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はじまり
（僕は誰だろう。ここは…）
そうやって、僕が目を覚ましたのはある暖かい日のことだった。僕は気持ちのいい風を浴びて目を覚ました。
周りには緑色の木々が立ち並び、いかにもおいしそうな木の実がなっていた。
でもあいにくぼくはおなかがすいてない。
ぼくはゆっくりとおきあがった。
周りを見渡してみると、ここは森ではなさそうだった。木々はまるで僕を取り囲むように立ち並んでいた。
（僕は何でここにいるのかな。）
そう思った。誰もいない。僕だけだった。
僕は、とりあえずここを出る。
まだ僕は自分がなんなのかを知らない。
ここがどこなのかも。
でも、とりあえず僕はこの場所を去る。
（あ、誰かがいる。誰だろう。）
僕の目の前に１匹のポケモンがいた。
「チ…コ…リー…タ…」
僕は無意識にそのポケモンの名前を発していた。そのポケモン…チコリータは、僕にこういった。
「こんにちは。…あれ？きみ、不思議な色のピィだね。耳が緑色で。あたしチコリータ！君は？君の名前は？」
そのチコリータが笑顔で聞いてくる。
僕は自分の記憶がないこと、名前が分からないことを言った。すると…
「…じゃあ君の名前はシエルね。そしてここは…神のねむると言われる、ゴッドアイルゾーン。あたしは神様に会いに来たの」
僕は、彼女と神様に会いにいくことにした。
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神に会うために…
「さ、神に会いに行こうか。シエル。」
チコリータについていった僕。
僕はまだ、自分が何かを知らない。神に会えば分かるかもしれないと、僕はそう思いながらチコリータについていった。
「ここの奥に神様がいるんだって。」
「…うん。」
このとき僕がこんな返事をしたのは、考え事をしてたから。
なぜかって、ここと言われたところ…神殿…古びた感じで、神様がいるとはとうてい思えないほどぼろぼろで…壁の壁画さえ削れて何も見えない…。
というより、土とか、ツタとかですごいことになってた。
でも、僕がびっくりしてたのは、僕があそこを抜けるときにここを通ってきたから。
「…。ねえ、シエルはなにも覚えてないんだよね。」
「うん。…分からないの。僕がなんなのか。」
薄暗い神殿を歩きながら僕たちは会話をしていた。
「…。今…あたしが神様に会いに行こうとしてるの…、何でか分かる？」
「ううん…。分からない。」
「あたし、親を殺されたのよ…。誰かは分からない。あたしが森
からすみかに帰ったときにね、親が死んでたの。その次の日くらい…かな。あたしの住んでた森が焼け野原になったの。あたしは何とか逃げたんだけど…ほかのみんなは…。友達も…みんないなくなっちゃった…そのときに会いに行こうって思ったの。神様に、あたしの森の仲間を殺したヤツを、成敗してもらおうと…してたの。」
「…。」
チコリータの言っていたことははっきり言ってよく分からなかったけど、チコリータのとても大事なものがなくなったことは分かった。
僕が、チコリータにこれからもついて行こうと思ったのはそのときだった。
「…。ついたね。シエル。」
「…！！」
神様のいると言われたところ、そこは…
僕のいた場所だった。
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僕とチコリータで
僕のいた場所は、神様のいる場所だった。
僕は、なぜこんなところにいたのだろう。
「…ここで僕は目を覚ましたんだ…」
「えっ…」
チコリータが僕に疑問を持った。
僕も不思議だった。
なぜそんなところで僕が目覚めたのか。
「…シエル…？」
チコリータは、僕が神なのかとでも言いたそうだ。でも、僕は答えることができる…はずもなかった。
「…。そんなわけないよね。だってシエルは…。」
そんなわけないと決めつけられないことは僕にも分かる。だって、僕がここにねていたんだもの。
でも、たぶん、僕なんかが神になんてなれないと、チコリータはそういいたかったんだと思う。
僕も…そう思っていた。
「僕が神なんて、あり得ないと思う。僕は記憶がないけど、たぶん…そう思う。」
「…。いいよ。分かってる。でも、シエルがなれっこないって思っ
てるんじゃないの。神様って、偉いと思ってるから。シエルは、なんか、あたしのこと何でもいえるような気がするし、…なんというか、こう…なんだろう…一人になってから初めてできた友達が、神様だったらちょっといやかな…なんて思ってさ。」
「…友達？」
「…あっ…。ごめんね。いきなり。なんかあたし、もう友達になってたようなこと言ってた。でも…友達に…なってくれるね？」
「…、いいよ。僕でよかったら…。僕みたいな何も覚えてないのでよかったら。」
「…。ありがと。」
言葉じゃ言いにくいけど、そのときのチコリータの顔は、笑っていたけど、泣いてたような、いろいろな気持ちが混ざっていたような顔だった。
僕は、何でだろうと、チコリータに疑問を持った。
「あたしね、シエルは神様に何かお願い事があったんじゃないかと思うんだ。それが何かは…わかんないけど。」
「でもそれじゃあどうして僕の記憶がないんだろう。」
「あ、確かに。…それじゃあさ、あたしと、旅に出てみない？あたしの森をなくしたヤツを探しに行くのと、シエルの記憶を取り
戻す旅。どう？」
「僕の記憶を取り戻す旅？」
記憶は取り戻すことはしたかった。
でも、あてのない、長い旅。
行こうか迷った。だけどチコリータと一緒ならと、行くことにした。
ゴットアイルゾーンを出る途中、いろいろな物を見た。赤や黄色の花が咲き乱れる、広い花畑とか、向こうがとうてい見えないほどの大きな湖。とてもきれいだったけど、そこには誰もいなくて、なんだか寂しかった。
「ねえシエル。どうしてシエルって名前にしたか分かる？」
「そんなのわかんないよ。どうして？」
「エンジェルからとったの。天使って意味。ジェル、ジエル、シ
エルって。」
「エンジェル…。そっか。僕が天使であってほしいんだ。」
「ほんとはね、近くに天使がいてくれたら…って思ったんだ。」
天使って神様につかえるものってことだったと思うんだけど、どうしてチコリータは天使がいてほしいのかな。
ゴットアイルゾーンを抜けた僕たちは、２つの目的に向かって当てのない旅に出た。
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Ｓｔｏｒｙ１〜ゴーストタウン〜
僕とチコリータは、とある町を歩いていた。
その町は、誰もいなくて、暗くて、寂れていた。
「ここ、誰もいないのかな…。」
チコリータがそういった。僕もそう思った。
誰もいない。僕とチコリータの二人しかいない。
完全なゴーストタウンだ。
「誰もいないね。どうする？チコリータ。」
「そうね。どうしようか…。でも、あたし、なぜここがこんなになったか気になるの。…、調べてもいいかな。」
「うん。分かった。僕も気になってたところだし。一緒に調べようか。」
そうして僕らはこのゴーストタウンを探索することにした。
僕らはある一件の家の中に入った。その家の中にも、もちろん誰もいない。
僕らはその家の中を調べてみた。
すると、本棚からある一冊の本が見つかった。
「…。これは…、日記？」
「日記？…！そうだ、この日記に何か書いてあるかも。シエル、読んでみて。」
「あ、うん。えーと…。『３月２６日、このウォータータウンにも奴らが来た。ここは水の多いところ。奴ら、水をすべて奪っていく気だ！！』『３月２７日、奴らがこの町の水を奪い取っていく！！逆らった者は皆殺しにされ、恐くて逆らうことができない。いったいどうすればいいんだ！？』『３月２８日、ついにここの水がすべてとられてしまった。ここではもう住むことができないのか？！しかし奴らはすでにいくつもの町を亡き物にし、いくつもの森を焼き払った。そんな奴らに逆らうことはできない…』『３月２９日、ついにこの町を出る。ここにはもう来ることができないだろう。ここにはすでに奴らの一人がここを見張っているはずだ。もし、ここに来てこれを読んでいる人がいれば警告する。今すぐ逃げろ。奴が…来るかもしれない…。』…。」
「いくつもの…、森を焼き払った？…。まさか…。」
『まさか…？まさかなんだ？ふふふ…。』
「！！」「！？」
僕らは見知らぬ声を聞き、思わず振り返った。
すると、そこには一匹のヨノワールがいた。
「まさかここにポケモンが来るとはな。ここは誰もいないぞ。私だけだ。ほかの者は…皆殺しにした。この私がな。」
「…なんてことを…。」
（こいつ、日記に載ってた、奴らの一人…？）
僕は直感でそう感じた。そして、一瞬だけだけど、こいつに…会ったような気がした。
「おまえは…、あの、奴らの仲間か？」
「…それを知ってどうする？敵討ちをしたいのか？…。フン。馬鹿なヤツだ。終わったことを、いつまでも水に流せないとはな…。」
「…！！なっ…！」
チコリータは絶句した。僕には、なんのことかよく分からなかった。でも、チコリータの悲しい思い出を、馬鹿にしているように思えた。
「！！…。生きていたとはな。ピィ。いや、ファルス。」
「…、えっ？」
僕の…こと？ファルス？僕の名前？ヨノワールは、明らかに僕にそういった。生きて…いた…って？なんのこと？
「シエルが、…、こいつらと、何の関係が…？」
「教えるまでもない。そんな物はどうでもいい。おまえたち、忘れろと言ったはずだ。水に流せとな。」
「…。僕は今までの記憶がないんだ。教えてくれないか？ヨノワール。」
「…シエル…。」
「忘れたのならそれでいいではないか。なぜいやな思い出を思い出そうとする。終わったことはどんなに後悔しても遅いのだ。後悔するくらいなら…、忘れた方がいい。どんなことでもな。私はそうやって今まで生きてきた。…、長話をしすぎたようだな。まあいい。おまえたちには、消えてもらう。」
「…。させるか。おまえなんかに…殺されて…たまるか！！」
「！！チコリータ！！」
チコリータがヨノワールに突っ込んでいく。僕の第六感が、危険を感じている。
ヤツとまともにやり合ったら、それこそ死につながると。
「…。愚かなヤツだ。おまえなんかが私に勝てると思っているのか？」
「！！」
「チコリータ！！危ないっ！！」
ヨノワールの手から、黒いたまが、できていく。
あれは…シャドーボール！！
「チコリータっ！！」
思わず僕も飛び出していた。このままじゃ、二人ともやられるかもしれない。
でも、チコリータを見捨てることは、僕にはとてもできなかった。
「シエル！！…くっ！！」
チコリータがはっぱカッターを繰り出す。それがヨノワールに命中し、ヨノワールの体勢が少し崩れた。…が、それも一瞬。すぐに体勢を立て直し、僕とチコリータは捕まってしまった。
「度胸だけはあるようだな。だが、それだけだと、意味がないことを教えてやろう。」
ヨノワールが僕とチコリータを捕まえている手が、強くなってきた。
「くっ…うう…」
「うっ…」
このままでは握りつぶされる。
そんなとき、僕は、本能のままに指を振った。小刻みに、そして確実に…
「…っ！！」
僕の指が光った。
そして、大爆発が起きた。
チコリータはヨノワールが手をゆるめた隙にうまく抜け出した。ヨノワールは大爆発が直撃した。
そして、それを放った僕にも…。
「くっ！」
「うわっ！！シエルッ！！」
煙がなくなったあと、そこにいたのは、力尽きて倒れている僕だけだった。
ヨノワールがどこに行ったかは、分からない。チコリータは、ヨノワールが吹き飛んだと思っていたらしい。
そのとき僕は気を失っていたからよく分からなかった。
チコリータは、倒れている僕を背中に乗せて、この町を出た。あの日記に記されていたこと、ヨノワールの言っていたことを考えながら。
そして、僕はまだ、気を失ったままだった。
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Ｓｔｏｒｙ２〜滅びた森〜
僕が目を覚ましたのは、ゴーストタウンを出た、次の日だった。
「あ、シエル、目が覚めたんだね。よかった〜。」
「あ、チコリータ。僕のこと看病しててくれたの？ありがとう。」
「あ、シエルくん。おはよー。…、もう昼だけど。」
「！？」
よく見たらチコリータのとなりにイーブイがいた。
いきなり話しかけられて、かなりびっくりした。
「ねえシエル。今聞こうとしてたんだけど、今度から、ファルスって読んだ方がいいかなぁ？ヨノワールが言ってた名前だけど…。」
「ううん。シエルにして。僕、その名前、覚えてないし、何より、チコリータがつけてくれた名前だから。」
「うんうん。分かるよそれ。やっぱ本当かどうかもわかんない物より、友達がつけてくれた物の方がいいよね〜。」
「イブリ〜、ちょっとうるさいんだけど。色々口挟まないでよもぅ…。」
イブリと呼ばれたイーブイ。いったい誰なんだろう。
「ねえチコリータ、このイーブイは誰なの？」
「あ、シエルはまだ知らないよね。このイーブイは…」
「僕の名前はイブリ。ここがすみかなんだけど、二人がなんだか面白い話をしていたからね、思わず来ちゃったんだ。」
「ここ？」
さっきまでよく見ていなかったからよく分からなかったけど、こ
こはどうやら森のようだ。
だけど、ここには僕らしかいなかった。ここにはイブリ以外住んでいないのかな。
