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「プロロ〜グ」
君の周りは、いつでも誰かに囲まれていたよね。 皆、笑顔しか見せなかったよね。 君自身それで満足していた。 君には確かに人を集める、いわゆる「光(カリスマ)」がある。 君は思ってるだろう、思ってただろう。
――すごく楽しくて、すごく幸せだ…って。
本当かい? 君が幾ら楽しくても、他人までが一緒に楽しんでるわけがない。 なれるわけがないじゃないか。
君が光りを奪うから、 僕はこうして闇に溶け込んだんだ。 どんなに苦しんだか、どんなに怨んだか。どんなに憎しみを燃やしたか…。
でぇもぉ、もぉ、いいやぁ…。僕もやぁぁ…っと
――笑えそうだよぉ〜…。
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1.「夜」
「はぁ、はぁ、はぁ…っく。」
嫌な夢に魘された。 布団も汗で湿っている。体中が熱い。 今日は新月ではない、まして満月、悪夢を見る当てもない。 じゃあ俺はまだ過去を引きずっているのか?
「ったく、しょうもない、もう昔話もいいところじゃないか。 …のどが渇いたな」
それもそうだ、これだけ体外に水分を出せば、 のどが渇くのも当たり前だ。
「何かあったかな〜。」
台所へ向かうため、布団から出たとき。
「スースー…ん、」
そんな中、隣で静かに寝息を立てる相棒の姿を目にした。
「なんだ、まだ午前2時か…。はぁ。」
不恰好に寝ている彼女と、今の自分に情けないと思いながらため息をつく。
そして彼は暗い廊下へと、姿を消したのだ。
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2.「消えた灯火」
丁度男が夢に魘されていたときのこと…。 ほんの少し前だ。
…カツーン、カツーンと廊下を歩く音がした。 ミオの図書館では宿直の人が、定期的に夜の見回りをする。 勿論今日だって例外じゃない。
いつもの通り終わらせて、ちゃっちゃと管理室へ戻ろうと、 警備員は最後の、「特別文庫保管室」へ足を運ぶ。 ここにはシンオウの古い書物や文書がたくさん保管されている。 定期的に開放され、市民にも親しんでもらっている。 昼に入ればそれほど気にはしないが、 深夜零時となると先が見えないほど暗い場所で薄気味悪い。 吸い込まれそうだ。
「やれやれ、本当におっかない場所だな。おい。」
そう言って、懐中電灯を照らすためにスイッチを入れる。 が何度押してもつかない。
「おいおい、冗談だろ?」
この警備員は本気で闇が怖いらしい。 非常等スイッチまで手探りで進みはじめた。 そしてやっとその感触をつかんだとき、一気に寒気が彼の体を包んだ。
「そんなに、嫌?」
悲しそうな少女の声だ。
「え?」
警備員は恐る恐る周りを伺う。 幾ら怖くても、目は勝手に暗闇に慣れている、多少は本棚が見えるが、 人影は見えない、気配すらも感じない。 ただあるのは、「恐怖」と「悪寒」
「何でそんなに嫌がるの?」 「貴方が持ってる懐中電灯も、こうして闇があったから、 今まで輝けていたのよ?」 「そうでしょ…?」
そう続ける声も彼の耳には半分も入っていない。
「ひっ、うわぁぁ。」
恐怖だけが彼を襲う。
「どうして?、ねぇどうして!?」
ガッシャ〜ン!! そこに残ったのは、明かりのつかない懐中電灯だけだった…。
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3.「闇も終わる」
暗い夜もようやく終わりを告げ、 東から太陽が昇り始める。
「なんだかんだでもう朝かよ…。」
そう言って汗でまだ多少湿気たパジャマを洗濯籠にほうり、 服に着替える。 特徴といえば、全身真っ黒。 スーツ、ズボン、Yシャツ、ネクタイ、全部黒。
彼には名前がない、でも親しみを込めて「マスター」と呼ばれている。 髪の毛はショートカット、グラサンがお気にらしい。 過去にも謎が多い人物で、それでも毎日をこれとなく送っている。
