第四章
| 最初は、穏やかだった。何も変わりを感じさせない程に。
淡い光が、徐々に溢れていくのを、だから最初は見逃していた……彼は。 「何もかも、消えて無くなればいい」 穏やかな宣告。 「ほう……」 彼はやっとソルの内から溢れだしてきた光に気づく。そしてそれを、やや目を細めて嬉しそうに眺めた。 「いい調子です、そのまま全ての解放を」 「貴様の思い通りにはさせないさ」 「それはどうでしょうね?」 ソルには、これ以上彼の戯言につきあう気はなかった。 解放、なんて、そんなのは関係ない。ただ……全てを消し去ることが出来たら。 ソルはそれをただ強く望んだ。そしてその望みはそのまま……力と、なった。 光の強さが急激に増す。それはソル自身の持てる力を全て喰らっているかのように、ソルの内で暴れ回る。意識が、遠のく。 「間違えちゃ駄目だ――!!」薄れゆく意識の中で、ソルはそんなアレフの声を聞いた気がした――
その時の状況を実際に見た人は、後に口を揃えてこう言った。 「太陽が現れたかと思う程のまぶしさのあと、気がついたら城が消えていた」 と……。
風が吹いていた。微かな風が。 「――風?」 ソルは朦朧とする意識の中、なんとか体を起こそうとする。 「目ぇ覚めた? ソル」 聞こえてきたアレフの声に、ソルはついつい、寝坊してしまったかな、と一瞬焦る。……が。 「アレフ!?」全てをはっきりと思い出し、ソルはがばっと跳ね起きた。 目の前には、瓦礫の上で器用にしゃがみ込んでいるアレフの姿。 「え……どうして……あれ……?」 ソルは混乱しつつもあたりを見回す。そびえ立っていたはずの城は跡形もなく崩れていた。が、すぐ目の前に瓦礫はあるのに、自分たちの上にも下にも、とにかくまるで避けたかのように瓦礫がない場所がある。 「ソルってさあ、すっごいおとなしそーに、温厚そーに見えるけど、実際はキレたら突っ走っちゃうタイプだったんだねえ」 言ってアレフはけらけらと笑う。 「アレフ……おまえ腕は……?」 死んだのではなかったか、などとはとてもじゃないが訊けない。 「腕? 治しちゃった」 ほーらね、と言いながらアレフは腕をぐるぐると回してみせる。 「ついでにさ、レイネも治しちゃった。もー少ししたら起きるんじゃないかな?」 アレフは、へへへ、と笑うが、その笑みが途中で凍る。どうした? とソルが訊くよりも一瞬早く、アレフが口を開いた。 「本当はさ……姉ちゃんも、治したかったんだけど……駄目だった。俺、死んだ人生き返らせること、できないから……」 生きててくれれば、なんとか息をしていてくれればどうにかすることはできたのに、とアレフは小さく呟く。 どうやら彼には力だけで致命傷を与えることはできなかったらしい。直接手を下さないと……フィーユのときのように。 「アレフのせいじゃないよ」 あまりフォローになっていないような気もしたが、とりあえずソルはそう言う。 「最初はさ、レイネも駄目かと思ったんだ。でも、城が崩れてからだけど、風が教えてくれたんだ、まだ間に合うって」 アレフは少しだけ得意げにそう言う。少し悲しそうなのは、そのときにフィーユの絶命をはっきりと知らされたからだろうか? しかしそのことについてはアレフは何も言わない。ソルも、何も聞かない。 ソルは静かに立ち上がると、少し離れたところに横たわっている男の元へと行った。息は……もう絶えている。 「……満足ですか、あなたは。こういう結果で……」 小さく呟いたとき、セレネが静かに近づいて来た。 「ここには、長居をしない方がいいわ。……あなたには、帰る場所があるのでしょう?」
……光坂、第十八回……
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