「ここには僕しかいないよ。ほかのポケモンはもうとっくに避難してる。ウォータータウンに被害が出てから、ここのポケモンはみんなほかの森に逃げていったよ。」
「何でイブリはここに残ってるの？もうすぐここにも被害が出るかもしれないからみんな逃げたんでしょ？」
「僕は死んでもここから離れないって誓ってるんだ。」
「…何で？なんでそう誓ってるの？」
僕もチコリータも疑問に持ったようだ。イブリは、僕がそう聞いたあと、少し黙ってから話した。
「ここには僕の大事な物があるんだ。だから僕はここを離れるこ
とができないんだよ。」
「でも…、イブリ、だったらそれを持って逃げればよかったんじゃ…。」
「それができないからここにいるんだよ。」
持てなくて大切な物って何かな。僕はちょっと気になった。
ドォォーン
そんな話をしているとき、森の奥から、大きな音がした。
「ハッ！！今爆発のあったところって…！！」
「えっ…、何かあるの？」
「あそこには…、あそこには、僕の大切な…！！」
「ええっ！！」「大変っ！！」
僕ら三人は、急いで爆発のあったところに駆けていった。
「！！ ああっ！！…僕の大切な…物が…。」
「これは…。」
そこは、一面の焼け野原になっていた。そして、そこには、一本の大きな木が、丸焼けになっていた。
「もしかして…、イブリの宝物って…。」
「そう…。あの木は…、僕が生まれた所に生えてた木なんだ。僕は親に捨てられたポケモンなんだ。タマゴがもうすぐかえって僕が生まれる直前に捨てられて、ここで生まれて…。僕はこの木に育てられたようなものなんだ。おなかがすいたら風が吹いて木になってる果物が落ちてきて、僕に食べさせてくれたり、ほんとに色々してくれたのに…、なのに…。」
「でも…、あの爆発は…？」
『…。アレハ…テンセ…デオコ…モ…。』
（！！ 何かが聞こえた…。）
「どうしたの？…シエル？」
「…？」
二人とも、今の声は聞こえなかったのかな。
僕も、よく聞き取れなかったけど、えっと…、
『あれは、てんせ、でおこ，も』だったっけ。なんだったんだろう。
「…、イブリ…。」
「…うう…、ぐすっ…。」
イブリの大切な木がなくなってしまった。あの爆発は…、いったい何だったんだろう。
周りに何も気配がしない。誰かがやったものじゃない気がする。
あと、あの声はいったい…。
「…。僕がここにいた意味が…なくなった…。」
「…イブリ、ねえ、あたしたちと、一緒に行かない？」
「…、旅…に…？」
「そう。もう、ここにいても、なんにもならないと思うの。…だ
からさ、この爆発とかの原因を調べに…さ。」
「なんにもならない…か。確かにね。確かに、今の爆発が、どうして起こったか知りたいし、何か、行動を起こした方が、このこ
とを忘れられるし…。」
「忘れる？忘れちゃダメだよ。思いは、いつまでも心に残していかないと…」
「全部忘れるなんて、したくてもできないよ。僕が言ってるのは少しでもそのこと以外のことを感じないと、生きていくことができないってこと。チコリータだって、旅をすることで、そのことを、少しでもまぎらわそうとしてるんだ。きづいてないと思うけど、そうしないと生き物は、生きることができなくなる。チコリータは立派に生きてるじゃんか、それが証拠だよ。」
「…そうなの…。」
「僕も行くよ。シエルと、チコリータと。」
「本当？」
「まあ、本当は、ここにいてもどうにもならないからなんだけど。」
「それでもいいよ。これからヨロシクッ！！イブリ！」
イブリはここにいてもどうにもならないっていった。チコリータも、同じようなこと言ってた。
どういうことなんだろう。いつまでもくよくよするなってこと？
「…。さよなら、お母さん…。」
イブリが大きな木に別れを告げて、僕たちと一緒に歩んでいくことになった。仲間が増えるのはとてもうれしい。
でも、僕は、ほかのことに気をとられていた。それが何かというと、あのとき聞こえた声。
（…アレハ…テンセ…デオコ…モ…。）
あれはいったい何だったんだろう。二人には聞こえてなかったみたいだし。
僕はそんなことを考えながら、誰もいなくなった森を三人で抜けていった。
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Ｓｔｏｒｙ３〜焼けた森〜
僕たちがイブリと冒険を始めてから、二日くらいたった日のことだった。
僕たち三人は、チコリータのふるさとの森にたどり着いた。
「ここが…、チコリータの森…。」
「そう。あたしが前まで暮らしていた森よ。今はもうこんなになってるけど、前はもっときれいな森だったのよ。」
「…、真っ黒…。」
森は、焼けて真っ黒になっていた。
前はきれいだったなんて、考えつかないほどに…。
「チコリータ、森は、いつ頃からこのような感じになってたの？」
「あたしが逃げた日…。そうね。二十日くらい前だったかな。一気にいろんなところが焼けて、逃げ場がほとんどないほどだったわ。」
「…これは…？」
「え？あれ、なんだろう、これ。なんだかねじれた感じのはっぱだねぇ。普通じゃないなぁ、なんか、こう、ねじ伏せた感じ？」
「え…？こんなはっぱ見たことがないよ。この森のものじゃないんじゃ…？」
「…でも、このはっぱ焼けてるよ。しかも、かなり前のもの。それに見てよ、この木を、この木の葉っぱ、すべてがねじれてる。何かすごい力が働いているみたいだ。チコリータ、やっぱりこの森の葉っぱだよ。」
「何でだろう。こんな木はないはずなのに。」
そのはっぱは、形がねじれていた。そして、そのはっぱがついていたと思われる木も形がおかしくなっていた。
チコリータはしらないって言うし、いったい何なんだろう。
「ねえ、この森に入って確かめてみようよ。」
「うん。そうだね。気になるもんね。入ってみようか。」
『この森に入ってはなりません。』
「えっ…？」
「何…？」
「今の声は…？」
今の声、なんだろう。また聞き覚えのない声が聞こえた。
しかも今度は、みんなにも聞こえたようだ。きちんと聞き取れたし。
えっと、『この森に入ってはなりません。』だっけ。この森に入っちゃダメってことだよね。なんで入っちゃダメなのかな。
「入ってはなりません…？」
「入るなってことだよね。それに今の声、テレパシーだよ。誰か
が僕らに話しかけようとしている。…ねえ、誰なの？僕らに話しかけてきたのは。」
『私は…、クレセリア…。ポケモン世界特捜部０２，クレセリアの…、クリスです。』
「ポケモン…、」
「世界…、」
「特…捜…部？」
『はい…。』
「どうして入ってはいけないの？」
『…あなたたちはもうみたはずです。この森の木々を…。』
「この木…？曲がってたりして、、確かにおかしいけど、それ
が、何か問題でも…？」
『今そちらに向かっています。私が、理由を話します。テレパシーだと、ほかのエスパーポケモンに聞き取られるので…。』
…？木が何かあって入れない？いったいどういう…。
チコリータやイブリも、何か考えた様子だった。
クリス…だっけ。の言ってたことはなんだか難しいような気がしてならないな。本当になんなのだろう。
僕らがそう考えているうちに、クリスと名乗ったポケモン、クレセリアが来た。
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Ｓｔｏｒｙ４〜クレセリア〜
クレセリアのクリスが僕たちの前に来た。
「…私がクリスです。」
「えっと…、なぜ、この森には入れないのですか？」
「ここには今、ものすごく大きな力が働いています。そして、その力により、時空がゆがみ、とても有毒なガスが充満しているのです。あなたたちのような小さなポケモンがここに入ったら、おそらく…、一分以内に気を失ってしまいます。だから、ここには入っていけないと忠告したのです。」
「…ガス？ゆがみ？…、よく分からないよ。なんであたしの森がゆがんでいるの？」
「ミリアさん。あなたがここを抜け出す前の日、あなたの親が死んでいましたよね。それがこのゆがみの前兆だったのです。あれは、空間のゆがみによる、気圧に耐えられなくなったあなたの親、つまりメガニウムたちがそのまま息だえてしまったのです。私たち、ポケモン特捜部は、そのゆがみを抑えるとともに、そこにいたポケモンたちの記憶を消す活動を行っています。」
「…！！記憶を…、消す？！」
「どういうこと？」
「この出来事は…、一般のポケモンたちに知らせてはならないのです。なので、被災地にいたポケモンは、私たちが保護をし、その記憶を消すことにより、何事もなかったかのようにしているのです。一度死んでしまったポケモンでも、時間がたっていない限り、高い確率で生き返らせることが可能です。そして、やはりそのポケモンも、それまでの記憶を消すことで、そのことをなかったようにしているのです。」
「ねえ、生き返らせるって、どういうこと？どうやってそんなことをするの？」
イブリが途中で質問をした。僕もそのことは気にかけていた。
「神の力で生き返らせる…、といった方がよいでしょうか。とにかく、神の神秘のちからで、少量のポケモンは助けることができ
ます。」
「だったらさあ、いつも死んだポケモンを生き返らせればみんな悲しい思いなんてしなくてすむんじゃないかな。」
「それはできません。この出来事はあってはならないもの、通常の生の道は、必ずあるもの。むしろ、無いといけないのです。生命が、みな生き続けたら、この世は、生き物であふれてしまいます。死ぬと言うことは、生命の調整を行っているのです。しかし、今回のことで生命が死に、そのままにしておいたら、生命が滅びる可能性があるのです。」
「…。このこと…って、ゆがみのことだよね。それっていったい何なの？」
「皆さん。私たちに協力するのなら、そのことを詳しく教えましょう。」
「…、どうする？二人とも。」
「僕はいいよ。この事件の謎も解けるし…。」
「…。」
協力するとははっきりとは言えなかった。
…というのも、入ったら、いったいどんなことをするのか、何がどうなってこの事件が起きているのかを知って、いったいこの先どうなるのかと考えたら不安になる。
でも、だからといって、このまま旅を続けて、自分たちで答えを探すのも、かなり時間がかかる。やっぱり、協力した方がいいのかな。
「うん。僕も…いいよ。」
「うん！決まり！クリス、あたしたち、協力するよ。だから、こ
の事件の真相を聞かせて！お願い！！」
「…分かりました。では、これから私たちの基地へ行きます。ついてきてください。」
僕らは、クリスとともに、ポケモン特捜部の基地へと向かった。
そこで、僕たちは意外な真相を知ることとなる。
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Ｓｔｏｒｙ５〜ポケモン特捜部〜
「ここが基地です。」
クリスに案内されて来たところは、基地と言うより、研究所といった感じの所だった。
しろいその外見は、所々にツルが絡みついていた。
「…協力したら、教えてくれるんだよね。」
チコリータ。いや、ミリアがクリスに聞く。
「はい。あなたたちが、その気があるのならば。」
クリスにつれられて、僕らは基地に入っていった。
そこには、たくさんのポケモンが働いていた。ジュペッタ、サーナイト、ムウマージ、ユンゲラー…。たくさんいた。だけど、みんなゴーストタイプかエスパータイプだ。
「ああっ！！ヨ…、ヨノワール！！」
「えっ！！」
「？」
かつて僕らを襲ったヨノワールがそこにいた。ここは、奴らといわれた団体だったのかもしれない。
もしそうだとしたら、僕らは、とんでもない間違いを起こしたことになる…。
「クリス、どうした？ファルスやミリア、それにイブリまで連れてきて。」
「ヨノワール、この子たちに何したのよ。もしかして、また物騒なこと言ったんじゃないの？『殺した』とか。」
「「言った。」」
「？」
僕とミリアは声をそろえていった。
「やっぱり！もうその口調やめなさいって言ったじゃない。あなたのせいで元々悪い私たちの評判がもっと悪くなってるんだから。そのことを肝に命じときなさい！」
「しょうがないではないか。前から言っていたことをそう簡単に変えられるわけが無かろう。」
「だから気にしろと何度も言ったのよ。いくらあなたが昔ディアルガについていたと言っても、今と昔は違うんだからね！！」
「しょうがない。ここまで言うのなら、了解した。」
「その言葉何度も聞いた気がするけど…。」
「まあいいではないか。気のせいだ。」
「もういいわ。（気のせいじゃないけど。）」
ヨノワールとの言い合いを切り上げたクリスは、僕たちの方に向き直った。
「ごめんなさいね。ヨノワールは昔、ディアルガについててね、ディアルガの護衛役に就いていたの。そのときの口調が直ってないのよ。」
「…ってことは…。」
「そう。ヨノワールもポケモン特捜部の一員。ポケモン特捜部108，ヨノワールよ。」
えっ！？どういうこと？えっと、つまり、ポケモンの保護をするのがこの団体で、ヨノワールはその仲間だったってこと？
「じゃあ…、あのときの日記は…？」
「日記…ですか？」
「うん。ウォータータウンの家にあった日記に描いてあったこと。水を奪う…とか、皆殺し…とか。」
「それは勘違いです。私たちは、ポケモンを殺したりはしません。それは、私たちの開発した、仮死装置です。…水のことは…、本当です。」
「仮死…装置…？」
イブリが聞く。
