第三章


 ともかくも、敵の本拠地であるかもしれないところにいきなり突入するのは危険である。まずは情報収集ということで、一番安そうな宿を取り、夜行動を開始することにした。

 昼間は食堂、夜は酒場をやっていて、さらに二階が宿屋になっている店、というのが理想的なのだが、財布の中身のことを考えると、なかなか見つからない。あまり高級そうなところでは、そもそも子どもだけでは泊めてくれないだろうし、かといって逆にとてつもなく安い宿は、レイネの身の安全を考えると危険過ぎる。

「もうその辺でいいよ……疲れちゃった」

 そんなアレフの試行錯誤を遮るように、レイネが不満そうに声を上げる。思わず大声で言い返しそうになるのをぐっとこらえて、

「もう少し探してみようよ」

 引きつった笑いを浮かべた。ストレスは溜まってしまうが、不毛なけんかをしている時ではない。もし本当にあの城にソルがいるのだとしたら、この街はまさにハンター達の根城。下手に目立って、もし自分達がハーフエルフだと知れてしまったら、身の安全は保障できないのだ。ここは我慢しかない。

 しばらく歩いて、ようやくそれらしき宿を見つけた。海からはだいぶ離れた内陸側だが、かえって好都合かもしれない。

「いらっしゃい……あらあら、かわいいお客さんだこと」

 二人が扉を開けて中に入ってみると、いかにも人のよさそうな老婆が出迎えてくれた。思った通り、昼間は食堂をやっているようで、テーブルには何人かの客が座って食事をしていた。

「あの……今日、泊まりたいんですが、部屋は空いてますか?」

 どうしても財布の中身が気になって、つい小さな声になってしまう。アレフはおずおずと聞いてみた。

「ええ、二階のお部屋は空いてますよ」

「それで、お金の方なんですけど……」

「うちは趣味で宿屋をやっているようなものだから……」

 そう言って老婆が提示した金額は、驚くほど安いものだった。しかも、下の食堂での食事付きという。散々歩いて探しまわった甲斐があった、とアレフは思った。いい宿を見つけるには苦労を惜しんではいけない。

 早速泊めてもらうことにして、アレフ達は部屋に案内してもらった。決して豪華とは言えないが、どこか暖かみのある部屋で、レイネ共々、すっかり気に入ってしまった。

荷物を置くと、レイネはすぐに食事にいこうと言い出した。疲れを知らない彼女は、睡眠より食欲の方が旺盛であるようだった。少し眠りたい気もしたが、特に依存はないので、アレフは同意して下の食堂に降りていった。

 料理は部屋の雰囲気同様、家庭的で、大袈裟に言えば人の心を感じるようなほどのものだった。老婆の夫であろう初老の主人が、無愛想であるが冷たくない態度で二人に食事を作ってくれた。

「この魚美味しい!!」

 レイネが満面の笑みを浮かべて叫んだ。やはり港街ということで、種類豊富で新鮮な魚介類は、他の街のものとは比べ物にならない味を醸し出していた。

 ハーフエルフも人間も、美味しい食べ物を食べている時には幸せな気分になれる。アレフもすっかり料理が気に入り、料金のことも忘れて、何杯もおかわりしてしまった。

 これ以上入りきらないほどにお腹を膨らませて、二人は久しぶりの満足感に浸りながら部屋に戻った。

「いやあ、なんか、とっても幸せな気分!!」

 思いっきり伸びをしながら、アレフとレイネは食後の満腹感を満喫していた。ここまでなんやかやでいろいろあったが、二人は今までで一番の幸せを感じていた。もちろん、これからまだやることはあるが、とりあえず、ゆっくり休息できる。

「たまにはこういう事も無いと、やってられないわよねえ」

 レイネが、さも普段は苦労が絶えないようなことを言う。いつもならちょっとむっとするところだが、別の満足感があるせいか、アレフは苦笑を浮かべただけだった。

「……で、今夜のことだけど……あれ?」

 これからのことについて話し合おうとしたアレフだが、見ると、レイネはすっかり寝息を立てていた。いつも元気そうに見えたが、実は疲れが溜まっていたのかもしれない。

 気持ち良さそうなレイネの寝顔を見ているうちに、アレフも何となく眠気を催してきた。気の張り過ぎで、少し疲れたのかもしれない。

「ま、いいや……夕方まで一眠りしよう」

 アレフはそのまま睡魔に身を任せることにした。これからどんな事が待ち受けているのか分からない。休める時には休んでおくべきだ。

 目を閉じると、アレフは急速に夢の世界へと引きずり込まれていった。

「……………?」

 扉の方で物音がする。

(何だろう……?)

 ふと目が覚めて、アレフは重い瞼をこじ開けた。

(またレイネかな?)

 そう思ったが、近づいてくるのは何人かの足音。しかもレイネより重い感じがする。

「……おい」

「ああ、こいつだ」

 聞こえてくるのは男の声。

(し、しまった……)

 アレフは心の中で唇をかんだ。声を出そうしても口がまったく動こうとしない。食事に何か薬でも入っていたのかもしれない。

(油断し過ぎた……)

 自分でも気づかないうちに、相当疲労が溜まっていたのだろう。回りに対する警戒心が鈍っていたのかもしれない。

(レ、レイネ……)

 何とか顔を動かそうとしたがそれもかなわず、アレフは再び夢の世界へと戻っていった。

 

 

……亮、第十回目……

 


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