第二章
| 「君も女待ちかい?」 アレフの視線に気づいたのか、青年が声をかけてくる。 「ええまあ、そんなところです」 アレフは軽く肩をすくめて答える。そのとたん、青年は軽く笑った。 「女の買い物好きは年齢には関係ないらしいね」 「そのようですね」 アレフも彼と一緒になって笑う。彼はなかなか人当たりの良い好青年らしかった。 「君はそんなに若いのに旅行かい? 彼女と二人で?」 「か……っ」 アレフは思わず固まってしまいそうになる。よりによってレイネが彼女だなんて……できれば遠慮したい。 「彼女じゃないです。単なる同行者ってだけで」 「またまた。そう照れるなよ、若いの」 彼は年に似合わない言い方でアレフをからかう。どうやら本気で信じていないようであった。 「ちょっと捜し物をしてるんです。彼女は同じものを捜してるってだけで」 アレフは思わず詳しく説明してしまう。レイネを彼女と言われて動転しているようであった。 「ハンターの居場所を捜してるんですけど、ご存知ないですか?」 それでもこの一言は充分に注意を払って言う。その目はごまかせる程度に鋭く彼を見ていた。どんな反応でも逃すわけにはいかないのだ。 「ハンター?」 不意に彼が小声で訊き返す。そして注意深く回りを見回してアレフに問い返した。 「君も知り合いがハンターにつかまったのかい?」 「えっ、と言うことはあなたも?」 アレフは思わず訊き返してしまう。まさかそういう反応が来るとは思ってもいなかったのだ。 「俺の友達が捕まっててね」 「えっと……でもあなたは人間ですよね?」 なんとなく変な質問かとも思ったが、アレフはそれでも訊いた。彼の耳は……普通だ。普通の人間となんら変わりはない。 「ああ、人間だよ。人間の中にもエルフに理解を示す奴はいるってことさ」 案の定彼はそう答える。アレフは思わず考え込んだ。 確かにそういう人間はいる。フィーユがそうだったように。しかし、こんなにも容易く逢えるものなのだろうか。アレフはもう一度まじまじと彼を見た。 「ああ、信じてないね? でも本当なんだよ」 どうすれば信じてくれるだろうね、と彼は困ったように言う。 「たとえば俺はハンターじゃないけど……」 そう言うと彼は身をかがめて、アレフに耳打ちする。アレフだけに聞こえる、小さな声で。 「君がハーフエルフだってことならわかるよ」 「レイネ!」 瞬間アレフはレイネを呼ぶ。その声に驚いて、レイネがアレフの元へ来た。そのレイネを背後にかばうようにして、アレフは警戒するように注意深く彼を見た。 「やれやれ、かえって警戒させてしまったみたいだね」 しかし当の本人はしれっとした顔でアレフを見返した。 「だから俺はハンターじゃないって言ってるだろう? それにエルフに理解を示してるって。信じてくれないならそれはそれで構わないけれど、俺としては哀しいね」 小さく呟く彼の声は、確かに迫害する気配さえない。この程度の声ならば、少し離れている者には喧噪に紛れて聞き取れないだろう。つまりはアレフ達以外には聞かせるつもりさえないということだ。 「どうして……」 わかったんですか、とアレフは目で問う。耳は帽子で隠してある。耳以外の外見では、ああまで断定的には言えないはずだ。 「ああ、俺の友達も君たちみたいに帽子を深く被っていたからね。あとはカンだよ」 それだけにしてはやけに断定的だった先ほどの言葉を、アレフはもう一度思い出す。 「……行くよ、レイネ」 アレフはやや考え込んでから、そう促す。彼に敵意は感じない。ならばそうそうにここから立ち去ることだ。 「ハンターの詳しい居場所はわからないけどね」 レイネを連れて歩き出したアレフの背中に、そんな言葉が投げられる。アレフは立ち止まって振り向いた。 「海沿いの街に彼らはいるらしい。あくまでも噂だけどね」 「……ありがとう」 アレフはとりあえず礼を言い、また歩き出す。いかに胡散臭いと言えども、貴重な情報ではある。 そこから宿を取り部屋に入るまでの短い道のりは、いつになく静かなものだった。 「ねえ、どうしたのよ」 なけなしの路銀の中から部屋を二つ取ったにも関わらず、アレフの部屋に入り込んでレイネが訊く。 「なにが?」 そのいきなりの質問に、アレフは意図がつかめずに訊き返す。 「なにがじゃなーいっ。さっきのことよ、さっきの。なんだったの?」 「ああ……さっきのね」 アレフは思いっきり溜息をつく。先ほどの一件に関してなら、なにが悪いかと言えばレイネの物見高い性格が一番悪いのではないだろうか。 「どこぞのお姫様が呑気に売り物を見てるから悪いんだ。そうだそうだ、そういうことにしよう」 アレフは勝手に決めつけて、一人で納得する。 「もう、なんだったのよっ?」
……光坂、第九回……
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