「はい。さっきも言ったように、このことは、普通のポケモンに知られてはいけないのです。なので、そのことに触れたポケモンの記憶を消さなければなりません。しかし、記憶を消すには、ここまで運ばないといけないのです。そのとき、仮死装置を使い、仮死状態にしておくのです。仮死状態と言っても、一日もあれば目を覚ますほどのものですから。催眠術と何ら代わりはありません。そこの人たちは、それを殺したのだと思ったのでしょう。あそこの人たちには悪いことをしました。」
「じゃあ、水はなんのために使ったの？」
「…、では、そのことを踏まえて、本題に入りますね。実は、この世界の裏側に、『反転世界』と呼ばれる場所があります。反転世界は、こちらの世界とつながっており、こっちで災害があると反転世界に、反転世界に災害があったらこちらの世界に被害が出ます。この事件は、反転世界で起こったものがこちらの世界に影響を与えているのです。 一ヶ月前、この星に巨大な隕石がぶつかりそうになったのです。その隕石がこの星にまともにぶつかったら、地表にいる生き物はすべて滅んでしまいます。その時に、反転世界の王、ギラティナが行動を起こしたのです。」
「ギラティナ？」
「はい。ギラティナは、地表にいる生き物を守ろうと、その隕石を反転世界に引き込んだのです。そして、ギラティナは、その隕石を、反転世界内で壊そうとしたのです。そして、隕石は、壊すことができました。しかし、問題はそこから起こったのです。そのときに壊した隕石のかけらが、反転世界内のポケモンの思考力を扱うところに当たり、壊れたのです。そして、その思考力の無くなったポケモンが、ディアルガと、パルキアなのです。そのことにより、ディアルガとパルキアは暴走し始めたのです。反転世界の壊れたぶぶんを修復すれば元に戻るはずなのですが…」
「だったらギラティナに修復してもらえば…」
「…それができないのです。隕石を壊すときのちからで、ギラティナは、瀕死状態になってしまったのです。」
「じゃあ、神様のちからで直して…」
「もらえません。ギラティナのキズは特別で、生き物のちからでは直すことができなかったのです。それは神様も同じです。神も生き物ですから。」
「…で水はなんのために？」
「今から話します。ゴッドアイルゾーンに、大きな湖があります。そこの水は、生き物のキズを治すちからがあるんですが、その湖の力がなくなっていたのです。そのため、水をきれいに入れ替え、湖のちからを元に戻そうと、ウォータータウンの水を使おうとしていたのです。しかし、町の人たちは、水をとることに反対したのです。そのため、仕方なく、強制的に水をとることにしたのです。」
「あたしの森が燃えたのは…？」
「あれは、さっきも言ったように、空間のゆがみから来ています。暴走したパルキアが、空間のゆがみを引き起こして、たくさんの災害が起きたのです。ミリアさんのところがたまたま火災だったと言うだけで、地震が起きた所などもたくさんあるんですよ。」
「僕の森が爆発したのは…」
「それは、反転世界で起こったものが、こちらの世界に引き込まれて起こったものだと思います。まだ、反転世界には、引責のかけらが飛び回っているのです。ギラティナがいない今、反転世界を守ることが難しくなっているのです。…これがこの出来事のすべて。そして私たちは、このゆがみをただそうとしているのです。」
「ギラティナは今、どこに…。」
「こちらで、できる限りの手当てを行っています。」
クリスに案内された部屋にあったのは、巨大なカプセルの中で、ギラティナが静かにねむっている光景だった。
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Sｔｏｒｙ６〜ギラティナ〜
僕たちがクリスに案内されて入った部屋では、ギラティナがカプセルの中で、ゆっくりと漂う光景だった。
キズだらけのギラティナは、まるでいやな夢でも見ているかのように、苦しそうにねむっていた。
この部屋は、たくさん機械があって、広い部屋がなんだか狭く感じた。
「これが…、ギラティナ…。」
「そうです。この部屋で、ギラティナの手当てを行っています。ですが、手当てといっても、生命を維持させることしかできていません。それに、容態も悪化しつづけています。早く、湖が復活しないことには…。」
「ギラティナが…。」
「ねえ、まだ、湖は復活してないの？」
「イブリ、実はね、あたしとシエルはみてきたんだけど、その湖はすっごくおおきいのよ。水だって、すぐには湖の水にはならないし。」
「いいえ。水はもうすべて入っているのです。」
「じゃあ、湖が復活しないのはどういうことなの？」
「シエルさん、あなたは今までの旅で、神をみましたか？」
「みてないよ。ねえ、シエル。」
「うん。そう簡単には出会えないと思ってたから気にしてなかったけど、あってないよ。…たぶん…。」
「湖を復活させるには、神の力がないとならないのです。しかし、神がいなかった。神がいないと、私たちだけではどうにもならないのです。」
「神は、どうしていなくなったのかな。分からないよ。」
「ディアルガとパルキアに連れ去られたのだと思うのです。あの二人は、本来なら神の使い、ディアルガとパルキアは、神によって生まれたポケモンなのです。しかし、暴走した今、神なんて覚えてないはず。それに、神は、この騒ぎを食い止めるため、ちからを常に発揮していました。それが仇となったのでしょう。」
「じゃあ神様を助けないことには…、これは解決しないって事？」
「そうなります。」
「じゃあ、早く助けないと…。」
『そのことなのですが…。』
「「？？」」
「えっ？」
「ムゥ！」
僕らが後ろを振り返ると、ムウマがいた。
クリスにムゥと呼ばれたそのムウマは、ゆっくりと話を続けた。
「すみません、いきなりで。実は、神様を助けるため、この特捜部内でディアルガとパルキアのもとに言った人たちがいるんです。でも、帰ってくる人はほとんどいなかったんです。帰ってきたとしても、傷だらけになって帰って来たりする始末だったんです。それで、今は誰か神のいるところまでたどり着ける者はいないかと、ずっと探し続けていたんです。でも、いくら待っても来なかったんです。もう時間もおしています。なので、この特捜部内のポケモンたち全員が、神を助けに行こうと言うことになったのです。その間、サーナイトのサリーだけ、ここに残ってギラティナを守ってもらうと言うことになってるのですが、あなたたちも行ってはくれませんか？私たちと一緒に。」
「もちろん。あたしたちは、この事件で被害にあったんだもの。できるだけ早く解決ができるようにしたいもの。」
「じゃあ、行ってくれるんですね。」
「もちろん！」
なんだか、ミリア一人で話を進めちゃってるよ。隣ではイブリが意気込んでるし。
でも、僕は、神様に会って僕があそこにいた理由を確かめないといけないし、どんなことがあっても、僕は行くよ。絶対。
「出発は明後日です。その前に、ここのポケモンたちになれてもらいたいです。あと、ここでの暮らしにもなれていただきたいのですが…。」
「それは…、まあ…。」
ミリアがちょっと口ごもったような。
やっぱあれかな。ヨノワール？
「完全にでくて結構です。ですが、やはり、ここのポケモンたちとケンカにでもなったらこまるので、ここのポケモンたちにもよく言っておきますから。」
「う…うん…。」
「分かりました。」
「はいっ！了解しました。」
分かるかな。今の返事。
一番上がミリアで、真ん中が僕、一番下がイブリ。ミリアはやっぱこまりぎみかな。
「ありがとうございます。では、今日はもう遅いので、明日、詳しく内容を教えますね。」
「「はい。」」
「はーい。」
そうして僕たちの、ポケモン特捜部内での暮らしが始まった。
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Ｓｔｏｒｙ７〜ポケモン特捜部での生活〜
ジリリ…ジリリ…
目覚ましの音で僕は目を覚ました。
隣では、ミリアとイブリがむっくりと起き上がっていた。
僕は周りを見渡した。
僕が今ねていたところはベッド、周りにはしろい壁が部屋を覆っていた。
（そっか、僕たち、ポケモン特捜部に入ったんだっけ。）
僕はゆっくりとベッドから降り、部屋から出ようとした。そのとき、
「あれ？シエル、どこに行くんだい？」
そう話しかけてきたのはイブリ。僕は、とりあえず、
「目覚まし時計が鳴ってたから。二人も、早く起きたら？」
「なんだよー。僕はもう起きてるよ？」
「そうじゃなくて、ベッドから出たら？って言ってるんだけ
ど…。」
「それだったらミリアだってそうじゃん。」
「…ふぁ〜。」
あくびしてる。そういえばこんなベッドとかでねるのは初めてな…、気がする。前のこと、覚えてないからな。
「ねえ、さっきから何話してたの？」
「だから、早く起きようよってさっきから言ってるんだけど…。」
「あ、ごめん。今起きるから。」
そういうとミリアはゆっくりとベッドから降りて、僕のそばに来た。
イブリも、
「分かったよ。起きるって。」
そういってベッドから降りた。そして僕らはこの部屋から出た。すると、
「あら、今起こそうと思ってたとこなのよ。」
「あれ？あなたは、え〜と、サーナイトのサリーさん。」
「覚えててくれて光栄だわ。フフッ、これからよろしくね。」
「あ、はい。こちらこそ。」
「朝食はできてるわ。さ、こちらへどうぞ。」
「行こう。」
「「うん。」」
イブリとミリアは一緒に返事をした。
朝食は、焼きたてのパンと、暖かいミルク。それに、スープがついてる。
人間からしたらありがちな朝食だと思う。
『いただきます。』
ここでは、みんなが一斉にご飯を食べるようだ。
横に長いテーブルに、今日の朝食がのっている。僕たち三人は、並んでそれをほおばった。
「パンかあ。僕、これを食べるのは初めてだよ。」
「パンねえ、確か、植物の粉からできてるんだよね。」
二人とも、物珍しそうにパンを食べていた。
僕も本来ならするべきなんだけど、僕は、ほかのことに気をとられていた。
（サリーさん、さっきから右手を使っていない。）
サリーは、さっきから左手を動かしてる。
それはまあ、聞き手なら分かるんだけど、なんか違う気がする。
「ムグ…。どうしたの、シエル。さっきから黙り込んで。」
「ミリア、実はさ、ほら、サリーさん、さっきから右手を使ってる。」
「…シエル、あたしの本名で呼ばないでくれる？」
「え？…、分かった。で、チコリータはどう思う？」
「うーん、なんだろう。骨折したとか？」
「だったらギブスとかはめると思うんだけど。」
「ねえ、イブリ、イブリはサリーさんのことどう思う？」
「…かっこいいと思う。」
…。なんか違うと思うんだけどな…。
「そうじゃなくて、ほら、サリーさん、さっきから右手を使って
ない。そのこと、どう思う？」
「ええ〜、左利きなんじゃないの？」
「…なんか違うと思うんだよな…。」
「まあ、あとで聞けば？」
そうやって話を切り上げた僕らは、朝食を平らげて、皿などをかたづけた。
すると、クリスが来た。
「食べ終わりましたね。では、ここでの仕事を教えます。」
そういって、クリスは僕たちを、ある部屋に連れて行った。
「皆さんには、ここで仕事をして貰います。」
そういわれて入った部屋は、たくさんのカプセルが並んでおり、カプセルの中には、一匹ずつ、ポケモンが入っていた。
そこでは、特捜部内のポケモンたちが、忙しそうに働いていた。
「皆さんには健康管理などは難しいですから、そこの資料をまとめておいてください。」
「あのー、ここはいったい…。」
「ここは、被災地にいたポケモンで、瀕死状態のものや、死んでしまったのを、生き返らせたポケモンたちの管理を行っています。深い傷を負ったポケモンたちは、ここでそのキズが癒えるまで、ここで管理をしているのです。」
「…じゃあ、お父さんやお母さんも…。」
「はい。います。まだ、完全には回復していませんが、かなり回復しています。」
「…。」
ミリアの顔が、明るくなった。それはそうか。いなくなったと思った親が生きてたんだもの。やっぱ、うれしいよね。
「では、よろしくお願いしますね。」
「「「はーい。」」」
僕らは早速仕事に取りかかった。たくさんの書類を、言われた通
りに並べていく。これが結構大変で、ものすごく、時間がかかった。
…。
どれくらい時間がたっただろう。外はもう真っ暗になっていた。
僕たちは、特捜部のポケモンたちと一緒に、作業場から出た。
「なかなかできなかった。」
「まあ、初めはそのようなものです。」
「ねえ、クリス。サリーさんは、どうして右手を使ってないの？」
「…、サリーにはさん付けなんですね。えっと、サリーは、あることで右手が使えなくなったんです。」
「あること？」
「まあ、明日にでも話します。晩ご飯でも食べましょう。」
「あ、はい。」
晩ご飯は、ご飯と、魚のフライ、野菜にわかめのスープだった。
僕たちは、すぐにそれを食べ終わった。ずっと働きづめで、おなかがすいてたから。
ご飯を食べ終わったあと、僕たちは、寝床について、ねむった。明日から特捜部をあげて神様を救助しに行く。
明日からがんばらないと…と僕は思いながら…、眠りについた。
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Ｓｔｏｒｙ８〜出発〜
「これから、ディアルガとパルキアのすみかへ出発します。皆さん、大丈夫ですね？」
クリスがみんなに語りかける。
これから、神を救うべく、暴走し
たディアルガとパルキアのもとへ行くことになる。クリスが言うには、ディアルガとパルキアは、元々違うところに住んでいたらしいけど、空間がねじれた影響で、二匹のすみかがくっついてしまったらしい。