「おはよう〜、マスター。今日は早いわね?」
あくび交じりにそう挨拶する、少女の声。 彼女の名は「つばき」、 長髪のよく似合うおしとやかな女の子である。 ただし、寝相が悪い。凄く。
「何かあったの?」
心配そうに質問するが、そこはなんでもない、大丈夫、と答えるのが、 彼の常だった。
「さぁ、今日も張り切っていきますか!!」
「ふぅん…変なの。」
つばきはにっこりと微笑んだ。 何気ない朝の光景に、マスターは安堵の息をついた。 何だかんだであの夢の恐怖は払いきれていなっかたのだから。 でも、彼女の笑顔を見て、落ち着けた。
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4.「日常の闇」
朝のニュースを見るのはもう当然のこと、 というよりTVは気づくとすでについている。
『今日未明、ミオの図書館で警備員が何者かに襲われ、意識不明の重体とのことです。 もう一人に警備員の話によりますと、 人どころかポケモンすらも図書館内に立ち入ってはいないようです。 地方警察は、公務妨害および殺傷事件として捜査を行うとのことです。』
「やれやれなんと血生臭い。」
味噌汁をすすりながらつぶやく。
「でもマスター、これって不可能犯罪じゃあ?」
白いごはんにこれでもかとふりかけをかけながら、 つばきが首をかしげる。
「さぁな、どちらにせよなんかあるが…。 この事件、早いうちの解決は100パー無理だろうな。」
「とにかく急ごう。今日は及ばれしてるんだぞ?」
「どちら様にですか?」
「…組長だ。」
「さっさといこう、アノ人うるさいから。」
「そうです、ね。」
そう言ってマスターはTVを切る。
「あっ、今日のニャースがまだですよう!(涙)」
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5.そうだトバリ行こう。
『あ゛ー!!ほらぁ、丁度おわっちゃたぁ(泣)』
つばきが急いでTVをつけたとき、 これ以上にないタイミングで「今日のニャース」は(見事に)終わりを告げていた。
『うぅ〜、酷いです!マスター!!』
『はいはい、悪かったよ。でも本当に急がないと、 結構早くに呼ばれてるんだよ〜…。』
そうして二人は恩師のいるトバリへ向かうのであった。
***
トバリの町にひときわ目立つ巨大な道場がある。 そこが今回の目的地だ。
「久しぶりですね、マスター。 ここ昔とぜんぜん変わってないですよ!」
「ん? あぁ。まああの頑固親父そのものが変わってないんだもんな。 カイリュー、遠い距離ご苦労さん。 意外と余裕をもって着けたよ。」
そう言ってマスターがボールにポケモンを戻す。 しかし、ナギサから飛んだのに、カイリューは顔色一つ変えてはいなかった。 さすがはドラゴンというべきか。
「さて入るぞつばき。」
「はい、マスター。」
緊張した面のちで二人は門をくぐる。 玄関を上がるとすぐに広い廊下があり、大広間までな中庭を通して広がっている。 大戸を開けると、そこには何百畳もあると思われる広い部屋になっていた。 中庭が一望できるよう、北側は吹き抜けだ。 そして凄いのが、 その両端に、和服を着た男たちがおくまで向き合うように一列に並んでいることだ。 ざっと見て、百人前後? そして二人がはいってきたのに気づくといっせいに向きを二人に合わせ、
「おはようございます!おふた方!よくおいでくださいました!」
といっせいに挨拶をし、また向きを戻す。
「やれやれ、相変わらず。」
「ホントですね。」
もはや苦笑いしか出ない。 二人はその部屋の真ん中に用意された座布団に座り、 恩師を待つのであった。
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6.二人の師
しばらくすると厳つい顔をした男が入ってきた。 もう70後半だろうか?
