帽子×田辺×瀬戸口


さいの主観がすごくまざってます。そういうのダメな人は気をつけてねv
 
 遠坂さんに会うために、はるばる5121小隊へやってきた。
 ……のは、いいんだけど。
 いつのまにか、気がついたら、違うヒトと付き合っている自分がいた。
「愛は無限だ。いつでも、誰にでもそそぐ事ができるのさ〜」
 もっともなようなバカらしいような、微妙な台詞を口にするのが癖の、5121小隊で一番のお騒がせ者――。
 瀬戸口隆之、さん。
 付き合い始めたのは、速水さんが提案した作戦会議がやっと終わったと思ったら、続けて茜さんが彼の作戦を実行しかけたので、彼の作戦を止めるのが大変な日だった。
 だから、告白の時の事を思い出そうとしても、あまり思い出せない。
 でも、瀬戸口さんとはまだ付き合っている。
 本人は気がついてない……と思うけど、あのヒトの目は邪眼だから、多分、何かに憑かれているのだろう。
 でも、日に日に瀬戸口さんの邪眼の気配が消えていくような気がするのは、気のせいだろうか?
 特に、笑ってる時の瀬戸口さんの目は、綺麗な色の瞳……にしか、見えなくなってきた。

 だから、ずっと笑っててほしい、と思っている。

 †

 ある日、持っているだけで戦闘力が大幅に上がるという、憧れの来須先輩の白い帽子を、来須先輩から直接貰った。
 今、士魂号のパイロットをやっているから、どうしても必要だったアイテムなだけに、すごく嬉しい。

 でも、その時から瀬戸口さんがおかしくなった。

 瀬戸口さんは、お昼ご飯の時や、訓練が終わった後に、必ず、
「……来須の帽子、持ってるの?」
 と、聞いてくる。
「えっと、その、はい。持ってます」
「ねえ、それ、なんかと交換してくれないかな?」
 にっこりと笑いながら、帽子を欲しがる瀬戸口さん。
「なんでですか?」
「気に食わない」
「え……?」
「来須の帽子をオマエが持ってるのが嫌なんだ」
「でも、これ、戦闘にすごく必要なんですよ」
「解ってるけど。ね、サングラスあげるから、いいでしょ?」
 ――『サングラス』は、サングラスを集めるのが趣味である瀬戸口さんにとって、最も重要なアイテムのうちの一つだ。
 だから、それを差し出す、ということは、本当に、心底、来須の帽子を自分が持っているのが気に食わないのだろう。
 ……そういえば、瀬戸口さんはしょっちゅういろんな人と争奪戦を起こす。
 一度、猫のブータとでさえ争奪戦を起こしたくらいだ。
 もしかしたら、この学校で一番嫉妬深い人なのかもしれない。
 ――ここは一つ穏便にいこう、と思って、帽子を瀬戸口さんに手渡した。
「ありがとう」
 瀬戸口さんは、嬉しそうに礼を言って帽子を受け取った。
 でも、まだ瀬戸口さんは人の手をじーと見ている。
 貰ったサングラスは、男物だし自分でかけたって絶対に似合わないから、瀬戸口さんにプレゼントしようかどうしようか、って迷っていたのだけれど――。
「……まだ、なにか?」
「んー、それ、すごく気に入ってたサングラスなんだ」
 と、言ってしょぼんとする、瀬戸口さん。
「来須先輩の帽子と交換なら、いいですよ」
「うー、そうか。仕方がない。それじゃ、帽子と交換しよう」
 ほどなく、帽子は手元に戻ってきた。
 でも、瀬戸口さんは、帽子を持っている私の手元を見ている。
「うにゅ……」
 相当、悩んでいるらしい。
「ねぇ、やっぱり来須の帽子、サングラスと交換してくれないかな?」
「ど、どうしたいんですか? 一体」
「――どっちも欲しいの」
「それはダメ、です」
 本当は、サングラスを瀬戸口さんにプレゼントしようと思ってたけど、そうしたら瀬戸口さんが来須先輩の帽子をタダ取りしたことになるから、やっぱり止めた。
「……でも、やっぱり、サングラスも惜しい……」
 瀬戸口さんは、涙目になった。
 私は、若宮さんのビキニパンツも何故か持ってるんだけど、若宮さんとは仲が悪いのを知っているのか、そっちには見向きもしない。
 私が来須先輩から(本当に、どういうわけかよくわからないのだけれど)凄〜く、好かれているのも、瀬戸口さんは知っているのだろうか――。
「決めた」
 悩みぬいた挙句、瀬戸口さんは顔を上げた。
「だってそのサングラス、一緒にデートした時に買ったのだから、一番、大事ヤツなんだもん」
 ……と、サングラスと交換に、帽子を返してくれた。
「えっと、それじゃあ、そういうことで……」
 帽子を手に立ち去ろうとすると、また話しかけてくる。
「うー、うー、でもやっぱり来須の帽子っ……!」
 なんで、帽子ごときでそんなに悩むんだろう、この人……?
 そう思っていたら、外はもう世が明けているのに気がついた。
 もしかしたら、私達は一晩中、サングラスと帽子を交換しあっていたのかもしれない。
「あ。もう朝の六時……」
「……っと、そうだな。じゃあ、また明日、だね」
 一瞬、瀬戸口さんは、帽子の事を忘れたみたいだった――。

 †

 次の日の朝、いつもどおりに登校したら、瀬戸口さんが教室にもう先に来ていた。
 こっちを見るなり、
「おはようっ!」
 と、かけつけてくる。
「来須の帽子、まだ持ってるの?」
 ――また、はじまってしまった。

 †

 それからというもの、来須先輩の帽子は、日によって自分の手の中にあったり、瀬戸口さんが持っていたりする。
 瀬戸口さんが持っている時に戦闘が起きてもすぐに取り返す事はできないから、いい加減にそろそろ諦めてほしいけど、瀬戸口さんは、私が帽子を持っていると、必ず取り返しにくる。
 帽子をくれた本人である来須先輩は――というと。
 今日も、大好きなヨーコさんの所へ、いそいそと出かけていく所だ。
 ヨーコさんは最初、私と来須先輩の仲を誤解してたみたいだけど、誤解はすぐに解けた。
 まだ誤解してるのは、瀬戸口さんだけだ。
 もしかしたら、からかわれてるだけなのかもしれない。
 ――そして、来須先輩は、自分の白い帽子が、今まで百回以上恋人達の間でムダに取り引きされている事なんか、少しも気付いていない。

 ――END

これは実話です。

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