そのため、前から戦いばかりしていた二匹は、今まで以前に激しい戦いをしているらしいのだ。
その戦いを止めようと、神は二匹の間に入ったらしいんだけど、神の力が弱まっていたために、二匹の攻撃をもろに受けてしまったらしく、大きなエネルギーの結晶の中に閉じ込められてしまったらしい。
「前にも言いましたが、この旅は、とても危険な旅となります。しかし、このまま何もしないわけにもいきません。今から私たち特捜部が、神を助けに行きます。生き残ったものだけが奥に進み、ディアルガとパルキアの攻撃をしのぎ、生きて帰ってきます。できれば全員生還できるといいですが、そうも行かないと思います。もう一度言います。行って、大丈夫ですね？」
『ハイ！』
みんなの声が基地の中で大きく響く。
このたびの目的は、神の救出、そして僕の目的は、もう一つ、僕の過去を聞くこと。
そのためにも、僕は、絶対に生きて帰らなくては…。
「ほんとにおまえたちも行くのか？」
ヨノワールがミリアに聞く。
「何？あたしたちじゃ戦力にならないとでも言うの？それはそう
かもしれないけど、そんなの、やってみなくちゃ分からないよ。」
「そうではない。おまえたちにはまだ、未来があるだろう？なのに、それをわざわざなくすつもりなのか？」
「…、どういうこと？」
未来？
僕たちには未来がある。じゃあ、ヨノワールたちは？クリスや、ヨノワールにだって、未来はあるはずなのに。
どうして、そんなことを言うのかな。
「出発します！」
クリスのかけ声で、僕たちは長い旅に出た。基地には、サリーを残して…。
僕は、昨日気になったことをクリスにたずねた。
「ねえ、クリス、サリーのこと、教えてくれない？」
「はい。分かりました。…あれは、この出来事が起こったそのと
きです。理性を失ったパルキアが、いきなり巨大な『亜空切断』
を行ったのです。その大きな力は、超能力などの、ふしぎなちからを使うものに、大きな負担をかけたのです。その力は、私たちの寿命を縮めたり、超能力を使えなくさせたりと、たくさんの障害を負ってしまったのです。サリーは体が動かなくなったのがそのときの障害なのです。治療のおかげで、だいたいは動くようにはなりましたが、右腕は動かなくなったしまった…。というわけです。」
「寿命が縮んだり、超能力が使えなくなった？」
「はい。そして私たちは、寿命が縮んだものたちなのです。」
「えっ…。」
寿命が縮んだ。じゃあ、ヨノワールがいってたのって、このことだったの？
「…、あなたは、もう一つ、疑問を持っているでしょう？今なら、答えてもいいですよ。」
「僕の…こと？」
「はい…。」
クリスは、僕の思っていたことを読んでいたみたいだ。
僕は、とりあえず、僕の過去のことを、聞こうとした。
「…あなたの過去は、悲しい過去です。それでも、聞くのですか？」
「…、はい。」
僕は、静かに、でも、はっきりと返事をした。
「あなたは、あの出来事が起こったそのときに生まれたピィなのです。空間のねじれから、体の色、能力が通常とは変わったピィが生まれました。そのとき、あなたのお母さんは、ピィの突然変異種、つまり、あなたのことを、救世主になるよう、大事に育てていました。しかし、お母さんは、ディアルガとパルキアの戦いに巻き込まれてしまい、二匹に、殺されてしまった。そのとき、あなたに自分が目の前で死んだ、ということを覚えさせたくなかったので、彼女は、神に、子供は助かるように、そして、このことを子供に忘れさせてほしい。…と強く願ったのです。神は、その思いを受け入れ、あなたをゴットアイルゾーンへと飛ばし、記憶を消したのです。」
お母さんは、二匹の戦いに巻き込まれて…、死んでしまった？そしてそのときのお母さんの願いで僕の記憶が無くなった…ということ？
そんなことを、僕のお母さんは、していたんだ。
そして、僕は、突然変異で生まれた、ピィだったんだ…。
「私は、このことまでしか知りませんが、神に聞けば、もっと、詳しいことが分かるかもしれません。」
そっか。僕の過去、母親が死んでしまったという事実を、僕に覚えててほしくない。だから、僕の記憶は、無くなった。そして、僕を戦いに巻き込まれないように、あの場所に飛ばしたのか。
僕の過去を、僕は知った。そして、僕らは、大きな洞窟の中に入っていった…。
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Ｓｔｏｒｙ９〜封印の洞窟〜
僕らが入っていった洞窟は、とても広い、鍾乳洞の洞窟だった。構造は結構単純で、ほとんど一本道の洞窟だった。
「…？」
洞窟を歩いている間、僕は、何かの気配を感じていた。
「シエル、どうしたの？何かあるの？」
ミリアが隣で聞いてくる。
「チコリータ。…あのさ、何か感じない？」
「え？…いや、何も。」
「イブリ、ちょっと良い？」
「…え？な…何？」
イブリが震えてる。こういうの苦手なのかな。
「何か感じない？なんか、誰かがいるような…。」
「いや？僕は特に何も感じないけど？ズバットかなんかじゃないの？」
「う〜ん…。」
僕だけかと少し不思議になりながら僕はみんなと洞窟の中を進んでいく。そこで、分かれ道が現れた。
「あら？前はこんな道なかったですよね？クリスさんはどう思います？」
「確かに。こんな分かれ道は１年前には無かったはずなのに。」
「…１年前？」
僕たち三人は、びっくりして聞き返す。
「まだこの事件が起きる前のこと。それまではここは一本道だったんだけど。」
「でも、つい最近もあそこまで行ったんでしょ？そのときはここは通らなかったの？」
「ええ。ここはつい最近まで崖崩れで通れなくなっていたから。」
「しかし、たった１年でここまで広い道ができるか？」
「できないはずなのだけど…。」
クリスたちも戸惑っているようだ。僕は、新しくできた道に方に、あの気配を感じた。僕は、そのことをクリスたちに告げた。
「…え？あの道に何か気配を感じるってことですか？」
「うん。そうなんだ。何かがあそこにある気がする。」
「行って、、みますか？」
「行くんですか？私もあそこに何か思念があるのには気がついたのですが。」
「ムゥもですか。誰かがこの向こうにいるかもしれません。行ってみましょう。」
『はい。』
「えぇ〜、行くの？僕いやなんだけど…。」
「イブリ、怖がっちゃダメ。行くの。」
「…行こう。」
「ここが…、この道の一番奥でしょうか。」
「多分そうだと思いますよ。思念も、より強いものになっていま
す。」
ムゥの言うとおり、ここが一番奥。
しかも、ここに何かがねむっ
ている。何がいるのだろう。
『イ…ブ…リ…。』
「！！」
今、何かが聞こえた。呼びかける声が。イブリを、呼んでる？
「どうしたのよ。シエル。」
「イブリ！！」
「えっ!何？」
『？』
みんなの視線が僕に集まってる。
「ここから、イブリを呼ぶ声が聞こえたんだ。」
僕が指さしたのは、行き止まりの所の、中心。そこには、固い岩盤があった。ちょっとやそっとでは壊れそうにない。
「エルレイド、頼みます。」
「…はい。」
エルレイド、まだ、話していなかったけど、特捜部の２３番目のポケモンだ。
エルレイドは、僕の行ったところに立ち、スウ、っと息を吸った。
「行きます!」
ガッキーン！！
岩盤が、がらがらと崩れていく。そこに現れたのは、クリスタルの壁に囲まれた水槽のような部屋だった。
その水は、濃い青色で、水の中には、一匹のイーブイが浮かんでいた。
動いていない。意識がないように感じるが、まだ、しきりにイブリを呼ぶ声が聞こえる。
「イーブイ？もしかして、イブリの、親なのかな。」
「でも、僕の親は、僕をあの森に捨てて…」
「そのことはいいわ。とにかく、助けましょう！」
「その前に、私があのイーブイの意識を確かめますわ。」
そういって出てきたのは、エーフィのリーズ。彼女も、特捜部の一人だ。
『イーブイ、聞こえますか？』
『やっと…通じ…ました。』
『聞こえているのですね。』
『は…い…』
『今あなたをそこから出します。…良いですか？』
『出して…くれるの…ですね。』
リーズを通して、イーブイの声が聞こえてくる。
「分かりました。リーズ、いいですか？」
「ええ。もちろんですわ。」
「…。」 「…。」
クリスとリーズがサイコキネシスを使っている。１０秒もする
と、クリスタルにヒビが入り始め、水が流れ出していく。そして、イーブイが中から出てきた。
「…っと!」
ミリアがイーブイを支える。イーブイは、動かないままだ。
「…大丈夫でしょうか。」
「分からないけど、大丈夫なことを祈ります。」
ムゥは、心配そうに液体でぬれているイーブイをのぞき込む。
「う…う…ん…。」
イーブイがゆっくりと目をあける。
「ここは…？」
「ここは、洞窟内です。…あの、ところで、お名前は…？」
「私は…フィル…。イブリの…母…です…。」
イブリの、お母さん？イブリは、捨てられたんじゃ…
「フィルさん。とにかく、今は、休んでください。だいぶ弱って
いるじゃないですか。」
「…。お母さん、なの？」
イブリは、信じられないとでも言うかのように、つぶやいている。と思うと、フィルに向かって駆けだそうとした。僕は、それ止めた。
「シエル…っ!!なんで止めるんだよ!僕を、なぜ捨てたのか聞うとしているのに!」
「イブリ！とにかく、今は、フィルが弱ってるんだから。元気になってからで良いじゃんかっとにかく今はダメだよ!」
「…くっ!」
イブリのちからが抜けた。やっとあきらめてくれたみたいだ。
「イブリ。お母さんを連れて、基地に戻りなさい。」
「えっ？」
「あなたがフィルの看護をしてあげなさい。生まれて初めての対
面でしょう？しばらく、母親と話しなさい。分かりましたか？」
「…はい。」
そして、イブリは、母親とともに基地に戻ることとなった。僕たちは、イブリの抜けた特捜部のメンバーで、旅を続けることになった。
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Ｓｔｏｒｙ１０〜イブリとフィル〜
「…。がんばってね。みんな。」
「大丈夫だよ。心配しなくて。イブリはお母さんのことを心配してればいいの。」
「…うん…。」
フィルを背負ったイブリは、僕たちをちらちらと見ながら基地へと戻っていった。やっぱ、自分だけ戻るのがいけないと思ってるのかな。
イブリが見えなくなると、僕らはまた、洞窟を歩き始めた。
長い間入口がふさがっていたせいか、洞窟の中は誰もいなかった。
そして、イブリは…
今まで来た道をゆっくりとおりていく。フィルを背負っているから、かなり重い。途中で、休憩を取った。
「…イブリ…。」
「え？…何？」
「イブリ、怒ってるでしょ…？私が森の中であなたのタマゴをおいてったこと。」
「…それは…」
いえなかった。確かに今まで、なぜ捨てられたんだろうと思い詰めていたし、もし、親にあったら復讐してやろうと思ったほどだ。でも、今は、その親は弱っていたし、なんか、感じが思っていたものと違う。それに何より、自分のことを心配している。
「…、思って、ない…よ。」
「…よかった。私、悪い親だから…イブリ、怒っていたと…思ってたのだけど…。」
「…。」
フィルの息がだんだん上がってくるのを感じた。
ムリをしてる…そう感じた。早めに、基地に戻ろうとした。
タッタッタッタッタ…。
「イブリ…、そんな…に急がなく…っても…良い…のよ…。」
「そんなに気を遣わなくても良い。早く治療しないと、母さん、死んじゃうかもしれないから。」
「イブリ…。」
急いで、急いで、くたくたになった頃、やっと基地に着くことができた。
「…！イブリさん。どうしたの？」
「このイーブイを…母さんを…助けて。」
「お母さん…、分かりました。では、急いで治療を…。」
「は…はい!!」
「これで大丈夫よ。あとは安静にしておけば。」
サリーが優しく言う。
「…ありがとう、ございます。」
「そんなお礼はいらないわ。あなたはもうここの一員でしょ？」
「あ…はい!!」
フィルが目を覚ますまで、サリーと休んでいた。
「あの…、安静ってどのくらいですか？」
「そうね…、一ヶ月位かしら。」
「一ヶ月…。」
「カプセルの中で療養したら十日くらいにはなるけど、どうするの？」
「だったら、カプセルの方が…」
「あのイーブイ、かなりムリをしてたみたいだし、その方が良い
かもね。でも、カプセルの中はとても狭いから、目を覚ましたとき、いやな気持ちになるの。入れなくても良いんだったら、ベッドで寝かせた方が気分は良いと思うわ。」
「でも…、早く元気になってほしいし…。」
「…決めたのね。でも、あとでちゃんと話しておきなさい。」
「…はい。」
イブリとサリーは、フィルをカプセルの中へと入れた。フィルはまだ目を覚ましていない。
イブリは、早く元気になってほしいと、願った。
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Ｓｔｏｒｙ１１〜ねじれた洞窟〜
「…、ここ…は？」
「ここは、［ねじれた洞窟］と呼ばれています。ここは、すでに
空間のねじれが起きており、道がねじれていることからこう呼ばれています。」
僕の問いかけに、クリスは答えた。
そこは、紛れもなくねじれている洞窟だった。
鍾乳洞も形がおかしくなっているし、道でさえ、くねくねと変化を続けている。
「ここは、入り組んでいます。皆さん、はぐれないようにしてください。」
クリスがそう言うと、僕たちは一カ所に集まった。クリスが言うには、ここはずっと変化していて、道を覚えることができないのだそうだ。
