昔むかし、自然にはその地にあった雑木林しかありませんでした。林には杉や松、ブナや柏などの樹木だけでなく果樹の原種やドングリなどナッツ類、藤などの豆類がありました。そして下草として色んな山菜や茸、シダ類、野菜の原種などが茂っていたのです。
色んな種類の植物があったので、いつ林にいっても食べるものが自然に実っていたのです。人はそれを食べたいだけ食べていれば良かったのです。これをエデンの園といいました。
しかし、人間は交換という行為で食べ物に「価値」をつけ、本来一人ひとりのものである「価値」をあたかもみんなの「価値」であるがごとくまやかし、誰かが「価値が高い」と勝手に決めた物ばかりを栽培する仕組みを作りました。これが知恵の実を食べたということなのです。
その結果、楽園であった森を切り開き、畑を作り都市を作り、「食」と「職」を分離しました 。「食べるために働く」の始まりです。エデンの園からの追放、額に汗して食べものを得ることの始まり、つまり失楽園の物語です。
耕すことを英語ではカルチャーと言いますが、今は文化という意味に使っています。このように今の生活は「食べるために働く」という仕組みなのです。そして「文化的な生活」という餌に釣られて、私たちは自らを、嫌な仕事でもやめられないばかりか体を壊しても休めない「奴隷」にしてしまいました。
「食べるために働く」生活を極めた今では「職は食」になってしまい「職」がなくなったら「食」がなくなるからです 。これが人の原罪なのです。
今の私たちの不自由さは、突き詰めれば「食」の問題なのです。そして「食べる」ための全ての苦労は自然の楽園から離れた人間の自業自得の結果なのです。これは愛媛県伊予市の自然農法研究家の福岡正信師が延々と述べておられることです。
今途上国が砂漠化して難民が飢えています。でも食料が不足している地域では耕作面積が少なくなっているわけではないのです。それどころかそのような国にはたいてい極めて広い面積の農園すら存在します。
この農園ではコーヒーや綿花、カカオのようなお金になる作物が作られており、外国に輸出した代金でその国の、主に武器の借金返済に当てられるという仕組みです。政府は、農園で働かざるを得なくするため住民が畑を持つことを禁じ、反すると国家反逆罪になる仕組みにしているのです。
同じ作物ばかりを同じところに作っていると病気や害虫が増え、地力が弱まってきて化学肥料や殺虫剤、農薬をどんどん使わなくてはいけなくなってきます。そして最後にはいくら何をしても作物の出来が悪くなるので儲けにならず、その農園は住民とともに捨てられることになるのですが、すでに土は死んでしまって砂漠となって行くのです。
これが地球砂漠化と難民の真実なのです。しかし、もし彼らが、昔からのように、自分たちの食料を作れていれば何の問題もなかったのです。食料危機は食料の偏在でしかありません。そしてこれは「依存させ支配する」仕組みなのです。
これは海の向こうの他人ごとではありません。日本を見ると杉の植林によって雑木林は姿を消し、ビニール・ハウスでは同じ野菜や花ばかりが作られ換金されています。そして儲からなくなった山や農地は開発されて砂漠化しています。
特にバブル経済のもとでのリゾート開発や地上げなどで単一作物農地ですら赤土の見える砂漠としてしまったのです。そして私たちは、そのほとんどが自分で食べ物を作れない住民と化したのです。
見方を変えれば私たちは、うかれながら金と引き換えに、日本に砂漠と難民予備軍を作っていたのです。日本経済の崩壊はすでにターニング・ポイントを過ぎてしまいました。これから皆さんが今まで当たり前と思っていた制度や機構や人口配分まで、ありとあらゆる常識が音をたてて崩れゆきます。そうです、私どもはこれから未体験ゾーンに突入して行くのです。
私たちはもう高度経済成長に支えられた生活様式に後戻りすることはできません。そして来年の平成十年か再来年、今までの総てのシステムが自己崩壊・内部崩壊して日本の政治経済が機能不全に陥ったとき、平成九年の秋の時点でこの本がお役に立つものであったことが皆さんに実感としておわかりいただけるでしょう。しかしその時ではすでに遅いのです。
もしご縁があってこの本をお手にとっていただけた方にお願いします。もしこの本で何かお感じになることがありましたら、どんな小さなことでも結構ですから実際に動いてみてください。庭に家庭菜園をお造りいただいたり、観葉植物の代わりにプチトマトを植えてくださるだけでもいいのです。
この本に書いてあることが実感できたら、立ち止まって今までの常識を見直してみてください。この本の内容の大筋は外れていないはずです。そして新しい時代への一歩を勇気を持って踏み出してください。
御一読いただいて御興味が持てなかった方は笑い飛ばしていただいて結構です。でもその時はこの本をあなたの周りのどなたにでも結構ですからお渡しになってください。著者河井からの読者の皆さんへの唯ひとつのお願いです。
食料自給率が30%を切った我が国ですが、「食べるために働く」「食料を金で買う」この仕組みを変えて「雑木林に行けば何でもある」「最低の食べ物だけは周りにある。」ようにしておけば、日本の国土にも一億二千万の日本人に加えて、間もなく来たるべき朝鮮半島の難民の方々数十万人も含めて、まだまだたくさんの人を養うだけの余裕があるのです。
さらに皆さんは「食べるために働く」ことから開放され「好きなことをして働く」生活様式で生きることができるのです。夢物語と笑うなら笑っていただいて結構です。しかし御自身の未来を選ぶのは、このちゃちな一冊の本を手にとって読んでしまったあなたなのですから。