弁当×速水×瀬戸口


さいの主観がすごくまざってます。そういうのダメな人は気をつけてねv
 
「最近、あの二人、熱いのよね」
 加藤と新井木が、そんな話をしながら、じーと一組の教室の中を眺めていた。
 教室で、瀬戸口と速水が、幸せそうに会話を楽しんでいる。
 いつのまにそんなに仲良くなったのか、最近、いつもこうだ。
 速水にはヨーコさんという恋人がいるのに、ヨーコさんはわりとそっちのけ……。彼女が影からせつなげな視線を速水に送っているのに、速水は全く気がつかない、なんて事もよくあるのだった。
 そんな女性達の心を知っているんだか、なんなんだか。
「はい、これ。」
 速水は、顔を赤くしながら、瀬戸口に弁当を渡した。
「俺も、本腰入れるか」
 貰った弁当をよく見ると、女物の包みで綺麗に包んである。それには瀬戸口もさすがに「うはぁ」と思ってしまった。
「……これ、君の彼女・ヨーコさんが作ったお弁当でしょ。そんなの、俺がもらったら、悪いよ」
「でも、僕、おなかいっぱいだから……あげるよ」
 と、速水は恥ずかしそうにはにかんでいる。
「そうか? じゃあ、有り難く頂くよ」
 仕方なさそうに、ヨーコさんのお弁当を、瀬戸口は受け取った。
 速水は、そんな瀬戸口のほうを、優しそうに見ている。
「うーん。速水。俺の愛がたっぷりつまった弁当なら、ちゃんと食べる?」
 瀬戸口は、鞄から今度は自分が作ったお弁当を取り出した。
 速水から料理を習ったおかげで、「家事1」はとっくに取得ずみだから、手作りのお弁当は、わりと自信作である。
 にっこりと笑って、速水に弁当を差し出した。
「わー。ありがと〜! ……嬉しいな」
 速水が弁当を受け取ると、一組の教室が、ざわめいた。
 今までてっきり誰もいないと思ってたのに、よく見ると入り口のあたりに加藤と壬生屋と新井木がいて、ついでにブータも、弁当欲しそうにじーとこちらを見ていた。
「あ、え……え〜えっと、その、というのは、ウソですっ!」
 速水は、慌てて瀬戸口に、瀬戸口のお弁当を返した。
 これで、瀬戸口に、瀬戸口の弁当とヨーコさんの弁当が手渡された事になる。
「そんなに、恥かしがらなくてもいいんじゃないの?」
 瀬戸口は、速水にヨーコさんのお弁当を返すついでに、自分が作った弁当も、こっそりと速水の鞄に入れてしまう。
「……なんだったら、毎日あっちゃんのお弁当を作ってきてあげるよ?」
 瀬戸口は笑いながらそう言う。なんとなく邪悪な笑みに見えるのは気のせいだろうか。
「そのかわり……」
「うわぁあっ!」
 慌てて瀬戸口の顔を手で押える速水。
「タイム・ターイム! こういうことは、人前では言わないでください!」
「なに? ……そのかわり、俺の仕事手伝って、とか言おうと思ってたんだけど。どうして赤くなってるの」
 ……うそくさい。
「仕事ってもしかして魅力の訓練ですか」
 しらけた目つきで速水が問う。魅力の訓練というのは通常トイレの鏡を使って行う、瀬戸口の最も得意とする訓練だった。
(テレパスを使うと、たまに「瀬戸口がトイレで仕事中」と表示されることがある。
 ――ここでは訓練しかできないはずだ。
 もしかしたら、トイレには、彼しか知らない秘密の仕事でもあるのかもしれない……)
「そうだ」
 瀬戸口は、堂々とそう答えた。
 教室が、またざわめいた気がした。

 †

 教室が、真面目な雰囲気になった。
 来須司令が登校してきたのだ。
 来須は、瀬戸口の方を見て、瀬戸口が今日も自分の弁当を持っていないのを知ると、
「…」
 仕方なさそうに、副食にしようと思って買ってきたハンバーガーを、瀬戸口に投げてよこした。
 嬉しそうに、お礼を言う瀬戸口。
「瀬戸口」
「はっ。なんでしょうか、来須司令」
「人を思いやるのは、いい事だ」
 ちらりと弁当を二個持っている速水の方を見る。
「が、自分の分の食料をあげるのはよせ。お前が空腹で倒れたら、部隊の運営に悪影響が出る。」
「……了解しました」
 にっこりと笑う、瀬戸口。
 来須司令は、装備品の調達をする用事があったので、授業をサボって裏マーケットに出かけていった。