僕はミリアに話しかけた。
「ねえ、チコリータ。」
「？なに、シエル？」
「この洞窟、不気味じゃない？何か、出そうな感じがする。」
「うん。確かに不気味よね…。」
不気味なのは、その雰囲気だけではなかった。
だいたい、こんな感じの洞窟には、ズバットがいるものだ。
でも、この洞窟には、その気配すら感じない。ただ、感じるのは、何か、おおきなものがいる。そんな感じだった。
ゴキゴキゴキィ！！
そのとき、大きな音が、僕たちに聞こえた。
「…っ！！」
『！！』
見ると、リーズが倒れている。リーズは、ぐったりしていて、後足がおかしな方向に曲がっている。いったい何があったのだろう…。
「リーズ！！リーズ！？」
クリスがリーズに話しかけている。リーズはぐったりとしたまま、口を開いた。
「空間のねじれが…、私を巻き込んだよう…ですわ…。足が…動かせません…。」
リーズは、こう続けた。
「私に被害が出たと…言う…事は…、ここはあぶ…ない…です…。早…く…いってくださいませ…。」
「リーズ…。…ヨノワール、彼女をお願い。」
「ああ。言われなくとも。そのつもりだ。」
ヨノワールはリーズを抱き上げると、そのまま僕たちの方へ向かってきた。どうするのかな…と僕がそう思っていると、
「リーズ、今から基地へ飛ばす。良いな？」
「しかし…私のために…技を使うなん…て…申し訳ないです…。」
「だが、このままにもできんだろう？」
「私を…ここにおいてってください…。私は…大丈夫…ですから…。」
「リーズ、そんなこと言わないで。私達はあなたを見捨てるなんてできないわ。」
「でも…」
「大丈夫。あなたを送るために力を使ったって全然平気。だから、ね…。」
「…、は…い…。」
リーズは、申し訳なさそうに、そう言った。
自分のためにみんなの力を使うのが、苦しくて…。
でも、このままなんて、できっこない。それは、リーズとあまり話をしていない僕らだって同じだ。
「ユーラ、フーラ、お願いします。私達も、援護をします。」
「分かってる。行くよ…。」
ユンゲラーのユーラと、フーディンのフーラ、そして、クリスやヨノワールも…サイコパワーを使い、リーズを基地へ送ろうとしている。
ここから基地まではとても離れている。だから、それだけ時間もかかるみたいだ。
数十秒もするとリーズの体が光り、そして、テレポートが行われた。シュン、と音を立ててリーズが基地へと送られた。
「…ふぅ…。」
「…、ねぇ。」
「？何ですか？」
「どうして、イブリの時は、それを使わなかったの？」
ミリアは、唐突に聞いた。首をかしげながら。
「あれは、かなりの力が必要になりますから、滅多なことでは使わないのです。」
「…。」
リーズがテレポートをさせようとしていなかったのは、そのせいだったのかな。…と僕はそう思った。
「さあ、急ぎましょう。ここは危険かもしれません。」
『はいっ。』
そう言って、僕らは洞窟を進んだ。
そして、進んだ先には、おおきな部屋がぽっかりとあった。
「…、ここは…」
「いくらここがねじれてるといえど、ここまでの変化はあり得ないはず…。」
特捜部のみんなが不思議に思っているとき、僕は、今までにない恐怖を感じた。
『グルル…グル…』
「何か…いる！！」
『グオオォォ！！』
ズドォォン！！と大きな音を立てて出てきたポケモン、それは、かつて神の分身とされていた、パルキアだった。
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Ｓｔｏｒｙ１２〜パルキア〜
『グルル…』
パルキアの声が洞窟内で響く。
僕は、そのパルキアの姿を憎しみの目で見つめていた。
――このポケモンが…僕の母さんを…
「…シエル…？」
ミリアが横から声をかけてくる。僕ははっと我に返った。
「…チコリータ…」
「シエル…気持ちは分かる…けど…シエルじゃかなわないよ。きっと。」
考えてみればそうだ。僕がかなうわけがない…。どうして、そんな簡単なことが分からなかったのだろう。
「皆さん、急行突破します。」
クリスが、そう皆に伝えた。もちろん、僕にも。
「シエルさん、私達の目的は、神を救出することです。できるだけ、私闘は避けてください。」
「…うん…。」
僕は、悔しかった。目の前に仇がいるのに…。正確には、ディアルガもいるけど、今はそんなの関係ない。
ただ…今は…。
『グオオォォ！！』
パルキアが、恐ろしいほどの雄叫びを上げる。おおきな尾を振り回し、まるで、僕たちを威嚇するように、ここから先は通さないとでも言うかのように…
「皆さん、できるだけ戦いは避けて通るつもりです。…しかし、パルキアを退けないことには先へは進めないでしょう。ですから、一瞬でも良い、パルキアをひるませます。良いですか？」
『はい。分かりました。』
全員が、了解の声を上げる。もちろん、僕も。
「行きます！」
そう言うと同時に、クリスが最初の一撃を食らわせる。…これは、サイコキネシス。
サイコキネシスがパルキアに当たると、パルキアは怒りの声を上げ、肩の宝石に力をためる。
「あれは…亜空切断！皆さん！気をつけてっ！」
クリスが注意をする。あの技は、パルキアの得意技。当たったら、ただでは済まない。みんな、当たらないように分散する。まもるを使う者もいれば、こらえるを使う者もいる。
亜空切断は全体攻撃が可能な技。避けられる可能性は、低い。
『グルル…グオオ！！』
パルキアが、亜空切断をする。空間がねじれ、その力がみんなに加わる。
僕は、技をもろに食らったようで、息が苦しい。よろりと立ち上がると、僕は周りを見渡した。ほとんどが、技のダメージで体力を奪われている。
「シ…エル…」
「チコリータ…大丈夫？」
「平気…。それよりも…！」
そう言うと、ミリアもよろっと立ち上がる。一発でこんなのじゃ、後が持ちそうもない。
「皆さん…長期戦は不利になるばかりです。早めに…攻撃を…」
クリスがそう言う。クリスも、技の効果で避けたようなキズがある。
…そう、早く…何とかしないと…。
「…っ！！」
『グガァァ！！』
パルキアが僕に向かってくる。パルキアは、僕を先に倒すつもりなのだろう。
「シエルさんっ！サイコキネシス！」
クリスやエルレイドがサイコキネシスをする。…がパルキアは僕に視線を向けたままだ。僕も早く反撃をしないと。
そう思った矢先、いきなりパルキアの巨大な爪が僕に降りかかろうとしていた。
これでは…避けられない…！
「シエルッ！！」
そのとき僕は、必死の抵抗をした。
即座に指を振り、ある技が跳びだす。…これは、まもるだ！
「シエル、よかったぁ…。」
ミリアがほっと肩をなで下ろす。…運が良かった。もし、まもるが出ていなかったら危なかった。
『グオォォオ！！』
気にくわないとでもいうかのように、パルキアは地団駄を踏んだ。
そして、今度はミリアにむき直した。
「ちょ…このっ！」
ミリアがはっぱカッターを繰り出す。しかし、それはパルキアには全然効いていない。
――ミリアが危ないっ！！これ以上、こいつに大切な人をとられたくないっ！
そう強く想った僕は、体に何かの力を感じた。
今何かの原因でそうなったのか、それとも、元々あった力だったのかは分からない。でも…
――この力なら、ミリアを助けられる！
そう思った。僕は、意識を集中し、手に力を込めた。
すると、光が僕を包み込み、その光がはじけたかと思うと、光は塊となり、パルキアに降り注いだ。
「…！…今のは…？」
僕は呆然とした。こんな力が僕にあったなんて。今のは、技？
そのとき、クリスがこういった。
「これは…『裁きのつぶて』！」
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Ｓｔｏｒｙ１３〜裁きのつぶて〜
『グォォ…オォ…』
パルキアが動きを止めた。今の技が効いたようだ。僕たちは、そのスキにパルキアの横を通り過ぎた。
そのまま、パルキアが僕らを見失うまで、走りつづけた。
走って、走って、走り抜けた。その間に、パルキアは僕をにらみ、そのまま見えなくなった。
その後、僕たちは目立たない小さな空間を見つけ、そこに隠れながら休憩を取った。
走り続けたために、みんな疲れていた。
「はぁ…はぁ…。ねぇ、シエル…。」
「…？何？どうしたのチコリータ。」
「さっきの、いったい何なの？見たこともない技を使っていたけど。」
「…わからない。」
知るよしもなかった。だって、ほとんど無意識のうちに繰り出していた技だったから。
でも、これだけは言える。あの技は、僕の持ち技だって事は。『ゆびをふる』は使っていないし、ものまねも、スケッチも僕は使えないはずだ。じゃあ、あの技は…
「あれは、『裁きのつぶて』と呼ばれている技です。」
クリスが、そう言った。
裁きの…つぶて？何だろう。どこかで聞いたような…。というより、どうして僕はそんな技を？
「シエルさんが使えるなんて正直驚きましたが、きっとそれがあなたが特別な理由なのですね。」
「特別？…それが？どうして？」
クリスは、疑問符ばかりになった僕をじっと見て、それからこういった。
「『裁きのつぶて』は神しか使えない技なのです。世の中の悪者を成敗するための。強力な技です。シエルさんは、なぜかそれを覚えている。…ということは、シエルさん。あなたは、神に選ばれていた存在だったようです。そのために、あなたはあのような技を使えるのかもしれません。…そうですね。あなたは、この世界の、いわば天使のような存在なのかもしれません。もしかしたら、あなたには聞こえたのではないでしょうか。神の声を…。」
「神の…声…。…！！」
ふと、僕の記憶にそれらしい言葉があったのを思い出した。
『…。アレハ…テンセ…デオコ…モ…』
（あの声は…もしかして…神様の声だったの？）
「どうですか？シエルさん。」
僕は、声が聞こえたこと、そのときに起こったことなど、覚えているだけ詳しく伝えた。それを聞くと、クリスは、
「…それは、たぶん『あれは反転世界で起こったもの』だと、思います。神は、あなたの記憶を消した。それ故にあんたはこの事件の真相を覚えていない。だから、そう教えていたのかもしれません。」
「でも…、ちょっと良いかな？」
ミリアが横から質問をしてくる。
「シエルはせっかく事件のこと知っていたのに、どうしてわざわざ記憶を消してまた教えるようなまねをしたのかな？」
たしかに。僕が元々そのことを知っていたのなら、たとえ僕の親に頼まれたとしても、記憶を消してまた教えるなんてリスクの高いことは…
そう考えていると、横からヨノワールがこういった。
「お前は、親が死んだそのときの恐怖を覚えたまま、あの二匹を倒すことができるか？」
「…それは…。」
できないと感じた。親は、僕からすると、僕よりも強いという印象が強い。その親を殺したポケモンを僕は倒すことができるのだろうか…という不安に駆られる。
「お前は、本来ならディアルガやパルキアを上回る力を持っているようだが、あいつらを恐いと感じたまま、あいつらと戦うのと、親が二匹のために死んだという事実だけを知り、憎しみを持って戦うのでは訳が違う。それに、お前だって親が目の前で死んでいく姿を覚えていたくなどないだろう。」
「…うん…」
「神は、未来のこと、お前のこと、お前の親のこと、三つのことを考えて実行したのだ。お前にこの先のことを託せるようにと、そう願ってしたのだろう。だから、お前もそのことを肝に命じておけ。良いな。」
「…分かった…。」
「そろそろ、出発しましょう。神のいる場所は、まだまだ先のはずですから。」
『はい！』
そう言って、僕たちはまた、奥へ奥へと進んでいった。
僕は、今聞いた事を、かみしめながら、進んでいった。
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Ｓｔｏｒｙ１４〜紅の森
洞窟を抜けた先、そこは、真っ赤に染まった森だった。
葉っぱだけ赤かったらどんなに綺麗なことだろう…。でも、この森は…土も、枝も、そして葉も、すべてが紅く染まる、地獄のような所だった。
「クリス、この森は、いったい何なの？」
「分かりません…。このような森を見るのは初めてです…。ここは、紅の森とでもいった方がよいでしょう。」
「どうしてこの森、こんな色なのかな…。なんだか恐いよ…。」
ミリアが僕の隣にくっつく。少し暖かかった。
森は、木がたくさん立ち並び、空が見えない。
というより、空がここにはあるのかさえ僕は分からない。もしかしたら、ここは異次元なのかもしれない。
「…？誰かいる…。」
僕は、奥に何かの影を見つけた。
「あ、本当だ。もしかしたら何か知っているかも！」
そう言ってミリアはそこにいる誰かに向かってはしっていった。
…が、そのポケモンを見たときのミリアの反応は、普通ではなかった。ミリアはそのポケモンを見るなり、
「みんな！みんな！！変なポッチャマがいるっ！！」
…といった。
『…え？』
そう言って、僕たちはミリアの方へ駆け寄り、そのポケモンを見た。
「ポッチャマ…だよね？」
そこには一匹のポケモンが横たわっていた。
ミリアが言うとおり、このポケモンはポッチャマだと思った。
そのポッチャマは、羽毛が逆立っていて、体から少し放電をしていた。それに何より、背中から、黄色いギザギザの羽が生えていた。
「この羽は、サンダーの羽のように見て取れますが…。本当に生えているのでしょうか？」
クリスがそう言ってポッチャマの羽を引っ張る。羽はとれるはずもなく、クリスがいじっていると、羽が少し動いた。
