだもん。……お前さん、自分の気持ち殺すの上手でしょ?」
「うーん」
「無感情なヤツは敵殺す時も心理的に辛くないから、戦士としては強くなるんだぜ?」
 失礼な人だなー。
 ……と、思いつつも、それすらたいして自分の顔に出ない事に、速水は気が付いてしまった。
「だから、俺が毎日かまってやるから」
 なにがどう「だから」なんだろう?
「……バケモンにだけは、なるな。いいな?」
 そういえば、瀬戸口は、前にも少し悲しそうな顔で、「バケモノ」=「絢爛舞踏」の事を話してくれたことがある。
 敵を三百機撃墜すると貰える、幻の絢爛舞踏章。
 そして、それを貰った人の事を「バケモノ」だと言い、「おまえに毛の生えた程度のヤツ」って言っていた。
 ……なんで、あの人がそんな事を知ってるんだかナゾが残る。
「あ、ののみが校庭歩いてる。そんじゃーな!」
 瀬戸口は、人の答えも聞かないで、ののみを追いかけて、とことこと教室から出て行った。
 ――すぐに、八時四十五分を過ぎた。
 瀬戸口は、先生が教室に入って来ても、戻って来ない。あのまま、家に帰ったのだろうか。あの人、教室に何しに来たんだろう?
 ――ま、いっか……。
 そう思ってから、瀬戸口の口癖がうつってる自分に気がついて、速水は苦笑した。

 †

 ――そのせい、なのかな。

 瀬戸口がしょっちゅう「誰も死なずに済む方法」を考えていたから、なのかな。
 ――自分も、戦闘中に「味方の誰を援護するか」考えながら戦地を視ていたら、戦地に取り残された犬を見つけて、つい庇ってしまった。
 そのことを先生からひどく咎められたけど、絶対に、後悔はしてない。
 ……まあ、そんなことばっかりやってたから、五月の自然休戦も近くなってきたけど、絢爛舞踏章は絶望的だった。

 †

 どぶ川べりを学校に向かって歩いていたら、後ろから、とことこと歩いている瀬戸口の足音が聞えてきた。
 どうしようかなー逃げようかなーと思っていたら、あっちがダッシュで走ってきて、ぎゅーと抱きしめられてしまた。
「おはようっ! 今日も愛、振りまいてるかい?」 
「相変わらず、だね。瀬戸口さんは」
 と、速水は笑う。それはほんとの笑顔だから、瀬戸口もせつなくはならない。
「お前さんも相変わらずみたいね。相変わらずって、いいね」
 瀬戸口は、なんだか満足そうだ。
「……あーあ。絢爛舞踏章なんて、なんだかまるで遠い世界の話みたいね」
 思わず、ため息が出る。
「絢爛舞踏章を取るのは、バケモノだけだ。別に、取れなくても悔やむ必要はないさ。むしろ、バケモノにならなくて済んだ事を喜べよ。な?」
 ――力説。
 あれ? ……言ってる事は解るんだけど、なんでそんなに真剣な顔で力説してるんだろう?
 きょとんとしてたら、またぎゅーと抱きしめられてしまった。
 しまった、やられた。
「まぁ、ゴールドソードくらいは貰ったし、自然休戦の時期に入っても生活には困らないから、いいけど……やっぱり一度はとってみたかったな、絢爛舞踏章」
「そんなものよりさ、やっぱり愛でしょ? 愛。それじゃー今日も学校に愛を探しに行くか」
 と、教室に向かって歩きはじめる。
 愛とか恋とか言ってる瀬戸口はなんだかいつもの瀬戸口みたいで、安心する。
 でも、なんで瀬戸口はそんなに愛が大事なんだろう。
 人って、失ったものしか大事かどうかなんて解らない生物なのに――。
 なんでそんなにいつも愛が足りないみたいな顔してるんだろう。
 しばらくその背中を見てたけど、速水もやがて走り出した。
「ま、いっか……」
 と思ってる自分に苦笑しながら。

 ――END

瀬戸口見てると、マジで「ま、いっか」が口癖になってきます(笑)。

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