 †

 来須司令は、二時間目からやっと授業を受け始める。
 授業をサボって寝ていたら、すぐに、昼になった。
 教室のあちこちから「お昼にいこう!」という声があがる。
 しばらく様子を見ていたら、
「味のれんへ行こう!」
 ……と、言うヤツが一人、いた。
 瀬戸口隆之。瀬戸口は、どうも、自分の食料を持っていないらしい。
 おかしい……ヤツには確か、朝、ハンバーガーをくれてやったはずなのだが。
 そう思いながら、速水の方を見ると、速水はなんと「ヨーコさんのお弁当」と「瀬戸口のお弁当」と「ハンバーガー」を所持していた。
(そんなにたくさんの食料、一人で食べれきるのか、速水。)
 呆れる、来須司令。
 つかつかと、速水の所に歩いて行く。
「ヨーコの弁当をよこせ。かわりに砂糖をやる」
 砂糖は、さっき、裏マーケットでついでに買ってきたもので、もともとお菓子作りが好きな速水にあげようと思っていたものである。
「うん、いいよ」
 速水は砂糖に目がくらんだのか、喜んで来須に弁当を渡した。
 それを持って、瀬戸口の所に行く来須。
「――瀬戸口。人に食料を渡すのは止めろと言っただろう」
「……すみません。つい……なにかあげたくなってしまうんです」
 恥ずかしそうに、瀬戸口は来須から弁当を受け取った。
 次の瞬間。
「食堂兼調理場に、お昼を食べに行こう!」
 ……と、瀬戸口が速水と来須に提案した。
 ……さっき、味のれんに行くって言っていたのに。
 よほど、味のれんで一人で食事するのは嫌だったようだ。いや、むしろ速水と一緒にお昼にしたかったのか。
「いいね、いこう」
 速水は笑うと、瀬戸口といっしょに食堂兼調理場に歩いていった。
 食堂兼調理場につく。
 速水は、瀬戸口の弁当をおいしそうに食べている。
 瀬戸口は、ヨーコさんのお弁当を、おいしそうに食べている。
 弁当を食べ終わると、来須司令は二人を置いて食堂兼調理場から出た。
 ……後ろから妙にムードのいい雰囲気が襲ってくるのは気のせいだろうか。
 もし食堂兼調理場に戻っても「おのれ〜」と思われるに決まっているので、そのまま前進。
 食堂兼調理場の入り口を振りかえると、先生たちやブータやののみや壬生屋……皆が面白いものを眺めるように中を覗いていた。

 †

 その頃、二組の教室では。
 舞とヨーコさんは、瀬戸口から速水をひっぺがすために共同戦線を組んでいた。
 だから今は、盗聴器で二人の会話を傍受している最中である。
「こういうの、けっこう楽しいデース」
「……黙れ。瀬戸口がまだ何か言っている」
「にしても、速水君、ひどすぎマス! 私の愛妻弁当を男にあげてしまうなんて! しかもそんなの毎日なのデス!」
 ぷんすかしながら、二人の会話に耳を傾ける。
「魅力の訓練をすると言っているな……」
「それじゃ、なんとか訓練を妨害しまショウ。レッツ ビギン!」
「何故、魅力の訓練をするのがいけないのだ?」
 きょとんとする、舞。
「何を呑気な事を。魅力の訓練は口実で本当は密室で二人きりになるための行為なのデ〜ス。絶対にそうデ〜ス!」
 さすがに、女性陣の中でトップを争う攻め技を持つヨーコさんは勘がよく働いている。……だが、幼い舞にはちんぷんかんぷんである。
「密室ではあるが……それがどうしたというのだ」
「あぁ……そんな事では、一生速水君はアナタに振り向きませんよ?」
「何を言う。瀬戸口の没落作戦が成功したら次はお前だ。覚えておくがいい。芝村は芝村の敵しか殺さないと」
 ひやりと釘を刺してから、舞は「速水!!!」と言いながら食堂兼調理場に駆けこんでいく。
 二人の姿は、既に無かった。
「お、おのれ〜」
 ……一人、腸を煮えくりかえしている、舞だった。

 ――END

これは実話です。

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