羽が動いたのに驚き、クリスは手を離した。
…すると、
「う…ううん…」
『！！』
ポッチャマが目を覚ました。ポッチャマは、うつろな目で僕たちを見ている。
「きみたちは…誰なの…？」
ぐったりと横たわったまま、ポッチャマはそうつぶやいた。
僕は少しそのポッチャマを警戒していた。
何せここは何があるか分からない世界。そのポッチャマも、何があるか分からないから。
そう思っていたそのとき、
「あたしはチコリータだよ。」
『！！』
ミリアがそのポッチャマに向かって自己紹介をしていた。笑顔で。
「ちょ、ちょっとミリアさん？」
クリスが慌てて止めに入る。ミリアは不思議そうな顔をして、
「…？自己紹介、したらダメなの？」
「敵か味方かわからない相手に、そんなにのんきに自己紹介する物ではないんです。もし敵だったらどうするのですか！」
クリスがミリアにしかっているところを、ポッチャマは不思議そうに見ていた。
「…て…き…？」
そしてそうつぶやいた。ポッチャマはぐったりとしたままだ。
「キミは、いったい誰なの？」
僕は、そのポッチャマにそう聞いた。
「僕は…人間に…『サーチャ』って…呼ばれてる…。」
「サーチャ？…人間…？」
このポッチャマは不思議なことを言うなと思った。この世界に人間なんていないはず…。基地の本を読んだとき、人間は別世界にいる生き物だって書いてあった。ここに人間なんて…。
「…ここは…どこなの…。」
「こっちが聞きたいよ…」
はぁ、とため息をついて僕はサーチャを見た。
不安そうな顔を見ると、本当にここがどこだか知らないようだ。
そんなとき、サーチャの放電が強くなってきた。
体からパリッパリッと音を立てている。
「――逃げて――」
そう言いながら、サーチャの放電がいっそう強くなった。
これは…かみなり…！
「…危ないっ！みんな離れて！」
僕がそう言って、みんなが離れた後、サーチャの体から、強力なかみなりが発動した。あたりは一面光りに包まれ、あまりのまぶしさに僕は思わず目をつむった。
そして、光がひとしきりおさまった後、雷が起きたところにはサーチャが黒こげになって横たわっていた。
「今のは…？」
「攻撃…してきたというのか…、それとも…？」
クリスとヨノワールがそれぞれつぶやいていた。
僕は、サーチャの所へ駆け寄った。
息が上がっている。放電をしていないところを見ると、今ので体の電気をほとんど使ってしまったようだ。
「なあ、いま、そいつは攻撃をしてきたのか？」
ヨノワールがそう聞いてくる。僕は、こう答えた。
「違う。攻撃してきた訳じゃないよ。だって…」
（――逃げて――）
確かに、そうつぶやいていた。僕は、このポッチャマが敵でないと確信した。
「今のかみなりは何だったのでしょうか…？」
「分からない…けど、逃げてって、そう言ってたから、敵意があるわけではないはず。」
サーチャは苦しそうに息を荒げている。手当てしてあげなきゃ…。
「早くポッチャマを基地に…」
ミリアが慌ててそう言う。
「でも…サリーが彼を見てどう思うでしょうか…。」
クリスはそう言った。確かに、サンダーの羽が生えたポッチャマなんて、サリーがどう思うか…。僕だって警戒したのに…
「とりあえず、ここにある物で応急処置をしておいた方が無難でしょう。かみなりも、彼に聞いた方が手っ取り早いですし。」
「あ、うん。」
生返事をして僕はサーチャを見る。
でも、自分の技でダメージを受けるなんて…
「早く手当てしてあげようよ！」
ミリアがクリスにそう要求している。クリスはミリアを少しだけ見て、こういった。
「分かってます。じゃあ、そこの木の陰で休ませましょう。」
そう言って、クリスはサーチャを抱えて近くの木の陰に行き、そこにあったオレンの実を食べさせつつ、休ませていた。
ミリアはサーチャの顔をじっとのぞき込み、「早く目を覚まさないかな」とつぶやいていた。
僕は、サーチャがどこから来たポケモンなのか、少し疑問を持ちつつ、目を覚ますのを、じっと待っていた。
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Ｓｔｏｒｙ１５〜過去〜
―そこは、実験室のような場所だった。そこで、ある実験が行われていた。そして、ある一匹のポケモンが生まれた。
――やった！成功だ！！
（…、ここは…どこ？）
――サンダーの力を持ったポッチャマ、サーチャを、ついにつくることができた！
――ただ、その分自分の放つ電気技に耐えられない体になってしまったが、そんなのは関係ない。それに、知能も高いようだ。
（…誰…？）
――我々人間は自分の思い通りのポケモンをつくれるのだ！
（二ン…ゲン…。）
――だが、こいつは戦闘に向きそうではないが…。
――甘いな。こいつは実験用。こいつの遺伝子から、また新しく生み出せばいいのだ。さあ、早くこいつ、サーチャの遺伝子を取れ。そうすればこいつは用済みだ。
（…？何の話…？）
――さあ、早くとるのだ。その後、こいつは処分する。
（処分…！…殺される…！！）
そう感じたそのポケモンは、自分の生まれた場所を飛び出し、必死に駆けていった。ここにいたら危ない…早く逃げなきゃ…と考えながら…。
「待て！どこへ行く！」
「早く、あいつを捕まえろ！」
（嫌だ！捕まってたまるものか！）
「くそっ！行け！ヘルガー！！」
研究者らしき人が、ヘルガーを繰り出す。ヘルガーは鋭い目つきでポケモンをにらみつけている。
（…！！早く、早く逃げないと捕まる！）
「ヘルガー！火炎放射！」
「ぐるあぁぁ！！」
ヘルガーの口から炎が発射された。炎はポケモンに向かって襲いかかっていく。
（嫌…。捕まりたくない！）
そう強く思ったそのとき、ものすごいめまいがそのポケモンに襲いかかった。ポケモンは、あまりのめまいに気を失ってしまった―
「…っは…。」
僕や特捜部のポケモン達に囲まれてそのポケモン、サーチャは目を覚ました。
周りは赤い木々に覆われている。
空は、ここから少しのぞくことができた。
空も赤い。本当に、ここが現実なのかと疑うくらい。
サーチャは、ねむっている間、うなされていた。嫌な夢でも見ていたのだろうか。
「大丈夫？だいぶうなされてたよ？」
ミリアがサーチャにそう聞く。サーチャは、暗い顔になってため息をつき、ゆっくりとミリアに顔を向けてこう返した。
「僕の、さっきまでの記憶…。」
「記憶？…そう言えば、人間が何とかって話していたよね？人間っていったい何なの？」
僕がそう言うと、サーチャはさらに暗い顔をして、こう言った。
「人間なんて、会わない方が良いよ。人間なんて、人間なんて…。」
そう言いながらぽろぽろと涙を流していた。僕は慌てて、
「あ…、ご、ごめん…。嫌なこと聞いちゃったみたいで…。」
「…良いよ…。…キミは…いいよね。人間を知らないんだもの。うらやましいよ。」
そう言いながらまた、はぁ、とため息をついた。
「あの、あなたは、いったい…？」
「…何？」
「ここには、人間という生き物は存在していないはず。あなたは、どこから来たのです？」
クリスが、そうサーチャに聞いている。サーチャは、きょとんとした顔で、
「人間が…いない？」
と、そう返していた。
「あなたはもしかして、異次元のポケモン…なのでしょうか。」
クリスはそうつぶやいている。そして今度は、ヨノワールがサーチャに質問をしていた。
「お前、サーチャ…とか言っていたな。お前は見たところポッチャマのようだが、さっきの放電は何だったのだ？」
「僕、いつの間にか体に電気をため込んでいて、電気がたまりすぎるとああなるみたい…。よく、分からない…。」
「…そうか…。」
ヨノワールは少し残念そうな顔をして、特捜部の集まりに戻っていった。
「しかし、異世界のポケモンがこの世界に来たと言うことは、空間のねじれが強くなっているということなのでしょう。だとしたら、残された時間は残り少ないはず。…そろそろ出発しましょう。」
クリスはそう言って、意気込んだ。そのとき、ミリアが横から、
「サーチャはどうするの？」
…と聞いた。クリスはそれを聞くと、ふぅ、と一呼吸置いて、
「彼の意志に任せましょう。彼は、私達とは無関係ですから、わざわざ危険なところに行く必要もありません。サーチャさん、どうするのですか？」
「僕も…言っていい…？」
サーチャはこう答えた。サーチャの意外な答えにみんなが驚いていたが、クリスはこう続けた。
「この先は危険が待ち構えています。それでも良いのですか。」
…と。それを聞いてもサーチャの意志は変わらないらしく、「行く」の一点張りだった。
「…分かりました。そこまで言うのなら…。でも、十分気をつけてください。」
「…分かってる…。」
サーチャはそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
「では、皆さん、出発しましょう。」
『はい。』
そう言って僕たちは紅の森を出ようと歩き出した。
この先に、何があるかも知らずに…
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Ｓｔｏｒｙ１６〜紅のポケモン〜
僕たちは、紅く染まった森を歩き続けていた。
歩いても、歩いても、森の景色は変わることがない。本当に進んでいるのだろうかと不安になる。
「…？」
「サーチャ？どうしたの？」
「――今誰か…、いや、何でもない…。」
「…？」
サーチャの様子がおかしかったので、声をかけてみたが、返事という返事は返ってこなかった。
僕は、隣にいたミリアにも話しかけてみる。
「チコリータ。なんだか、この森をずっと歩いてるけど、まだまだ抜けそうにないよね。いったいどこまで続いているのかな。」
「…それよりもさ…、なんだかあたし、同じ所をぐるぐる回ってるような気になっててしょうがないんだけど…。」
「でも、ちゃんと進んではいると思うけど…。」
ミリアは、う〜んと首をかしげてそのことを近くにいたエルレイドに話した。
「それはないです。私達エスパータイプの力があれば、ここがどのような空間かもだいたいは知ることができますし、それに…」
「それに？何なの？」
「ほら、後ろを見てください。通ったところに印がついているでしょう？」
そう言われて僕たちは後ろを向いた。確かに。葉っぱが焼けたような跡になって印ができている。炎タイプの技か何かを使ったのかもしれない。
「これは、ゴーストポケモン達の「鬼火」です。これを使ってどこを通ったのかを記しておくのです。」
「そっかぁ。じゃあ大丈夫だね。」
ミリアがほっとした顔でまた前を向く。僕も前を向いて歩くことにした。
まだまだ森は続いている。時間はもう残り少ない。急いで抜けないと。
僕たちは歩く続け、ようやく、森の出口であろう光の差し込んだ場所が見えてきた。僕は、やっと森を抜けられるとうれしく思った。
――そのとき、
「…ッ！！」
何者かが、僕に背中を切り裂いてきたのだ。僕は、運悪くそのとき最後尾にいた。それが仇となったようだ。
「シエル！」
ミリアははっとして僕の方を見た。技が急所に当たり、僕は激痛でうまく動けない。よろよろと僕を攻撃してきた敵の姿を見る。
「ザングース…。」
そこにいたのは、赤い体で白い模様の入ったザングースだった。簡単に言えば、普通のザングースの体の色の赤と白を入れ替えた感じの。
「やっと来たか。待ちくたびれたで。なあ、みんなぁ。」
そのザングースは少しなまりの入った口調でそう言った。すると、脇の方から、赤いポケモン達が次々と現れたのだ。
ニドキング，サイドン、ストライク、サンドパン。皆赤い体をしている。
「うむ。やっと来た…といった感じだな。」
「へへっ、早く暴れたくてうずうずしてた所だぜっ！」
「馬鹿言うな。私達の目的はあくまでもこ奴らの足止め。あまり勝手な行動はするのではない。」
「まあ、そうだが…。バトルはして、良いだろ？なぁ？」
それぞれが、口々にそう言っている。あいつらはいったい…
「あ、あなたたちは何者です？！」
クリスが、戦闘態勢に入りつつ聞く。すると、ザングースがこう答えた。
「わいらはなぁ、パルキアはんにたのまれて、あんたらを足止めにはいったんや。あと、ここはわいらのすみか。勝手に通り抜けるのは許さへんで？」
「パルキア…。ということは、あなたたちはパルキアの部下…。」
「そうとも言えるし、そうとも言えないな。俺たちは、ここを通り抜ける奴はたたきのめす習性でな。悪いが、ここに来た以上、そのまま通り抜けるのは許さない。」
「ま、そうゆうこと。へへっ！」
「くっ…、…皆さん、戦う準備を！ミリアさんはシエルさんをお願いします！」
クリスが戦闘準備に入り、みんなに指示をした。
「うんっ！シエル、立てる？」
「う、うん…。何とか…。」
背中には激痛が走るが、今は早く避難しないと…ここにいたら足手まといになる。
「…大丈夫？」
サーチャが僕を心配してそう言ってくれた。
「僕があのとき警告しておけば良かったね…。何かがいる気配はしてたんだ…。言わなくてごめん…」
サーチャがすまなそうな顔をしてそう僕に伝えた。
「いや、いいよ。サーチャのせいじゃない。僕が隙だらけだったからいけなかったんだし。あと、心配しなくても、いいよ。」
「…。」
僕がそう返すと、サーチャは少しだけうなずき、ザングース達の方にむき直した。とりあえず僕は戦えるようになるまでは隠れておかないと。
僕はミリアと一緒に近くにあった草の影に隠れた。草の向こうでは、にらみ合いが続いている。
「シエル、心配しなくても、こっちの方が断然数は多いんだから。大丈夫だよ。」
「…うん…。」