「おはようございます!組長!! もうおふた方は到着しております!」
和服集団の一人が挨拶と報告をする。
「うむ、待たせてすまなかったな、皆の衆。」
答える声はすごくドスの利いた低いこえだった。 そうして、組長と呼ばれた男は真ん中の一段高くなっている畳に腰を下ろす。
「今日、お前たちに来てもらったのは…ほかでもない。」
「…」
深い沈黙が続く。
(この人は無駄にためるんだよな、まったく。)
マスターは後ろ髪をかきながらそうつぶやく。 つばきは真剣に次の言葉を待っている。 和服集団も身動き一つしていない。
「おっとやべ。」
マスターもすぐに姿勢を整える。
「すぅ、」
組長が話し始めようと息を吸う音に、 周りは一気に重くなる。
「お前たち、今日の報道を見たか?」
「本当はもっと別な用でお前たちを呼んだのだが、 まさかこんな形になろうとは。」
二人は何のことだかさっぱり分からない様子だった。
「あれはまさしく暗闇の前兆かもしれん、嫌な予感しか感じない。」
「いや、あくまでわしの予想なのじゃがな。」
「もしそうだとすると、貴様が今日夢で魘されたことも辻褄があう。」
「お師匠?何故それを?」
「貴様のことならだいたい分かる。貴様の両親よりも付き合いが長いのじゃから。 だが、案ずる事はない。 もう少し様子見をしよう、そしてくれぐれも気を付けろ。」
「あと、もう一つ、これは一週間前の話なんだが〜…。」
「例の組織の復活が宣言された。 お前たちとも関わりのある組織がな。」
「間違いなく何かがある、物見事に三つの出来事が短い間に重なってしまった。」
「そこで今日の本題だ。 この組織について調べてはくれないか? もうすでにわしの部下の何人かが場所を突き止めた。 入れ替わりでも、協力でも何でもして、 やつらの目的を暴いてくれ…!」
***
道場を後にする二人はいてもたってもいられない。 復活した? 統領が行方しれずの事故になり、結果バランスを保てずに10年前に完全に崩壊した「アノ」組織がか?
「まだ悪夢のがマシだ。」
マスターはそう呟く。 つばきの顔も血色が悪い。 結局は、光も闇も消え去ることはないということだ…。
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7、闇が消えた時代
「高貴なる光」 奴等はそう呼ばれていた。 その集団の活躍は著しい物であったんだ。 今まで自分の本当の力を見出せなかった人間も、 このグループに入ることに真の力を発揮させることもできた、 そのため、あちらこちらに素晴らしい人材が生まれたんだ。 その時代を「輝く10字星時代」と呼ぶんだよ。 10年続いたのと、南十字星の輝きをかけてな。 その後もその組織はぐんぐん成長し、 もはやその存在を知らない人間はいないほどとなったんだ。
いままで光の届かなかったような場所にまで、 満遍なく輝きがいきわたり、世の中は照らされ平和になったしな。 もはや影なんて存在し得なかったね。 まぁ、その点は紛れもなく、やつらの功績よ。
ニュースの報道ですら、いいこと尽くし。 強盗?殺人? とんでもない!そんなことをすれば、「高貴なる光」が黙っちゃいない。 たった一人でもそんなことを思えば、 一族そろってお陀仏よ。
…まぁ、そんな訳でその組織のおかげで、 何の不安もなく、国民市民が枕を高くして眠れる時間が続いたのさ。 それで終れりゃハッピーエンド。この上なくな。 でもそんなに甘くはなかったよ。
分かるだろう。光があれば虫がよってくる。 小汚いハエやらガやら集まってきたのよ。 その輝きに便乗して悪事を働こうってんだ。 しかもその時代、まさかそんな考えをもつやからもいるまいと思って、 「高貴なる光」はその虫どももまとめて入れちまったのよ。 内側に入っちまえば、今度は虫達のおもうつぼ。 光は内側から好き勝手操られ、気づいた時には穴だらけって訳。
結局はバランスだったのさ、 全部が全部照らされりゃ、それにのっかってやりたい放題やるやつも出るわけよ。 ま、「高貴なる光」も人間の欲までは照らせなかったって訳よ。
おっかないのはその後さ、 こういう正義感の強いやつが、 自分が汚されたとわっかたら何をしでかすか分からない。 で、結局悲惨な事件がおきたのさ。 誰も想像できなかった、恐ろしい事件がさ…。
