第三章
| 「……それは、経験上?」 髪をなでられながら、レイネは上目遣いにアレフを見やる。 「そうだね。ソルがいなかったら、きっと俺、だめだったろうね」 アレフは空を見上げて感慨深げに答えた。それを聞いて、レイネは一つため息をつく。 「……どうしてこう鈍いのかしら……せっかく気の効いたセリフ言ったと思ったらこれだもの。最後の押しってものが無いのよねえ」 「え、何?」 「ううん、何でもない」 少しふてくされたような顔をして、レイネは立ちあがった。そしてそのまますたすたと歩き出す。 「ちょ、ちょっと」 レイネの態度にきょとんとしながら、アレフは慌てて追いかけた。 「女の子は……よくわからない」 首をかしげながら呟くアレフの姿は、はからずもフィーユを前にしたソルとそっくりであった。 二人はそのまま二日ほど、情報収集すべく、町の中を歩きまわった。ただ、あまり目立った行動をとるわけにはいかなかったので、思うようには進まなかったが。 結局のところ、分かったことといえば、あの城のような場所は、元々貴族が住んでいたこと、今は空き家になっているが、人が住んでいるような感じがすること、この街の人は思いのほか、ハーフエルフに大して敵対心が無いこと、といったところだった。 三番目の情報については、もちろん、直接聞いたわけではないが、それとなく話の端々にその名前を出してみた。ところが、反応は人それぞれで、忌み嫌う者もいたが、特に関心が無いという人もいた。 つまり、他の町と似たようなものなのだ。ハンター以外の一般市民は、昔のハーフエルフの大罪をすでに忘れかけている人も多い。特に若い人は、さほど気にしていないようだ。ただ、ハンターたちを恐れているので、表面上はハーフエルフを嫌悪している。 「……本当にあそこに、ソルがいるのかなあ」 などとアレフが思ってしまうのも無理はなかった。ハンターの本拠地にしては、何だかずいぶんとのんびりしているような気もする。人買いに捕まった時はどうしようかと思ったが、これは特に自分たちだけの被害ではなく、人間の子どもにも当てはまるはずだ。 「こうなったら強行突破しかないわ」 アレフの部屋で今後のことについて話し合っている時、レイネが唐突に言った。 「きょ、強行突破って……いきなりあの城に突入するわけ?」 「それ以外、もう手段はないでしょ」 「そうは言っても……それじゃわざわざ死にに行くようなもんだよ」 恐れを知らないレイネの言葉に、アレフは身震いした。人身売買の一見で、レイネがいざとなるとかなり荒っぽいことをするのは分かっている。本当にやりかねない。 「それなんだけどさ……どうもおかしいとは思わない?」 「何が?」 「ここがもし本当にハンターたちの根城だったら、何らかのリアクションがあっても良いと思うのよ。私は実はそれを期待してたんだけど」 レイネが言うには、フードを目深にかぶった子ども二人連れが街の中をさまよっていれば、誰かが怪しいと思うはずだ、そうすれば必ずハンターたちがやってくるはずだ、ということである。 「反応があったほうが物事は前に進むわ。こう何の収穫も無いと、八方塞ね」 「もしかしたら、この街にはいないって事?」 「それもあり得るわね」 「でもなあ」 アレフは何となくだが、この街にソルがいるような気がした。特に以前出会ったあの肌の黒い男。彼の言ったことがどうも気になる。自分たちを騙す必要はないはずだから、あの言葉は信用してもいいのではないだろうか。 「もしくは、別の目的があるとか……」 「別の目的?」 「私たちを殺すって事なら、そんなには難しくないはずよ。捕まえて、すぐに出来るわ。でも、捕まえただけなら……その後に、何かに利用するとか?」 レイネは腕組みをして考え込んでいる。自分でもいまいち考えがまとまりきらないようだ。 「とにかく、奴等の目的が何にせよ、俺はソルを助けなくちゃならないんだ」 アレフは混乱しそうな思考を止めて、きっぱりと言い放った。 「それなら、やっぱり強行突破しかないじゃい」 レイネもあまりごちゃごちゃしたことは考えたくないようだ。 「……結局結論はそれ……?」 「昔の偉い人も言ってるわ。成せば成る!」 「……レイネにぴったりの言葉だと思うよ」 アレフは深々とため息を吐いた。だが、確かにこのままでは埒があかないことも事実だ。とりあえず偵察だけでもしておいて損はないだろう。 「じゃあ、この格好じゃいくらなんでも目立つから、もっと人間っぽい変装をしよう。で、まずは城の概観をつかむ。それに中に本当に人がいるのかどうかも、確かめなきゃね」 「しょうがないわね、わかったわ。でも、善は急げ。早速今晩決行よ!」 半ば強引に話を進めて、二人は夜に備えて休息を取った。 「考えても仕方ないことを考えるのは体力の無駄。行動しなきゃ!」 レイネの言葉に妙に納得してしまうアレフであった。いつのまにか彼女に毒されている自分に、彼はまだ気づいていない……
……亮、第十三回……
|