でも、僕は、この戦いが普通に終わることはないと感じた。なぜかはよく分からない。でも、そう感じる。
「シャドーボール！」
ヨノワールがニドキングにシャドーボールを放つ。ニドキングは避けようともせず、そのままシャドーボールの餌食となる。
「…！？避けない…だと？」
「フフ…私達に特殊技など聞かない。」
「「！！」」
僕とミリアは驚いた。ニドキングは無傷だったのだ。それどころか、ぴんぴんして、今度はヨノワールに攻撃を仕掛けてきていた。
「毒針！」
「…っと！そんな物でダメージを食らう私ではない。」
ヨノワールは楽々と毒針を避けた。
「フフッ、なかなか素早いな。」
「まだまだ、これからだ！」
横では、クリスを先頭とした何人ものポケモン達が、ザングースと戦っていた。…しかし…
「くっ！！」
「チリーン！」
ザングースのきりさくをまともに受けて、チリーンは倒れた。
「あっ！！…シエル、ちょっと待ってて。チリーンを連れてくるよ。」
「…うん。気をつけて。」
ミリアがこっそりとチリーンの元へ行き、チリーンを抱えて戻ってきた。
「大丈夫？チリーン。」
「うう…。彼のきりさく、強力です…。」
「今手当てしてあげる。」
チリーンがミリアに手当を受けている。その間にも、ザングースに苦戦を強いられている。
なぜか特殊攻撃は効かない。エスパーやゴーストの苦手な打撃技を使わないとダメージは与えなれない。
「電光石火！」
「サイコカッター！！」
「…っわ！…チィ、なかなかやるやん。」
そんな中、クリスとエルレイドはザングースを押していた。この状態のまま、倒せたらいいのだけれど…
「…っ！」
サーチャはギリギリでストライクの攻撃をかわしていた。
「ほぅ…ちっこい体にしてはなかなかやるな。」
「…ほめたって何も起こらない…。」
そう言いながら、サーチャはドリルくちばしを繰り出す。それは、ストライクの体をかすった。
「ふむ、これは、そろそろ本気になった方が良いという合図かな？」
ストライクが笑いながらそう言う。サーチャの脇には、ムゥやムウマージ、ラルトス、キルリア達が見守っている。特殊攻撃しか使えないようで、援護をするくらいしかできないようだ。
「御託はいい。こないならこちらから行く。」
「うらっ！アームハンマー！！」
「うぐっ！」
ユーラがサイドンのアームハンマーに当たる。
ユーラはそのダメージで倒れかけたが、すぐに体制を立て直し、サイコカッターで応戦した。
「今っ！ヤミ−、攻撃をっ！」
「あいあいさっ！」
ヤミラミのヤミーが思念の頭突きを繰り出した。ヤミーもまた、特捜部のポケモン。おまけに戦闘が専門。
「ちぃっ！！イテェじゃねえか！！」
「まだまだやりますぜ！あんたが倒れるまでね！」
「僕たちは早く先に進まなくちゃいけないんだ！」
「サイコカッターッ！」
フーラはサンドパンにサイコカッターを繰り出す。サンドパンはそれをギリギリでかわす。
「あっぶねぇ…。今度はこっちから行くぜっ！」
そう言ってサンドパンはフーラを切り裂いた。
「あぐぅ…」
切り裂かれたフーラはよろめいた。その後ゆっくりと立ち上がると、またサイコカッターを繰り出す。
「フーラ！一人で戦っちゃダメ！」
「！！」
横からアサナンがフーラにそう言った。
「あたい達もいる！みんなで戦うんだよ！」
チャーレムもそう言ってくる。
フーラはそれを聞いて顔を喜ばせた。
「ああ！ありがとう！」
戦いはまだ続いている。僕は自分が戦えないことを後悔しながらその戦いを見ていた。
「シエル！あたしも戦ってくる！」
「チコリータ！」
ミリアも戦う気のようだ。決心したようにこう言う。
「あたしも加勢して、できるだけ早く決着をつけてくるよ！」
「気をつけて！」
「うんっ！！」
ミリアが戦いの場へ向かって走っていった。僕は、できるだけ早く戦える状態になれるようにゆっくりと体を休めていた。
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Ｓｔｏｒｙ１７〜決着（前編）〜
「ヨノワール！」
ミリアがヨノワールの方に向かって走っていく。ヨノワールは一瞬だけミリアを見て、
「…！ミリア！」
…と言っていた。
「加勢に来たか。まあ、一人増えたところで私には関係のない話だが。」
ニドキングは勝ち誇ったような顔つきでミリアを見る。
「そんなのっ！やってみないと分からないよ！」
ニドキングの反応にむっとしたミリアが反論をする。
ニドキングはそれを聞いて、ミリアに向かってこういった。
「フフ…、なら、その実力を見せてもらおうではないか。…メガホーン！」
ニドキングがミリアに突進攻撃を仕掛ける。ミリアは危なっかしくそれを避け、はっぱカッターを繰り出していた。
「くっ！」
「どうだ、ニドキング！あたしのはっぱカッターは！」
「だが、この程度で倒れる私ではないぞ。」
「…甘いな。」
「…！！」
ニドキングがミリアと戦っている隙に、ヨノワールはニドキングの後ろへ回っていた。そこから、シャドーパンチを繰り出す。
「ぐぅ…、まさか後ろへ回っていたとは…」
「お前は仮にも複数のポケモンを相手にしている。そのことをわきまえておくんだな。」
そう言うと、ヨノワールはニドキングを後ろから羽交い締めにした。そして、
「ヨマワル、くろいまなざしを！」
「はいっ！」
ヨマワルはニドキングに向かってくろいまなざしを繰り出した。
でも、ニドキングは技の攻撃を受ける前に、尾でヨノワールをはじき飛ばした。
その後、巨体とは思えないほどの動きでくろいまなざしを避けた。
「そう簡単にやられないといったはずだ。」
「そうか。なら、もう少しやってやるか。」
「フフッ、そのつもりだ！」
そう言うと、ニドキングはヨノワールの方へ向かい、ジャンプし、おおきな尾で地面をたたきつけた。たたきつけられたとこから土煙が立つ。煙はすぐにヨノワールの視界を遮った。
「私を攪乱するつもりか…。くそっ、煙がひどくて周りが見えない…。…！！」
「もらった！！」
ニドキングが土煙から現れ、ヨノワールにメガホーンでの一撃を与える。
「ぐっ！！」
「このっ、はっぱカッター！」
ミリアがニドキングに奇襲をかけようとする。しかし、ニドキングははっぱカッターを腕でたたき落とした。
「さっきは油断したが、そうはいかないぞ？」
「くぅ…。」
「ならっ！おどかしてやるっ！」
ニドキングの後ろからヨマワルが驚かす。技はニドキングに効いたようで、ニドキングは少しよろめいた。
「今だ…！かげうち！」
「はっぱカッター！」
「おいうちっ！」
「！！」
そのとき、ニドキングと戦っていたすべてのポケモンがニドキングに技を仕掛ける。
たくさんの技はニドキングに命中し、ニドキングは倒れた。
でも…
――何だろう…この胸騒ぎ…
僕は、何かとても不安な気持ちになっている。どうして？ニドキングは倒した。他のみんなも倒せるはず…
いったい何なのだろう…
胸騒ぎを感じつつ、僕は戦いをじっと見ていた。
横にはチリーンがいる。
ニドキングは倒した。後は…４人…。
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Ｓｔｏｒｙ１８〜決着（後編）〜
「はぁ…はぁ…。」
サーチャが息を切らせている。長い間動き続けていたからだ。
「どうした？もうおしまいか？」
ストライクはサーチャに皮肉をかける。
「くっ…」
サーチャは悔しそうに手をぐっと握りしめた。
後ろでは打撃技が使えないポケモン達がはらはらしたように見つめている。
「サーチャさん…」
「…心配しなくて…いい…。必ずあいつを倒す…。」
「しかし、その強気がいつまで持つのか…だ。無理をするな。すぐ楽にしてやる。」
ストライクはそう言うと、自慢のカマをサーチャ達にちらつかせた。
――そのとき、横からはっぱカッターが飛んできた。ストライクはいきなりの攻撃に対処できず、技はクリーンヒットする。
「サーチャ！大丈夫？」
「チコリータ…。それと、ヨノワール…」
「一人でやろうとするな。苦しくなったら助けを呼べ。」
「…。」
サーチャは黙ってうなずくと、ストライクの方へ向き直る。ミリアやヨノワールもストライクの方を向く。
「加勢に来たというのか。ご苦労なことだな。お前達はニドキングと戦い、体力も残り少ないだろうに。」
「サーチャは一人でがんばっていたもの！助けてあげなくちゃいけないの！」
「それに、はやく決着をつけるには早く終わった物が加勢に言った方が早いだろう。」
一通りヨノワールが言い終わると、ミリアはふぅっと息を吸って、
「のしかかりっ！」
ストライクに向かってのしかかりを繰り出す。ストライクは腕でそれを防ぎ、シザークロスで反撃をした。
ミリアはそれを受け、地面にたたきつけられた。
「痛た…。くぅ…」
そう言いながらミリアはよろりと立ち上がった。
「がむしゃらに攻撃をするな。返り討ちに合うだけだ。」
「遠距離からの打撃が効果的だと思う…。」
「わかった。」
そうやって少し会話をすると、３人は三手に分かれ、３方向から攻撃を繰り出す。
「はっぱカッター！」
「かげうち！」
「がんせきふうじ！」
ストライクはそれを受ける直前に大きくジャンプし、三つの攻撃は外れた。
そして、ストライクが着地する直前にヨノワールがシャドーパンチをたたき込んだ。
「ぐぅ…！」
「油断禁物だ。」
「ふ…、お前は嫌な奴だな。ふんっ！」
ストライクは鎌でヨノワールを退ける。ヨノワールはストライクの鎌を避けると、かげうちを繰り出す。
ストライクはそれを避け、サーチャに向かって切り裂こうとする。
「つつくっ！」
サーチャがストライクを返り討ちにした。ストライクは少しよろめくと、体制を立て直し、意外なことを口にした。
「…もう良い。お前達の勝ちだ。」
『！！』
「…どういう事…？」
「だから、もう、お前達の勝ちで良いと言っている。…私達が戦う意味が無くなったからな。」
「…？」
三人は首をかしげる。それはそうだ。いきなり負けを宣告してきたのだから。
――そのときだった。何か大きな力が、じしんとなって僕たちに降りかかってきたのだ。地面は大きく揺れ、立っているのもやっとの状態…。
いつしかザングース達まで不安そうな顔をしてその場にとどまっていた。
「！！おおきな時空揺が起こっています…。このままでは、私達はここに取り残されてしまいます…」
クリスがそう言ってきた。閉じ込められる…？
「早くてテレポートをしなくては…でも…、私達全員を送ることはできません…クリスさん…。」
エルレイドはそうクリスに言う。そしてこう続けた。
「今の私達の状態、ここから向こうまで残りを考えると…、多くて３人…。」
「ええ…。こうなったら…。シエルさん！ミリアさん！サーチャさん！あなたたちだけでも先へ進んでください！私達の力を使ってテレポートさせます！」
「えっ…。で、でも、クリス達は…？」
ミリアが不安そうにクリスに聞く。
「私達はどうせもう短い命。ここで取り残されても、先にすすんでも変わりはありません。」
「みんなも…良いの…？」
僕は、ゆっくりとみんなの前に行き、そう聞く。
「はい。だって、元々私達は死を覚悟してきたのですから。」
「そんなの、恐くないです！」
「だから、シエルさん達だけでも早くっ！」
「で、でも…」
「時間がない。もうこうなったら、この選択がもっとも望ましいのだ。さぁ、覚悟を決めて欲しい。」
ヨノワールもそう言ってくる。僕は、わき上がる感情を抑えて、こう告げた。
「…。…は…い…。」
「では…あなたたちを送ります。…きっと、きっと神を救出してください！」
「うんっ！約束…する…よ…！！」
ミリアが涙を一杯にためながらそう答えた。
「ミリアさん、泣かないでください。もうあえなくなると決まったわけではないのですから…」
「…うん…」
「…では、送ります…」
サーチャがうなずく。僕も、覚悟を決めた…。ミリアもそうだ…。
サイコエネルギーが僕たちに集中している。そして…
――たどり着いた先は、広大な広さの空間…そしてそこには、クリスタルの中にねむるアルセウスと、ディアルガ、パルキアの二匹がいた…
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Ｓｔｏｒｙ１９〜復活〜
そこでは、ディアルガとパルキアが、怒りに身を任せて戦っていた。
その空間の中心にはアルセウスが閉じ込められているクリスタルがある。
今から、ディアルガとパルキアを何とか退け、神＝アルセウスを助けないといけない。僕は、その局面に立っている。
僕はそのプレッシャーに押しつぶされそうだった。足が震える。
――そのとき、テレパシーが聞こえてきた。
『三人とも、聞こえますか？』
その声に一番早く反応したのは、サーチャだった。
「…聞こえる。」
「聞こえるよ！」
「クリス、どうして声が？」
『私達が力を合わせて、あなたたちにテレパシーを送っているのです。しかし、長くは持たないと思います。なので、手短に言います。良いですか？』
「うん。分かった。始めて。」
僕がそう答えた後、クリスがこう続けた。
『そこに、ディアルガ、パルキア、そして神様がいるはずだと思います。』
「…いる。」
『あなたたちはディアルガとパルキアの二人を退け、神を救出しなくてはいけません。』
「うん。」
『今から、神様を助ける方法を伝えます。この方法は、シエルさん、あなたしかすることはできません。』
「…！どうして…？」
『あなたの持ち技、『裁きのつぶて』をクリスタルにぶつけるのです。それが一番手っ取り早い方法です。』
「裁きのつぶて…」