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8、厄介な使者
二人がナギサへつくころには太陽は真上に昇っていた。 難しいことはこの際考えず、今は腹ごしらえをしようというマスターの意見に、 つばきは上機嫌だった。
「ねぇ、昼食は何にします?」 「そうだな、たまには外で食うってのも悪くないしな。」 「本当ですか!?」
つばきはうれしそうにマスターを見た。
「嘘は言わないよ、 ご苦労さんカイリュー、休んでてくれ…。」
そう言って腰のベルトについたボールをとろうとしたとき、 カイリューの身体は突然の煙に包まれていた、
「きゃっ!??」 「どうした?何だ?カイリュー?カイリュー!?」
つばきが身をかがめ、 マスターが叫んだ瞬間、煙から一匹のポケモンのシルエットが彼めがけて突っ込んできた。
「ぬっ?」
身構えたマスターの防御を縫うようにして、一匹のポケモンが、 彼の腹部を捕らえる。
「ぐ?」
マスターの身体は宙に浮かび何十メートルも吹っ飛ばされる。
煙が消えつばきが目にしたものは、 無様に地に倒れこむカイリューと、かなり遠くで倒れこんでいるマスターの姿だ。 そして、一匹のエルレイド。
「あはは、良くとんだ。ご苦労様「ヤイバ」 それにしても死神の異名もたいしたことはないわね。さぁ次はあなたの番よ。つばきさん。」
つばきが声のしたほうを見ると、高台に一人の女子が立っていた。 つばきより一つ二つしただろうか?しかし口調は冷酷な女性の物だった。
「貴女、いったい誰?何故私の名を?」
厳しい表情でつばきは女をにらみつける。
「私を知らないの?ならその頭に叩き込んでやるわ。 私は「高貴なる光」改め「正義の導き」の幹部セリア。 さぁ、貴女はどのくらい私のヤイバの猛攻を受けきれるかしら?」
そういうと、ヤイバと呼ばれるエルレイドが構える。 つばきも腰のベルトからボールを取り出す。
「お願い、アーレス。」
その声は強張っていた。 ボールからキルリアが飛び出る。 美しく地面に着地すると、すぐに場の状況を判断し的確な間合いをとり、主の命を待つ。
「さあ、楽しみましょう。 これが最高のバトルになるように!!」
アーレスとヤイバが向かい合う。つばきにも緊張が襲い掛かる。
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9、差
「ヤイバ!サイコカッター!!」
その声を聞いたヤイバは右肘から刀を伸ばし、そこに薄い紫色の刃を作る。 そして間を取ることなく対象目掛け走り出す。 キルリアとの距離を一瞬にして縮め、超刀を振り上げるヤイバ。
「アーレス、リフレクター!」
アーレスもヤイバに負けないスピードで壁を作る。
「ガン!バチバチッ!!」
轟音と共にぶつかり合う刀と盾。 飛び散る火花から凄まじい威力だと言うことがはっきり読み取れる。 が、どう見てもこの状況はアーレスの旗色が悪い。 あれだけの威力の「サイコカッター」を受け止めているのだから、 少しでも集中を切らせば、他愛もなく守りの壁は壊されるだろう。 当たり前だが、技の切り替えしも勿論ヤイバが上である。
「インファイト。」
セリアの命令を受け、 受け止められている「サイコカッター」を「リフレクター」ごと薙ぎ払い、右足を軸に身体を回転させるヤイバ。 その遠心力に力を乗せ左手で裏拳を決める。 これがヤイバの状況に応じた懇親の一撃、「インファイト」である。 さすがにこの衝撃には「リフレクター」も耐えれなかった。 無残にも砕け散った壁、その反動でアーレスの身体は宙に弧を描きそのまま地面に叩き付けられる。
「しまった!アーレス、大丈夫!?」
主を心配させぬよう、何とか立ち上がり、振り向きうなずいてみせるアーレス。
「ヤイバ、止めよ。ストーンエッジ!」
ヤイバが地面を強く蹴る。 その衝撃により宙へ舞う大中小の石粒。 それを追うようにヤイバも空へ飛び上がる。 石粒より高くあがった彼は、並外れたテクニックとパワーを用いて空中で廻し蹴りを繰り出した。 それにより弾かれた数多の石粒は、ぐんぐん加速し、弾丸のようにアーレスに向かう。
