この「ライヴ・コンサート・セレクション」は、福島コダーイ合唱団の十周年を記念して制作されました。福島コダーイ合唱団は、1987年の創設以来、ハンガリーの作曲家・音
楽学者・教育家、ゾルターン・コダーイの理念によって、音楽によって人々が本当に幸せ になるように、とりわけ、教師である多くのメンバーが音楽で子供たちを本当に幸せにす ることができるようにという目標をもって活動して参りました。十周年を迎えた1997年夏、 日本と国際の2つのコダーイ協会の大会で演奏会をおこなうことができたことは、この上 ない喜びでありました。
このCDは、これを記念して、これまで出版された4種のCDに収録されていない、混 声合唱曲を中心にして制作いたしました。収録曲の中心となる日本コダーイ協会全国大会 における招聘コンサート(1997.8.1.於、佐賀文化会館)は、常任指揮者ウグリン・ガーボ ルとの10回目の記念コンサートでもありました。他に、過去3年間の4つのコンサート のライヴ録音からも収録しました。福島コダーイ合唱団は創設以来つねに、日本と西洋の 音楽、伝統と現代の音楽、民族音楽・民俗芸能と芸術音楽をパラレルに追求してきました。 このCDの構成はまさにそれを反映し、3つの異なる音楽文化をレパートリーの柱として います。すなわち、(1)
日本の音楽と先住民族アイヌの古式舞踊、(2) 西洋の音楽―― 中世バロックからロマン派の合唱曲、ハンガリーの現代合唱曲、そして、(3)
東洋と西洋 の掛け橋としてのブルガリアの合唱曲です。フィリップ・クーテフの編曲によるブルガリ ア民謡は、こぶしを生かしたアレンジの方法といい、その声の出し方といい、まさに東西 の音楽文化の掛け橋といえましょう。
福島コダーイ合唱団の十年間の歩みは、自国の音楽文化の理解から異文化の音楽の理解
へ、というコダーイの理念を真に実現しようとする道のりであり、その際に常に、それぞ れの音楽的伝統にできる限り忠実な音楽創造を追求してきました。多文化理解なくしては 真の国際化はあり得ません。異なる音楽文化の、それぞれの固有の価値を尊重することは、 いっそう重要となると信じます。
昨年、演奏参加した国際音楽教育協会(ISME)のアムステルダム大会は、「音楽教育
:21世紀に備えて――すべての世代・時代・文化・国に普遍的な音楽」をテーマに掲げ、 今夏、演奏参加した国際コダーイ・シンポジウムのマニラ大会は、「音楽を通して東西が出 会う;コダーイの普遍性」をテーマに掲げました。時代がまさに多文化理解のための音楽 教育を必要としているといえましょう。
すべての曲目・演目の指導、音楽作りを音楽監督の降矢美彌子が行い、その上に、西洋 音楽の内の10曲はウグリン・ガーボル氏の指揮による演奏です。氏は、これまでに9回の コンサートで西洋音楽を指揮しています。西洋音楽の他の5曲は降矢の指揮による演奏で す。西洋音楽、日本の現代曲以外の日本、アイヌ、ブルガリアの音楽の演奏には、指揮を 行っていません。それらは本来指揮を行わない方がよいと考えるからです。西洋から日本 へという収録曲の順序は、佐賀のコンサートに準じました。ウグリン氏は「客演が先」と 主張することによって、日本文化に対する尊重を表明されたのでした。
佐賀のコンサートは専門家によるレコーディングですが、それ以外は団員によるレコー ディングをもとにしています。また、ホールによって著しく音響が違っていますが、その 違いを敢えてそのままに、残響時間の調整等の音響処理を行いませんでした。アムステル ダムのイギリス国教会の音響に文化の違いを実感した降矢が、ありのままの音響を重視し たいと考えたことに拠っています。
(尾見 敦子)