『しかし、その間にディアルガ達の邪魔が入るかと思われます。』
「…うん…。」
『そこは、ミリアさんとサーチャさんの二人で何とか耐えてください。』
「分かった。」
そう続ける間にも、クリスの声は薄れていく。
「ねぇ、一つ聞いて良い？」
『…なんですか？』
「何で…こんな事になっちゃったのかな…？」
『たぶん、パルキアが私達を遠ざけたかったのかと。』
「そっか…。」
『そろそろ限界のようです…。シエルさん、ミリアさん、サーチャさん…。きっと、きっと世界を救ってください…―』
クリスのテレパシーは、そこで途絶えた。
「じゃあ…、始めよう…。」
ミリアとサーチャは、無言でうなずいた。
僕は力をためる…。あの技を、再び出すために…
『グルル』
『グガァアァ…』
二人がこちらに気づいた。それぞれ、怒りに満ちた目でこちらをにらみつけている。
――まだ、技が繰り出せる状況じゃない…
『グガアアァァ！！』
パルキアが、亜空切断を繰り出そうとしている。ミリアが、それに気づき、パルキアにはっぱカッターをヒットさせる。サーチャもそれに続き、バブルこうせんで応戦する。
――もう…少し！
『グルゥアァ！』
ディアルガも、時の咆吼を繰り出そうとして力をためていた。僕も、もうすぐ技が出せそうな状況にある。僕が先か、ディアルガが先か…。
――いける！！
僕が先に技のパワーをためることができた。今なら、あの技を繰り出せる！
「シエル！今っ！」
「…今…！」
「いっけぇ！」
そして、世界改変への最後の技が僕から放たれた。
裁きのつぶては、真っ直ぐクリスタルの方を向き、クリスタルを粉々に打ち壊した。
そして、中からはアルセウスが…
『ありがとう…。礼を言うぞ。後は、私に任せろ…。』
そんな声が、聞こえてきた。
クリスタルから姿を現したアルセウスは、ディアルガとパルキアを光で包み込み、そのまま、光を二人に吸収させた。
…すると、ディアルガとパルキアは、はっとした顔つきで辺りを見回し、自分たちの空間へと戻っていった。
「閉じ込められていた間、ずっと力をためていた甲斐があった。お前達が出してくれたおかげで、ためていた分を放出して、二人の暴走を止めることができた。再び、礼を言おう。」
アルセウスは、僕たちをじっと見つめながらそう言った。
「いや…、僕たちなんて、何もしていないのと同じです。」
「ううん。シエルはすごくがんばったよ。何もしていなかったのはあたしの方。」
「…それにしても、あっけなかった気がする…。」
サーチャがそんなことを言う。確かに、今までのことを考えるとそうかも。
「あの者達は、すでにほとんどの力を使い切っていたようだ。そう感じたのはそのせいだろう。」
「…。」
僕は、アルセウスをじっと見つめていた。アルセウスもまた、僕を見つめている。
「ファルス…いや、シエルよ。お前は、命を世界に捧げる勇気があるか？」
「…え？」
アルセウスが質問してきたのは、僕にとって、生死の関わるおおきな質問だった…
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Ｓｔｏｒｙ２０〜命の宝玉〜
「お前は、命を世界に捧げる勇気があるか？」
「…え？」
アルセウスが質問してきたのは、僕にとって、生死の関わるおおきな質問だった…
「…どういう…事…？」
「…？」
ミリアもサーチャも、不思議な顔をしてアルセウスを見つめている。
「そうだな。お前達には分からないだろう。しかし、シエル、お前は、私の分身とも言っていい存在なのだ。この騒ぎを止めるために、私は私の中の『プレート』を出し、『命の宝玉』を使わなければならない。しかし、騒ぎがここまで広がった後では、『命の宝玉』は世界改変に使ったとたんに使い物にならなくなるだろう。」
アルセウスは、そう言いきると、僕に方をまたじっと見つめ、
「…『命の宝玉』が無くなれば私の命は永遠ではなくなる。つまり、死ぬときが来るようになる。」
「…神様が死んだら、きっとみんな困るよね…。」
ミリアが暗い顔をしてそう言う。
『命の宝玉』…。いったい僕はどうしろと言うのだろうか…。
「そこで…だ。シエル、お前の命を使い、『命の宝玉』を作り出そうというわけだ…。お前は私よりも能力が劣る分、宝玉を作るのにその命と引き替えとなってしまう。だが、私は死期という物がなくなる。つまり、私はこれからもこの世界を養っていくことができる。」
アルセウスは、静かにそう告げた。
ミリアもサーチャも僕も、ただ黙っていることしか、できなかった…。
僕の命と引き替えに世界を救う…。アルセウスの代わりに、僕が宝玉を作り出す…
「そんな…、できるわけがないよ！だってシエルは…シエルは…私の大切な…友達なんだよ…。アルセウスは、私の友達を…殺すの…？」
ミリアが目にいっぱい涙をためてアルセウスに訴えかける。アルセウスは、ミリアをじっと見つめ、こういった。
「じゃあ、他のたくさんのポケモンを見捨てて良いと…？今宝玉を作らなくては近いうちにそうなる。お前達も死んでしまうことになる。そして…私が宝玉を作って、限りある命になったとして、私が死んでからいったい誰が世界を見守っていくというのだ？…お前もつらいと思うが…シエルがやらない限り、これからの未来、安全になるとは言えなくなるのだぞ。」
「…。」
僕は、考え込んだ。僕が命を捧げれば、この世界は助かる。僕が捧げなければ、世界が滅びる、もしくは、未来に神様がいなくなることになる…。
――僕は、こうするしかないのだろう…
「…捧げるよ…僕の命…。」
「…！！シエルッ！！」
ミリアがはっとした顔つきで僕を見る。目からは涙があふれている。別れたくない。そんな気持ちが伝わってくる。
「僕も、別れたくない…。でも、こうした方が良いんだ。きっと、僕はそのために生まれてきたのだから。」
「…シエル…。」
サーチャも僕を見つめる。もの悲しげな顔をして。
「…ミリア、サーチャ、ごめんね…。」
「シエル…シエル…」
ミリアはぽろぽろと涙を流して泣きじゃくっていた。本当に、ごめんね…。
「お前達には、悪いことをする…。だが、これも世界のため…。覚悟を…決めてくれ。」
アルセウスも、悲しげな顔を浮かべながらそう言った。
「始めるぞ、シエル。」
「…うん。」
僕は、はっきりとそう言った。すると、僕に光が集まり、僕の感覚がなくなっていく。
僕は、すぅっと息を吸い込み、最後の時を満喫しながら、世界に命を捧げ、そして――
シエルと言う一匹のピィは、一つの玉となり、その中の光をこの世界のすべてに渡らせた。
湖は光を取り戻し、森には緑が生い茂り、世界は活気に満ちあふれた。
アルセウスは自分の力を使い、ギラティナをゴットアイルゾーンの湖まで飛ばし、ギラティナのキズを癒した。
ギラティナは元気になり、反転世界へ帰って行く。反転世界を元通りにするために…
「…シエル…。」
ミリアの手には、一つの玉がおさまっていた。玉はピンク色に輝いている。
「…ミリアよ。お前が望むなら、お前にそれを捧げよう。せめてもの償いだ。」
「…ミリア…。」
サーチャも、アルセウスも、ミリアの方をずっと見つめていた。
「シエル…。あたしと一緒に…、ずっと一緒にいてくれる？」
そう言うと、玉は返事をするように輝いた。
「…うん…。ありがとう…シエ…ル――」
そう言うと、ミリアは泣いた。サーチャもアルセウスも、慰めることはしなかった。下手な同情は、逆に彼女を傷つけると考えたからだ。
「ミリア、お前は、特捜部に帰った方がよい。みんなが待っている。後で、送る。」
「…う…ん。」
ミリアは消え入りそうな声でそう返事をした。
「そして、サーチャ、お前は、元の世界へ帰るがいい。」
「…え…。」
「世界は元に戻った。お前も、ここにいる意味はない。時空の狭間を広げる。そこからもとの世界へ戻れ。」
「人間がいる世界になんて、居たくない…」
「人間は誰しも悪い奴ばかりではない。人間の世界で、私は一度人間に助けられたことがある。お前にも、そんなときがきっと来るだろう。」
「…。」
「時空の狭間を広げる。跳びこめば元の世界へ戻る。」
アルセウスはそう言うと、時空の狭間と呼ばれる空間を開いた。サーチャは、そこにとぼとぼと歩き、入っていった。
すると、サーチャの姿が消え、時空の狭間は閉じた。
「ミリア、次はお前の番だ。行くぞ。」
アルセウスは、ミリアを特捜部基地へと飛ばした。
『ミリアさん！お帰りなさい！！』
「…！みんなっ！」
あのとき別れた特捜部のポケモン達が、そこにいた。みんな、ミリアを呼んでいる。
「みんな…、みんなぁ！」
ミリアは特捜部の仲間に向かって走り出した。
――ピンクに輝く『命の宝玉』を落とさないように抱えながら…
ＥＮＤ
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Ｓｔｏｒｙ００〜イブリとフィルの過去〜
――暗い暗い森の中を、
フィルは、走っていた…。
どこまでも、どこまでも走り続けていた。
痛む足をこらえながら…、タマゴを、落とさぬように抱えながら…。
後ろから追いかけてくる何かから逃れながら…
「はぁ、はぁ、はぁ…」
息が苦しくなってくる。
でも、この子のために、私は逃げなくては…。この子が安心できる場所でこの子を孵してあげなくては…
「はぁ，はぁ，はぁ…」
走る、走る。ただひたすら、走る。
後ろからは、何物かが追い続けている。
逃げないと、この子まで不幸になってしまう…。私はともかく、この子だけは…。
「あ、こ、ここは…」
フィルがたどり着いた先は、ある森の中だった。
――そこは、フィルの生まれ故郷だった。
「ここにある一本の木、もしかしたらあそこなら…」
この子を隠すことができる。そう考えた。
追っ手からはだいぶ離れたのか、追っ手の姿は見あたらない。今のうちに、早くこのタマゴを隠さないと…。
フィルはまた、走った。
走って走って、大きな木へとついた。
フィルは、その木の陰にタマゴを隠した。見つからないように。こっそりと。
「…！！」
しかし、もう追っ手はすぐ近くまで迫ってきていた。
「やばい…私も早くここを離れないと…。」
そうつぶやくと、またフィルは走った。
走っていた…だが…
「はぁ…はぁ…。足が…、もう…」
足が言うことを聞かなくなってしまった。これ以上は動けそうにない…。どうすれば…
「ここにいるな。」
「…あ…ああ…」
「捕まえたぞ。フィルよ。」
「！…！！」
フィルは、捕らえられた。口を押さえられてしゃべることができない。
――フィルはそのまま、連れ去られてしまった…一つのタマゴを残して…
「…そんなことが…。」
イブリはフィルに、自分がなぜ、たった一匹で生まれてしまったのかを聞いた。
そして、返ってきたのは、そんな過去だった…
「ごめんなさいね…。イブリ。私がちゃんとあなたをまもってあげられていたら、あなたはそんな寂しい思いをせずにすんだのに…。」
「…母さん…」
イブリは、涙をためながら、かすれる声でそう言った。
「フィルさん、あなたはさらわれた後、どうなったのか覚えているのですか？」
サリーが唐突にそう聞いた。
「いえ。…恥ずかしながら、私、さらわれた後のことは全く覚えていなくて…。」
フィルが少し顔を赤らめながらそう言った。
「そうですか…それでは、フィルさんがあの洞窟にいたわけはよく分かりませんね…。」
サリーがうーん、と考え込みながらそう言った。
「そんなの良いよ。」
「？」
イブリは、フィルに向かってそう言った。
「僕、母さんに捨てられたものだとずっと思い込んでた…。でも、それはただの勘違いだった。母さんは僕をまもってくれていたんだって事が分かった…。…それだけで、僕はもう、十分だよ。」
「イブリ…」
「母さん、ありがとう…。そして、ごめんなさい！」
胆振はそう言ってフィルに抱きついた。大声で泣きながら、何度も何度も繰り返していった…
――『ありがとう』と…
ＥＮＤ
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Ｓｔｏｒｙ０−１〜サーチャのその後…そして〜
僕が元の世界に戻ってから…数ヵ月後の事…
僕は故郷である島に戻り、そこで平和に暮らそうと思っていた。
でも、そうもいかなかった。
「よう！ 電気ペンギン！」
「…。」
「何、黙ってるんだよ！！ 何か言ったらどうなんだ！」
「…。」
僕は、島の東部にある『ポッチャマの湖』と呼ばれる湖に住んでいる。
僕はポッチャマだから、ここにいれば少しは落ち着けるかと思ったのだけれど…甘かった。
僕の背中にある、サンダーの羽。
僕が人工のポケモンだという事の証。
「何か、言えよ！」
「…っ！」
ポッチャマにおもいきり叩かれた。
もう慣れたけれど、やはりつらい。
僕はサンダーの羽がある。
そのためか、電気技が使える。
だから、よく『電気ペンギン』と呼ばれる。
あの時、あの世界の神に会って言われた事をふと思い出した。
どうして、神はそんなこと言ったのだろうか。
あの世界は平和になったはずだ。何も僕が居座って困ることはないはずだ。
元の世界に戻ってもなにも良いことがなかった。
どうして、神はあんなことを言ったのだろうか。
どうして…。
…少し考えてから、僕は旅に出ようと決めた。
僕は黙って湖を出る。
後ろからは罵声が飛ぶ。
僕はそれを無視して歩く。
その旅が、まさかあんなことになるとは思わなかったけれど…
to be continued
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