第三章


 回りに人の気配がする。しかも、大勢の。賑やかそうな……。

(お祭り?)

 アレフはふとそんなことを考える。

 頭がボーッとしている。前後関係がよくつかめない。お祭りなんか、あっただろうか……。

(街を歩いてたときはそんな感じしなかったはずで……)

 宿屋に入ってからも、そんな情報は入って来なかった。

(……宿屋!?)

 アレフはそれで一気に思い出す。

 宿屋で食事に薬を盛られて。それから何人かの足音と。

 それから。

(レイネ!)

 レイネはどうしただろう。彼女も一緒に連れてこられたのだろうか?

 アレフは重い瞼を無理矢理開ける。少しずつ晴れる視界に映るのは、どこかの倉庫のような場所。意識がはっきりしてくるにつれ、遠くから聞こえる声に気づいた。

 はっきりとは聞こえない。が、その声が伝える内容は。

(……やばい……)

 まさかこんなところに連れ込まれるとは思ってもいなかった。ハンターの根城の方が、まだマシだったかもしれない。

(人身売買だ……)

 話には聞いたことがあった。あくまでも『話』の域を出ないはずだったのだが……。

 まさか、自分の身に降ってこようとは。

(とりあえずレイネを……)

 そう思って、あたりを見回そうとしたそのとき。

「ここか? 例のガキ二名がいるのは」

 ドアの向こうから、そんな言葉が聞こえてきた。アレフはとっさに寝ているフリを決め込む。

「ああ、ここだ」

「どれ……はっ、幸せそうな顔して寝てやがるぜ。この分なら大丈夫そうだな。会場の様子を見に行こうぜ」

「そうだな。こいつらを出すのはまだ先だしな」

 そして、遠ざかる足音。それが聞こえなくなってから、アレフは体を起こした。レイネは少し離れたところに、簡単に見つける。アレフはその側に近寄った。

「レイネ……起きて、レイネ」

 小声で話しかける。レイネは少しうるさげに眉をひそめて、それから目を開けた。

「なあに、アレフ……」

「静かに、声を小さくして」

「どうしたの?」

 レイネは怪訝そうに、しかし言われた通り声を小さくして問う。それからやっと気づいたように、あたりを見回した。

「……何処、ここ?」

「わからない。でも、やばいみたいなんだ。どうも、人身売買にかけられるらしいよ、俺ら」

「じっ……!?」

「しーっ!! 静かにってば!」

 思わず大声を出しそうになったレイネを、小さな声でアレフが叱りつける。

「なんでそんなに落ち着いてるのよ!?」

 レイネが声を小さく戻して問う。

「落ち着いてないよ、びっくりしてるよ、俺だって。でも、そんな場合じゃないだろ」

「どうするの?」

「とにかく、ここから脱出しなきゃ。立てる?」

「うん、大丈夫」

 アレフはレイネの返事を聞いてから、あたりをもう一度見回す。

 天井が高い。上の方につけられた窓には、手も届きそうにない。台になるようなものもなし。かといって、ドアから出ることは多分無理だろう。

 となると、やはり窓から出るしか策はなさそうだ。

「あの窓から出よう、レイネ」

 

 

……光坂、第十一回……

 


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