「くっ、リフレクター!」
またもアーレスの周りを輝く壁が包み込む。 雨の如く降り注ぐ弾丸。 いや、鋭く削れた石粒はもはや刀のようになっていた。 その切っ先はリフレクターの壁を布きれのように容易く切り裂いてしまった。 先ほどのダメージもありしっかりとした壁を作れなかったらしい。 見栄を張ったのは、♂の宿命だろうか。 膝から崩れ落ちるアーレス。 反撃すら許されなかった。 倒れこむキルリアを背に、標的をつばきに変えるエルレイド。
「さぁ、残るはあと1人り。終わりにしましょう。 ヤイバ殺さない程度にね。その子は生け捕るように言われてるの。 ギガ、インパクト!」
気迫だけでも押し倒されそうなほど、ヤイバは力を込めている。 そして一気に開放するようにつばきへ向かう。
(そうかこれが実力の差か…)
つばきがあきらめ目を瞑ったその瞬間。
「スガァ――ン!!」
という爆音があたりに響き渡る。何事かと思い、彼女は目を開いた。 そこに立ってギガインパクトからつばきをかばっていたのは、 倒されたはずのカイリューだった。
「ずいぶん派手にやってくれたじゃあねぇか、 まぁ嫌いじゃあねぇけどよ。」
そして、傷ついたキルリアを抱え立っているマスターの姿も見えた。 腰を抜かしその場に座り込むつばき。
「情けねえところ見せんなよ。まぁ言えた立場じゃあないけどな。 よく頑張った、安心しろ。こっからは俺らのステージだ。」 「いってくれるわね。さっきみたいにその龍もろとも片付けてあげる。」 「そうか、ではその命を捧げるつもりで掛かってくることだ。 見せてやろう、貴女の言う死神の恐怖を。」
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「…?んっ。いったい、私は…。」 セリアはしばらく気絶していたらしい。 「ここはぁ、痛!?」 体を起こそうとした瞬間体に激痛が走るのを感じる。 そうだった、私はあの後、いとも簡単にすべての手持ちを倒され、 つかまったんだ。 「あっ、起きたみたいですよ、マスター!」 「『痛』じゃねぇよ、こっちのがまだずっと痛いわ!」 先の勝負…不意打ちで結構なダメージを受けたマスターは、 まだ軽く腰をさすっていた。 「何メートルふっ飛ばしたと思ってやがる。全く。 でも、予定よりちっと起きるの早かったなぁ…。ん、じゃあつばき、 悪いんだけどさ、あれだ、残ってるドーナツは冷蔵庫にしまって、 汚れてる食器は洗って…あっいいや!水につけといて、後で洗っておくから。」 「は〜い。」 そういってつばきは食器をカチャカチャ言わせながら重ねてまとめ、 冷蔵庫の上においてあるラップをとる。 「…お前ら本当に悪の組織の幹部クラスか?」 てきぱきと仕事を進めるつばきを関心しながら見つめるセリア。 「いやいや、そういうところをしっかりしないと、 ご近所付合いがよくならないからな。」 「半分以上答えになっていないぞ。」 落胆のため息をつくセリア、 しかし、そんなのんきにしている場合ではない。
「貴様が俺らを襲撃した理由を、余すことなく話してもらおうというのに、 随分とまぁ、余裕なもんだな?」 「…ッチ。」 「?おやぁ、話したく、なさそうだな。 まぁそれはそれで一向に構わないが…。」 マスターは背広の内側のポケットから、 なにやらお菓子の箱のようなものを取り出した。 それがいったい何なのかセリアにはすぐわかった。 「!?、そ、それは私のチョコじゃないか!!」 「そりゃそうだなぁ、お前のポケットに入ってたんだ、 しかもこりゃああれだな、期間限定発売物で、その発売も先日完全に終了。 次に会えるのは来年の夏!とんだ代物さ。」 そういいながら、セリアの前で軽く振って見せる。 取り返したいのは山々だが、体がうまく動かせない。 手が何かで縛りつけられているように。 「さぁ、どうする?俺もつばきも、こいつが大好きでね?」 「畜生っ。」 「お前、本当に『高貴なる光』の幹部か!?」 そうしてセリアはゆっくりと口をあけ話始める。 それを見ながらなぜか腑に落ちないマスターだった。 「…まぁ、確かに美味いよな、このチョコ。」
「ふー。これでいいかな?」 エプロンのすそで手を拭きながら、一息入れるつばき。 結局皿洗いまでし終わったらしく、マスターの様子を見ようと、 二人のいる部屋に入る。 「終わりました?」 「おう、つばき。後で教えるよ。 まぁ大まかな話の内容は聞いたからな。 後は、その内容をまとめて師匠に伝えることと、」 「セリアさんをどうするかってことですか?」 「皿洗いもやっちゃわないと。」 「それは私がやっちゃいましたよ。」 笑顔でそう伝えるつばきを見ていつもの癖で頭をかきながら、 やれやれ、後は本当に寝癖だけなんだよな…。と思うのであった。
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「まぁ、とりあえずセリアから聞き出した内容を、 一回まとめて師匠に伝えないといけませんね。」 とつばきがマスターに微笑む。 「はぁああ、またあのじいさんのとこに行くのかよ〜」 そういって重い腰を上げるマスター。 「でもさっきの勝負もありましたし、カイリューはしばらく休ませて上げたほうが…」 つばきはポケモンが心配でしょうがなかった。 アーレスと名づけられたキルリアもカイリューも、彼女にはそういった優しさがある。 「じゃあ、ボーマンダに乗っけてもらうか。」 そう言って腰のベルトからまた違うボールを取り出し、 ポケモンを出そうとしたき、 「その必要はないぞ、小童めが。」 一人の老人と側役の黒服サングラスの男が立っていた。 「ゲッ!?いらしてたんですか?師匠?」 「御主等がいったいどういう状況になったかを聞いて心配で駆けつけたんじゃ、全く。」
「すいません、師匠。残り物ですがどうぞ。」 つばきは先ほど冷蔵庫にしまった手の付けられていないドーナツと緑茶を、 老人の座るテーブルへ差し出す。 「いやよい、気を使うなつばきよ。して小童、話を聞かせてもらおうかな?」 この老人はもちろんマスターの本名を知っている。 しかしそれを好んで口にはしなかったし、マスター自身そちらのほうが都合がよかった。 「それでは、まず…。」
「…ということで、敵さんが話した内容はこの程度です。」 「なるほど、十分だ。」 しばらく沈黙が続くが、すぐに老人が口を開く。 「まず一番の問題は、つばきの拉致じゃな。彼女が敵側に入れば、 ミオの事件程度ですまなくなる。」 「では私が忘れていた記憶を悪夢で見たことは、 『影縫い』がほぼ完成しきっていたから…!」 マスターは信じたくもない出来事を口にするあまり、口調が激しくなる。 「それだけではない例の警備員もそれに…」 それを聞いたマスターは「やはり」かと握りこぶしを作る。 「彼女にはまだ話していないのか?」 「いえ、でもあの時つばきはすでに10歳、大体のことは承知しているはずです。」 「…そうか、ならばいい。 そして、高貴なる光は確かに一度壊滅していたが、 総統の復活により正義の導きに改め、またしても過ちを繰り返そうとしている。 最重要はこれだけだ、アジトの本部など当に把握はしていた。」 そうして老人は口を閉じる。
マスターは沈黙を破るべくすぐ話題を変える。 「セリアはどうしましょうか?」 そう質問するマスターの声がセリアの耳に入ったらしく、 彼女はすぐに反発する。 「私の役目は終わったんだ!!さっさと開放しろ…。」 語尾にいくにつれだんだんと発音が弱くなっていく。 「?、どうした?」 気になったマスターは彼女を見る。 まるで信じられないとでも言うように、目を点にして老人を見つめるセリア。 次の瞬間彼女の口から信じられない言葉を耳にする。 「え?お、おじいちゃん!?」
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し〜んとした空気があたりを包んでいたが、 やっとこさ老人が口を開く。 「セ、セリアじゃないか、何でお前がここに? ひどい怪我じゃあないか、いったいどうしたその格好?」 「…あっ、そうだった。」 「?、何じゃ小童、話してみろ。」 「実はですね、」
…その辺でいいだろうガブリアス?」 そういって猛攻を止めるガブリアス。 ぼろぼろのゴウカザルがその目の前に倒れこみ、その瞬間ボールに戻される。 相変わらず高台に陣取るセリア、しかし戦えるポケモンはもういない。 「畜生、覚えてろ!!」 お約束の捨て台詞をはき逃げようとしたとき、 「ちょいまち、つまりまた来るって事だよね…? こちとら、そんな面倒くさいことされちゃあ嫌なんだよね、 ガブリアス、やつを逃がすなよぉ?地震!!」 「え?それはまずいんじゃあ…」 これにはさすがにつばきのとめが入った。 しかしあたりが大きく揺れ始め、その衝撃でバランスを失うセリア。 と、その瞬間、彼女は足を踏み外した。 「へ?」 彼女自身何が起きたかわかっていないようでもある。 「やっべ、やっちゃったよ…。」 地面に落ちていくセリアを見ながら目を丸くするガブリアスとマスター。 「完全に選択ミスですよ、どうします。」 そんな二人を横目で見ながら、アーレスを抱いたつばきが不安そうにしていた。
…というわけなんですよね。」 マスターが話し終えると、しばらく緊張と沈黙が続いた。 老人はキッツイ目で彼をにらみ、つばきもおろおろしていた。
「すまん、じじぃ。」 「貴様はまず手加減を知れ!! …全く、まぁあいい、見たところ一方的にやられていた訳ではあるまいに、 ところでセリア、どうしてお前は敵側にいる? 『レディ』はどうした?」 それを聞いてセリアは反省の色を見せた。 それもそうだ、老人が何年も会っていない孫を見るように、 うれしさと悲しさを混ぜたような表情をしているのだから。 「私とお姉ちゃんは、4年前にその組織の存在を知り、 ひそかに行われている養成学校へ入学したの、 私たちはおじいちゃんに教わったことを最大限に生かして、 すぐに幹部クラスの存在になれたわ。これで少しでもおじいちゃんの役に立てると思って。 でも、お姉ちゃん、すぐに正体ばれちゃって、今本部の牢獄に監禁されてるの…。」
すべてを話し終える時には老人の顔はセリアの無事を思う「安心」と その姉「レディ」の状況を思う「心配」でいっぱいだった。
「やるしかねぇ様ですね、師匠。 …いや、我等がロケット団総督、サカキ様。」
大きく息を呑むサカキと呼ばれた老人。 彼の一言は、正義と悪の時代の終わりを、告げるものだった。 「全面戦争だ…!!」
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荒野に立つ怪しげな建物。 その中で今、血で血を洗う戦いが始まろうとしていた。
兵士A「どこから迷い込んだかは知らねえが、その情報はお持ち帰り頂けないんだ。」 兵士B「命が惜しかったら『それ』を置いてお帰りになることだな。」
ちょっと広めの通路で「正義の導き」の制服をきた兵士達に囲まれながらも、 一人の男が威風堂々と立っていた。
男「おやぁ、せっかく拙者が苦労して見つけた情報なのに、 はいじゃあお返ししますと言って簡単にあきらめたら 骨折り損のくたびれ儲けになってしまう。」
黒い衣服に身を包み、足のくるぶし近くまで下がった黒い陣羽織をはおった男はそう答えた。 彼の口調はこの状況の中で、冷静どころか余裕さえ感じられるものだった。
「この状況下でお互い損得なしとはいかぬでござる。 …しからば!」
いいおわると彼は腰に据えた日本刀を抜く体制をとる。
「冥土の土産に教えてやろう、拙者の名はロケット団幹部補佐、 ギルガメッシュ。お相手はエンキドゥこの両名!」
「?うぉあ!!」 倒しこんだ兵士の頭を踏み付ける様にヘルガーが構えていた。
「さぁ、開幕とまいろう!!」 薄暗い通路でも淡く輝く剣先。兵士たちの顔は恐怖で染まることとなった。
――なんでこんな古びたアパートに用があるんですか?」 つばきが不機嫌そうに問う 二人はロケット団首領サカキの頼みで、あるアパートへ出向いていた。 すでにつばきは古びた階段で足をつまずき見事に転んでいる。 不機嫌の理由はそれだ。 「結局敵さんとは戦う運命になっちまったわけだが、 戦力が違いすぎる。それを戦略、科学技術で補うために彼女の力が必要なのさ。」 「彼女?」
マスターの説明を聞いてますます理解しがたくなるつばき。 「まぁ、いいさ、そうそうここの部屋だ。インターホン押して。」 つばきは言われたとおりインターホンを押す。 しかし、見れば見るほどボロ汚いアパートだった。
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